虚無のエルフと神殺しの竜   作:ベヘモス

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約一ヶ月ぶりの投稿です。本当はコラボを全部終わらせてから本編の更新を再開するつもりだったんだけど、上手くは行かないもんだね。
これ以上止まっている訳にも行かないので、ぼちぼち連載を再開していきます。
再開一発目と言う事もあって、今回は普段よりも短めです。


第二十七話 黒い飛竜再び

「兄様、浮遊大陸が見えてきたよ」

「やっとか。ずっと飛んでいたから肩が凝ってきた」

「飛んでいるのはわたしで、兄様たちはわたしの背に乗っていただけじゃない」

「乗ったままジッとしているのも疲れるもんなんだよ」

「そう言うものなの?」

「そう言うもんだ」

 

ラグドリアン湖で出逢った精霊に頼まれて、俺達はティファニアの故郷である浮遊大陸へと戻ってきた。

ティファニアと旅を始めて約一ヶ月。まさかこんなにも早く戻ってくる事になるとは思いもしなかったな。

俺はあの大陸に何の思い出も無いから感慨なんて湧かないが、ティファニアには色々と思うところがあるだろう。

そう思って後ろを振り返ってみるが、ティファニアの奴は俺の背中にもたれ掛かったまま、小さな寝息を立てている。

予定外の出来事があった所為で、出発が夜中になっちまったから、ティファニアが寝てしまうのも仕方が無いか。

地面で寝るのと違ってヒルダの背で夜を明かす場合、何かにもたれ掛からなきゃ落ちそうに為るし、俺の背にもたれ掛かるのも気にしないが……口から垂れている涎が俺の服につかないか不安だな。

 

「おい、ティファニア起きろ。もう浮遊大陸に着くぞ」

「……ふぇ? ……あ、レイジおはよう」

「おはよう。もうすぐ大陸に着くからシャキッとしろ。口元から涎が垂れてるぞ」

「え、嘘?!」

「本当だ。空を飛んでるから顔は洗えないが、せめて涎だけは拭っとけ」

 

そう言って俺はズボンのポケットからハンカチを取り出し、それをティファニアに差し出す。

ティファニアは恥ずかしそうにしながらハンカチを受け取り、自分の口元を受け取ったハンカチで拭う。

 

「こ、これは後で洗って返すね」

「あぁ」

「それにしてもティファニアはいいご身分ね。わたしと兄様はずっと起きていたのに」

 

ティファニアが一人だけ眠っていた事に対して思うところがあるのか、ヒルダは不満そうな声を上げる。

ヒルダは夜の間ずっと飛んでいたからな。この中で一番疲れているのは彼女で間違いないだろう。

それなのにティファニアは俺の背中で眠っていたわけだし、ヒルダが不満に思うのも当然か。

 

「え、そうだったの?」

「まぁな。態々夜中に飛んでくれるヒルダを差し置いて眠るのも気が引けたし、俺が起きて支えてないとティファニアは落ちそうだったからな。サイフィスは精霊だから寝る必要すらない」

「そうだったんだ。ゴメンね、私一人だけ寝むちゃって」

「最初からティファニアがずっと起きていられるとは思ってないから気にしてねぇよ。仮眠も取ってないみたいだったしな」

「あ、もしかしてあの時レイジが眠っていたのって仮眠をとる為だったの?」

「それもあるが、緊張を解すってのもある。緊張感が無いのも問題だが、緊張しすぎていざって時に動けないようじゃ困るからな」

「へぇ~そうなんだ」

 

ちゃんと分かっているのかイマイチ判断し辛い返事だが、起きたばかり出し余り気にしないでおこう。

 

『それでレイジ。あの大陸に着いたら如何するの』

「まずは町に行ってクロムウェルって奴の居場所を探る。反乱軍の頭みたいだし、名前を顔くらいは知れ渡っているだろ。……こんな事に為るならあの行商人のおっさんの話を真面目に聞くんだった」

『レイジ、人の話はちゃんと聞くようにした方がいいわよ』

「余りにも興味の無い話だったし、そう言うサイフィスだってあまり聞いてなかっただろ」

『私は聞いていても覚える気が無かっただけよ』

「地味にそっちの方が酷いと思うが……」

 

サイフィスと今後の予定について話していると、急に殺気に似た何かを感じ取ってしまう。

慌てて周囲を見渡してみるが影は見えないが、殺気だけはしっかりと感じ取れる。

何処に要るのかわからない敵に警戒していると、突然俺達の頭上に影が出来た。

突如として出来た影を不審に思い空を見上げてみると、以前この大陸で俺達に襲いかかってきた黒い飛竜の姿が在った。

黒い飛竜はその巨大な翼をはためかせて、俺達の方へと猛然と飛び掛ろうとしてきた。

 

「ヒルダ! 速度を上げろ!」

「え? 如何したの突然?」

「いいから早く此処から離れろ! 敵が来る!」

「わ、分かった!」

 

ヒルダが俺の指示に従ってその場から離脱した直後、黒い飛竜は直前まで俺達が居た場所を猛スピードで通過した。

もし発見が少しでも遅れていたら、黒い飛竜の突撃を受けてやられていたかもしれない。そう思うと背筋に冷たいものが伝う。

ヒルダは速度を上げてこの場から離れようとしてくれるが、黒い飛竜は空中で体勢を立て直してそのまま真っ直ぐ俺達に向かって飛んで来る。

黒い飛竜の速度は中々のもので、このままではいずれ追いつかれてしまうのは明白。

ヒルダは火竜であって風竜じゃない。飛ぶ速度自体そこまで早くは無い。

それに一晩中飛んでいた事を考えるとヒルダの体力も長くは持たないだろうし、何らかの手を打たないと不味いな。

 

「兄様、相手まだ追いかけてくる?!」

「あぁ。顔に似合わず相当しつこいみたいだぞ」

「うぅ~……こっちは徹夜して眠いって言うのに」

「気持ちは分かるが頑張ってくれ」

「レイジ! 火の玉がコッチに飛んで来る!」

「しつこい上に手も抜かないってか!」

 

ティファニアの声を聞いて後ろを振り返ると、確かに俺達に向かって漆黒の火炎弾が放たれていた。

俺はティファニアの後ろに移動して、放たれた火炎弾を振り払おうと考えたが、速度を上げて飛んでいる状態で席を移動するのは危険だ。

安全に場所を変えるにはヒルダに速度を落としてもらう必要があるが、この状況下でそんな悠長な事は言っていられない。

ヒルダに火炎弾の射線上から離れるように指示を出そうとしたが、火炎弾は急にコースを変え浮遊大陸のむき出しの岩盤にぶつかり弾けた。

ぶつかった岩盤には以前にも見た赤と青の炎の竜巻が巻き起こり、砕けた岩は炎を纏いながら下へと落下していった。

その後も立て続けに火炎弾が放たれるが、さっきのと同じ様に火炎弾はコースを変えて俺達から逸れていく。

 

「これは……」

『レイジ。あの火炎弾は私の風で逸らすから、その間に何か手を考えて』

「……俺はお前が思っているほど頭がいい訳じゃないんだがな」

『頭の出来は関係ないわ。今は貴方以外に適任がいないでしょう』

「それもそうだな」

 

サイフィスに軽口を叩きながらも、この状況を打破する手を考える。

俺がヒルダの背から降りてアイツに戦いを挑む事が出来れば、ティファニアたちを逃がすだけの時間は稼げるだろうが、幾らなんでもそれは悪手だ。

海竜との戦いで剣には大分無茶な事をさせたし、俺は空を〝跳ぶ〟事はできても〝飛ぶ〟事は苦手だ。空を自在に飛びまわる奴相手に空中戦を仕掛けるなんて幾らなんでも無謀すぎる。……俺が完全に竜になれば話は別だが、それでも勝てるかどうか。

今はまだあの力を使う時じゃないだろうし、ここは逃げの一手でいいだろうが、逃げ続けていても何時かは追いつかれる。

アイツから逃げ切るには相手の目を眩ますしかないが、何か使えるモノは無いだろうか。

そう思いながら周囲を見渡してみるが、眼に入ってくるのは浮遊大陸のむき出しの岩盤と、白い雲だけ。

空中でアイツを撃退できるような道具なんて在る訳ないが、身を隠す事のできそうなものならあった。

 

「ヒルダ、この速度のまま雲の中に飛び込め」

「え、でもそれじゃ周りが見えなくなるんじゃ」

「確かに周りは見えなくなるが、向こうも俺達のことが見えなくなるだろ。サイフィスはアイツの動きを制限してくれ。木々を薙ぎ倒すくらいの強風ならアイツも自由には飛べなくなるだろ」

『分かったわ、やってみる』

「……あの、レイジ。私はいったい如何すれば」

「ティファニアは振り落とされない様に俺にしがみ付いてろ。この状況じゃ俺とお前に出来る事は無い」

「わ、わかった」

「よし。……それじゃ二人共頼むぞ」

「うん。それじゃしっかり掴まっててね!」

 

ヒルダが雲へと猛進していくのと同時に、サイフィスは強風を巻き起こし黒い飛竜に吹きかける。

浮遊大陸の岩盤を削るほどの強風に煽られた黒い飛竜は、俺達を追いかけることが出来ず、大きく翼をはためかせて飛ばされないようにその場に留まるので精一杯のようだ。

その間にヒルダは雲の中へと飛び込み、白い雲に紛れたまま黒い飛竜との距離を一気に取ろうとする。

雲の中は視界が悪く、数m先に何が有るのかも判別できないが、姿を隠すには丁度良かった。

このままアイツの姿が見えなくなるまで逃げてしまおう。そう思っていたとき、後ろから途轍もなく嫌な予感がした。

虫の知らせ……とでも言えばいいんだろうか。このまま直進し続けているのは不味い、何故だかそう思ってしまった。

 

「ヒルダ、急いで右か左に逸れろ」

「え、なんで? あの黒いのはもう見えなくなったんじゃ」

「いいから早くしろ!」

「は、はい!」

 

ヒルダが俺の指示に従って大急ぎで右に逸れると、後ろから放たれた青白い光線が雲を貫いた。

以前みた光線とは比べ物に為らない程の大きさの熱線に、ヒルダの大き過ぎる翼が飲み込まれてしまう。

 

「ぐう……ッ」

「ヒルダちゃん!?」

「だ、大丈夫。このくらいならまだ飛べる!」

「ヒルダ。……すまん、もう少しだけ頑張ってくれ!」

 

俺の言葉に大きく頷いたヒルダは翼を大きくはためかせ、速度を上げて白い雲の中を突き進んでいく。

さっきの光線を最後に黒い飛竜からの攻撃が止み、雲を突き抜けてもアイツの姿は何処にもなかった。

なんとかアイツから逃げ切る事が出来た俺達は、そのまま浮遊大陸に上陸し、近くにあった森の中に入って身を隠す事にした。

森の中に入って一息つく事もせず、ヒルダに駆け寄り翼の具合を見ようとすると、遠くの方から黒い飛竜の雄叫びが聞こえてきた。

遠く離れているはずなのに聞こえてきた竜の咆哮に、森の中の動物達は驚き、鳥達は一斉にこの森を後にする。

俺は雄叫びが聞こえた後も周囲を警戒し続けたが、黒い飛竜の襲撃はなく、森の中は静まり返っていた。

周囲への警戒を怠るつもりは無いが、今のところはアイツの襲撃はないだろう。そう判断した俺は、ヒルダの傍に駆け寄り、黒い飛竜の熱線を受けた左翼の具合を見る。

木々を焼失させるほどの熱量を持つ光線だが、ヒルダの翼は焼け焦げる事も無く見た目だけは無事だった。

でも、熱線を受けた左翼に触れてみると異常なほどに熱を持っていて、触れた俺の手の方が火傷してしまいそうになる。

 

「ヒルダちゃん、翼は大丈夫?」

「うん、平気。わたしこれでも火の龍だから、炎や熱には強いの。少し休めばまた飛べると思う」

「そっか良かった。ね、レイジ」

「そうだな。……悪かったな、ヒルダ。無茶させちまって。それとよく頑張ってくれたな。俺達が無事なのはお前の頑張りのお陰だ、ありがとう」

「えへへ……。兄様に褒められた」

 

俺に褒められた事がよほど嬉しかったのか、ヒルダは珍しく嬉しそうに顔を綻ばせる。

そのヒルダの笑顔を見て俺も肩の力が少し抜けてしまいそうに為るが、黒い飛竜の事を考えると気を抜いてもいられない。

アイツが何時襲撃してくるのか分からない以上、周囲への警戒は怠らないようにしないと。

そう思い気を張り詰めなおすと、森の中を風が吹きぬけ、風が俺の傍へとやって来る。

 

「サイフィス、何処へ行ってたんだ」

『少し森の外を見てきたわ。それよりもレイジ、あの黒い竜の事なのだけど……』

「何か知ってるのか?」

『いえ、何も。ただあの竜から学院で遭遇した竜に似たものを感じたから』

「……それなら狙いはアイツと同じくティファニアか」

『正確に言えば、ティファニアが持っている虚無の力でしょうね』

「虚無の力? そんなもん狙って如何するんだよ。喰らって取り込もうとでも考えてるのか?」

『恐らくはね。……私が思っていたよりも活動が活発みたい。レイジには何としても指輪を取り戻して、彼女に認めてもらわないと』

 

サイフィスが一人で思い悩み始めていると、森の中が俄かに騒がしくなり始める。

動物達はさっきの雄叫びで森から離れているはずだし、人間達がこの森に入り込んできたのか。

ただの村人なら別に問題は無いが、そうでなかったりしたら……少々面倒な事に為りそうだな。

ヒルダはまだ休ませてやらないといけないし、あまり大きな騒ぎを起こしたくはないんだが……さて、一体何が来るのやら。




次回の更新に関しては未定です。とりあえずガンブレ2が発売される前に投稿したいけど、どうなる事やら。
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