さて、次は砕光の暁刀……いや、その前にアルファルドを作るか
「前に会った時も思ったけど、本当に口が悪いよな。そんなんじゃ友達無くすぞ」
「他人のお前に心配されるほど酷くはないし、一々お前の相手をするのが面倒なだけだ」
「何気に酷い事言ってねぇか?」
「いや、相棒。あれだけしつこく問い質してれば、面倒だと思われても仕方がねぇぞ」
「……え、俺が悪いのか?」
「あぁ。アレはオレから見ても第一印象最悪だな」
黒髪の少年は背中に背負っていた喋る剣に駄目だしされて肩を落とす。
元の世界に帰りたくて必死だったって言えばそれまでだが、問い詰められる側からすれば鬱陶しい事この上ないからな。第一印象を悪くしても仕方がないだろ。
それにしてもこいつ、背中に剣を二本も背負っているな。一つは学院で見た喋る剣だが、もう一本は一体なんだ? 柄と鞘の先端しか見えないからなんともいえないが、端から端までみた感じだと大剣っぽいな。
大剣を二本も背負うなんて、二刀流の真似事でもやるつもりなのか?
「……美しい」
「あん?」
「そこの見目麗しいお嬢さん、お名前はなんというのですか?」
「え、私? えっと、ティファニアです」
「ティファニア……なんて可憐な名前なんだろう。おっと、自己紹介がまだだった。僕の名前はギーシュ・ド・グラモン。トリステインの名門貴族グラモン家の三男です。以後お見知りおきを」
「は、はぁ……」
「ハルケギニア随一の名所と謳われるラグドリアン湖の畔で、貴女の様な方に出会えるなんて運命としか言いようがない。……もし宜しければ僕とお茶など如何でしょう?」
黒髪と一緒にやって来た金髪……キザったらしいからキザ男でいいや。そのキザ男が突然ティファニアをナンパし始めた。
黒髪と桃髪はまた始まったと言いたげな顔をして、もう一人の金髪の少女はキザ男の事を凄い形相で睨みつけている。コイツ等の表情から察するに、キザ男は元々そういう奴なんだろう。
俺の連れをナンパするとはいい度胸だが、他人の俺が出会い頭にナンパするのは止めろなんて言える訳もないか。
それに何時までも俺の後ろに隠れさせてる訳にもいかないし、ティファニアがどう対応するのか見てみるのも一興かな
そう考えた俺は、ティファニアを庇う事もせず、彼女の反応を観察する事を決めた……のだが、ナンパされている本人は何故かキョトンとしている。
「えっと……つまり如何言う事?」
……あ、こいつ、自分が今ナンパされているって自覚すらないのか。
「つまりだ、今から自分とデートしないかって誘われてるんだよ」
「え、私が? この人に?」
「あぁ。ロサイスの港町でも似た様な事があっただろ」
「いや、あの人たちはもっと分かりやすい物言いだったから……」
「ストレートに迫られてたって訳か。……ま、いいや。それで如何するんだ?」
遠まわしにさっさと返事をするよう促すと、ティファニアはキザ男の方に顔を向けて頭を下げた。
「ごめんなさい。付き合えません」
ティファニアにしては珍しくはっきりと断ると、キザ男は顔を引き攣らせる。
恐らく断られはしないとでも思っていたんだろうが、誰でも口説き落とせると思ったら大間違いだぞ。
「そ、それは何故だい? 見たところ急いでいるようには見えなかったが……」
「いえ、私達にはやらなくちゃならない事がありますし、それに―――」
「それに?」
「―――貴方はタイプじゃないんです」
ティファニアのこれ以上ない拒絶の言葉。それを受けたキザ男はまるで石の様に固まってしまう。
タイプじゃない。そう言われたら普通の奴なら引き下がる筈だが、まだ迫ってくるようなら今度は助け舟を出してやるか。……それにしても偉くはっきりと言ったな、コイツ。
「た、タイプじゃない……。そんな風に言われたのは初めてだよ。これは中々に心に突き刺さるね」
「残念だったわね、ギーシュ。ま、お茶ならわたしが付き合ってあげるから、行きましょう」
「あぁ、やっぱり君は優しいねモンモランシー。でも、今の君の笑顔はとても怖いんだけど、何故だろうか」
「それは気のせいよ。さ、早く森に行きましょうカ?」
「……いや、やっぱり急用を思い出し……痛い痛い! 耳を引っ張らないでくれ、モンモランシー! サイト、ちょっと助け―――」
最後の頼みの綱として黒髪に助けを求めたが、キザ男はそのまま金髪の少女と共に森へと消えていった。
あの少女の怒り具合から察するに、恐らく彼女はあのキザ男の事を憎からず思っているんだろうが、相手はそんな事気にもせずにティファニアを口説いたのか。
人間、怒りが限界を超えると逆に冷静になるって聞くが、今の彼女が正にソレだろうな。
森の中で何をするつもりなのかは知らないが、断末魔がこっちにまで聞こえて来ない事を祈ろう。
「……ギーシュの奴、本当にこりねぇな。前にも二股がばれて騒動になったばかりだってのに」
「どうしようもない男だな」
「根は悪い奴じゃない……と思いたいんだけど、微妙なところだな」
口ではキザ男を庇いながらも、黒髪は呆れたように溜息を吐く。
黒髪の話だと以前も二股を掛けていたらしいし、金髪の少女がいつ愛想を尽かすか見ものだ。
もっとも黒髪と一緒に来たって事はアイツ等も学院の生徒だろうし、俺達があの二人の行く末を見る事はないだろうな。
「ねぇそこの貴方。湖に居る不定形の物体ってもしかして―――」
「この湖に住んでる精霊だそうだ。……もしかしてお前ら、アイツに用事なのか?」
「やっぱり! ……ねぇサイト知ってる? ラグドリアン湖の住む精霊の前で交わした誓いは決して破られないですって」
「へ、へぇ~……そうなんだ」
「だから私達もここで永遠の愛を誓いましょうよ」
「いや待て落ち着けルイズ。今はそんな事をしている場合じゃないし、レイジ達だって見てるんだぞ」
「待~て~な~い。アイツ等だって直ぐにどこか行くから…ね、いいでしょサイト」
……なんと言うか、随分とキャラが変わったな。前に会った時の桃髪はもっと勝気な感じだったと思うが、今は猫なで声を出して黒髪に甘えている。
会っていなかった半月ほどの間に、黒髪が桃髪を口説き落とした……にしては豹変しすぎだな。
人の性格なんてそう簡単に変わる様なモノじゃない筈だが、黒髪の奴一体何をやらかしたのやら。
《……やれやれ、またその話か。人間達はどうしてそんな下らない嘘を信じ込めるんだ》
「嘘? 桃髪が言ってた誓いがどうこうって話か?」
《あぁ。私はただの精霊だ、誓いを交わした者達が誓い破らぬよう制約を掛ける事はできない。私はただこの地で誓いを交わした者達の事を覚えているだけだ》
「あ、そうなんだ。……ちょっと残念」
湖の精霊の話を聞いて何故かティファニアが残念がっているが、嘘を信じ込んでいる桃髪は精霊の話を全く聞いていない。
嫌がる黒髪にしつこい位に甘えて、相手の気持ちなんか考えもせずに自分の気持ちを押し付けてる。
黒髪の奴が桃髪の気持ちを受け止めてやれば丸く収まると思うが、アイツの嫌がり方を見る限りだと黒髪が彼女を口説き落としたって線は無さそうだな。
だとすると一体何が彼女をここまで変えたのか気になるが、面白半分に首を突っ込んでも碌な事にならないだろうし、桃髪の奴が黒髪を押さえつけている間にさっさとアルビオンに向かうとするか。
「……ティファニア、荷物は準備できているか」
「あ、うん。大丈夫だよ、いつでも出発できる」
「そうか。ならさっさと行くぞ、こんな所で油を売っている暇はないんだからな」
「うん、分かった」
「早く行こう、兄様。わたし、人間達の傍に長く居たくない」
ヒルダに急かされ、俺とティファニアは持って来た荷物を手にし、ヒルダの背に乗ってこの地から旅立とうとする。
これから向かう先はアルビオン。下手すると一国に匹敵する軍隊を相手にしなくちゃ為らなくなるが、流石にそれは面倒だし、そう為らない様に上手く立ち回るとしよう。
アルビオンに着いたらどこか大きな町で情報を集め、そこから今後の方針を決めていくとするか。
そんな事を思いながら俺達は、ティファニアの故郷であるアルビオンへと向かう事にした。
………
……
…
「って、見捨てるなぁー! マジでルイズを止めるの手伝ってくれ!!」
「……チ、目ざとい奴だ」
黒髪の奴を無視してさっさと旅立とうとしたが、さすがに黒髪の奴に呼び止められてしまう。
アイツの声なんて無視しても良かったんだが、俺達を呼びとめる声が余りにも必死だったから何となく気になり、アイツ等の方を見てみると……丁度桃髪の奴が黒髪を押し倒していた。
俺達が居なくなって人目を気にしなくなったからか、桃髪の奴が本気を出し始めた様だ。
桃髪の奴、自分が着ていたマントを脱ぎ上着のボタンを外して肌を露出させて、黒髪を押し倒して馬乗り状態に為っている……ところまでは見えたんだが、背後から伸びて来た手が俺の視界を遮ったせいでそこから先が見えない。
「キャーッ! レイジは見ちゃ駄目ーッ!」
「なんだよ急に。これじゃ何も見えねぇじゃねぇか」
「お、女の子は好きな人以外に裸を見せちゃいけないってお母さんが言ってたの! だからレイジは見ちゃ駄目!!」
「……情操教育としては間違っちゃいないと思うが、出逢った当初のティファニアの格好は結構際どかったと思うぞ」
「それは今は思い出さなくて良いの!!」
ティファニアの所為で先が見えなくなってしまったが、黒髪の奴が中々に大変な状況なっているって事は分かった。
視界が塞がれていても、ヒルダの背に乗っているから問題なくアルビオンに向かう事は出来るが、なんだかアイツの陥っている状況が他人事には思えなくなってきたな。
「お、落ち着けルイズ。今はまだ昼前で此処は野外だ。水の精霊だって俺達の事を見てるんだぞ」
「だからいいんじゃない。ラグドリアン湖の精霊の前で誓った事が決して破れないのなら、私は此処でサイトへの永遠の愛を誓って貴方を私の物にする。私もサイトだけの物になるからジッとしてて」
「いやマジで考え直せってルイズ! 幾らなんでもこれは不味いって!!」
どうなっているのか見る事はできないが、アイツ等の声を聞いていると姉貴に迫られた日の事を思い出す。あの時は本当に大変だったなぁ……。
あの時の自分と同じ様な状況に為っている黒髪を見捨てるのはちょっと気が引けるか。
やれやれと小さな溜息を吐きながら、俺はティファニアの手を振り解き、ヒルダの背中から飛び降りる。
湖の周囲に生えている木々よりも高い位置から飛び降りたが、桃髪の奴は俺に気付きもせず、黒髪に迫っている。
幾らなんでも周りが見えてなさ過ぎると思うが、変に気取られたりしないだけ都合がいい。
俺は気付かれないように桃髪の背後に近付き、長い髪に隠れている首目掛けて手刀を正確に叩き込む。
手刀をまともに喰らった桃髪はそのまま気を失い、黒髪の奴に覆い被さるようにして倒れる。
流石にそのままにしておく訳にもいかないから、桃髪が脱ぎ捨てたマントを毛布代わりに彼女に掛けてやった。
「……ルイズ? おい、ルイズ大丈夫か!?」
「大声を出すな。また目が覚めて襲われてもいいのか」
「それは……そうだけどよぉ。他にやり方は無かったのかよ」
「助けを求めておいてやり方にケチをつける気か。大体、他に言う事があるだろ」
「……あ」
「あ、じゃねぇだろ。……ったく、こんなんだったら助けるんじゃなかった」
「いやいや、本当に感謝してるって! ルイズを止めてくれてありがとうな。お陰で助かったよ」
黒髪は慌てた様子で感謝の言葉を口にするが、あんまり感謝の気持ちが伝わってこない。
これなら助けないで見捨てちまった方が良かった様な気もするが、あのまま放っておいたら奪われかねなかったし、今回だけは良しとしてやるか。
《……人が良いのだな、お前は。見返りも求めずにその人間を助けるとは》
「別にそんなんじゃねぇよ。この桃髪が姉貴にダブって見えて鬱陶しかっただけだ」
《では、そう言う事にしておこう》
湖の精霊の野次を聞き流していると、空で待機していたヒルダが地上へと降りてくる。
勝手な行動をしてティファニアの奴が怒っているかと思いきや、今回はそう言う事も無く少しだけ心配しているような感じだった。
「レイジ、足は大丈夫? 結構な高さから飛び降りたけど」
「あの位ならなんて事はない」
「そっか、良かった。……ところでレイジって、その、ルイズさん見たいな子が好みなの?」
「あ? なんでそうなる」
「だってルイズさんの肌を見ちゃったし……。好みのタイプなのかなって」
少しだけ不貞腐れている様な、そんな態度をとりながらティファニアは随分とおかしな事を聞いてくる。
一体何を如何見たらそう判断できるのか謎だが、少なくともあの桃髪は俺の好みじゃねぇな。
「何を勘違いしてるのかしらねぇが、アイツは俺の好みじゃねぇよ」
「なら、レイジってどんな子がタイプなの?」
「別になんだっていいだろ。そんな事気にすんな」
「気になる。いい機会だし、教えてよ」
「お前には関係のない事だし、今はそんな話をしている場合じゃねぇだろ」
「……関係、あるもん」
「あ? 何がどう関係あるってんだよ」
「もういい! レイジの馬鹿」
「……訳のわかんねぇ奴だ」
ティファニアは完全に不貞腐れてしまったが、一体何が原因で不貞腐れたのかが分からん。
俺の好みなんて今は如何だっていい話だろうし、特にティファニアの機嫌を損ねる様な事は言っていないと思うんだが、周りからは俺を責めるような視線を向けられている。
何で俺が責められなくちゃいけないのか甚だ疑問だが、分からない悩みを延々と悩み続けていても仕方がない。
本当は余り関わりたくは無いんだが、黒髪たちが何故此処に来たのか理由を問い質すとするか。……くだらない理由だったらさっさとアルビオンに向かおう。
「それで黒髪、お前ら一体何しに此処に来たんだ。お前は兎も角、そっちの子は学生だろ。勉強は如何した」
「いや、今は長期休暇で学校は休みらしいんだ。だからサボリじゃない」
「それなら何しに来たの? 観光?」
「あ~……いや、ルイズを治すのに薬が必要で、その材料の精霊の涙ってのを採りに来たんだ」
「え、ルイズさん病気……には見えないよね。物凄く元気だったし」
「そうだな。黒髪を押し倒せるくらいには元気だったな」
「いや、俺を押し倒すってのが問題なんだよ」
「訳が分からん、ちゃんと説明しろ」
「……少し長くなるぞ」
若干うんざりしながらも、黒髪の奴は桃髪を草原に寝かせつつ、此処に来るに至った経緯を話してくれた。
話してはくれたが、内容だけ聞けば物凄くあきれ返ってしまうような内容だった。
ま、要約すると、さっきキザ男を連れて行った金髪の少女が作ったホレ薬を、桃髪が誤って飲んでしまったってだけの話だ。
金髪の少女が何故ホレ薬を作ったのかと言うと、キザ男の心を自分だけに向けさせようとしたんだとか。
一応あの二人は付き合っているらしいが、ナンパを繰り返すキザ男に我慢の限界が来たんだろう。
まぁホレ薬を使ってまで自分の物にしようとする位なら、別れてしまった方が良い様な気もするんだが……女心ってのは良く分からん。
親父の奴も言っていたが、女ってのは本当に複雑怪奇な生き物だな。
「まぁそんな訳で、ホレ薬を飲んでこうなってしまったルイズを元に戻すために、俺達はこのラグドリアン湖にやって来たって訳だ」
「そいつはまたご苦労なこって。でも、薬の効果でそうなってるなら、放っておけば治るんじゃないのか? その手の薬ってのはずっと効き続ける様にはできない筈だ」
「モンモンの奴も似た様な事を言ってたけど、薬が何時切れるか分からないってさ……。下手すれば一年間はこのままなんて事も……」
「それは鬱陶しいな。昼夜問わずに迫ってくるのはマジで鬱陶しい」
「お前、俺の気持ちが分かってくれるのか!?」
「正直あんまり分かりたくは無いが、故郷にいる時は俺もそんな状況だったからな」
黒髪の話を聞いて思わず故郷に居る姉気の事を思い出してしまった。
今のコイツの状況と、故郷にいた時の俺の状況ってのは幾つかに通っているモノがある。違いがあるとすれば、薬で治せるか治せないかって位なもんか。
改めて姉の酷さを痛感してしまい、溜息を零していると、何故か黒髪の奴は涙ぐみ始めた。
「くぅ……。まさかこんな所で俺の気持ちを分かってくれる奴に出会えるなんて。周りの奴は他人事だと思って誰も分かってくれなくてさ」
「あぁお前も大変だったんだな。とりあえず泣くな、鬱陶しい」
「そこは慰めてくれてもいいだろ!」
「いや、レイジだからそれは無理だよ」
「……本当に口の悪い奴だな。ティファニア…だっけ? 君は良くこんなのと一緒に旅が出来るね」
「あ、あははは……。まぁ私にも色々とあるから」
「色々って?」
「それは……秘密、かな」
「えーなんだよそれ、教えてくれたっていいじゃねぇか」
「駄目なものは駄目なの。それに今はそんな事を話している場合じゃないでしょ」
「ま、それもそうか。でも俺、精霊の涙ってのがどんなものか知らないんだよな。何処にあるんだ?」
「〝精霊〟の涙って言うくらいだ、直接精霊に聞くのが手っ取り早いだろ。……で、実際のところ如何なんだ、湖の精霊」
脱線しかけた話を半ば強引に戻し、この湖に住んでいる精霊に話を聞いてみる。
ま、精霊の涙って言うくらいだから精霊に関する物なのは分かるが、この世界の精霊って涙を流せるのか?
《……その人間が探している物が何であるかを私は知っている。そしてそれが何処にあるのかも》
「本当か! それなら精霊の涙が何処に有るのか教えてくれ! 俺が今すぐ採ってくるから」
《教える必要はない。何故なら、お前の捜しているモノはお前の直ぐ傍にあるからだ》
「……へっ?」
《人間達が言う〝精霊の涙〟と言うのは私の身体の一部の事だ。探す必要すらない》
「そ、そうだったのか……。知らなかったとは言え、悪い事を言っちまった。すまん。でも、ルイズを治すにはどうしても必要なんだ。だから頼む、俺にアンタの身体の一部を分けてくれ!」
黒髪は精霊に向かって頭を下げ、身体の一部を分けて欲しいと懇願する。
湖の精霊は自身の身体の一部と言うが、恐らく正確には精霊の力が通った水ってのが正しいんだろう。
サイフィスを初めとする精霊ってのは本来は霊体の筈だ。だから〝精霊の身体の一部〟って表現はどうも違和感を感じてしまうな。
ま、黒髪にとって精霊の涙が何であろうとも気にはしないだろう。今のアイツの目的は桃髪を元に戻すって事だろうからな。
「俺はルイズを元に戻したいんだ。だから頼む!」
《……悪いが断る。何故、私がお前達人間の力に為らねばならんのだ》
必死の思いで精霊に懇願する黒髪だが、精霊からの返事はとても冷たいものだった。
「そんな……どうしても駄目なのか?」
《嗚呼。お前に私の一部を渡す理由がないからな》
「そこをなんとか! 俺、アンタの頼みならなんだって聞くから、だから頼む!」
《頼みなら既に混血のに……いや、待て。そういえばもう一つ私を悩ませている問題があったか》
引き下がらずに必死に懇願し続けたのが功をそうしたのか、それとも単純に精霊が忘れていただけなのかは分からないが、どうやら事態が好転しそうな雰囲気だ。
「悩み? それってどんな悩みなんだ?」
《此処最近、夜に為ると私を倒そうと二人組みのメイジが攻撃してくる。それが悩みだ》
「それって単純にお前が湖の水かさを上げたのが原因だろ。水位を上げて町一つ水没させちまうから元凶を何とかしようとしてるんじゃないのか」
《私は指輪を取り戻したいだけだ。あの指輪を取り戻せるなら世界を水の底に沈めてもかまわない》
「……ここまで来るともはや執着だな。呆れて何もいえねぇ」
《お前にも有るだろ。無くしたくない物や如何しても譲れないものが。私に取って指輪がそうなんだ》
「……………」
精霊の言っている事が分からない訳じゃない。俺にだって譲れない物ってのはある。
それを守るためなら何だって出来るような気はするが、世界一つを犠牲にしてでもと言われると……流石に即答は出来ないな。……親父の奴だったら即答できちまうんだろうけど。
「なんの話か分からないけど、その二人組みのメイジをなんとか出来たら精霊の涙を分けてくれるか?」
《……良いだろう。お前如きに出来るとは思えないが、もし退治できたらその時は我が一部をやろう》
「おっし! 約束だぞ、水の精霊!」
《私は人間と違って約束を違えたりはしない。……では、奴等を退治できた時にまた会おう。サラバだ》
そう言って湖の精霊はラグドリアン湖の中に姿を消した。
精霊の涙をダシに厄介事を押し付けられただけな気もするが、今回の件に関しては俺達は関係はない。黒髪の奴が勝手に何とかするだろう。
桃髪の奴が豹変してしまった理由も聞けたし、今度こそアルビオンに向けて出発しよう。そう思い、黒髪に背を向けてヒルダの元へと向かおうとするが、服の裾を誰かに引っ張られてしまい足を止めてしまう。
「……おい、離せ」
「い~や、離さない。てか、おまえ等は何処に行こうとしてるんだよ」
「俺達は俺達でやらなくちゃならない事があるんだ。お前に構ってる暇はねぇ」
「そんな冷たい事を言わないで手を貸してくれたって良いだろ。俺達、同じ苦労を知る仲間だろ」
「だからってなんで俺がテメェの力に為ってやらなくちゃいけないんだ。その位自分でなんとかしろ」
「メイジ二人を相手に俺独りで勝てるわけ無いだろ!」
「んなもん俺が知るか!!」
決して手を離そうとしない黒髪に俺は怒声を上げるが、それでも黒髪は怯む事はなかった。
あまりにも鬱陶しいから、その腕を切り落としてしまおうかと考え始めたとき、ティファニアが俺の肩を叩いてきた。
「レイジ、今回は彼に手を貸してあげて。流石にこのまま放っておくのは可哀相だよ」
「ティファニア、お前も何を言い出すんだ」
「だってルイズさん、あのままだと本当に間違いを犯しそうだし、止められるなら止めた方がいいと思うの」
「俺達には全くと言って良いほど関係の無い話でもか?」
「私達に関係の無い話でもだよ。それにレイジだってサイトさんの立場だったら、周りの誰かに助けを求めるでしょ?」
「うっ」
「サイトさんの気持ちが分かるなら、ここは助けてあげるべきじゃない?」
「………………おい、黒髪。この貸しは高くつくからな、覚えておけよ」
「お、おう。……って事は、俺に手を貸してくれるんだな!? うおっしゃ!」
大いに喜んでいる黒髪の横で、俺は盛大に溜息を吐き出した。
正直こんな所で道草なんか食ってる場合じゃないと思うんだが、ティファニアを言い負かせられなかったのが俺の敗因か。
こんな事を手伝ったって俺には何の得も無いってのになぁ……。あ~面倒臭い。
よ~し、今回は一週間も間を置かずに更新する事が出来た。
モンハン4Gの古文書も十冊目の解析が終わったし、今後も更新できそうな時に更新していこう。