虚無のエルフと神殺しの竜   作:ベヘモス

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……え~大変長らくお待たせしました。今日より『虚無のエルフと神殺しの竜』の更新を再開いたします。
この小説を楽しみにしてくれている方がどの程度いるか分かりませんが、お待たせして本当に申し訳御座いませんでした!!


第二十八話 アルビオンの皇子

突如として襲撃してきた黒い飛竜から逃げ切れたかと思えば、また面倒事が舞い込んできたようだ。

まだ巻き込まれると決まった訳ではないが、息つく暇も無く面倒事が来るのは勘弁してもらいたいな。

 

「ったく、今度は何だってんだよ」

『先ほど周囲を調べてみたら、数名の人間がガーゴイルに追いかけられていたわ。恐らく、それがコッチに来たんじゃないかしら』

「ガーゴイル? ガーゴイルって確か、彫刻で出来た雨桶だろ? この世界じゃそんなのが動くのか」

『土で出てきてると言う意味では、確かに彫刻だけど私が言っているのは魔法人形の方よ。擬似的な意思を持ち、魔力が供給されていればメイジの操作を受けずに自立行動をとれるらしいわ』

「ふ~ん……。ま、俺達には関係のない事だろう。巻き込まれないうちに身を隠すか」

 

ティファニアとヒルダに合図を送り、俺達は近くの茂みの中に隠れてやり過ごす事にした。

ヒルダは龍だから体格的に茂みに隠れる事は難しいが、出来るだけ低く伏せてもらう事でギリギリ茂みに隠れる事ができた。

後はコッチにやって来る連中をやり過ごすだけ。俺達は息を潜めて茂みの中でジッとしていると、森の奥から数名の人間たちがこちらへと走ってくる。

その更に奥にはサイフィスの言っていたガーゴイルとか言う彫刻がいる。その数は五体ほどだろうか。

逃げている人間たち兵士と思われる奴が四人と、身なりのいい優男が一人。男の身なりからして恐らく貴族なんだろうが、こんな森の中で一体何してんだ?

兵士四人は優男を守る様に行動しているからか、着込んでいる鎧は傷付き、腕からは血を流している。

その血が目印と為っているのか、ガーゴイルたちは森の中でも迷う事無く追いかけていた。

 

「……あの人、どこか出会ったような」

「なんだティファニア。あの中に知り合いでもいるのか」

「う~ん……思い出せないな。ところでレイジ。あの人たち結構危ないみたいだけど、私たちは隠れていて良いの?」

「あぁ。関わると面倒な事に為りそうだから放っておけ」

「放っておけって……。レイジってば時々冷たい事を言うよね」

「身内に優しく、他人に冷たくって家で育ったからな。自然とそうなった」

 

家の教育方針がそうだったというよりも、親父とお袋がそういう人たちだったから、その背中を見て育った俺も自然とそうなったってのが正しいか。

俺の育ちが何であろうと、俺の目的はこの国にある筈のアンドバリの指輪の奪還。この国のゴタゴタに関わる気は無い。

男達が通り過ぎるのをジッと待っていたが、ガーゴイルの一体が俺達に気がついたのか、隠れている茂みの方をジッと見据える。

俺達は息を潜ませ、ガーゴイルの視線が逸れるのを待つが、向こうは俺達を見逃す気は無いらしい。

ガーゴイルは爪を尖らせ、俺達が隠れる茂みに腕を突っ込もうとするのに反応し、俺は茂みの中から長剣を抜刀し、茂みごとガーゴイルを両断する。

両断されたガーゴイルは肩口から脇腹に掛けて線が走り、その線に沿って身体がずれ落ち、そのまま崩れ落ちた。

仲間の一体がやられた事に他のガーゴイルたちも即座に反応し、一斉に俺達の方に視線を向ける。

こうなってしまった以上隠れてやり過ごすのは無理だろう。

俺は仕方が無く茂みから出て、残り四体のガーゴイルたちの前に姿を現す。

 

「……やれやれ。本当はこんな事するつもりは無かったんだが、仕方が無いか」

 

俺は溜息を一つ零しながらも長剣を構え、残りのガーゴイルたちと対峙する。

仲間の一人がやられた事にガーゴイルたちは敵を剥き出しにするが、獣の様に直ぐに襲い掛かってくるような事はせず、距離を取りながら俺の動きを窺っているようだ。

擬似的な意思を与えられたって話だし、多少は戦術でも持っているのかと思えば、ガーゴイルの一体が俺から視線を外し、森の奥へと逃げていく男たちの方を見る。

コイツ等の目的はアイツ等な訳だし、一体くらいはアイツ等を追走しようとするのは当然だが、俺にその行動は自殺行為だ。

俺は一瞬の内に視線を逸らしたガーゴイルとの間合いを詰め、背後から背後からソイツを斬り捨てる。

仲間の一体がやられた事に反応して、左右にいた奴等が同時に襲い掛かってくるが、攻撃されるよりも早くその二体の胴を斬り裂く。

一瞬の内に三体の仲間がやられた事に驚いたガーゴイルは、この場から離脱しようと試みる。

俺は追いかけようとするが胴を切り裂いた二体に足を掴まれ、動きを阻害されてしまう。

その間に残りの一体は逃走しようとするが、俺は手にしていた長剣を奴に向かって全力で投げつける。

投げた長剣は逃げるガーゴイルを貫き、その勢いのままガーゴイルを近くに生えていた木に縫い付けた。

ガーゴイルと木が激突した音が森の中に響き渡り、逃げていた男達が音のした方を振り向く。

男達は木に縫い付けられたガーゴイルに目を丸くしている中、俺は足を掴んでいたガーゴイルの一体を鷲掴みにし、もう一体の方は自由に為った足で踏み砕く。

鷲掴みにしたガーゴイルを空へと向かって力一杯放り投げ、剣を回収する為に最後の一体の元へと向かう。

放り投げられたガーゴイルは、木々よりも高く上昇したあと重力に従って落下し、地面と激突して無残にも砕け散った。

男達は俺の事を警戒しているのか、優男を守る様に前に出ながら俺と一定の距離と保つ。

向こうからしたら見ず知らずの平民が五体のガーゴイルを破壊した訳だし、警戒するなってのは無理があるが、こっちからしたらアイツ等に何の興味も無い。

特に関わる気も無いから下手に刺激する様な事はせず、ガーゴイルを貫くために投げた剣を回収し、まだ生きていたガーゴイルの首を撥ね飛ばす。

生き物だったら貫かれた時点で死んでても不思議じゃないが、相手は命の無い人形だ。下手に反撃されても厄介だし、きっちりトドメは刺しておかないとな。

そして周囲に敵影がない事を確認した俺は、剣を納刀し、ティファニアたちの元へと轡を返した。

 

「ま、待ってくれ!」

「あん?」

 

敵の姿はもう無いから、ティファニアたちと合流してさっさと森を抜けようとした俺に、兵士たちに守られている優男が声を掛けてきた。

 

「助けてくれてありがとう。君の活躍のお陰で私も臣下も命拾いをした」

 

一体なんの用で呼び止められたかと思えば、別に大した用ではなく、ただ礼が言いたかっただけの様だ。

こっちとしてはただ降りかかる火の粉を払っただけだが、結果的にアイツ等を助けた事になるのか。

別に礼を言われる程の事でも無いが、俺が口を開くよりも先に、優男の取り巻きが声を荒げる。

 

「いけません、殿下! あの様な得体の知れない相手と関わってはなりません!」

「止さないか。恩人に向かって失礼だぞ」

「し、しかし、相手は平民―――」

「確かに彼は貴族ではないようだ。しかし、今の僕も名ばかりの存在。彼と一体何が違う」

「いいえ、貴方様は誇りあるテューダー王家の皇子です。城を追われたとは言え、貴方様が我等がお仕えすべき方である事に変わりはありませんッ」

「皆……」

 

傷付きながらも変わらぬ忠誠を示す兵士達を前に、優男は嬉しさからか涙ぐむ。

零れそうになる涙を優男は直ぐに拭うが、こっちからしたらそう言うのは他所でやって欲しい。

俺としてはさっさとアンドバリの指輪を取り戻しに行きたいんだが、この状況で無視していく訳にも行かないか。

 

「……ありがとう、皆。でも、恩人に礼の一つも言えないのは私の誇りに傷が付く。だからこの場は眼を瞑ってくれ」

「……殿下がそう仰られるのであれば」

「ありがとう」

「話は終わったか? それじゃ俺はもう行くぞ」

「あ、いや待ってくれ。まだ君の名を聞いていない」

「俺みたいな奴の名前なんて覚える必要は無いと思うが」

「そんな事はないさ。自分を助けてくれた者の名は知りたいと思うのが普通だよ」

「普通、ねぇ……。だったらまずはアンタから名乗れよ。俺は自分の名を言えない相手に名乗る名は無い」

「貴様……さっきから黙っていればなんだその態度は! 幾ら殿下を助けてくれた恩人とはいえ、不敬罪でひっ捕らえるぞ!」

 

俺の無礼な態度に取り巻きの兵士がついに切れて、敵意を向き出しにしてコッチを睨みつけてくる。

その敵意に俺も無意識の内に背中に背負う長剣に手が伸びるが、優男が割って入り兵士たちを宥める。

優男の割り込みで兵士達は不服そうにしながらも敵意を引っ込めた。

 

「私の兵がすまない。しかし、彼等の言うように君の態度も問題だと思うが」

「生憎と俺は俺が敬えると思った相手にしか敬意を払う気は無い」

「なるほど。まぁいいさ。……私の名はウェールズ・テューダー。このアルビオン王国の皇子だ」

「ウェールズ・テューダー……」

 

優男は自らの名を俺みたいな奴に名乗るが、聞いた所でコレと言って関心が湧かなかった。

ただ、アルビオン王国の王家と言えば、ティファニアから両親を奪った連中だ。

優男の見た目を考えて、恐らく当時の事は何も知らされていないと思うが、ティファニアの事もあるし、やっぱり係わり合いにならない方がいいだろう。

 

「それで、君の名はなんと言うんだい?」

「……零児だ。竜崎零児」

「レイジ? 変わった名前だけど、何処の出身なんだい?」

「少なくともアンタの知らない場所だ」

「どうかしたの、レイジ?」

 

適当な事を言ってさっさと別れてしまいたかったが、俺の帰りが遅いからティファニアたちがコッチにやって来てしまった。

コイツ等とティファニアはあまり関わらせたくないんだが、来てしまったものは仕方が無い。適当な事を言って速く此処から離れよう。

 

「……レイジ君、そちらの女性は?」

「俺の連れだ。それよりもう用事はないだろ。俺達はもう行くぞ」

「あ、ちょっと待ってレイジ」

 

さっさとこの場から離れようとしているのに、ティファニアはそれを止めて、俺の荷物袋から幾つかの薬と包帯を取り出し、負傷している兵士達に差し出した。

 

「あの、良かったらこれ使ってください」

「良いのか? 薬も包帯も決して安いものではないのだぞ」

「大丈夫です。次の街に着いたら薬を買いたそうと思っていましたし、あまり多く持っていてもかさ張るだけですから」

「……すまない。礼を言う」

「いえ、気にしないで下さい」

 

申し訳無さそうに頭を下げる兵士達に対し、ティファニアは気にしないでと言って笑う。

それに対して兵士達は今一度ティファニアに頭を下げ、受け取った薬で自分の傷を応急手当を始める。

俺としてはコイツ等に施しをする必要は無いと思うんだが、止めようとして口論になるほうが面倒か。

 

「貴重な物を有り難う、ミス。私からも礼を言わせてくれ」

「いえ、そんな。私が勝手にやっただけの事ですから」

「全くだ。態々そんな事をする必要も無いだろうに」

「またレイジはそう言う事を言う。レイジだってこの人たちを助ける為に、あの人形を倒したじゃない」

「俺は降りかかる火の粉を払っただけだ。コイツ等を助けるためじゃない」

「そう言う事を言わないの。理由はなんであれ、レイジがこの人たちを助けた事に変わりは無いんだから」

「だから、俺はそんなつもりじゃないって言ってるだろう」

「もう、素直じゃないんだから」

「お前が勘違いしているだけだ」

 

変な勘違いをしているティファニアにはっきりと違うと言ってやるが、どうあっても訂正する気が無いのか、ティファニアは自分の意志を押し通そうとする。

確かに結果だけを見ればコイツ等を助けた事になるが、降りかかる火の粉を払った結果、コイツ等も助かったてだけの話だ。

助けて礼が欲しかったわけでもないし、あまり此処に長居してまた黒い飛竜に襲われたくない。

さっさと用事をすませて、こんな浮遊島から退散したいってのに……。

変な勘違いをするティファニアに呆れて溜息を吐くと、優男が堪え切れなくなったと言った様子で小さく笑い出した。

 

「ふ、ふふ」

「あ? なんだよ優男。なんか面白いモノでもあったか」

「いや、すまない。ただ君達は随分と仲が良いのだなと思って」

「今の何処を見てそう判断したんだよ。中々に幸せな頭をしてんのな」

「……え、私は仲のいい友達だと思っていたけど、レイジは違うの?」

「いや、そう思ってくれているのは嬉しいけどな、今はその事を話しているんじゃなぇよ」

「レイジもそう思ってくれているなら、別に訂正してもらう必要なんて無いよね?」

「確かにそうだけど……あ~なんか色々とめんどくさい。アレコレ考えてる俺が馬鹿みたいじゃないか」

「見た目の割りに君も中々に苦労しているみたいだね」

「見た目の割にってのは余計だ、優男」

「ウェールズだ。さっきそう名乗っただろ?」

 

俺が優男と呼んだことに対して、優男は即座に自分の名を改めて告げる。

特に関わる気の無いこっちとしては、俺が何て呼ぼうと俺の勝手だと思うんだが、向こうからしたら優男なんて呼ばれるのはいい気分じゃないか。

 

「……分かった、ウェールズ。これでいいんだろ」

「君の態度も直す気はないのかい?」

「生憎とこれが素なんだよ。それにこんな森の中なら別に気にする必要も無いだろ」

「よくはないが……確かに森の中なら人目を気にする必要は無いね」

「納得してくれたのなら俺達はもう行くぞ。あまり此処でのんびりしている暇も無いんでな」

「先程から君は先を急ごうとしているが、そんなに急いで一体何処へ行こうとしているんだい?」

「クロムウェルとか言う盗人の所だ。ある奴から盗まれた指輪を取り戻して欲しいと頼まれてるんだ」

「クロムウェルッ!? ……まさかとは思うが君達はレコン・キスタの人間、ではないよな?」

 

優男……もとい、ウェールズは盗人の名前に過剰なまでに反応するが、それは取り巻きの兵士達も一緒。

まぁ、こんな森の中で自分達の怨敵の名が出れば驚くのは当然と言えば当然か。

 

「違う。もし俺たちがそいつ等の仲間なら、ここでお前らを助けるわけ無いだろ」

「そう…だね。早とちりをした。でも、恩人である君が敵でなくて良かったよ」

「味方に為るとも言った覚えはないけどな」

「……そうだね。彼等との戦いは僕達の問題だし、君達を味方に引き入れても大勢は変わらない」

 

ウェールズのその一言に言った本人だけではなく、取り巻きの兵士達の顔も暗くなる。

ロサイスの港町で聞いたが、俺達がアルビオンを離れる前から既に王国軍の負けは濃厚だとか。

そんな状態で俺達を引き入れても何も変わらないとでも思っているんだろう。

俺の力で反乱軍とどこまで渡り合えるのか分からないが、正面から軍隊と戦うのは面倒だからやりたくはないってのが本音だ。

 

「あの…本当に王国軍に勝ち目は無いの? 何か逆転の秘策みたいなものは―――」

「残念だけど……。敵は兵数だけではなく物資でも僕達を圧倒している。海賊まがいな事をして敵の物資を奪ってはいるけど、それでもこの差を埋めることは出来ていないのが現状さ」

「そんな……」

「今の僕等に出来る事は、アルビオン王国の誇りと意地を胸に、彼等に一泡吹かせるための準備を進める事だけさ」

「……だったらなんでこんな所に皇子がいるんだ。準備を進めるっていうなら、外に出歩くなよ」

「人聞きの悪い事を言うね。僕等は意味も無く出歩いているんじゃない。敵の動向を窺うために斥候に出ていたんだ」

「斥候ねぇ……。それなのに兵士が怪我をしてるって事は、お前らドジ踏んで敵に見つかったな」

「恥かしい話だがその通りだ。新型ガーゴイルの性能を見誤っていたよ。僕の知っている性能のままなら見つからずに調査できたのだが」

 

ウェールズは恥ずかしそうにしながらも、今回の偵察の失敗を認める。

敵に一泡吹かせるために敵情視察に出たってのに、ガーゴイルに見つかって失敗しました……じゃ笑い話にも出来ないな。

敵がどの程度の規模でやって来るか。それが分かるだけでも多少は変わって来るものだが、敗色濃厚な王国軍には分かっても分からなくても手のうち様がないか。

 

「……ま、斥候には失敗したが、命があっただけマシだろ。皇子の最後がガーゴイルに倒されましたじゃ格好がつかない」

「そうだね。アルビオンの皇子として最後は華々しく戦場で散ろう」

「……最後だとか、散るだとか、そんな死ぬみたいな事言わないでよ。他の国に逃げれば死ななくて済むじゃない。それなのにどうして?」

 

既に死を受け入れているウェールズの物言いに、ティファニアが口を出す。

ティファニアからしたらウェールズは両親の敵の息子だが、それと同時に自分の従兄弟にあたる存在。

そんな奴の死が近い事を知って、思わず口が出てしまったのかもしれないが、ティファニアが何を言ったところでウェールズは考えを変えることはしないだろう。

現にウェールズはティファニアの発言に驚きながらも、優しげな眼差しで首を横に振った。

 

「確かに他国へ亡命すれば命は助かるだろうね。だけど、僕を生かすために多くの兵士が戦場で散った。多くの兵が王家を裏切っても、僕達の味方に為ってくれた者も確かにいたんだ。彼等の死から眼を背けないためにも僕はこの国から逃げる訳には行かない。……それに僕等が他国へ亡命したら、彼等はそれを理由に他の国へと攻め込むだろう。僕達の国の問題を他国に持ち込むなんて事できる筈がない」

「……お前達の亡命に関係なく奴等は他国に攻め込む気であったとしてもか」

「そうだとしてもだよ」

「そうか。だったら俺はもう何も言わねぇ。ティファニアもそれ以上何も言うな」

「でもッ! …………うんん、そうだね。私が何も言っても皇子の覚悟は変わらないよね」

「すまない。分かってくれとは言わない、ただ僕達がいた事を覚えていてくれ」

「……分かりました。それが皇子の覚悟だというのなら」

 

本当は納得していない。ティファニアの顔にはそう書いてあるが、自分が何を言っても変わらない事を察したのか、口に出したりはしなかった。

 

「ところでウェールズ。奴等の動向を探っていたのなら、クロムウェルが何処にいるか、大体の見当はつけられないか? 俺は奴から指輪を取り戻さなくちゃ為らない」

「……すまないが、正確な場所までは何とも。ただ、彼等は僕等を王都から追放した後、城の旗を変えていたから、直接指揮を取っていなければ今も城に居る筈だ」

「アルビオンの城か……。砦ならまだしも、城に忍び込むのは骨が折れるぞ。……いっその事、正面から堂々と突入するか?」

「そんな事したら駄目だからね! そんな事をするなら私が全力で止めるからね!!」

「わーってるよ。でも、城に忍び込むいい方法も思いつかないしなぁ……」

「……今も使えるか分からないけど、一つ方法があるよ」

 

無謀な方法で城に忍び込もうかと考えていた俺に、ウェールズが他に方法があると口を挟んでくる。

 

「本当か? あるなら教えてくれ」

「王都の町に僕等王族が使う隠し通路があるんだ。今回の様な緊急時にはそこを通って外に逃げられるようにね。これは城の中でもごく一部しか知らない筈だから、多分大丈夫だとは思うけど」

「封鎖さえされてなければ十分だ。正面から喧嘩売るよりはずっといい。それで入り口は何処だ」

「街の外れにある青い屋根の小屋。そこの床下に地下通路へと通じる梯子がある。そこを通っていけば城の倉庫に出られる筈だ」

「街外れの小屋だな。そこまで分かれば十分だ。礼を言う、ウェールズ」

「こちらは命を救われた身だ。その恩を返せるのであれば安いものだよ。……でも、もし我が侭を聞いてもらえるのであれば一つ頼みがある。可能ならあの男に―――」

「一矢報いて欲しいってんなら受けかねるぞ。俺は戦争をしにきた訳じゃないんだ、そんな事をして俺に何の得がある」

「……そうだな。すまない、今のは聞かなかった事にしてくれ」

 

ウェールズは残念そうにしながらも、黒髪の様に頼み込んだりはしてこなかった。

そんな事だろうと思って先に釘を刺しておいたが、やっぱりアイツに対して何かと思う所があるんだろう。

反乱軍の所為で城を追われた訳だからな。一矢報いたいと思うのは当然と言えば当然か。

 

「さて、有益な情報も得たし、俺達はもう行く。お前達も早く何処かに隠れた方がいいぞ」

「それなら大丈夫だ。この先に僕等が使っている砦がある。それほど距離がある訳じゃないから、日暮れまでには辿り着けるさ」

「だが、早く着くに越したことはないだろう」

「……もしかして僕等の事を心配してくれているのかい?」

「別にそんなんじゃねぇよ。……それじゃ俺達はもう行く。ガーゴイルが帰還しない事を不審に思うかも知れないから、出来るだけ早く此処を離れろ」

「あぁ、分かってる」

 

聞きたい事を聞き、言いたい事を言った俺はティファニアの手を引いて、ウェールズたちから離れてヒルダの背に乗る。

ヒルダの翼の熱は大分取れたのか、俺が触れても熱さは感じず、飛ぶのに支障はなさそうだ。

後はクロムウェルがいると思われるアルビオンの王都へと向かうだけだが、飛び立つ前にウェールズに一つ言い忘れた事があった。

 

「……あぁ、そうだ。お前の為に一矢報いる気は無いが、指輪を取り返す際に手元が狂う事はあるかもしれないな。そうなっても大勢は変わらないだろうから、気にすんなよ」

「レイジ君……。あぁ、確かに君の言う様な事は有るのかもしれないが、僕はそれに対して関知はしないよ。後の事は君に任せる」

「任されても困るっての。……そんじゃあな」

 

俺の言葉を合図にヒルダはその緋色の翼を羽ばたかせ、俺達を乗せて空へと飛び上がった。

さっきまで居た森は見る見る小さくなり、森の中に誰が居るのかも分からなくなる。

周囲を警戒して辺りを見渡してみるが、あの黒い飛竜の姿はなく、今のところは奴に見つかってはいない様だ。

 

「……さぁって目的地も定まった事だし、アルビオンの王都に向かうか」

「でも、兄様。わたし、アルビオンの王都の場所しらないよ」

『それなら私が知っているわ。私が案内してあげるから、付いてきて頂戴』

「分かった」

 

サイフィスの道案内に従ってヒルダはアルビオンの王都へと向かって飛んでいく。

だが、黒い飛竜の襲撃を警戒しているのか、あまり速度は出さず、出来るだけ雲の中に隠れるように飛んでいた。

 

「……ところでレイジ。さっきウェールズ皇子と何の話をしていたの?」

「あん? 別に大したことじゃねぇよ、アイツの望みをもしかしたら叶えてやるかも知れないって話だ」

「皇子の望み?」

「クロムウェルに一矢報いる事。……まぁ盗人の首を取ってくるのが一番良いのかな?」

「首って……まさか、レイジにクロムウェルって人を倒して欲しいって頼んでたの!?」

「倒すっつうか、殺して欲しいって事なんだろうな。クロムウェルたちが反乱を起こさなければ、戦争なんて起こらなかったわけだし、怒りとか憎しみは懐いているだろうよ」

「そうなんだ。やっぱりウェールズ皇子みたいな人でも、そう言うのは懐くものなんだね」

「そう言うお前は如何なんだ。アイツは王家の……お前の両親を殺した人間だぞ」

「……………」

「お前だってアイツに言ってやりたい事があるんじゃないのか?」

 

底意地の悪い質問だってのは自覚してる。でも、ティファニアはウェールズを前にしても動揺したり、憤ったりはしなかった。

子供の頃の事だから怒りが風化してしまっているのか、それとも単に王家の人間だって気付いていないだけなのか。……前者はともかくとして、後者はないか。俺と違ってティファニアはこの国の人間だ。自国の皇子の名前くらいは覚えているだろ。

 

「そんなのはない……って言いたいけど、私も言いたい事は確かに有るよ。お父さんやお母さんが殺された事に思う事はある。でも、あの人に恨みをぶつけても二人は帰って来ないし、彼は私の従兄妹だもん。恨みをぶつけるなんて事できないよ」

「……………」

「マチルダ姉さんはきっと躊躇わずにぶつけるんだろうけど、私にはそんな度胸は無い。……それに今はレイジや皆が居てくれるから大丈夫」

「……そうか。悪かったな、意地の悪い事を聞いて」

「うんん、気にしてない。さっきレイジが早くあの場から去ろうとしていたのも、私の事を思っての事なんでしょ? だから全然気にしてない」

「そっか……」

「……でも、少しだけ我が侭を聞いてくれるなら、レイジの背中を貸して貰ってもいい?」

「あぁ。それでお前の心が安らぐなら幾らでも貸してやる」

「ありがとう、レイジ……」

 

そう言ってティファニアは俺に強く抱き付き、背中に顔を埋めてくる。

今ティファニアが泣いているのか、安らいでいるのかは分からないが、俺は暫くの間そのままにしてやる事にした。

此処からアルビオンの王都までどの程度の距離が有るのかは分からないが、ヒルダの背に乗っている間はこのままでも問題は無いだろう。




う~む、コラボ小説を書いた後だと、これでも短く感じてしまうな。一応9900文字以上は有るのに。
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