……そういや、サイフィスって名前にツッコミがなかったな。ちょっと残念。
零児Side
予想外の同行者が増えたものの、俺達は当初の予定通りトリステインとか言う国の魔法学院を目指す事にした。
この世界では魔法使いは妖怪じゃないとマチルダから聞いたが、幻想郷生まれ幻想郷育ちの俺には魔法使い=妖怪って先入観がどうしても抜けない。
これから向かう先にいるのは只の人間だって頭では分かっていても、長年の幻想郷暮らしの影響でどうしても身構えてしまうんだよな。
「う~む……困ったものだ」
「ん? どうしたのレイジ、何が困った事でもあるの?」
「いや、ちょっとな。これから魔法使いたちの巣窟に行くのかと思うと、つい身構えちまうんだよ」
「そ、巣窟って……。その言い方はちょっとおかしくない?」
「俺にとって魔法使いは妖怪だからな。俺はあんまり違和感を感じないが」
「でも、巣窟は変だよ。メイジも人間なんだから……住処の方があってると思う」
「そんじゃ、根城で」
「……巣窟よりは良いけど、それでもそれで如何なんだろ」
「二人とも、漫談をやってないで例の学院が見えてきたよ」
ヒルダにそう言われて話を切り上げ、目を凝らしながら前方を見てみると、確かに巨大な建物らしき物体が見えてきた。
敷地の真ん中に巨大な塔が建っていて、その周辺を囲む様に五つの塔と塀が建っている。
周辺の塔を塀で繋いでいるからか、上空から見ると塀が五角形の形をしているようにも見える。
偶然そうなったようには見えないし、意図的にそういう配置にしたんだと思うが、なんで五角形なんだ?
もしかして、塔を対角線上に繋いで五亡星の形を表しているのか? ……五亡星っていったら陰陽五行説しか思い浮かばないが、流石に違うよな。アレは木・火・土・金・水の元素の働きの相克を表す物だし。
「なんていうか……随分と変わった形の塀だね。姉さんはあそこで働いているのかな」
「多分な。学院の敷地内に降りて騒ぎに為るのも面倒だし、少し離れた所で降りてくれ」
「分かったわ」
俺が指示したとおり、ヒルダは学院から少し離れた所に降り立ってくれた。
あとは荷物を持って学院の正門から入るだけだが、門は当然の様の閉じられている。
門の前には衛兵らしき者が立っていて、寝ていない所為で忍び込むことも出来やしない。
美鈴の奴だったら間違いなく寝ているのに、この世界の門番はちゃんと仕事をしているんだな。
これだったら空から侵入したほうが楽だったかなと思っていると、門番たちも俺達の存在に気が付いたのか、こっちへと近付いてきた。
……こうしてまともに働いている門番を見ていると、物凄く違和感を感じてしまう俺はもう駄目だな。
「お前達、何者だ。ここをトリステイン魔法学院と知ってやってきたのか」
「あぁ。此処で働いている知り合いに会いに来たんだ。通してくれないか?」
「知り合いに会いに来た? 今日は来客があるなんて連絡はきていないぞ」
「俺達も連絡せずに着ちまったからな。知らないのは当然だ」
「ふむ……。して、お前達の言う知り合いとは一体誰の事だ」
「マチルダって名前の魔法使いだ。眼鏡を掛けた緑髪の女性なんだが……知らないか?」
応対する衛兵にマチルダの名前を教えるが、返ってきた反応は若干おかしなものだった。
「マチルダ? そんな名前のメイジ居たか? おい、お前は如何だ」
「いや、私も記憶には無いが……確かミス・ロングビルがそんな外見じゃなかった? 学院長の秘書だから何度か見かけたことがあるぞ」
「あ~……そう言えばそうだな。あの人はファーストネームってマチルダって言うのか」
衛兵たちはマチルダって名前に聞き覚えは無いというが、似たような容姿の女性の事は知っている様だ。
俺はマチルダの苗字は知らないが、態々名前を隠しているところから察するに【ロングビル】ってのは偽名か。
「えっ? 姉さんのファミリーネームはロングビルじゃ―――」
「あぁ、多分その人だ。悪いんだが、その人に取り次いでくれないか? ティファニアが来たって言えば通じる筈だから」
「―――……レイジ?」
「それは構わないが、素性の知れないお前達を学院の敷地内に入れる事は出来ないぞ」
「別に構わねぇよ。門の傍で待たせてもらうから、彼女のそう伝えてくれ」
「…………いいだろう。では、ミス・ロングビルに連絡してくるから、暫く待っていろ」
「へいへい」
応対していた衛兵は門の傍に戻ると、詰め所で控えていた別の衛兵に話を伝える。
その詰め所にいた衛兵が嫌そうに詰め所から姿を消すと、応対してくれた衛兵は門の前に立って再び警備の任務に就いた。
俺は首を傾げるティファニアの手を引いて門から離れ、近くの平原で腰を下ろす。
「やれやれ。なんだかややこしい事になってそうだな」
「ねぇレイジ。なんでさっき私の言葉を遮ったの? もしかしたら人違いかもしれないんだよ?」
「確かにそうかもしれないが、本人がここで働いているって言っていたんだから、当たってみる価値は有るだろ。……それに偽名を使わないといけない事情があるのかもしれないしな」
「偽名を使わないといけない事情? それって一体どんな……」
「さぁな。詳しい事を本人に聞くしか無いだろ。……ってな訳で、俺はちょいと寝る。マチルダが着たら起こしてくれ」
「あ、レイジ」
ティファニアの声も聞かずに俺は平原に寝転がって、そのまま瞼を閉じる。
なんでマチルダが偽名を使っているのかは分からないが、お互いの為にもややこしい事態にならない事を切に願う。面倒事に巻き込まれて足止めを喰らうなんて事にだけは為らないで欲しいもんだ。
零児Side out
マチルダSide
「……学院長」
「ん? なんじゃミス・ロングビル」
「以前から申し上げていますが、使い魔に私のし、下着を覗かせるの止めて頂けませんか」
「はて? 一体何のことかのぉ?」
「白を切るおつもりですか。なら、如何して私の足元に学院長の使い魔が居たのか、説明していただけませんか」
「おぉ、モートソグニル。そんな所に居ったのか、探したぞ」
「学院長ッ!」
「フォッフォッフォッフォッ」
このボケ老人、アタシが本気で怒っているって分かっているにも拘らず、笑って誤魔化してる。
学院長のセクハラはいつもの事だけど、何度文句を言ったって止めてくれやしない。
あの老人の顔面に拳を叩き込んで、こんな所さっさとオサラバしたい所だけど、まだ目的を果せていない以上我慢して働くしかない。
「はぁ~……。セクハラも大概にしてくださいね、学院長。それと早く仕事をしてください。目を通して頂かなければ為らない書類が溜まっているんですから」
「すまんな、ミス・ロングビル。しかし、老い先短い老人にはこの位しか楽しみがなくてのぉ」
「そんな楽しみは必要有りませんから、さっさと仕事をしてください」
「……ちと冷たすぎやせんか?」
「そう思うのでしたら仕事をしてください。ちゃんとこなして頂ければ私も善処します」
「態度を改めるとは言ってくれんのじゃな。ワシは悲しいぞ」
「はいはい、莫迦な事を言っていないで書類に目を通して下さい」
まるで働く気を感じさせないボケ老人に頭を抱えながら、持って来た書類を学院長の机に置く。
書類に書かれている内容は壊れた設備の修繕だとか、足りない備品の補充だとか何時も通りの内容。
偶に設備を新しくしたいとか無茶な要望書が届く事もあるが、一々聞いていたら予算が足りなくなるから、急を要しない限りはその手の要望は全部却下されてる。
それでも要望書を提出されたりするから、学院長も頭を抱えるし、アタシも余計な仕事が一つ増やされるからウンザリしてしまう。
「あ~……ミス、第三実習室の設備改善の要望書が届いておるのじゃが」
「分かりました。後ほど事実確認をした上で改善が必要かどうか調べてまいります」
「うむ、宜しく頼んだぞ。……しかし、教師たちは何時に為ったら学院の予算は潤沢ではないと理解してくれるのかのぉ。新学期に入ってから設備改善の要望書が届いたのは、これで何枚目じゃ?」
「私の記憶が確かなら今回ので五枚目になります。こうなったら学院長が教師の方々の前ではっきりと仰ったら如何です? 今の我が学院には設備を新しく出来る程の余裕は無いって」
「確かにそうするべきかも知れぬが……ワシ、新学期が始まる前に教師達の前で言ったと思うのじゃが」
「……そういえば、確かに仰ってましたね。ならばいっその事、学院の予算がどの程度か公表したらどうです? この予算内で運営しなければ為らないのだから、無茶な要望は控えるようにと」
「それも一つの手かも知れんのぉ……」
教師達の金遣いの荒さに学院長も呆れているのか、明後日の方を向きすっかり黄昏ている。
この学院はメイジの質は良いのだけど、人間としては色々と残念なところが多いから、学院の予算を公表しても要望書の数は減らない様な気がする。
貴族ってのは贅沢しないと生きていけないのか、食事とかレクリエーションとかにも多大な金を使っているって言うのに、設備の改善を全部聞いていたら首が回らなく為っちまうよ。
どうしても設備を改善したかったら、自分のポケットマネーでなんとかして貰わないとねぇ。
―コンコンコンコンッ―
「む? 誰じゃ?」
「ハッ! 衛兵のモリスンです! ミス・ロングビルにお伝えしき用があり、参りました!」
「ふむ……。分かった、入りなさい」
「ハッ! 失礼致します!」
学院長室の扉を開けて入ってきたのは、この学院の警備に当たっている衛兵の一人だった。
アタシに用事があるみたいな事を言っていたが、このアタシに用事って一体何の用だろうか?
……まさかアタシの正体に勘付いて、賞金目当てで捕まえに来たとかじゃないだろうね。
テファに仕送りを送るためにもこんな所で捕まる訳にも行かないが、下手に動けばかえって怪しまれる。
とりあえず平静を装って、普段通りの対応をしながら相手の出方を窺うしかないか。
「お忙しい中失礼します、オスマン学院長、ミス・ロングビル」
「いえ、構いませんよ。それで私に用とは?」
「ハッ! 実は今、正門にミス・ロングビルの知り合いだと言う者がやって来まして」
「私の知り合い? 今日は客が来るだなんて聞いていませんが、一体どのような人物で?」
「黒い髪に青い目をした剣士と、金の髪に帽子を被った……その、胸の大きな少女です。黒髪の剣士は〝ティファニアが来た〟と言えば伝わると言っていましたが」
「なッ!? あ、あの子たちこんな所にやって来たって言うのかい!? ……いや、確かに旅に出るとは言っていたけど、こんな所に来るだなんて何を考えてるんだ」
予想だにしていない出来事に思わず素の口調が出てしまう。
衛兵の話を聞く限りだと、レイジがテファを連れて学院にまでやって来たんだろうけど、一体何をしに来たんだ。
テファを外に連れ出してくれたのは嬉しいけど、よりにもよって貴族が大勢いる魔法学院にやって来ることは無いだろう!
レイジの奴に何か考えがあって……来たとは思えないし、こりゃ急いで二人に会ってさっさと学院から遠ざけた方が良さそうだね。
「えっと、確かモリスンとか言ったかい? その二人は今何処に?」
「え、えっと、素性が知れませんでしたので学院の敷地には入れず、正門の前で待たせています」
「正門の前だね、分かった。……学院長! 悪いけど少し休憩させて貰うよ!」
「う、うむ、了承した。早く会いに入って上げなさい」
「ありがとう、恩に着る!」
爺さんに休憩時間を貰い、アタシは大慌てで学院の正門前へと向かう。
擦れ違う教師や生徒に怪訝そうな顔をされるけど、今はそんな事は如何だっていい。
ティファニアの事がばれてしまう前に、早く二人に会ってこの学院から離れてもらわないと!
「……あのミス・ロングビルがあんな口調で話すとはのぉ。やはり彼女には何らかの事情があると言う事か。モートソグニル、済まぬがまた頼まれごとを引き受けてくれぬか?」
「チュッ!」
「おぉそうかそうか、引き受けてくれるか。では、後でお主の好物を用意するとしよう」
「チュチュッ!」
マチルダSide out
零児Side
「れ…じ、おきてレイジ。姉さんが来たよ。……でも、なんだか怒ってるみたい」
「……んあ?」
ティファニアに起こされ、寝惚け眼を擦りながら身体を起こすと、眼に飛び込んで来たのは凄まじい形相のマチルダの姿だった。
何をそんなに怒っているのかは知らないが、学院からあの形相のままで走ってきたのか? だとしたら周りから物凄く怪しまれただろうに。
「くぉらレイジッ! アンタ一体何を考えてるんだい!?」
「んな大声出すなよマチルダ。こっちは寝起きだぞ」
「そんな事アタシの知った事じゃないね! テファを外に連れ出してくれたのは嬉しいけど、よりにもよって学院に連れて来る事はなかっただろ!!」
「ん? この学院にティファニアを連れて来たら不味い理由でもあったのか?」
「有るから怒ってるんだよ。……とにかく、ちょっとコッチにきな」
訳の分からないままマチルダの後について行き、学院の正門から遠く離れる。
此処なら正門の衛兵は聞こえないだろうが、何時の間にか視線が一つ増えているのを感じた。
周囲を見渡しても人影は見えないが、間違いなく誰かが俺達の事を見ている。
サイフィスの様に精霊が俺達の事を見ているのかとも思ったが、視線は俺達ではなくマチルダに向けられているようだ。……監視されているのかは知らないが、一体何をやらかしたのやら
「……此処なら衛兵達に聞かれることはないね。全く、いきなり尋ねてくるなんて何があったんだい」
「えっと、驚かないで聞いて欲しいんだけど、実はこの前黒い飛竜に襲撃されて、家が全壊しちゃって」
「は、全壊? ウエストウッドの家が?」
「うん……。それで住む場所もなくなっちゃったから、姉さんに報告しに会いに来たの」
「成る程、そいつは災難だったね。テファは怪我とかしなかったかい?」
「私は平気。レイジが守ってくれたから」
「そうか。……レイジ、テファを守ってくれた事には礼を言うよ。でも、テファを学院に連れて来た事は納得できないね」
「だから、ティファニアを連れて来たら不味い理由ってなんだよ」
「……アンタ、ブリミル教って知ってるかい」
「いや、全然。この世界の宗教か何かか?」
「あぁ。ハルケギニアで最も信奉されている宗教だよ」
マチルダは苦虫を噛み潰した様な顔でそう呟く。
過去に何らかの衝突があったのか、個人的に嫌いなのかは分からないが、口ぶりからするとあまりいい印象は受けないな。……まぁ宗教なんてどれも面倒なものだけどな。
「この世で最も偉大とされるメイジを崇拝している宗教でね、多くのメイジは始祖ブリミルを崇拝しているのさ。まぁ始祖ブリミルを崇拝しているだけなら良いんだが、この宗教はエルフたちと対立しているんだ。エルフたちに奪われた〝聖地〟とやらを巡ってね」
「奪われた聖地? ……物凄くめんどくさい話に為りそうだな、おい」
「為りそうどころの騒ぎじゃないよ。聖地ってのは、始祖が初めて降り立った伝説の地域とされてるが、実際に何があるのかアタシ等もよくは知らない。ただ、過去に何度もエルフ討伐や聖地回復の為に兵が派遣されて戦争になってる。……でも、一度としてエルフたちに勝てた記録もなく、聖地回復の為の戦争は数百年前を最後に行われたっきりだ」
宗教上とても重要な土地であるのなら、多少の無茶をしてでも戦争をする理由には為る。
信仰の為に命を捨てて挑む兵士たちを悉く返り討ちにしたエルフ達。戦争に参加した当時の人間からしたらエルフ達は途轍もない化け物に見えただろうな。
「……なんとなく分かったぞ。宗教絡みや過去の戦争なんかが原因で、エルフはハルケギニアの人々から忌み嫌われているんだな」
「その通りさ。なんでエルフ達が聖地への道を閉ざしたのか知らないし、誰も知ろうともしないけど、ブリミル教への信仰が厚い者からすればエルフは撃つべき敵でしかない。この学園にもそう言う輩は多数いるんだ、もしそんな連中にテファの事がバレたら―――」
「―――教団に捕まって、異端審問に掛けられた上で全員縛り首か」
「……可能性としては十分にある。アタシがテファを森の外へと連れ出せなかった理由もそれさ。アタシの力じゃテファを守りながら、生活費を稼げそうになかったからね。だからレイジ、アンタは早くテファをつれて此処から―――」
「ミス・ロングビル、そんな所で一体何をしているのですか?」
「―――ッ!?」
話を遮ってきたのは、馬に跨っているマントを羽織った桃髪の少女と、明らかにこの世界には似つかわしくない服装をした黒髪の少年だった。
マチルダの事を知っているって事は、恐らくこの学院の関係者だろうが、俺達の敵対者と為るかどうかはまだ分からないな。
「み、ミス・ヴァリエール。なぜ、この時間に学院の外に出ているのですか?」
「何故って、今日は授業が休みでしたから王都に買い物をしに出ていました。外出届はちゃんと出しています」
「そうでしたか、外出届までは見ておりませんでしたわ。申し訳御座いません」
「いえ、お気に為さらないで下さい。……それでその者達は?」
「えっと、彼等は―――」
「こちらの女性はミス・ロングビルの妹君で、私はその護衛で御座います。少々こちらに来る用があり、ミス・ロングビルに無理を言って時間を作っていただいたのです」
「あら、そうなの。……でも、護衛が一人と言うのは些か無用心ね」
「私などオマケの様なものですよ。ティファニア様は使い魔として火竜の子供を召喚しまして、本当であれば私のような護衛など不要なのですが、ティファニア様と使い魔だけで旅をさせるのは不安だと旦那様が仰るので、私の様な下賤な者が護衛に付いたのです」
「成る程。確かに竜を使い魔にしているのなら護衛は一人で十分よね」
納得したかのように桃髪の少女は一人で頷いている。
なんとか言い包める事が出来たが、俺が口調を変えた所為で周りからの視線が辛い。
確かに普段は滅多な事でこんな口調で話したりしないが、面倒事を避ける為にも空気を読んで話を合わせろ。ただの処世術だから気にするな、こんな所で問題を起こしたくないんだ。
桃髪の方はなんとかなりそうだが、黒髪の少年は納得していないのか、何故か俺の方を見てくる。
このままだと物凄く面倒な事に為りそうだが、さて一体どうやって切り抜けるか。
「え、えっと、そう言う事ですので、ミス・ヴァリエールはお気に為さらないで下さい。私はもう少し妹と話をしていますので」
「分かりましたわ、ミス・ロングビル。ほら、行くわよサイト。……サイト?」
「……黒髪のアンタ、今のって日本語だよな。もしかしてアンタも日本人なのか?」
「ニホンジン? さてなんの事か分かりかねますね。私はただの護衛―――」
「ふざけんなよ! アンタの言葉はどう聞いたって日本語だ! なぁ、どうやってこの世界に来たんだ? こんな所で何をしてるんだ? アンタは帰り方を知っているのか!?」
「………………」
まさかこんな所で日本語だと理解出来る奴が居るとは思いもしなかった。
この世界は完全に異世界だと思っていたから、俺の言葉が日本語だと理解出来る奴が居るとは考えもしなかった。
八雲からの依頼は幻想郷に影響を与えるかもしれない奴の調査。その事を考えれば、この世界は幻想郷……というか、地球に近い場所に存在している世界なのかもしれない。
その関係で日本人がこの世界に迷い込んでも不思議じゃないが、この状況はちょっと不味いな。
少年の興味がティファニアではなく、俺に向いているのがせめてもの救いだが……さて、どうやって切り抜けるか。
そんな事を考えていると、視界の隅で黒い何かが平原に降り立つのが見えた。
少年の事を無視してソッチに目を向けると、前に見た黒い飛竜と同じく、黒い生物が其処に居た。
一瞬巨大な獣かと思ったが、どうやら翼と前脚が一緒に為っているタイプの竜のようだ。
漆黒の鱗に白い水晶の様なものを顔や前脚、それに翼部分に生やしている。
龍族と関わりは深いほうだが、あんな竜を見るのはコレが初めてだ。
あの竜がなんでこんな所に降り立ったのかは分からないが、あまり良い予感がしないのは確かだな。
「……マチルダ、あいつに見覚えはあるか」
「いや、ない。恐らくは新種の竜だと思うが……アイツ、アタシ等の事を見ていない?」
マチルダの言うように、あの竜は俺やマチルダ、それに黒髪の少年の事を一切見ていない。
アイツが見ているのはティファニアと、もう一人桃髪の少女の事だけ。
品定めをしている……どちらから先に殺そうか迷っているようにも見える。
前に会った黒い飛竜といい、コイツといい、なんで狙われているのかサッパリだな。
「ティファニアはヒルダの背に乗って避難しておけ」
「レイジは如何するの? もしかして戦うつもり?!」
「あぁ。……そうしないとお前を守れないみたいだからな」
「……分かった。気をつけてね」
「あぁ」
口数少なくティファニアに返事をし、背中に背負った太刀に手を掛けて思考を切り替える。
この壊れかけている武器で一体何処までやれるのか分からないが、今回の相手は軽く見積もっても黒い飛竜と同じ位の実力を秘めている。
あの時みたいに上手く撃退できれば良いが、それが出来そうにないときは……力を完全に解放するしかなな。その結果、この辺り一帯がどうなろうとも。
「なんなのアイツ。なんで私の事さっきから見てくるのよ」
「……もしかしてアイツ、ルイズの事を狙ってるのか?」
「はぁ?! なんで私があんな得体の知れない奴に狙われないといけないのよ!」
「そんなの俺が知るわけないだろ!」
「……そこの二人、お喋りはそこまでにしておけ。暢気に喋っていられるほど楽な相手じゃないぞ」
「あ、貴方、一帯誰に向かってそんな口を利いてるのよ! というか、さっきと喋り方が違うわよ!?」
「だから、暢気に喋っている場合じゃないって言ってるだろ。……来るぞ」
「■■■■■■ーーーーーーッ!!!」
黒い竜は空に向かって猛々しく吼え、脇目も刳らず一直線に桃髪へと向かっていく。
咆哮と共にティファニアを乗せたヒルダは上空へと退避し、黒い竜の標的は桃髪一人に絞られる。
……正直なところ、こんな奴を守る義理はないんだが、アイツを撃退しないとティファニアの身も危なそうだからな。面倒だが守ってやるとするか。
こんな所で巡り会った自分の不運を呪いながら、俺は背中の太刀を抜き去り、柄を握り締めて黒い竜へと立ち向かった。
零児Side out
襲撃ってのは何の前触れもなく唐突に起こるものだ。……でも、これは唐突過ぎたかな~?