13日には黒龍のG級クエが解禁されるし、これで4Gの太刀は殆ど生産・強化したことになるな。
あ、今回の話は幕間てきな物で、物語が進むわけではありません。
あと、今回は全編ティファニアの視点でお送りします。
ウェールズ皇子にお城へと続く隠し通路を教えてもらった私達は、ヒルダちゃんの背に乗って真っ直ぐアルビオンの王都<ロンディウム>へと向かった。
まだ日の高い内にロンディウムに着いた私達は、さっそく皇子が教えてくれた青い屋根の小屋へと向かう。
人間の町の近くと言う事もあって、ヒルダちゃんにはトリステインの時と同じ様に王都の郊外で待ってもらい、私達とサイフィスさんだけで小屋の中に入る。
皇子が教えてくれた街外れの小屋は荒れていたけど、床の一部が外れてそこには確かに地下へと繋がる梯子が伸びていた。
梯子の先は暗くて、どうなっているのか此処からだと分からないけど、レイジは暗闇に物怖じせずに梯子から飛び降りる。
私もレイジの後を追いかけようとしたけど、身体に纏わりついた風に止められてしまう。
纏わりつく風に押されるまま梯子から離れると、少ししてレイジが床に開いた穴から顔を出した。
「ふぅ……。思ったよりも深い穴だったな」
「レイジ、もう戻ってきたの? 私てっきりそのままお城に忍び込むものだと思ってた」
「お昼前のこの時間から忍び込んだりしねぇよ。忍び込むなら家人が寝ている丑三つ時がいい」
「……ウシミツ時?」
「あ、ティファニアには分からないか。まぁ分かりやすく言うと深夜二時過ぎくらいだな」
「ごめん、それでもよく分からない」
話の流れ的に時間の事なのは何となく分かるけど、時計を見る機会が殆どなかったから言われてもよく分からないんだよね。
「……とにかく深夜だ。仕事が忙しくて夜遅くまで起きていたとしても、翌日の事を考えて徹夜はしないだろうから、盗人が寝ている間に頂くものを頂く」
「そっか。それじゃこの後は如何するの? まだまだ時間はあるけど……」
「そうだな……。今の内に寝ておいたほうが夜動けて良いんだが、今から寝ても夜までかなり時間があるか。……よし、今の内に町で買い物でもするか」
「うん、分かった…けど、何か欲しい物でも有るの?」
「お前がアイツ等に勝手に渡した薬を買い足しにな」
「あ、アレは仕方が無いじゃない。あのまま放っておくわけにも行かなかったし」
「もう過ぎた事だから責めるつもりないよ。ただ、この機会を逃すと次の町に行くまで買う機会がなくなるだろ」
「確かにそうだね。旅をしているといっても、直ぐに次の町に着ける訳じゃないから、買える時に買っておかないと」
「そう言う事だ。分かったのならさっさと行くぞ」
「あ、待ってよレイジ」
床を元に戻したレイジはそのまま小屋から出て行こうとする。私もその後を追いかけて小屋を出て行った。
………
……
…
小屋での下見?を終えた私達は、その足で王都ロンディウムに入った。
薬を買う為、久し振りにロンディウムの町に入ったけど、久し振りだというのに思っていた以上に何の感慨も浮んでこなかった。
本当に小さな頃、まだお父さんとお母さんが生きていた頃に来たきりの王都。懐かしいと言えるほどの思い出もなく、初めて来た訳でも無いからこれといった新鮮さも無い。
懐かしくも無く、新鮮味も感じられない王都だけど、町を囲う石壁に掲げられている旗は私の知らない旗だった。
私は思わず立ち止まってしまい、石壁に掲げられている旗をジッと見詰めてしまう。
アルビオンの国旗は縦長の赤字に三匹の竜が並んで横たわるものだったけど、今掲げられている旗は全く知らない意匠の国旗。
きっとレコン・キスタが掲げている旗なんだろうけど、あの旗を見た途端、本当にアルビオンが滅びようとしているんだって実感が湧いてきた。
私は今まで生きてきた多くの時間をあの森で過ごしてきた。だから国が乗っ取られそうに為っていると聞いてもピンと来なかったけど、こうして知らない国旗が掲げられているのを見ると……やっぱり少しだけ寂しい、かな。
「ん? どうかしたのかティファニア。旗なんかジッと見て」
「あ、うんん。なんでもない。それよりも早く買い物を済ませちゃおう」
「……あぁ、分かったよ」
若干の沈黙の後、レイジは頷いて先へと歩き出した。
私はレイジの後を急いで追いかけるけど、もしかしたら私が何を考えていたのか、察しているのかもしれない。
それでも何も言わずに黙っていてくれたのは、きっと彼なりの優しさなのかもしれない。
本当にぶっきら棒な優しさだけど、今はその優しさがありがたい。
私は胸の中に芽生えた寂しさから眼を逸らして、どんどん先へと行ってしまうレイジの後を追いかけた。
「待ってよ、レイジ」
「あぁ、悪い。……しかし、文明的な差が無いのか、この町もトリステインの王都と大して変わらないな」
「そうだね。トリステインの王都もこんな感じだったし」
レイジに追いついた私は、彼の横に立ってロンディウムの街並みを見てみるけど、トリステインの王都と余り差は感じられなかった。
きっちり敷き詰められた石畳の道に、レンガ造りの家々。うん、トリステインと殆ど変わらない。
もっと詳しく見て回れば色んな違いが見えてくるのかもしれないけど、今回は薬を買いに来たのだから町の中を見て回っている余裕なんて無いよね。
「アルビオンの王都でこれだと、他の国の王都も大差ないのかもしれないな」
「それはそれで旅の楽しみが減るからつまらないかな~……なんて思ったり」
「それに関しては俺も同感だ。でも、余所者の俺達が街並みに文句言っても仕方が無いだろ。さっさと買い物を済ませちまおう」
「うん」
そうレイジに言われて私達は大通りを歩いていくけど、レイジは直ぐに大通りを逸れて脇道へと入る。
今回は最初からサイフィスさんに探してもらっていたのか、レイジは迷う素振りすら見せずに道を歩いていき、私達は一件の店の前へと辿り着く。
この町の薬屋さんだと思うけど、大通りから外れた所に店を構えているからなのか、本当にこの店で大丈夫なのか少しだけ心配に為ってしまう。
だけどレイジは私の心配とは裏腹に何の躊躇いもなく店のドアを開け、中へと入って行ってしまう。
私も慌てて彼の後を追いかけて店の中に入ると、薬独特の何ともいえない臭いが店中に充満していた。
決して良い匂いとは言えない匂いだけど、鼻を抓みたくなるほどの酷い悪臭と言う訳でもない。
なんて表現したら良いのか分からないけど、なんとなく薬屋さんなんだなってわかる様な臭い。
「いらっしゃい。見慣れない子達だが、一体何処から来たんだい?」
私達が店に入ると店の奥から白い服のお爺さんがやって来て私達に話しかけてきた。
「ただの旅人だ。トリステインの方からやって来て、今日この町に着いた」
「ほう旅人か。戦時中のアルビオンに来るなんて物好きだねぇ」
「物好きでなかったら旅なんかしねぇよ。そんな事より幾つか薬が欲しい。包帯とガーゼと傷薬……裂傷なんかにも効くような奴があると助かる」
「あ、それと火傷に効く薬も下さい」
「包帯とガーゼと傷薬と火傷に効く薬ね。それを幾つ欲しい? 旅をしているのならそれなりの数がいるだろう」
お爺さんに何個欲しいか聞かれたけど、何個買おうか全く考えていなかった。
でも、薬は何個有って困る事はないし、レイジの無茶を考えると持てるだけ持っていた方がいいよね。
「えっと出来るだけ沢山下さい」
「そんな抽象的な物言いで伝わるかよ。薬と包帯は五つくれ。ガーゼは……そうだな、十五枚ほど」
「はいはい。それじゃ少し時間を空けてからまた来てくれるかい? タイミングが良いのか悪いのか、今ちょうど火傷の薬を調合してる最中でね。今すぐは売れないんだ」
「そうか。なら夕方ごろ取りに来る。それまでには完成しているだろ?」
「えぇ、それまでにはなんとか」
「だったら夕方に取りに来る。それじゃ邪魔したな」
そう言ってレイジは店を後にし、私はお爺さんに一礼してからレイジの後を追いかけて店を出る。
レイジは店を出て直ぐのところで待っていてくれたけど、なんだか凄く暇そうな顔をしてるみたい。
「……さて、思いがけずまた時間が出来たが、これから如何する?」
「如何するって聞かれても、私もこの街でやりたい事なんてないよ」
「ハープは……無理か。時間が出来たといっても楽器を直せるほどの時間が出来たわけじゃない」
「そうだよね。トリステインの店で見てもらったとき、直すのに数日は掛かるって言われちゃったし」
「そうなると……本当に暇だな。町の外で素振りでもしてるか?」
「レイジはそれでもいいかもしれないけど、私が暇に為っちゃうよ」
「となると……やる事が特に思い浮かばないな」
レイジは腕を組みながらそう零すけど、私も薬が出来上がるまでの時間に何をしようか思いつかない。
お爺さんと約束した夕方にはまだ時間があるし、お城に忍び込むのは夜に為ってからだから、コレと言ってする事が無い。
こんなとき一体如何すればいいのか分からず、二人して何をしようか考えていると、突然私のお腹の虫がなってしまう。
―クゥ~……―
「……今のってもしかしてティファ―――」
「わ、私じゃないよ! きっと他の人のお腹の音だよ!」
「落ち着けティファニア。誰も腹の音だとは言っていないし、今ここには俺らしか居ない」
「う、うぅ……」
レイジに聞かれてしまった事に動転して自爆してしまい、私は自分の顔が熱くなっていくのを実感する。
思い返してみればまだお昼を食べてなかったし、お腹が空いてしまうのは仕方のない事だけど、寄りにもよってレイジに聞かれちゃうとは考えてもなかった。
今まで一緒に居て、聞かれていなかった事の方が凄いかも知れないけど、やっぱりお腹の音を聴かれるの恥かしい。
もしかしてレイジに呆れられていないか気にしつつ、彼の様子を窺ってみると、レイジは仕方の無い奴だと言いたげに微笑んでいた。
「ま、もうお昼だし、丁度いいからどっかで飯でも食うか」
「うん。……それとレイジ、さっきの事だけど」
「別に気にしちゃいねぇから、お前もそんなに落ち込むな。生きていれば腹は減るものだ」
「そ、そうだよね」
若干、私が恥かしがっている理由が分かってないみたいだけど、レイジが呆れてないなら別にいいかな。
私はレイジに呆れられていない事にホッとしつつ、彼と一緒に大通りに戻ってお店を探して歩き始める。
貴族の方が使うような敷居の高い店ではなく、私達みたいな人が気軽に入れるようなお店。
そんなお店を探して大通りを歩くけど、やっぱり簡単には見つけられないみたい。
お店を探しながら通りを歩いていると、何時の間にか町の中心部の広場に辿り着いてしまう。
この広場より先に進むとお城へと辿り着いてしまうし、左右に分かれる道を進むとそれぞれ別の門に辿り着いてしまう。
正面の道を進んでも仕方が無いし、左右の道のどちらかに言って調べるのも時間が掛かるし、如何しようかと考えていると、レイジが私の手を引いて何処かへと歩き始める。
一体何処へ行くんだろうかと首を傾げていると、彼の視線の先には一軒のパン屋さんが建っていた。
私はレイジに手を引かれるまま、彼と共にその店に入るとパンの香ばしい匂いが充満している。
お店の中には多くの人が居て、結構繁盛しているみたい。
店には美味しそうなパンが幾つも並べられていて、どれにしようか迷ってしまいそう。
「……へぇ~。上手そうな匂いがするから何屋かと思えばパン屋だったのか」
「え、分からないでこの店を選んだの?」
「あぁ。上手そうな匂いが漂ってきたし、いい加減腹も減ってきたからもうこの店で良いかと」
「匂いって……あの広場でそんなの分かるものなの?」
「まぁ割と。流石に店の中で食べるのは無理みたいだが、ティファニアさえよければこの店にするか」
「うん、私もお腹ぺこぺこだし、ここでいいよ」
「よし。ならちゃっちゃと買っちまおう」
そう言ってレイジは近くにあった籠を手に取って、お店のパンを品定めし始める。
店に並べられている一般的なバゲットから、菓子パンのブリオッシュなど、様々な種類が並べられている。
中には私の知らないパンもあって、どのパンを買おうかと思わず悩んでしまう。
そんな中隣にいるレイジは、麦の穂の様な形のパンを四つも籠の中に入れていた。
相変わらず決断が早いな~と隣りで感心しながら、私は野菜を沢山挟んだサンドイッチにした。
他にも美味しそうなパンは沢山あるけど、偶にはこういった野菜も食べたかったし、丁度良かったかな。
野菜のサンドイッチを二つ籠に入れて、会計を済ませた私達は店を出て何処で食べようか思案する。
流石に街中で立ったまま食べたくはないし、何処かに座る場所が在ればいいんだけど……。そう思いながら広場を見渡すけど、そう都合の良い場所は見つからないみたい。
仕方が無いので私達は広場の端っこ、他の人に迷惑が掛からなさそうな場所で立ったまま食べる事に。
レイジに買ってもらったパンを貰い、少しだけ人目を気にしながら早速そのパンに噛り付く。
パンの柔らかな食感と、野菜のシャキシャキとした食感が程よくマッチして美味しいけど、パンの間に挟まっているトマトがちょっと気に為るかな。トマトの汁が服についちゃったら大変だし、気をつけて食べないと。
そんな事を思いながらパンと食べていると、隣いるレイジは人目も気にせず、自分のパンを小さく千切っては口の中に放り込んでいく。
レイジのパンは本当に麦の穂を連想させる形だから、ちぎって食べるには丁度良い形だけど……レイジがこんなにもパンを黙々と食べるところ初めて見たかも。
珍しいモノを見たからついついレイジの事をジッと見ていると、向こうも私の視線に気付いたのか、手を止めて私のほうを見てくる。
「ん? どうかしたのか、ティファニア」
「うんん。大したことじゃないんだけど、レイジがパンを夢中に食べるのが珍しくて」
「別に夢中に食べている訳じゃないぞ。ただ、これを温かい内に食べたいだけだ」
「そうなの? でも、パンなら多少冷めても美味しいと思うけど」
「……口で説明するよりも実際に食べたほうが早いか。口開けろ、ティファニア」
「…?」
よく分からないまま、レイジに言われた通り口を開けると、レイジは自分のパンを千切って私に食べさせてくれた。
人通りの多いここでそんな事をされるのはちょっと恥かしいけど、何かを言う前にまずは口の中にあるパンを食べてしまおう。
レイジが買ったパンは、外が凄く硬くて噛むのに力が要るけど、中にベーコンが入っていてその塩気が程よく美味しい……けど、なんかちょっとだけ油っぽいかな?
「……どうだティファニア」
「美味しいけど、凄い油だね。ベーコンが入ってるみたいだから、油が出てくるのは分かるけど、これ冷めちゃったら大変じゃない?」
「そうなんだよ。ベーコンエピは出来たては美味いのに、冷めたら油っぽさが気になってなぁ。だから出来るだけ早く喰いきりたいんだ」
「あぁ、それで冷めない内に黙々と食べてるんだ。レイジはそのパンの事を知ってるんだね」
「まぁな。故郷だと米を主食としてるんだが、知り合いにパンなんかを主食としてる奴がいて、そのときにコレと同じパンを貰ったんだ。まさかこの世界でも食べられるとは思わなかったぜ」
「そうなんだ。でも、偶には野菜とかも食べたほうがいいよ」
「今日は肉が喰いたい気分だったんだよ」
「そういって何時もお肉食べてるじゃない。私のパン少し分けてあげるから食べて。……なんて―――」
軽い冗談を言いながらパンを差し出したら、レイジが私の食べかけのパンに噛り付いた。
「……ん。久々に食う野菜も悪くないな、ごっそさん」
悪びれる様子もなく、レイジは軽い感じでお礼を言ってくるけど、私はそれどころじゃない。
レイジが私の食べかけのパンを食べた。その事実に私は如何したら良いのか分からず、ただただ自分のパンを見詰めてしまう。
思いの外齧られた部分が大きいとか、このまま持っていたらトマトが潰れて汁が零れてしまいそうとか、少し現実逃避をしてしまうけど、レイジが私のパンを食べたという事実からは目を逸らせなかった。
「ティファニア、自分のパンを凝視してどうかしたのか?」
「えッ!? い、いや、なんでもないよ」
「そうか? だったら早く食べちまえよ。何時までもここで立ち食いしてる訳にはいかないからな」
「う、うん。そうだね」
レイジの言葉に反射的に返事をしてしまった私は、彼の食べかけのパンを食べるしかなくなった。
折角買ったパンを残すことなんて出来ないし、捨てるなんてもっての他だから最初から選択肢なんて他になかったけど、意識すればするほど恥かしくなってくる。
私は無意識の内に生唾を飲み込み、恐る恐るレイジの食べかけのパンを食べる。
今自分の顔がリンゴのように真っ赤になっている事を自覚しながら、なんとかパンを食べきった。
なんかレイジの所為で既にお腹一杯だけど、私はもう一つのパンも食べ始める。
残りのパンを食べながら私は、もうあんな真似はしないと心に固く誓うのでした……。
最近、感想がくるたびにビクってしてしまう。