機動戦士ガンダム水星の魔女 異伝 地球の守り人   作:ナタタク

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第6話 逃避行

「ここにいる…それで間違いないのだな?」

「ハッ、フェンウェイシティで回収したモビルスーツの残骸や監視カメラ記録に残っていたデータを解析した結果、間違いないかと」

ジャックたちがいる町の中にある廃墟ビルの一室で、モスグリーンのアーミーコート姿と男が茶色いアーミーコート姿で同系色の軍帽を深くかぶった男が彼から受け取ったタブレット端末の映像を見ている。

監視カメラはともかく、モビルスーツの残骸から手に入れた映像については、最初は砂嵐まみれ同然で映像といえるものではなかった。

だが、このチームは極めて優秀で、そんな状態から修復して、このように数秒とはいえモビルスーツの戦闘映像を見せてくれる。

監視カメラが記録していたホバートレーラーもわずかながら映っていた。

そして、この町にいる浮浪者にちょっとお金を渡しただけでこの町にホバートレーラーが来たことも教えてくれた。

「ならば、確保に動くのみだ。いいか?彼女は殺すなよ。彼女こそが鍵なのだからな」

「ハッ!しかし…」

「ん?何かね?」

「あの男と、あのモビルスーツまで必要なのですか…?あれは、禁忌のはずでは…?」

今回の任務で地球へ降りる際に配属された試作モビルスーツとテストパイロット。

特に試作モビルスーツについては、21年前の事件で存在が抹消されたはずの存在だ。

「パンドラの箱に、知恵の実…。人類が禁忌を破ったものは数知れず。これも、例外ではないさ」

「しかし…!」

「ベネリットグループもその禁忌をよみがえらせたのだ。抑止力は、必要であろう」

端末を操作し、上層部から送られた映像への切り替える。

そして、再生開始した状態で部下に手渡した。

「見たまえ、破られた禁忌のモビルスーツは、他にもある」

「ああ…」

映像に映る、女性のような細見の体つきをした、白と水と赤のトリコロールをした可憐なモビルスーツ。

そのモビルスーツの全身に搭載されている青いパーツが分離し、それらがビーム砲として縦横無尽に正面で相対するピンク色のディランザを襲い、一方的に破壊している姿だった。

「別管轄の組織が手に入れた映像だよ。あれに対するカウンターは、必要なのでな」

現在、そのモビルスーツを開発したというベネリットグループ傘下の企業であるシン・セー開発公社はこの遠隔操作の兵器を過酷な水星の環境でも安全に作業できるドローン技術であると主張しており、現状ではベネリットグループはそのモビルスーツをガンダムであるとは認めていない状態だ。

だが、ガンダムである疑惑は完全に払しょくされておらず、仮にこのようなガンダムもどきが量産された場合、パワーバランスに大きな影響が出るのは確かだ。

「安心しろ。この地球において、あの機体に勝てるモビルスーツなど、いないさ」

 

「あいつら、なかなかいい装備だなっ!!」

弾丸の雨が窓ガラスを突き破り、壁や家具、パソコンを撃ちぬいていく。

それが収まるのを待ち、収まると同時にジャックが飛び出す。

手にはクレアが持っていたハンドガンが握られていて、向かいの建物へ走る。

「こいつが、目標を確保した傭兵だ!」

「目標はあの建物にいることは分かった。奴はもういい、始末しろ」

「了解!アサルトライフルの弾幕に自分か…!?」

弾倉を交換し、仕留めようと体を上げた兵士だが、ボンと何かが爆発する音が聞こえると同時に煙幕が道路を包む。

飛び出したジャック、そして待機していたショーンとゴウトが投げた複数のスモークグレネードによるものだ。

「言われた通り、視界はつぶしたが、煙の中のあいつは大丈夫だろうな!?」

「大丈夫だ。あいつを信じろ!」

「ゴウトの爺さんは、ずいぶんアイツのことを買ってるんだな!」

ゴウトはどう思っているのかは知らないが、ショーンにとってジャックはそれほどかかわりがあるわけではない。

時折、情報収集のためにゴウトを介して依頼がある程度。

直接顔を合わせたのは今回が初めてだ。

そんな人間をすぐにそうですか、と信じることができないのは当然だ。

「見ておけ…こいつがガキの癖に傭兵として生き延びている力があることがわかるぜ」

 

「クソッ…煙幕で向かいが見えん。まさか、逃げ出すつもりで…!」

「時間は与えられん!手りゅう弾で煙幕を…!?」

バンと扉が吹き飛ぶと同時に突入してきたジャックのハンドガンから銃弾が発射され、手りゅう弾を握ろうとしていた兵士のこめかみを撃ちぬく。

そして、もう1人の兵士がこちらを向いたと同時に額を撃ちぬいた。

ジャックは即死した二人の兵士を見ると同時に、手にしていたアサルトライフルと手りゅう弾を奪う。

目だけを露出し、それ以外は黒い布で覆われており、防弾チョッキなどもすべて黒ずくめ。

(このアサルトライフル…新しいが、地球でも製造は難しくない物。所属に関する印はなし。汚れ仕事専用の特務部隊か…?)

兵士の持ち物を探したいところだが、兵士はこの二人だけではない。

足音が聞こえてきて、即座に物陰に隠れた。

 

「ん、ん…」

「おお、目を覚ましたかい?お嬢ちゃん!」

後部座席で横たわっていたクレアが目を覚まし、最初に入ってきた見覚えのない男性の顔を見ると同時に飛び起きて、隅に逃げる。

「あ、ああ…そうか…これが初対面だったな。ショーンだ、ジャックの友人だよ!」

「お友達…ジャックの?」

「よく眠れたかい?嬢ちゃん。待ってな、すぐに安全なところまで行ってやるからよ!」

「ジャック…ジャックは…?」

「あいつのことは心配するな!それよりも、自分の心配だ!」

ワーカーを発進させたゴウトだが、彼が気にしているのは果たしてこれだけで脱出できるほど相手が甘い存在かということだ。

フェンウェイシティを火の海にしてまで狙われていた彼女だ。

おそらく、この廃墟にいる人々を皆殺しにしてもおつりが出るほどの価値があるのだろう。

町の外へと進むワーカーのレーダーの反応を気にしていた。

 

(廃墟から離脱する車両の存在を確認)

「なるほど…ドブネズミではあるが、馬鹿にはできんということか」

報告を聞いた彼の予想としては、この時間で口封じに関係者の3人を殺し、クレアを確保し終えているところだった。

だが、何人か兵士を殺されており、こうして廃墟から逃げ出そうとしている。

「例の車両を確保しろ、モビルスーツを動かせ」

(了解)

 

敵のいる建物内に侵入しているジャックは弾切れになったアサルトライフルを投げ捨てると、物陰で聞き耳を立てる。

先ほどまではこちらに近づく足音ばかりだったのが、今は足音が遠ざかっている。

窓から外の景色を見ると、生き残った兵士が外に出たのはいいが、彼らはワーカーが脱出するルートやゴウトの事務所とは別方向へ向かっていた。

「下がっている…?気づかれた可能性があるか」

自らがおとりとなって兵士たちを釘付けにしている間に逃がすという作戦だったが、もう時間稼ぎの意味はないようだ。

建物から出ようと考えたジャックだが、モビルスーツのスラスター音や足音が耳に届く。

「モビルスーツを出してきたか…」

 

「目標の進路予測データを確認。思ったよりも足が速いな」

「近づいて、バルカンで攻撃すれば確保できる。問題ない」

街中で2機のモビルスーツが起動し、ガレキの中かラ起き上がる。

頭頭部左側面にバルカンポッドが追加装備され、胸部装甲が分厚くなったハイングラが予測地点に向けてスラスターを吹かせながら進んでいく。

先行するハイングラが町の外へ出ようとした瞬間、左側面からアサルトライフルの銃弾の雨が襲う。

幸いにもシールドを持っている側であったため、軽微な損傷で済んだものの、それよりもモビルスーツによる攻撃があったことにパイロットは驚いていた。

「待ち伏せだと!?」

ハイングラのカメラが攻撃位置を逆探知し、犯人の姿を映す。

そこにはアサルトライフルを手にしたレグルスの姿があった。

「ほかにも仲間がいたというのか!?」

パイロットと思われる小僧は仮にあの建物を出たとしても、町の外まではすぐにたどり着くことができないはず。

人間の脚とモビルスーツのスラスターでは大きな速度の差があり、それを覆すことなどできないはず。

その思い込みを覆すのはレグルスのそばで横倒しとなっているオフロード用のバイクだ。

ゴウトが若いころに使っていたというオンボロバイクだが、整備されているはずのない廃墟の町を駆け抜けるには十分なものだ。

あらかじめレグルスをワーカーから出して町の外に隠し、そこまでをあのバイクで駆け抜けただけというシンプルなものだが、敵を動揺させるには十分と言えた。

ジャックは既にここまでの事態になる最悪な可能性を想定していた。

逆に、そうしたことを想定していなければ、傭兵として生き残ることはできなかっただろう。

ランディングギアを回転させ、2機のハイングラに向けて接近する。

「ハイングラ…ロートルか」

かつてはドミニコス隊に配備され、ヴァナディース事変においてガンダム狩りのために使用された由緒あるモビルスーツだろうが、あくまでもそれは21年前の話。

モビルスーツ開発の秩序と倫理を守るという部隊の目的上、ガンダムもしくはガンダムに匹敵する危険なモビルスーツとの戦闘を行うために常にモビルスーツのアップグレードが求められる。

そんな部隊に21年前の機体に居場所などなく、新型機配備後は別部隊に送られ、用済みとなれば抹消される。

そのような機体であったも、アングラな戦場では運用されるのが今の地球だ。

2機のハイングラは接近してくるレグルスを倒すためにビームライフルで攻撃する。

プロドロスのアサルトライフルやチェーンガンの攻撃であれば耐えられるレグルスだが、ビームライフルのような火力までは耐えられない。

シールドでビームを受け止め、正面から突っ込んでいく。

「ビームを耐えただと!?」

表面が大きく焼け焦げたレグルスのシールドを見たパイロットは動揺する。

地球において、テロリストが運用するモビルスーツの中でも特に好まれているのはプロドロスで、その特質はどんなに損傷や衝撃を受けたとしても、機体構造やコックピットの計器が異常がない状態で生き延びているほど頑丈だ。

だが、そんな機体でも高コストになることからビームコーティングが採用されておらず、仮に採用されたとしても、それをメンテナンスできるだけの整備環境を持つ組織は限られている。

それ故にビームライフルの一発でプロドロスを容易に撃破することができる。

ハンドメイドモビルスーツと思われるレグルスも所詮その程度のものとハイングラのパイロットは考えていただろう。

その油断と動揺が彼の運命を決めた。

ローラーダッシュとスラスターで一気に距離を詰めたレグルスに肉薄され、シールドが腹部に突き立てられる。

同時に放たれたパイルバンカーがコックピットを穿ち、パイロットを失ったハイングラが停止した。

 

「ほぉ…珍しいものだな」

部下と共に指揮車へ移動した指揮官の男はモニターに映るレグルスの戦いぶりを見ていた。

アサルトライフルを出し惜しみなく使った後で撃破したハイングラから奪ったビームライフルを使い、味方が倒されたことで動揺しているもう1機のハイングラを追い詰めている。

援軍としてもう2機のハイングラも動いているが、おそらくは止められないだろう。

「おい、あのモビルスーツに妙なものはないか?例えば…そうだな、データストームは」

「ありません、データストームの反応なし」

「そうか…まさかとは思ったが、違うのか…」

「隊長?」

「いや、気にしないでくれ」

今回の地球行の際に改めて、この21年間の地球の動向に関する資料を確認しており、その中で16年前に起こった事件のことが男の脳裏によみがえる。

あの事件において、存在が抹殺されたはずのガンダムが暗躍していたという。

「だが、損害を出すのも後でいろいろとうるさいことになる。そろそろ出していいぞ」

「ハッ、クローザーの登板を要請する。出撃準備を!」

(もう、できている)

通信兵からの言葉を受け、黒いヘルメット型の仮面をつけた、黒いノーマルスーツ姿の男が操縦桿を握りしめる。

片膝をついた状態で待機していた、黒い2本のブレードアンテナと赤と黄色の差し色が入った青色のボディのモビルスーツが立ち上がる。

ツインアイが緑色に光ると、ゆっくりと歩き出す。

その様子を指揮車と合流するために車両に乗り込もうとしてた整備兵たちが見守る。

「なぁ、あのモビルスーツ…大丈夫なのか?ライフルもシールドもなしで」

「聞いた話によると、まだ調整中みたいだぞ。隊長はそれでいいと言っていたが…」

「大丈夫、だろうな…あのモビルスーツも、パイロットも…相当イカれてるって話だしよ…」




機体名:ハイングラ(特務装備)
型式番号:CCP-068
製造:グラスレー社
固定兵装:バルカン・ポッド(外付け型)、ビームサーベル×2
携行武器:ビームライフル、ビームバルカン内蔵シールド

クレアの強奪をもくろむ謎の部隊が運用しているモビルスーツ。
ドミニコス隊で運用されていたものの、新型機が配備されたことで地球のベネリットグループ駐屯軍に払い下げられていたものを極秘裏に入手するとともに、改修が施された。
機体そのものは21年前の旧型であるものの、それでもビーム兵器を使用可能であることやベネリットグループの御三家の1つであるグラスレー社製のモビルスーツであることから、性能面は地球のテロリストが運用しているものを上回っている。
また、生存能力向上を目的として胸部に増加装甲が増加装甲、対人戦を想定して頭部にはバルカン・ポッドが追加されている。
なお、あくまでもこの部隊にとってはハイングラは捨てても惜しくないモビルスーツであるが、地球における大抵の任務においてはこれらのモビルスーツの運用のみで完了している。
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