虚無のエルフと神殺しの竜   作:ベヘモス

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今回で漸く海竜戦になる訳ですが、第四話で黒レイアを出したこの作品が、普通の海竜を出すわけがない。……何が出るかは、サブタイでバレバレですけどね


第二十一話 冥海竜

……まだ日も明けきらず、人も動物も魚もまだ眠りについている時間、漁村の桟橋に碧色の光と蒼色の光が輝いていた。

碧色の光の正体は零児たちと共にこの村にやって来た風の精霊。そして、蒼色の光の正体はこの海に古くから住む水の精霊。

共に古の時代から存在する精霊ではあるが、古い知人に挨拶をしに来たと言う雰囲気ではなかった。

 

《……どうしても力を貸してくれないの?》

《何度も言わせるな。あの様な得体の知れない輩に力を貸す気はない》

 

風の精霊は零児の為に水の精霊に協力を頼んでいるが、水の精霊は頑なにそれを断り続けている。

時代の流れと共に精霊たちの人間に対する信頼は失われつつある中、水の精霊が風の精霊の頼みを頑なに断り続けるのにはある訳があった。

 

《まったく、お前ともあろう者が何故あの様な存在に拘るのか理解できん。人でも龍でもないないのだぞ、あの男は》

《それは……そう、だけど》

 

水の精霊が協力を断る理由、それは零児の存在自体が精霊達にとって得体の知れないものだから。

生物ではない精霊に人間でいうところの五感の様な器官は存在しない。精霊が対象を認識する方法はその属性によって異なるが、視覚に囚われない精霊たちからすれば零児の存在は余りにも不可解なのだ。

人の姿をしていながらも、感じさせる気配は龍と同じ物と言う矛盾。

古龍が精霊の力を借りて変身しても、精霊達はどの様な姿であってもそれが龍だと認識する事が出来る。

しかし、零児は精霊の力を借りずとも常に人間の姿のまま。なのに精霊たちに龍と認識させてしまう。ハルケギニアの精霊たちからすれば、この様な龍は過去に例を見ないため不審に思い、彼の事を警戒してしまうのだ。

 

《レイジについては前にも話したでしょ。彼はこの世界とは違う世界から来た龍と人の混血だと》

《その話なら聞いた。だからこそ得体の知れない奴だといっているんだ。異世界から来た者がこの世界で何をしようと言うんだ》

《彼はこの世界に復活しようとしている者の存在を察してやって来た。きっと門の向こうに封印した奴の事だと思う。封印も解けかかり、人間もエルフも信用出来ない今、彼等の力を借りるしか方法が無いわ》

《……なるほど、一理ある。しかし、信頼している割にはあの者達に何も話さないのだな、お前は》

《ッ!?》

《本当はお前も心の何処かでは信じ切れていないのではないか?》

《そんな事はない! 私は彼らの事を―――》

 

信じている。そう風の精霊が叫ぼうとしたとき、東の空から太陽が昇り始めた。

それを合図にしたかのように、漁村の家々から白い煙が立ち昇り、住人たちが眼を覚まし始める。

朝早くから漁に出かけることもある住人達にとって、太陽が昇り始め時間が眼を覚ます時間でもある。

それに今日は海を荒らす化け物を退治しに行く決戦の日。これ以上、水の精霊と話している時間はなかった。

 

《……人間達が起き始めた。そろそろレイジも眼を覚ます頃ね》

《あの海竜と戦いに行くのだったな。無謀な事を、あんな得体の知れない輩が勝てるものか》

《レイジは勝つわ。どんな無茶をしてでも勝ちにいく、そう言う子なのよ彼は》

《命知らずも甚だしいな。自分の命を蔑ろにしているのか?》

《そんな事はない……と思いたいわね。傍で見ているとそう見えてしまう事が多々あるけど》

 

風の精霊が呆れたように溜息を吐くと、一軒の家屋から零児が姿を現した。

まだ寝起きなのか若干眠そうにしているが、決戦当日と言う事もあって早く起きたのだろう。

 

《彼が出て来たわね。私はもう行くわ》

《好きにするがいい。だが、お前の役目は混血の娘を見定める事だと言う事を忘れるなよ》

《分かっているわ。……でも、私も一つだけ言わせて頂戴》

《なんだ》

《もしレイジに何か遭って、貴女が彼を見捨てる様な事があれば……私は一生貴女を許さない》

《………………》

《言いたい事はそれだけ。それじゃ、さよなら》

 

風の精霊は自分の言いたい事だけいうと、桟橋を離れて零児の元へと向かう。

水の精霊はその後姿を眺めながら、呆れたように深い溜息を吐き捨てた。

 

《はぁ……。前々から人間臭い奴だと思っていたが、ここまで来ると呆れて何も言えんな。自分がどの位にいる精霊なのか忘れているんじゃないだろうな》

 

呆れたようにそう呟いた後、水の精霊は海の中へと潜り姿を消してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零児Side

 

村長と約束を交わしてから七日が経った。俺達は今日、海に出て怪物と戦いにいく。

今日の天気はとても晴れていて、風もなく海はとても穏やかに見える。

俺達は村が用意してくれた大型船に乗り込んで、よく怪物が現ると言う海域に向かっていた。

 

「……それじゃ、結局水の精霊の協力は得られなかったのか」

《えぇ。ギリギリまで頑張ってみたのだけど、駄目だったわ。ごめんなさい》

「いや、サイフィスが謝ることじゃない。向こうには向こうなりの考えがあるんだろうし、無理に手伝わせる訳にいかない」

《でも、相手は水中にいるのよ。今回私はティファニアのサポートをしないといけないから、貴方の手助けは出来ないわ》

「まぁ……サイフィスの助けが無いのは辛いが、それでもなんとかするしかないだろ」

《……それもそうね》

「あぁ。……んで、ティファニアは大丈夫なのか?」

「だ、大丈夫……だよ」

 

サイフィスとの会話を打ち切って、ティファニアの方に眼を向けるが……あからさまに無理をしている。

村を出る前は普通そうにしていたんだが、今は顔を蒼くさせて若干グッタリとしている。

森の中で暮らしていたから、今まで船に乗った経験なんてないだろうし、初めての船に乗って酔ったんだろう。コレから決戦だって時に、全くコイツときたら……。

 

「顔が青ざめてるぞ。無理せず船室で寝てろ」

「そうしたいのは山々だけど、この日の為に魔法を勉強したんだから、頑張らないと」

「無理をして倒れられても困るんだがな……」

 

頑なに船室で休もうとしないティファニアに呆れていると―――

 

「で、出たぞ! ラギアクルスだッ!!」

 

―――マストの上で見張りをしていた奴から海竜の発見が知らされる。

それに伴い、落ち着いていた船内が俄かに慌しくなり、状況が一変する。

俺は船首の方へと走り出し、そこから大海原を見渡してみると、確かに黒い影がこちらへと近付いてきているのが見える。

赤い双眸に漆黒の巨体、背中と思われる部分は青白く発光している。

……なるほど、確かに船の上から見れば得体の知れない化け物に見えても仕方がないな。それだけの迫力と威圧感がある。

 

「ど、どうしよう、レイジ……」

「俺が海に飛び込んで奴の気を逸らさせる。そのまま倒せそうなら倒すが、もし無理そうならどんな手段を使ってもアイツを海から引きずり出すから、お前が仕留めろ」

「わ、私が!? レイジでも勝てない相手に私なんかが勝てるわけ無いよ」

「何言ってるんだ。この日の為に魔法を覚えたんだろ? だったら当てにさせてもらうぜ、ティファニア」

「うぅ……。分かった、頑張ってみる。でも、レイジも無茶な事をしたら駄目だからね!」

「わーってるよ。……そんじゃ、ちょっくら行って来る」

 

そう言って心配するティファニアの頭を軽く撫でた後、船首から海の中へと飛び込んだ。

海に飛び込んで漸く漆黒の竜の全貌を見る事が出来たが、相手は俺が思っていた以上の巨体だった。

鼻先から尻尾の先までの長さを見てみると、40m近くはありそうだ。親父が竜に為ったときでさえ20mもあるかどうかってサイズなのに、体格だけなら親父の倍はあるのか。

生活圏が海だからか、奴の漆黒の身体には翼と呼べる様なものはなく、海蛇の様に泳いで移動するタイプの竜のようだ。

その漆黒の鱗に赤い瞳、それだけでも不気味なのに背中に有る器官が青白く発光する事で、より一層不気味な竜に見えてしまう。

故郷にいる邪龍も黒い外見で中々だったが、こいつの場合はデカさも相まってアイツよりも不気味だな。

 

「■■■■■■ーッ!!」

 

海竜も俺の事を敵として認識したのか、海中に奴の咆哮が響き渡る。

その雄叫びを合図に俺は剣を抜き、臨戦体勢を整えていると、奴は真っ直ぐ俺に向かって突撃して来る。

それを眼にした俺はいつもの様に回避しようとしたが、回避出来ずに奴の巨体に吹き飛ばされてしまう。

吹き飛ばされて直ぐに体勢を整えようしたが、海竜は即座に反転してもう一度俺目掛けて突撃して来た。

今度は何時もより一呼吸早く回避行動に移るが、水中で戦っている所為か、身体の動きが何時もよりも遅い。海の水が身体に纏わり付いている様で、物凄く戦いにくい。

今度は直撃せずに回避できたが、それでも奴の巨体を掠ってしまい体勢を崩してしまう。

水中での戦いにやり辛さを感じるが、今は泣き言を言っている暇なんかない。

俺は即座に体勢を立て直して、青白く発光している奴の背中に斬りかかる……が、恐ろしいほど硬い所為で傷一つ付けることが出来ない。

刀身に竜の力を二回纏わせてもう一度斬りかかるが、それでも全くと言っていいほどに斬れなかった。

ここまで来ると剣の切れ味が悪いだけじゃなくて、奴の身体を覆っている鱗が硬すぎるのが原因か。

あまりの強度に奴の背中を睨みつけてしまうが、そんな事をしていると反転してきた奴の前肢に殴り飛ばされてしまう。

海竜の前肢に痛い一撃を貰ったが、反転して振り向いた事で今度は奴の胸部が俺の方を向く。

胸部には背中の様な漆黒の鱗はなく、分厚そうな白い皮だけ。

俺は即座に奴の懐に潜り込み、剣を振るい斬りかかってみると、今度は海竜の肉体をなんとか斬り裂く事が出来た。

斬り裂く事が出来たといっても、背中に比べればマシといった程度で、奴の肉体自体が硬い事に変わりはない。

それでもこの剣で斬る事が出来たって事は、奴を討ち取れる可能性も出て来た。

水中で戦っている以上、何時まで息が持つのか分からないし、さっさと決めてしまわないと危ない。

そう判断した俺は、勝負を急ぐために猛然と奴に斬りかかった。

 

水の抵抗も気にせず、剣を振り下ろし海竜の身体を斬り刻んでいく。

海竜は前肢を鬱陶しいものを振り払うように振るうが、俺は下に潜る事でそれを回避し、即座に間合いを詰めながら剣を振り上げて斬り裂く。

このまま胸部に張り付いたまま斬り刻もうとするが、海竜は急に泳ぎだして間合いを大きく離されてしまう。

俺はすぐさま奴を追いかけようと泳ぎだすが、戦っている場所が水中である以上、水棲生物のアイツに追いつける訳がない。

奴がもう一度突撃して来た所をなんとか躱してから、懐に潜り込んで斬りかかるしかないが……それだと時間が掛かる。どうにかして奴に近づく方法は無いだろうか。

海竜に近付く方法が無いかと考えていると、俺から距離を取った海竜は口から雷撃の弾を放ってきた。

放たれた雷撃の弾をどうにか回避するが、俺の横を通り過ぎた弾が突然破裂し、周囲に雷撃が拡散する。

水中で拡散する雷撃に巻き込まれ、俺はその場で動きを止めてしまう。

回避は出来た筈なのに、放った雷撃が破裂して拡散するとは思いもよらなかった。

雷撃を浴びて感電でもしたのか、身体の動きが若干悪くなるが、それでもまだ戦う事は出来る。

そう思い、剣を握り直して海竜の方に視線を向けると、奴は俺の直ぐ傍にまでやって来ていた。

身体を捻るように回転させながら、俺の方に突っ込んでくる海竜を躱す事が出来ず、俺は奴の突撃をまともに喰らってしまう。

その強烈な一撃にまたしても吹き飛ばされてしまうが、今度は直ぐに体勢を立て直すことができない。

雷撃を浴びた影響なのか、身体が弛緩して身体の機能のほとんどが動かなくなる。

身体を碌に動かす事が出来ない中、次の攻撃を回避するために体勢を立て直そうと必至に足掻く。

視線だけをなんとか奴の方に向けると、海竜は身体を小さく丸めながら背中の発光器官の輝きが増す。

その様子を見て余り良い予感はしないんだが、身体が動かないため如何する事も出来ない。

それでもなんとかして回避しようと足掻くが、俺の身体の機能が回復するよりも先に奴の放電の方が早かった。

 

丸めていた身体を伸ばすように海面に向かって吼えると、奴の背中から雷撃が放出され、海竜を中心とした周囲が雷で青白く光る。

放出された雷撃に飲み込まれ、その威力にこのまま感電死してしまうのではないかと思わせる。

だが、俺の身体は自分でも思っていた以上に頑丈に出来ているのか、アレだけの雷撃を受けてまだなんとか生きていた。

頑丈な身体に産んでくれたお袋には感謝するが、このままってのは流石に不味い。

一旦船に引き返すかとも考えたが、今引き返しても今度は船が標的に為るだけで、返って戦い難くなる。

切り札を切って戦おうかとも思ったが、ここは水中だ。空中か地上でならともかく、水中で変身しても今の姿以上に戦い難くなるだけ。……やっぱり今回はティファニアの魔法に賭けるしかない。

そう結論付けた所で、漸く身体の機能が回復してくれたが、海竜はまたしても泳いで俺から距離を取る。

大分息苦しくなって来たし、これ以上時間は掛けていられない。そう判断した俺は後先考えずに奴へと向かっていく。

一旦剣を鞘に納めて、全力で泳ぎながら海竜へと向かっていくが、また口から雷撃の弾を放ってくる。

迫り来る雷撃の弾を躱し、拡散する雷撃の範囲外にまでなんとか泳いで逃げる。

弾を放った後の硬直で身動きが取れなくなっている今の内に、なんとかして距離を詰めようとするが、海竜は突然その場で身体を高速回転させ始めた。

最初は何をしているの分からなかったが、その動作の意味は直ぐに判明する。

海竜が高速回転を止めると同時に水中に突如として三つの渦が発生した。

発生した渦を見て、俺は直ぐに方向転換をしてコッチに向かって来る渦から逃げようとするが、距離が近かった為、逃げ切れずに渦の中に飲み込まれてしまう。

水中で発生した渦の中では、今自分がどっちを向いているのかも分からない程に回され、上を向いているのか下を向いているのかも分からなくなる。

その激しい水の流れに溜めていた残り少ない酸素を吐き出してしまい、口の中に海水が流れ込んでくる。

このままでは窒息死してしまうと、残りの力を使って海面に浮上しようとするが、海竜は尻尾を振り払って邪魔をしてきた。

その所為で益々息苦しくなり、海面まで泳ぐだけの力も出せなくなる。

親父なら力を解放して周囲の海水を吹き飛ばす位の芸当が出来そうだが、今の俺にそんな事が出来るだけの力はのこっていない。

これ以上のていこうは出来そうにないし、俺はここまで……かな。

悪い、マチルダ。ティファニアをまもるって約束、はたせそうにねぇわ……。

目の前が暗くなり、意識が遠のいていく中―――

 

《……こんなものか。風のが肩入れするからどれ程の強者かと思えば、期待外れだな》

 

―――聞き覚えのない声が頭の中に響いてきた。

 

《ま、古き同胞に恨まれたくはないのでな。今回だけお前に力を貸してやる。次に私の力が借りられるかどうかはお前の働き次第だ。……口の中の海水を薬に変えた、それを飲み込め》

 

その声に言われるがまま、口の中の海水を飲み込むと不思議な事にさっきまであった息苦しさがなくなる。それどころか、水中にいる筈なのに何故か呼吸をする事が出来るようになっていた。

 

《私の力でも長時間効く薬は作れない。また息苦しい思いをしたくなければ早々に決めろ》

 

それだけ言うと謎の声は聞こえなくなったが、聞こえなくなる間際に俺は水中に解ける様にして消える、妖艶な女性の姿を見た。

アレの正体が何なんか大体の想像は出来るが、今はその詮索は後回しだ。彼女の言葉を信じるなら、何時までも水中の中で呼吸できる訳じゃない。この効果が続いている間に決着をつける!

俺は水中で大きく息を吸い込み、息を整えてから漆黒の海竜へと向かって泳ぎだす。

死に掛けていた俺が復活した事に海竜も少しだけ表情を変えるが、僅かに変化した表情も直ぐに戻り、今度こそ俺を殺そうと突撃してくる。

さっきは一呼吸早く動き出しても躱しきれなかった。だから今度はさっきよりも早く動き出す。

何時もだったら回避行動を取るには早すぎるタイミングだが、水中で動きが何時もより遅いお陰でこのタイミングで海竜の突撃を躱す事が出来た。

奴が突撃して近付いてくれた隙に懐の潜り込み、剣を抜いて海竜に斬りかかる。

漸く巡ってきた好機。これを逃す訳にはいかないと、剣に纏わせていた力を三段階目にまで引き上げる。

纏わせた竜の力に耐えられず刀身が軋む音が海中に響き渡る。

買ってまだそれほど経ってないから、あまり無茶な事はしたくないんだが……ここで無茶をしなかったら勝ち目はない。

軋み上げる刀身に気にも留めず、竜の力を纏い光り輝く剣を振り下ろして海竜を斬り裂く。

先程よりも鋭くなった一閃に海竜も怯むが、反撃と言わんばかりに前肢を振り払ってくる。

振り払われた前肢に殴られるが、そんな事は気にせず海竜の胸部に張り付いて剣を振るう。

前肢で振り払っても離れない俺がよほど鬱陶しくなったのか、海竜は身体を小さく丸め込み、背中の発光器官を依り強く輝かせ始める。

それを見た俺は即座にその場から離れ、海竜が繰り出してきた大放電の範囲外にまで下がる。

海竜から離れた事で大放電の直撃は回避できたが、これではさっきの繰り返しになってしまう。だから俺は大放電が終わるのと同時に飛び込んで、奴の懐に潜り込む。

広範囲に亘って雷を放出した後に出来る隙、その僅かな隙を突くように奴の懐に潜り込み―――

 

「……ッ!」

 

―――瞬時に奴の胸部を十字に斬り裂いた。

その一撃に海竜の胸部は引き裂け、胸から血を流しながらその場で横転する。

胸が裂けた衝撃で気を失ったのか、なんにしても今の俺に取ってはまたとないチャンスだ。

俺は人の姿を保っていられる限界点まで竜の力を解放し、横転している海竜の腹を蹴りこむ。

蹴り込まれて海竜も意識を取り戻すが、今更目が覚めても遅い。

海竜の腹に足を押し込んだまま海中で飛び上がり、海水を巻き上げながら奴ごと海面へと飛び出す。

飛び出したときに巻き上がった水は、太陽の光を受けてキラキラを輝きながら、重力に従って海へと戻っていく。

海から空へと無理やり引きずり出された海竜は、俺の事を忌々しげに睨みながら雷撃の弾を放とうとする。

俺は奴の身体を軽く蹴って射線上から離脱すると―――

 

「―――スヴュエル・カノ・オシェラ・ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル」

 

―――船から風に乗ってティファニアが呪文を紡ぐ声が聞こえてきた。

その呪文が紡ぎ終わった瞬間、海竜の身体から光が溢れて弾けた。

直ぐ傍にいた俺も弾けた光に飲み込まれるが、光が収まっても俺には何も起こらず怪我一つなかった。

だが、光の中心にいた海竜は今の光を受けて死に掛けている。……俺は何度も斬りかかって漸く胸部を破壊したってのに、一撃で瀕死にまで追い込むなんてどんな威力だよ。

そのとんでもない威力に若干嫉妬してしまうが、海竜は瀕死に追い込んだだけでまだ絶命していない。

海竜は残りの力を使って俺にではなく、船の方に雷撃の弾を放とうと顔をそっちに向けようとする。

自分の命が尽きる前に一矢報いようとしているんだろうが、アイツ等がいる船だけは絶対にやらせねぇ。

俺は剣に纏わせていた力を変形させ、より鋭い刃へと研ぎ澄ませる。

纏わした力に耐え切れず刀身が軋み上がる音を無視し、竜の力を青白く光る巨大な刃へと変える。

刀身が軋む音が聞こえるなか俺は空を蹴り、奴の横を通り過ぎながら海竜を光の刃で斬り捨てた。

 

「……竜剣『ドラゴンブレード』」

 

海竜を斬り捨てたと同時に光の刃は霧散して消滅し、俺はそのまま海へと落ちていく。

数mほど海中に沈んだ後、急いで海面へと浮上しようとすると、入れ違いに為るような形で海竜が海に落ちてきた。

さっきまで漆黒の甲殻をしていた海竜だが、海に落ちたときに事切れたのか、漆黒の甲殻は灰色へと変わり、海に浮んだまま動く事はなかった。

海竜が絶命したのと確認した俺は、解放していた竜の力をゆっくりと抑え込んでいく。

完全に力を抑え込むことが出来ると同時に、全身に途方もない疲労感が襲い掛かってくる。

心臓の鼓動も普通では考えられないくらいに速く、力を解放した反動が一気にやってきた。

少しすれば収まるとは言え、力を解放するたびにコレじゃやってられないよな。

扱いに困る自分の力に呆れていると、引き裂かれた海竜の胸部に光る何かが有るのを見つける。

何となくソレが気に為った俺は、心臓の鼓動が収まるのを待ってから海竜の死体に近付き、光を放つ何かを剥ぎ取る。

海竜から剥ぎ取ったソレは、非常に強く帯電している謎の珠だった。

帯電している所為で持っているだけでも凄く痛いが、海竜を討ち取った証として貰って行く事にした。

これが何の役に立つかは分からないが、持っていて損することは多分ないだろう。

討伐した海竜を今一度目に焼き付けておいてから、俺はティファニア達が待つ船へと戻る事にした……。

 

零児Side out




今回は前回と違って台詞の少ない回になったな。

それはそうと、BFTが面白すぎてヤバイ。今期のアニメはアレとFateがあれば十分だな。
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