虚無のエルフと神殺しの竜   作:ベヘモス

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今回の話は全編サイト視点になります。普段の零児やティファニアの視点ではないですし、サイトの口調が違うかもしれませんので注意してください。



第二十六話 メイジ捕獲作戦

ルイズを元に戻すため、水の精霊から精霊の涙を分けて貰うために、俺達は精霊を狙うメイジと戦う事に為った。

何処かに行こうとした零児たちを何とか引きとめ、森から戻ってきたギーシュとモンモンに事情を説明する。

メイジと戦うなんて学院でギーシュと戦った時以来だけど、今回戦うのは俺だけじゃないし、多分なんとかなるだろうって思っていたんだが、二人からはなんて「無茶な事を」と呆れられちまった。

精霊を狙うって事は、相手はドットやラインクラスのメイジではなく、最低でもトライアングルクラスのメイジだって二人は言っている。

推定トライアングルのメイジに俺達だけで勝てるのか不安ではあるが、人数だけなら俺達の方が有利だ。

なんせコッチにはメイジが三人いるだけじゃなく、ドラゴンもいるからな。俺と零児が前に出て相手の隙を作れば、後は三人が何とかしてくれるだろう……って思っていたんだが、考えが甘かった。

 

「えっと……ごめんなさい。私は戦闘に参加するのは無理です」

「なんで!? ロングビルさんの妹って事はティファニアもメイジなんだろ!?」

「確かに魔法は使えますけど、数日前に大きな魔法を使ったばかりでまだ精神力が回復してなくて」

「そうなのか? ……ゲームなら宿に泊まれば直ぐに回復するのに」

「げーむ? サイトさんが何を言ってるのか分からないけど、とにかく今の私は戦えません」

 

そう言われて、俺達はティファニアにきっぱりと断られてしまった。

彼女の魔法を当てにしたかったが、精神力が回復していないのなら仕方が無いって事で大人しく引き下がるしかないと、ギーシュの奴にまで言われてしまった。

ならせめて、彼女の使い魔である赤いドラゴンの力を貸して欲しいって頼んでみるが、それもやんわりと断られてしまう。

ティファニアは一応説得を試みてくれたが、そっぽを向かれてしまい、あえなく失敗する。

メイジ一人とドラゴンの力を借りられなかったのは痛手だが、それを嘆いていても仕方がないって事で頭を切り替えて、ギーシュたちと作戦を練る事に。

目を覚ましたルイズに邪魔をされながらも、三人で色々と話し合いをした結果、茂みの中からギーシュとモンモンがメイジを足止めし、相手の動きが止まった所を俺と零児が捕まえに行くって作戦になった。

こんな作戦で上手くいくか不安だが、推定トライアングルのメイジに正面から戦いを挑むのは愚作だと、ギーシュが言うもんだからこの作戦で行く事に為った。

なんとか作戦もまとまり、あとは相手が来るのを待つだけと為った。

刻一刻と時間が過ぎていき、気がつけば日は沈み、辺りはすっかり夜の闇に包まれていた。

何時メイジが来る分からないため、俺達の間に緊張が走るが……そんな中でも平然と寝ている奴が二人も居た。

一人は俺のご主人様のルイズで、もう一人は零児の奴だった。

相手が何時来るかも分からないってのに、零児の奴は木にもたれ掛かって眠っちまってる。

ルイズが寝ていてくれるのは寧ろありがたいんだが、コイツは寝ていちゃ駄目だろ。

旅の仲間のティファニアもちゃんと起きているってのに、暢気に寝やがって……。零児にとっては如何でも良い事でも、俺にとっては大事な事なんだから確りしてくれよな。

 

「やれやれ、すっかり寝てしまっているね。何時メイジが来てもおかしくないと言うのに、この平民と来たら……」

「あ、あははは……。でも、私はレイジらしいなって思う。緊張してるレイジって想像できないし」

「だからって寝るのは勘弁してもらいたいけどな。よくティファニアはコイツと旅が出来るな」

「えっ?」

「だって、零児って滅茶苦茶口が悪いだろ。そんな奴と一緒に旅をしてて辛くないのか?」

 

思わず口に出してしまった素朴な疑問。こんな時に聞くような事じゃないんだろうけど、俺も緊張を解したかったのかもしれない。

それに聞いてみたかったのは事実だしな。あんなに口の悪い零児と四六時中ずっと一緒ってのは、俺には耐えられそうに無いから。アレならまだルイズの世話をしている方が……マシ、だよな。多分。

 

「……そうだね、辛くないって言ったら嘘になるね。レイジの口の悪さは直りそうにないし、割と強引な所もあるし、無茶ばかりするくせに傷とか直ぐに放っておくし、何時も私が泣かされてる」

「うっわ、最低。そんな男なら別れた方がいいんじゃない?」

「浮気を繰り返す人よりはずっとマシだよ。……でも、そう言う人だから放っておけないんだよ」

「放っておけない?」

「うん。レイジは平気な顔で無茶するくせに怪我とか放っておく人だから、一人にしておくと何処かで倒れてしまいそうな気がして、放っておけないんだ」

「相手は平民なのにそこまで心配してあげるとは、君って女性は優しいんだね」

「平民とか貴族とか、そう言うのは私には関係ないよ。それにレイジは私を外に連れ出してくれた人だから」

「……………」

「私一人じゃ何処にも行けないし、何も出来ないって思ってけど、レイジと出逢って、レイジが手を差し出してくれたお陰で、何処へだって行けるし、何か出来る様な気がした。レイジと一緒に旅を始めてからは、知らない町や見た事の無い景色を見る事が出来て、驚く事が多いけどそれが凄く楽しいの。だから彼と旅は辛い事も有るけど、楽しくもあるんだ」

 

そう言って笑うティファニアの笑顔は本当に楽しそうにしていた。

作り笑いを浮かべているんじゃなく、本当にそう思っているから彼女は笑っていられるんだ。

そう思うと零児の奴が物凄く羨ましくなってくる。こんなにも美人でスタイルの良い子にここまで慕われているなんて、なんて羨ましいやつなんだ!

うちのご主人ももう少し優しいか、スタイルが良かったらいいのに……現実はあぁだからな。

余りの羨ましさに思わず溜息を吐いていると、今まで眠っていた零児が目を覚ました。

零児は眠っていた事に対して何も言わず、茂みに近付いて身を隠すようにしながら湖の方を睨みつける。

 

「やっと起きたのかい、平民君。メイジが来る前に起きてくれて良かったけど、もう少し緊張感を持ってくれないと困る―――」

「五月蝿い、少し黙れキザ男。……敵が来たようだぞ」

 

ギーシュを一喝しながら零児がそう言うから、俺達も慌てて湖の方に眼を向けると、確かにフードを被った二人組みが湖に近付いていた。

フードで被っていて顔は見えないけど、凸凹コンビって言うのがピッタリ嵌まりそうな二人組みで、一人の身長は高いのに、もう一人の方はルイズよりも背が低い様に見える。

フードの二人組みは杖を取り出して湖の方に向けているが、小さい方が持っている杖、何処かで見た事がある様な気がする。

漫画や絵本なんかに出てきそうな魔法使いが持っている様な大きな杖。

割と最近あの杖を見た様な気がするんだが……何処で見たんだったか思い出せないな。

 

「つ、ついに来たようだね。み、皆作戦はちゃんと覚えているだろうね」

「お前と金ドリルが魔法でアイツ等の足を止め、動きが止まった所を俺達が捕らえるんだろ。なら、この作戦の肝はお前達だ。しっかりやれ」

「き、君に言われなくても分かっているさ。……さぁモンモランシー、僕達の魔法を見せてあげよう」

「え、えぇ!」

 

零児に発破を掛けられた二人は、自分の杖を取り出して、杖の先をフードの二人に向けて魔法を使う。

ギーシュたちが魔法を発動させると、湖の水や地面の土が盛り上がり、フードの二人へと襲い掛かる。

タイミング的にはパッチリだし、このまま行けば簡単に取り押さえる事が出来る。……そう思っていたんだけど、そう上手くは行かないようだ。

相手の二人組みは周囲の土と水が襲い掛かってくるのを見ると、すぐに背中合わせになり、火と風の魔法を使って襲い掛かってくる土と水を撃退する。

襲い掛かってくる土の塊を風で吹き飛ばし、湖から伸びる水を火で蒸発させた。

それを見たギーシュとモンモンは、繰り出す土と水の量を増やしてみるけど、数を増やしても結果は変わらず、二人の魔法は呆気なく打ち払われる。

 

「ぼ、僕達の魔法がこうも簡単に……」

「どうするよ、ギーシュ。このまま作戦を続行するか?」

「うむ……。こうなったらサイト達に無理やりにでも捕まえてもらうか」

「マジかよ……。幾らなんでも冗談きついぜ」

「だが、現に彼等の動きは止まっているんだ。僕とモンモランシーの魔法で援護するから、それでなんとか―――」

 

ギーシュと次の行動を如何するか話し合っていたら、その話し声が聞こえてしまったのか、背の低いほうのメイジがこっちに杖を向けてくる。

何の魔法が飛んで来るのか分からないが、このまま此処にいたら不味い。

そう思った俺は眠っているルイズを抱きかかえて、急いでこの場から離れようとするが、零児は俺とは逆に茂みを飛び出してメイジへと向かっていった。

 

「何をしているんだ、君は! 無策で行ってもやられるだけだぞ!」

 

ギーシュは零児を止めようと声を荒げるが、零児は止まる事無く真っ直ぐメイジへと向かっていく。

相手のメイジも杖の先を零児に向けるが、当の本人は何を考えているのか、零児は走りながら何かを斬るように剣を抜いた。

アイツが一体何をしているのか、俺には理解出来なかったが、零児が剣を振り抜いて直ぐに木に見えない何かがぶつかり、木の幹を陥没させる。

幹を陥没させた原因が何なのかは分からないが、相手のメイジが放った魔法でこうなったんだって事は何となく分かる。

でも、相手のメイジが杖を向けていたのは零児な訳であって、二本の木に向けて魔法を放った訳じゃない。……だとすると、零児の奴が相手の魔法を切り裂いて、流れ弾が木に当たったってのか?

一連の動きを見て何となくそう思ってしまったけど、零児は俺達の事など気にも留めずに剣を抜いたまま二人組みのメイジへと向かっていく。

距離を十分に詰めた零児は、剣を振り上げて背の低いほうに斬りかかろうとするが、振り上げた剣を振り下ろす事はせず、何故か後ろに跳び引いてしまう。

一体何をしているんだ。思わずそう言ってしまいそうに為ったとき、直前まで零児が剣を振り上げていた所に炎が放たれた。

もし零児があのまま居たら、間違いなく零児は炎に飲み込まれていた。

 

「…ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」

 

風に乗って聞こえてきた呪文。その呪文が唱えられると、空中に何十にも及ぶ氷の矢が作られていた。

背の低いほうのメイジが零児に向けて杖を振り下ろすと、空中に浮んでいた何十もの氷の矢が零児へと放たれる。

放たれた矢はかなり速く、幾らなんでもアレは避けれない。そう思ってしまったけど、零児の奴は氷の矢から避ける様な事もせず、剣を構え直す。

一体何を考えているのか俺には理解出来なかったが、あろうことか零児の奴は迫り来る氷の矢を握った剣で次々と切り裂いていく。

何十もある氷の矢を切り裂き、その場から一歩も動く事無く全ての氷の矢を捌ききって見せた。

零児の足元には砕け散った氷が無数に散らばっているが、零児本人はかすり傷一つ負っておらず無傷。

その事にも度肝を抜かされるが、何十もの氷の矢を捌いておきながら息一つ乱していない。

まるでこの位の事は出来て当然と言いたげな背中だが、今までどんな生活を送っていたらあんな事が出来るんだよ。

 

「……薄い弾幕だな。この程度じゃ俺はやれねぇぞ」

「………………」

「お前らが何の為に水の精霊を倒そうとしているのか察してはいるが、こっちもあんた等を倒すように精霊から頼まれているんだ。大人しく捕まってくれねぇか」

「それは出来ない。ラグドリアン湖の水の増水を止める、それがわたしの任務だから」

 

零児が言った無茶な提案を、背の低いほうのメイジはきっぱりと拒否する。

あんな提案に乗る奴なんて普通はいないけど、背の低いほうのメイジの声、何処かで聞いた事があるような、無い様な……。

 

「任務…か。なるほど、確かにそれじゃ退く事はできないな」

「分かったのなら邪魔をしないで。あまり力を消耗したくない」

「……精霊と戦わなくても増水を止められるって言ってもか」

「その言葉をわたしが信用すると思っているの」

「いや、全然。……やれやれ、面倒だがやっぱり力尽くでいくしかないか」

「剣士である貴方がメイジのワタシ達を倒せるとでも思っているのかしら?」

「油断しないで。彼は傭兵をやっている剣士たちとは違う」

 

そう言いながら背の低いメイジは顔を隠していたフードを取り払い、素顔を俺達に見せた。

月明かりの下で顕わになったその素顔に、俺とギーシュとモンモンの三人は驚きの余り目を丸くしてしまう。

 

「あら、顔を見せちゃって良いの? きっと何処かに彼の仲間が居るわよ」

「フードを被ってると彼の動きが見えない。ちゃんと視界を確保しないとやられる」

「成る程ね。そう言う事ならワタシも取ろうかしら。正直コレ、熱くて嫌だったのよね」

 

そう言いながら背の高いほうのメイジもフードを取り、素顔を見せる。

背の高いほうのメイジも俺達には良く見知った顔で、彼女も一緒だったのかと思わず動揺してしまう。

月明かりの下で判明した二人のメイジの正体、それは同じ学院に通い、ルイズのクラスメイトでもあるキュルケとタバサだった。

なんであの二人がラグドリアン湖にいるのかは分からないが、今は零児の奴を止めないと不味い。

そう思って、茂みから顔を出して零児に声を掛けようとしたが、俺が声を出すよりも先に零児の奴が二人に斬りかかりに行きやがった。

離れていた距離を直ぐに詰めた零児だったが、二人はフライの魔法で空を飛んで、零児の攻撃を難なく回避する。

零児の頭上を跳び越し、再びアイツから距離を取った二人だが、零児も即座に反転してもう一度二人へと向かって斬りかかろうとする。

さっきよりもずっと速く距離を詰めようとする零児。その余りの速さに二人が回避する余裕はなさそうだ。

それに何よりも二人を斬ろうとする零児の眼を見てしまった瞬間、俺は背中に背負っていたデルフとキュルケに貰った剣を抜いて、二人の前に飛び出していた。

自分でもなんてこんな事をしてしまったのか分からないけど、友達二人が目の前で斬られそうに為っているのを黙って見ているなんて出来るか。

 

「な、ダーリン?!」

 

突然の俺の登場にキュルケが驚きの声を挙げるけど、今はそんな事無視しておく。

二人を斬ろうとする零児を止めるために、二つの剣を交差させて零児の剣を受け止めようとする……が、俺じゃ受け止める事が出来なかった。

繰り出された零児の剣を受け止める事ができず、俺は呆気なく押し飛ばされ、キュルケから貰った剣は真ん中から折れちまった。

貰い物だし、気に入っていた剣だから大事にしたいって思っていたんだけど、まさかこんなに簡単に折れちまうだなんて思ってなかったな。キュルケになんて言えばいいんだ。

零児に一言二言文句を言うため立ち上がろうとするが、滅茶苦茶背中が痛い。

押し飛ばされた時に背中を強く打ったのか、もうちょっとだけこのまま横になっていたい気分だ。

 

「あんまり無茶するな、相棒。そのまま横になっとけ」

「あ、デルフは無事だったのか。良かった」

「へっ。オレをそこ等のナマクラと一緒にするな。オレは六千年を生きる伝説の魔剣だ、他の剣とは出来が違うのよ、出来が」

「……その割には見た目錆びだらけのボロじゃねぇか」

「それを言うなよ、相棒……」

 

俺の突っ込みに本気で凹むデルフを他所に、キュルケやギーシュたちが俺達の下に集って来た。

 

「大丈夫かい、サイト。全く君も無茶をするね」

「本当よ。私たちの前に出るなんて、一歩間違えてたら死んでたわよ」

「ホントにな。俺も良く生きてるなって思うよ」

 

笑いながらそう言って誤魔化すが、今になって心臓がバクバク言い始めた。

その心臓の鼓動が今自分は生きているんだと実感させてくれるが、一つ間違えれば死んでいたという事実が背筋に冷たいものを感じさせる。

もし、デルフが見た目通りのボロだったら、二つとも斬られて俺も斬り殺されていたんだろうか。

幾らなんでも人殺しはしない……と思いたいが、零児が二人に斬りかかろうとしていた時の目を思い出すと、絶対にソレは無いって言い切れない。

どうしてティファニアはこんな奴を一緒に居られるのか、俺には益々理解できそうに無いな。

そんな事を思っていると、俺を吹っ飛ばした当人が呆れた様子で近付いてきた。

 

「……お前、一体何を考えてるんだ。あのままその二人の杖を斬れば捕まえられただろ」

「キュルケとタバサは俺の友達だ。友達がやられそうに為ってるのを黙ってみてられるか」

「友の為にねぇ……。そう言う気持ちは分からないでもないが、俺の前に立つな。現世斬は急には止まれないんだから」

「そんな事俺が知るわけ無いだろ。お前は何も話さないんだからさ」

「ま、それもそうだな。……ところで、そこの凸凹コンビは如何するんだ。まだ精霊を狙うって言うなら相手に為るぞ」

 

そう言いながら零児はキュルケとタバサを睨みつけ、抜いたままの剣を握り締める。

俺は二人を守る為にデルフを握り締めて、立ち上がろうとするけど背中がまだ痛む。

背中の痛みを堪えながらなんとか立ち上がろうとすると、タバサは自分の杖を地面に放り投げた。

 

「……なんの真似だそりゃ」

「降参。貴方と戦って負けるつもりはないけど、また貴方と戦うと言う事は彼の気持ちを無碍にする事になる。それは出来ないから降参。……それに貴方は水の増水を止められると言っていた。それが本当なら彼の気持ちを無碍にする事無く、私の任務を果たすことが出来る」

「確かにタバサの言う通りね。またダーリンに無茶はさせたくないし、ワタシも降参するわ」

 

そう言ってキュルケも自分の杖を地面に放り投げ、これ以上戦う気はないと宣言する。

ソレを見た零児は少しの間二人の様子を観察したあと、自分の剣を鞘に納めてくれた。

 

「……これで精霊の頼まれ事の一つが完了か。後は盗られた物を取り返しに行かないと」

「盗られた物ってなに?」

「精霊にとって大事な物らしい。それを人間に盗られたから水を増水させて取り戻そうとしたらしい」

「え、それってつまり、自分の活動範囲を広げようとしてたってこと?」

「いや、世界を水で沈めるつもりだったらしい。全く発想がすげぇよ」

 

零児は呆れた様子でそういうけど、俺はそのぶっ飛んだ発想にドン引きする。

世界を水で沈めるつもりだったって、それかなり危険な発想だろ。そうまでして取り戻したいものが何なのか知らないけど、タバサたちと協力して倒した方がいいんじゃないのか? ……いや、それだと精霊の涙がもらえないから駄目か。

 

「精霊のやろうとしている事は分かった。だけど、それなら益々見過ごせない」

「ま、普通そうだろうが、そんなに気張るな。アイツが盗られた物は俺達が取り戻す」

「……貴方に出来るの?」

「出来なくてもやる。俺達にも色々と事情があるんでな、他に奴に任せる訳にはいかないんだ」

「そう。だったらそれは貴方に任せる。でも、私としては今すぐにでも水の水位を戻したい」

「それはアイツに直接頼んでくれ。アイツが俺達の事を信用してくれているなら、二つ返事で戻してくれるとは思うが」

「分かった、掛け合ってみる」

「頑張ってくれ。……それじゃ、俺達はそろそろ行くかな」

 

タバサとの話を終えた零児は、俺達に背を向けて何処かへと行こうとする。

 

「え、もう行っちまうのか? 精霊の涙を分けてくれるよう頼んで欲しかったんだが……」

「そんくらい自分でやれ。てか、今回の件は元々お前が頼まれたモノだろうが」

「いや、零児は水の精霊と仲が良いみたいだから、お前が居てくれると話がスムーズに進むと思って」

「それはお前の都合だろう。俺には俺の都合があるんだ、何時までもお前に関わってられるか」

「ちぇー、つれない奴」

「なんとでも言え。……ティファニア、ヒルダ。もう行くぞ」

「それは良いんだけど……ルイズさん、まだ起きないみたいだよ」

 

ティファニアにそう言われて、茂みの中を覗いた零児は心底呆れた様な溜息を吐く。

気になった俺も立ち上がって茂みの中を覗いてみると、確かにルイズの奴はまだ眠っていた。

アレだけの騒ぎがあったのに熟睡しているとか、コイツの神経ってよほど図太いんだろうな。

 

「……はぁ、そいつの事はほっとけ。そう言うのは黒髪に任せておけばいいんだよ」

「それもそうだね。それじゃサイトさん、あとの事はお願いね」

「いや、俺に頼まれても困るんだが……他に世話が焼ける奴いないよな」

 

俺と零児以外、全員が貴族であるこの状況に俺は思わず肩を落としてしまう。

ギーシュたちが手を貸してくれるとは思えないし、俺が頑張るしかないんだよな。

まぁ後少しで薬の材料が手に入るし、そうなればルイズも元に戻るはず……だけど、元に戻ったら元に戻ったでまた扱き使われる日々なのか……。

 

「……なぁ零児、もう少しだけ手を貸してくれないかっていねぇ!?」

「あの二人ならもう旅立っちゃったわよ」

「嘘だろ!?」

 

モンモンに言われて、俺は慌てて夜空を見上げてみると、確かに赤いドラゴンが飛び立つのが見えた。

幾らなんでも早過ぎるだろって空に向かって言いたくなったが、此処で大声を出したらルイズが目を醒ましちまう。

水の精霊から精霊の涙を分けて貰うまでは寝ていて欲しいし、此処はグッと我慢する事にしよう。

別れ際に何か一言くらい声を掛けて欲しかったが、アイツが俺に冷たいのは今に始まった事じゃないし、そんな事を言っても仕方がないか。

……でも、ドラゴンに乗って移動してるって事は、零児の奴ティファニアに抱き着かれてるって事だよな。あの胸を背中越しに感じているのか、なんて羨ましいんだ、零児の奴!

 

「いや~……今回は丸く収まってくれて助かったぜ。今の相棒じゃ兄ちゃんと戦って勝てるか分からねぇからな」

「なんだよデルフ。俺じゃ零児に勝てないって言うのか」

「素の状態の相棒じゃかなり難しいだろうな。兄ちゃんの剣を受けたとき、断片的だったが相手の力量が分かった。……ありゃ只者じゃねぇ」

「……アイツそんなに強いのか」

「相棒があの兄ちゃんに勝つには、ルーンの力に頼ってるだけじゃ駄目だ。心身ともに鍛えないと届かないだろうぜ」

「そんなにかよ。本当に何者なんだ、アイツ」

「オレには分からねぇが、ガキの頃から剣一筋で生きてきたんだろうな。そうでなきゃああはならねぇ」

「剣一筋で生きてきた、か……。道場主の息子か何かか、アイツ」

「さぁな。ま、あの兄ちゃんに勝ちたかったら毎日素振りでもするこったな」

「素振りねぇ……。そんな事で勝てるようになるのか?」

「そいつは分からねぇが、何もしなかったら一生この差は埋まらないぜ」

「……それもそうだな」

 

イマイチ真面目に特訓をしようって気にはなれないけど、折られた剣の借りを返したいし、少し考えてみるかな。




次回の更新についてですが、ちょっと他に書きたい事が有るので遅れると思います。
新しい連載を書き始めるって訳じゃないですが、あまり先延ばしにすると俺が落ち着かないので。……え、一体何を書くのかだって? 他の方とのコラボ短編小説です。
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