「言われた通りガノトトスを狩って来たぞ」
「お、おぉ……。まさか本当に狩って来るとは……」
ガノトトスを討伐し、村に戻った私達は村長さんにガノトトスの頭を差し出した。
差し出された頭を見て村の人たちは一同に驚きの声を挙げ、皆私の方を向いて「すごい」って称賛してくれるけど、誰もレイジの事を称賛しようとはしない。
ガノトトスを倒したのはレイジなのに、私は何もしていないのに、誰もレイジの事を褒めてくれないのが凄く悲しかった。
あの戦いで私は何も出来ていないのに、皆して私が倒した用に称賛してくるのが凄く辛い。
私は何も出来なかった。私はただレイジの足を引っ張って、ガノトトスを怒らせただけ。それだけしか出来ていないのに、レイジは本当は自分が倒したとも言わないで話を進める。
「さて、こっちは約束を守ったぞ。次はあんた等の番だ」
「あぁ分かっている。約束どおり船は出そう。……だが、少しだけ時間をくれないか? 奴の元に二人を運ぼうにも小型船では直ぐに沈められてしまう。だから大型船を出さなければ」
「そう言う事なら構わないが……大型船なんてあるのか? 桟橋には小船しかなかったが」
「数ヶ月に一度、海に白い月が浮かび上がる事がある。何故かは知らないがその場所には必ず沢山の魚が群がり、我々もその機会を狙って漁に出かけるのだが、余りにも大量に獲れるのでな。小型船では船に乗せきれずに転覆してしまうのだ」
「だからその時の為に大型船を用意してあるって訳か」
「そう言う事だ。今は時期では無いから船を出しても問題はないし、多少船が壊れても小型船が残っていれば漁には出られる」
「成る程な。……それで準備にはどのくらい時間が掛かる」
「ドックから船を海に出すのに時間が掛かるし、色々と補強もせんとならんから……七日ほど時間をくれ」
レイジと村長さんの話し合いで、大型船に乗って海に現れた怪物の元に向かうのが七日後だと決まった。
七日後って聞くと時間があるように聞こえるけど、今の私には凄く短いように感じられる。
「七日か……思ったよりも掛かるな。ま、こっちが無理を言って船を出してもらうんだ。その位は仕方がないか」
「すまんな。準備が出来るまでの間は村の空き家で寝泊りしてくれ。食事もこちらで用意しよう」
「助かる。それじゃさっそく空き家に行くとするか。行くぞ、ティファニア」
「……あ、うん。分かった」
レイジの後を追いかけて私は村の集会場を後にする。
船に乗って怪物に戦いを挑むまで七日。それまでの間に攻撃用の魔法を習得しておかないと。
村人さん達に言った事を嘘にしない為にも、足手纏いに為らないためにも頑張らなくちゃ。
そんな決意を胸に秘め、私は船の準備が出来るまでの七日間を魔法の連中に当てる事を決めた。
………
……
…
村の人達が船の準備を始めてから既に三日、私は未だに初歩の魔法すら成功させられないでいた。
村の中で魔法を遣うのは迷惑になるから、朝起きて食事を取った後直ぐに村はずれの平原で魔法の練習をしているけど、教本に乗っている魔法を試してみても結果は全て同じ。ガノトトスと戦った時の様に爆発と言う形で失敗する。
教本に載っている四系統の基礎魔法『発火』・『凝縮』・『風』・『錬金』の四つを試してみても、本に載っている様な効果は一回も現れなかった。
本に書いてあるとおりに呪文を唱えているのに、必ず杖の先で爆発しちゃうし、錬金に至っては杖を向けていた石ころが爆発しちゃう始末。
あの時は大きな爆発音がしちゃったから、レイジや村の人たちが大慌てでコッチにやって来て、誤魔化すのに苦労したよ……。
なんで魔法が爆発してしまうのか、その答えを探ろうと本を読み込んでみたけど、本には魔法が爆発する事例なんて載ってもいない。
きっと他のメイジは魔法を爆発させる事無く成功させるんだろうけど、この本に対策が載っていないんじゃ私には如何する事も出来ないよ。
船が出てしまうまで後四日。それまでに攻撃魔法の一つでも習得したいのに、この調子じゃ基礎魔法すら出来る気がしないよ……。
「はぁ~……。如何したらいいんだろ……」
「大分苦戦してるみたいだな、ティファニア」
「ひゃあッ?! れ、レイジ、何時の間に来てたの!?」
「今さっきだ。ほれ、昼飯を持って来たぞ」
「あ、ありがとう……」
突然やって来たレイジが差し出してくれたバケットの中には、お茶の入ったポットとカップに野菜のサンドイッチが数個入っていた。
村はずれの草原に一人で練習していたから、もうお昼の時間になっているなんて気づかなかった。
「それじゃ頂くね」
「あぁ、召し上がれ」
私は草原に座り込み、バケットの中にあるサンドイッチに手を伸ばし、それを黙々と食べ始める。
昼食を食べはめて、自分がどのくらいお腹が空いているのか漸く自覚した。
特別美味しいと言う訳でもないけど、一度食べ始めると中々手が止まらなくて、自然ともう一個にも手が伸びる。
新たに食べ始めたサンドイッチもペロリと食べきるけど、パンが口の中の水分を吸収してしまうから段々と喉が渇いてくる。
「……ほれ、お茶」
「ありがとう。それにしても、良く私の欲しい物に気付いたね」
「パンを食ってるとなんか飲みたくなるからな。二つも喰えばそろそろ欲しがるだろうと思ったんだよ」
「そっか」
そう言いながら、ぶっきら棒に手渡してくるお茶を受け取り、一口飲んで喉を潤す。
淹れてあるのは多分紅茶……なんだと思うけど、余り飲んだことのない物だからちょっと自信はない。
まぁ一口飲んだだけでなんのお茶か分かるほど飲んでないし、別に気にする事はないかな。
「それで、魔法の練習は捗っているのか?」
「……それが全然。系統魔法の基礎を練習してるんだけど、どの系統の基礎でも爆発してしまうの」
「ふ~ん……基礎魔法でも爆発するのか。サイフィスが言っていた様にマジで本に載っている魔法は使えないんだな」
レイジは何時の間にか私から盗った本に目を通しながら、何気ない様子で聞き逃せない事を呟く。
「え、もしかしてレイジ、私が教本に載っている魔法を使えない事を知ってたの?」
「ああ。まぁ俺もガノトトスとの戦いの際にサイフィスの奴から聞いただけだが」
「だったらどうしてその事を教えてくれなかったの!? 私、初耳なんだけど!」
「あれ? 言ってなかったっか?」
「言ってないし、聞いてないよ! う~……ずっと魔法が成功しなくて凄く落ち込んでたのに……」
「悪い悪い。俺も半信半疑だったから、本当なのかイマイチ確信がなくてな」
「はぁ……もういいよ。それで、如何したら私も魔法が使える様に為るの?」
「悪いが如何すれば良いのかは俺も知らないんだ。元々魔法に関しては専門外だし、サイフィスの奴なら何か知っていると思うが……お前、アイツの声が聞こえないしな」
「そうだね。……あ、それならレイジが通訳してよ。レイジはサイフィスさんの声が聞こえるんだし」
「めんどくせぇ」
「そこは協力してくれたっていいじゃない!」
何時もの様に面倒臭いの一言で済ませてしまうレイジに、私は思わず声を荒げてしまう。
レイジからしたら、私が魔法を使えるかどうかなんて興味が無い事なんだろうけど、私からしたらレイジの手助けが出来るかどうかが決まるとても大事な事。
それを面倒臭いの一言で済まされるなんて堪ったもんじゃない。なんとしても協力してもらわなくちゃ。
「……あ、なんだよサイフィス。お前も俺に協力しろってのか? ……いや、言っている意味が良く分からないんだが、とりあえず俺の力をお前に分ければいいのか?」
「ん? 一体何を話してるの?」
「それが俺に良く分からん。そうだけどそうじゃないとか、俺の力を自分に注いで欲しいとか良く分からんお願いをされた。とりあえず、俺は力を放出させてれば良いだけみたいだから、余り気にしないが」
「そこは気にした方がいいんじゃないかな」
変な所で大雑把なレイジに呆れるけど、彼はそんな事気にも留めないで手から青白い光を出す。
レイジの身体から溢れるあの光が竜の力なんだと思うけど、こうして落ち着いて眺める機会ってあんまりない。
普段はあまり見られないその綺麗な光に眼を奪われていると、レイジの手から溢れる光は私達の目の前の空間に吸い込まれていく。
突然の事に私は目を丸くするけど、力を吸われているレイジは特に驚く事もなく、嫌がる素振りも見せなかった。
青白い光がある程度吸い込まれると、私達の目の前に綺麗な緑色の球体が現れ、その球体に掻き集められるように突風が吹き荒れる。
私は帽子が吹き飛んでしまわないように必至に手で押さえていると、突風は直ぐに収まってくれた。
突然の出来事に驚きながら目を開けると、私達の目の前には四対の綺麗な緑色の羽を持つ、見た事のない綺麗な女性が浮いていた。
《……この姿に為るのは何千年ぶりかしら。やっぱりこの姿は肩が凝るわね》
「なんだ、その姿がお前の本当の姿なのか? 思っていたよりもずっと美人じゃないか」
《お褒めに預かり光栄よ、レイジ。でも、私の本来の姿ではないわ。この姿に為る前に見せた緑色の球体の方がそうよ》
「そうなのか? だったらなんで態々人になったんだ。その姿になる必要なんてないだろ」
《確かにその通りだけど、ティファニアにはちゃんと挨拶をしておきたかったし、こっちの方が彼女も話しやすいと思ったのよ》
「なるほど。……まぁ、その当人は驚きの余り茫然自失としているわけだが」
《困った子ね。この程度の事で一々驚かないで欲しいものだわ》
レイジが見知らぬ女性と親しげに話しているけど、私は目の前で起こった事を理解できなくている。
レイジがサイフィスに力を分けてあげたら、突然目の前に知らない女性が現れた。
端的に状況をまとめてみたけど……うん、自分でも何を言っているのか良く分からないや。
と、とりあえず、レイジが親しげに話しているってことは敵じゃないみたいだし、挨拶くらいはしておいたほうが良いのかな。
「えっと……その、初めまして。レイジがお世話に為ってます」
《……何を言い出すのかと思えば、しっかりしなさいティファニア。私達、初めてではないわよ》
「え、でも、私貴女みたいに綺麗な人と出会った覚えはないんですけど……」
《普段は貴女には見えもしないし、聞こえもしないでしょうけど、今まで一緒に旅をしていた仲よ》
「…………もしかして、サイフィスさん?」
《えぇその通りよ。……こんなに驚かれるのなら人の姿に為るんじゃなかったわ》
サイフィスさんは残念そうに肩を落とすけど、今まであったことの無い人……じゃなくて精霊さんなのに、気付ける筈がないよ。
以前、その気になれば実体化できるみたいな事をレイジが言っていたけど、実体になった時の姿がどんなものか聞いてないんだから仕方がないよね。
「え、えっと……それでサイフィスさんは、どうやって人の姿に為ったの? それも魔法?」
《人間たちからしたら魔法ね。私たち風の精霊は生物を別の物に変える術を知っているの。ヒルダの様な古龍を人の姿にしたり出来るのだけど、今回は自分自身にそれを使ったのよ》
「へぇ~凄いんだね。それじゃもしかして、私の耳を人間と同じ様にしたり出来るの?」
《その程度のこと造作もないわ》
「本当!? それじゃ今度私に掛けてよ。一日中帽子を被ってると周りの人に変な目で見られちゃって」
《分かったわ。村に帰る前に掛けてあげる》
「わぁ、ありがとう!」
「……お前ら、盛り上がるのは勝手だが本題を忘れるなよ」
《そうだったわね。ティファニアと話す機会なんてなかったからついね》
ごめんなさいと謝りながらサイフィスは真剣な表情で私のほうを見てくる。
その表情があまりにも真剣だったから、私も思わず姿勢を正してしまう。
《それでティファニア、貴女の魔法の事なんだけど……結論から言えば、貴女に四系統の魔法は使えない。貴女が扱える系統は一つ〝虚無〟の魔法だけよ》
「虚無の魔法……。それってもしかして始祖ブリミルが使ったって言う伝説の?」
《えぇその通りよ。貴女はこの時代に現れた四人の虚無の担い手の一人なの》
サイフィスさんが話してくれた事は俄かには信じられないような事だった。
教本の最初の方に載っていた始祖ブリミルが使っていたとされる伝説の魔法。強大な力を持っているとされているけど、どんな魔法なのか詳細な事は一切載っていなかった。
ただ、始祖ブリミルが使った伝説の系統魔法で、虚無を使える者が久しく存在していないってくらいの事しか書かれてなかった。色々と謎の多い伝説の魔法。その担い手が……私?
《信じられないって顔をしてるわね》
「だ、だって、私今まで魔法の勉強なんて一切していないんだよ。他の魔法だって碌に使えないのに、伝説の系統の担い手だって言われても……」
《それは違うわ、ティファニア。虚無の魔法の担い手は他の系統魔法を一切使えないのよ。例え四系統の魔法を極めたメイジが居たとしても、その者は決して虚無の力を扱う事は出来ない。だから、貴女の様に他の系統魔法が使えない子と言うのは、虚無の担い手である可能性が高いのよ》
「それじゃ、本当に私が……」
《えぇ。貴女は六千年前に分かれた虚無の力、その一旦を受け継いで生まれてきた子なの。……それに思い出してみなさい、貴女の母が殺された日の事を》
「おい、サイフィス。幾らなんでもそれは―――」
《大事な事なのよ。辛い事かもしれないけど思い出して》
「……ありがとう、二人共。私は大丈夫だよ。それであの日の事だよね、あの時は確か―――」
―――確か、マチルダ姉さんのご両親が用意してくれた隠れ家に住んでいたら、突然お城の兵隊たちが押し掛けて来て、私はお母さんに言われて物陰に隠れていたけど、見つかったんだよね。
先に見つかったお母さんは兵隊の人たちに殺されて、私もお母さんを殺した兵隊に殺されそうに為ったけど、近くに有った杖を拾ってそれで―――
「―――そうだ、私あの時歌を歌ったんだ」
「歌? 虚無の魔法ってのは歌の事なのか?」
「いや、そう言う事じゃなくて、小さい頃お城の宝物庫にあったオルゴールの歌を聴いて、その時の歌詞を口ずさんだってだけだよ。……もしかしてあの時の歌詞が?」
《えぇそうよ。貴女が言うオルゴールと言うのは、ブリミルが残した始祖のオルゴールと呼ばれるモノ。虚無の担い手でなければ音を聴く事すら出来ない品物よ》
「そうだったの? 確かに随分と変な歌詞だなぁ~って子供の頃から思ってたけど、アレ呪文だったんだ。でも、あの歌詞と一緒に別の曲も聞こえてきたけど、それも呪文なの?」
《いえ、アレ等は必要に応じて担い手に呪文を教える為の物だから、それ以外の歌詞については私は知らないわ。一体どんなモノなの?》
「えっと確か、使い魔たちの事を歌にした物かな。ガンダールヴ、ヴィンダールヴ、ミョズニトニルンと記す事すらはばかられた最後の一人の歌」
《……それは虚無の使い魔の力を断片的に歌にした物ね。呪文ではないから気にしなくていいわ》
「う、うん」
気にしなくて良い。サイフィスはそう言ったけど、彼女の表情はどこか悲しんでいるようにも見えた。
サイフィスは虚無の魔法にも詳しいみたいだし、もしかしたらこの歌になにか思い入れがあるのかもしれないけど、今はその事を話してくれるような雰囲気じゃない。
無理に聞き出してもきっと答えてはくれないだろうけど、何時の日かサイフィスの思いを聞かせてくれると嬉しいな。
《それで話を戻すけど、貴女は虚無の魔法しか使えないわ。その本で幾ら勉強しても時間の無駄よ》
「そんな……。それじゃどうやって魔法を勉強すればいいの? この本に虚無の魔法に関する事は何も書いてないのに……」
《虚無の魔法はブリミルが遺した四つの道具を使って覚えられるわ。トリステインにあるのは……確か本だったかしら》
「なら、その本を読めばいいのか。簡単な話じゃねぇか」
《簡単じゃないわよ。アレはブリミルが遺したものとして国宝に指定されてるし、指輪がなければ意味がない上に、必要な時にしか魔法を教えない様になっているの。仮にレイジが城に忍び込んで本を盗んできたとしても、ハルケギニア中に指名手配されるという結果だけが残るわ》
「そ、そんなの駄目だよ! そんな事に為ったらまたレイジが無茶な事をするに決まってるもの!」
《同感ね。レイジなら国を全て敵に回しても気にしなさそうだし》
「……お前ら、俺を一体なんだと思っているんだ」
《あら、今この場で聞かせて欲しいのかしら?》
「……いや、止めとく。碌なもんじゃないだろうからな」
《賢明な判断ね》
そう言ってレイジは聞くことから逃げたけど、丁度いい機会だからこの場で話してしまった方が良い様な気がする。
どうせレイジの事だから、私達が何を言っても無茶な事を仕出かすんだろうし、今言うのか後で言うのか差でしかないよね。
《レイジへの不満は色々とあるけど、今はティファニアの問題を片付けましょう》
「私の問題? ……サイフィスに怒られる様な事、何かしたかな?」
《別に怒っているわけではないわ。ただ、本当に虚無の魔法を覚える気があるのかの意思確認よ。虚無の力が有ればレイジの手助けを出来るかもしれないけど、私としては貴女にこんな魔法を覚えて欲しくはない。これからも旅をするのであれば、戦う手段は持っていて損はないけど……あんな魔法、存在し無い方が良いのよ》
虚無の魔法に何か嫌な思い出でもあるのか、サイフィスさんはそう言って複雑そうな顔をする。
サイフィスさんの過去に何があったのかなんて、私に知る術は無いけど……きっと私の事を心配してくれているんだと思う。
始祖ブリミルが使っていたという伝説の系統魔法。その力が何故か私に宿ってしまったみたいだけど、それでもやっぱり私はレイジの手助けがしたい。
この魔法を覚える事で何が変わるのか分からないけど、ただ見ていることしか出来ないなんて嫌なの。
これ以上レイジが傷付かなくていいように、もうあんな目に遭わなくても済む様になるのなら、私はその方法を取りたい。……もう大切な人が目の前で亡くなるところなんて見たく無いから。
「サイフィスさん……。ありがとう、心配してくれてるんだね。でも、やっぱり私は魔法を覚えたい」
《……それは一体何の為に?》
「レイジの為でもあるし、私自身の為でもあるかな。レイジには私の手助けなんて必要ないかもしれないけど、見ていることしか出来ないなんてもう嫌だから」
《そう。……まぁ貴女ならそう言うだろうとは思っていたけど、やはり意志は固いのね》
どこか呆れた様な表情をしてるけど、それでもサイフィスさんは私の思いを分かってくれた。
「ごめんね、サイフィスさん」
《いいのよ、こうなる事は予想できていたから》
「……それで話は纏まったのはいいが、どうやって魔法を覚える気だ? この国にある本を奪っても意味が無いなら、他の国にある道具を奪っても同じだろ?」
「そ、そうだった! 姉さんに貰った教本にも載ってないし、一体如何すれば……」
《それだったら私が教えてあげるわ。全てではないけど、ある程度なら虚無の呪文を覚えているから》
「本当、サイフィスさん!? 良かったぁ~、これでなんとか魔法の練習が出来るよ」
《練習は止めておきなさい。虚無の魔法と言うのは他の系統魔法と比べて異色の魔法なの。それに幾つかの欠点もあるから、練習して精神力を無駄にしない方がいいわ》
「幾つかの欠点?」
《えぇ。分かりやすい例を挙げると、呪文の詠唱が他の魔法と比べて長い事や、魔法の威力に応じて精神力を多大に消耗することね。溜まっていた精神力を一気に消耗するから、担い手は魔法を唱えた後に気を失ってしまう事もあるし、最悪命を削ることだってありえるわ》
「そ、そうなんだ……。そんなに危険なものだとは知らなかったよ……」
《まともに使える者がいなくなって久しいのだし、知らなくて当然よね。……今の話を聞いても覚えるのでしょう》
「うん。もう決めた事だから」
《そう。……なら始めに初歩の魔法である爆発の呪文を教えるわ。頑張って覚えなさい》
「うん!」
思いと新たに早速サイフィスさんに魔法を教えてもらおうとすると、急にレイジが立ち上がる。
その手には持って来てくれたバケットが握られていて、村に戻ろうとしているんだと理解出来た。
「なんだか知らんが、話も纏まったみたいだし、俺は先に戻るぞ」
「うん、分かった。お昼ご飯持って来てくれてありがとう」
「別に気にすんなって。ティファニアもあまり根をつめ過ぎるなよ」
「そのくらい分かってるよ。……待っててねレイジ。次の戦いでは必ずレイジを助けるから」
「あぁ、期待しないで待ってる」
「そこは期待してくれてもいいじゃない。レイジのケチ」
「はいはいっと。……そんじゃ頑張れよ」
そう言いながらレイジは、私達に背を向けたまま手を振って平原を後にする。
私はその後姿が見えなくなるまで見送った後、サイフィスさんの方を向き直って呪文を教えてもらう。
虚無の魔法でも初歩の魔法だから直ぐに覚えられる……なんて思ってないけど、それでもまずは出来る事からコツコツと始めて行こう。
レイジは全然期待してくれてない様だけど、今度の戦いではこの魔法できっとレイジを助けてみせる。
……だから、もう無茶な事はしないでね、レイジ。
ティファニアに魔法を教える、その為のサイフィスです。