虚無のエルフと神殺しの竜   作:ベヘモス

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また一ヶ月近く更新が空いてしまい、すみませんでした。本当は3月中に上げるつもりだったんですけど、俺にも色々とありまして。……ほんと色々とありましてね。

あ、今回流血描写があるので苦手な方は注意してください。


第三十話 城内侵入

王都での買い物を済ませた俺達は、十分な休息をとり、日が落ちて夜が更けるを待った。

そして草木も眠る丑三つ時。もう良い時間に為っただろうと言う事で、そろそろ城へと忍び込む事にする。

海竜との戦いとは違い、今回は精霊が盗られた物を取り戻すための行動。ティファニアを一緒に連れて行くことは出来ない。

最近になって魔法を覚え始め、戦闘に関しても素人同然のこいつを連れて行くのは危険だからな。今回は何を言われてもヒルダと共に待っていてもらおう。

 

「ねぇレイジ、私も一緒に行ったら―――」

「駄目だ」

「どうして……なんて聞かなくても当然か。私じゃ足を引っ張るだけだもんね」

「それが分かっていて聞いたのか? だったら態々口にしなくてもいいだろう」

「確かにそうかもしれないけど、ただ待っているだけなのも不安だから。レイジの口からはっきり言ってもらわないと踏ん切りがつけられなくて」

 

不安と寂しさが入り混じったような顔でティファニアは目線を落とした。

本人も今回は役に立てないのは分かっているみたいだが、それでも何か手伝えないかと考えてしまう様だ。

難儀な性格をしているとは思うが、今回ばかりは駄目だ。

今回必要なのは魔法の力ではなく、隠密行動。ティファニアにそんな真似が出来るとは思えないし、今回ばかりは留守番だ。

 

「そんなに不安がる必要も無いだろう。パッと行ってパッと帰ってくる。だからお前は安心して待ってろ」

「……うん、分かった」

「兄様、気をつけてね」

 

心配そうにするヒルダに俺は頷いて答え、二人に背を向けて小屋の床に開いた穴へと飛び降りる。

穴に飛び降りて辿り着いた先は闇に包まれたトンネル。光源は一切無く、まさに一寸先は闇といった感じの横穴だが、共についてきてくれたサイフィスが風で先導してくれる。

俺はその風に逆らう事無くついていき、暗いトンネルの中を真っ直ぐ進んでいく。

 

暗い道を歩いていると段々この暗さに目が慣れてきたのか、ぼんやりとトンネルの中の道が見えてくる。

先の方までは流石に見えないが、足元と壁に何があるのか位なら判別出来る様になった。

極一部しか知らない秘密通路と言うだけはあってか、道は御世辞にも綺麗とは言えず、もう何年もの間放置されていたんじゃないかと言う印象を受ける。

こんなところ定期的に掃除なんかするはずもないだろうが、王族が城から脱出する際にこの道を使ったのだとしたら、手入れされていない事に文句でも言いながら逃げたんだろうか?

秘密通路の荒れ具合に思わずそんな事を考えながら先に進んでいると―――

 

『レイジ、そろそろ出口に着くわ』

 

―――サイフィスがそう教えてくれた。

その言葉を聞いて俺は気を引き締めなおし、目の前の階段を昇って城の中へと侵入する。

目の前に有る壁を少し押して中の様子を窺ってみるが、中に人の姿は無く、辿り着いた部屋の中は煩雑に物が置かれていた。

宝物庫……と言うにはお宝と呼べる様な物もなく、武器庫と言うには武器は殆ど置かれていない部屋。

恐らくは地下に造られた物置の様な場所なのだろう。城の備品と思われる物が数多くある。

なんでこんな所に秘密通路を作ったのかは分からんが、人気のない場所に出れたのは幸先がいい。

此処から侵入されたと気づかれないように壁を元に戻した俺は、脇目も刳らずに扉へと近付いて聞き耳を立てる。

扉の向こうから聞こえてくるであろう音に耳を傾けるが、どう言う訳か幾ら耳を傾けても足音一つ聞こえてこない。

幾ら遅い時間だからと言っても警備の者は起きて見回っている筈だから、足音くらいは聞こえてもいい筈なんだがな。

不思議に思った俺は、視線でサイフィスに視線で扉の向こうの様子を見てくるように合図を出す。

サイフィスもそれを察してくれたのか、何も言わず扉の下にある僅かな隙間から外へと出る。

 

そして暫しの間、サイフィスが戻ってくるのを物置の中で待つことに為ったが、思った以上に帰りが遅い。

ただ廊下の様子を調べてきてもらうだけなのに、五分近く待っても一向にサイフィスは戻ってこない。

アイツは生き物じゃなくて風の化身みたいなもんだから、ただの廊下を調べるのに五分も掛かるってのはちょっと考えにくいな。

城の中に俺と同じ様にサイフィスを視認出来る奴がいるのではと考えるが、流石にそれは考えすぎだろうと考えを改める。

やれやれ、これじゃティファニアに文句言えないな。普段からアイツに心配し過ぎだって言ってるのに。

今の自分の行動を思い返して自分の呆れていると、漸くサイフィスの奴が戻ってきてくれた。

 

『戻ったわレイジ。クロムウェルは三階の王の寝室で眠っているみたい。城を落として国を盗った気でいるのか、豪華なベットで高いびきをあげていたわ』

「……そうか。ところでサイフィス、俺はお前に廊下の様子を見てくるように頼んだつもりだったんだが」

『あらそうだったの? てっきり私は、クロムウェルの居所を探るよう頼んでいたのだと思ったのだけど』

 

どうやら俺とサイフィスとの間に多少のズレがあったらしく、サイフィスの戻りが遅かったのはクロムウェルの居所を探っていたからのようだ。

城の中を探っていれば戻りが遅いのも仕方がない事だが、俺の思いはちゃんと伝わっていなかったのか。

親父とお袋の様に、視線と仕草だけで相手の思いを汲み取れるようになるのは、どうやらまだまだ先になりそうだな。

 

「……クロムウェルを探す手間が省けたのはいいが、この扉の向こうはどうなってる」

『数は少ないけど、城の兵士が警備の為に巡回しているわ。ただ、城のあちこちにガーゴイルが鎮座していて、警備についているわね。この扉の向こうにも居るわよ』

「そうか。なら、そいつ等の首を音もなく切断できるか」

『その程度造作も無いわね。少し待っていて』

 

そう言うとサイフィスは扉の隙間を通って廊下へと出る。

サイフィスが出てすぐに扉は独りでに開き、誘われるがまま物置を出ると、扉の左右に設置されていた石像の首が浮んでいた。

 

『ご注文どおり音を立てずに切断したわよ』

「流石だな」

 

得意げな様子で言ってくるサイフィスを、俺は素直に称賛した。

サイフィスのお陰で気付かれることなく廊下に出る事が出来たが、それと同時にこれ以上もたついても居られなくなった。

首を切断してガーゴイルの動きを止めたのはいいが、巡回に来た兵士に首の無い石造を見られれば、たちまち騒ぎになる可能性だって有る。

どのルートで此処を通るのか分からない以上、さっさと三階にいるクロムウェルの元へと向かったほうが得策だろう。

 

「さてっと、騒ぎが起こる前にクロムウェルの元へ向かうか」

『そんなに急ぐ必要はないと思うけど?』

「だからといってのんびりしていたら見つかっちまう。こう言う時は焦らず迅速に、そして出来るだけ音は立てずにだ」

『……それを精霊の私に言われてもね』

「それもそうだな。……雑談はこれまでだ、いくぞ」

 

頭を切り替えた俺は、サイフィスの返事を待たずに物音を立てない様に注意しながら、廊下を駆けていく。

所々配備されているガーゴイルは、見つからないように頭上を跳び越し、音を立てずに着地して一気に駆け抜ける。

見回りの兵士たちは物陰に隠れたり、天井や柱の上部に張り付いたりしてやり過ごす。

階段も一段一段昇ったりしないで、手すりや壁を利用して一気に駆け上っていく。

特に騒ぎも起こる事なく、順調に先へと進めて入るが……俺が思っていた以上に巡回の兵士の数が少ない。

所々にガーゴイルを配備しているとは言え、これは余りにも無用心すぎる。

ほぼ大勢が決まっているとは言え、今は戦時中のはず。もっと警備を厳重にしてもいいと思うんだがな。

これだと上が無能なのか、それとも王族とそれに組する連中を一掃するために、兵の大半を一箇所に集中させているのか分からんな。

流石に無能な奴に国盗りが出来るとは思えないし、兵を一箇所に集中させていると考えるのが妥当だと思うが、それでもこれは手薄すぎる。

兵士がいなくてもガーゴイルがいるから大丈夫だと思っているのだとしても、もっと巡回の兵を配備させておくべきだろうに。

夜勤の兵に払う金を渋っているのか、そんな事を考えながら城の二階を突き進んでいると、ふと背後から何かの視線を感じる。

俺は咄嗟に物陰に隠れて後ろの様子を窺うが、そこに人影は無く、侵入に気づかれて騒ぎが起こっているようにも感じられなかった。

念のために少しの間辺りを警戒してみたが、結果としては何も起こらなかった。

 

『どうしたのレイジ』

「……いや、視線らしきものを感じたんだが、俺の気の所為か?」

『私が認識できる範囲では人は居ないわ。外に梟がいるくらいね』

「梟だけか?」

『えぇ。でも、こっちに巡回の兵士が向かって来てるから、調べている余裕は無いわよ』

「それは不味いな。気付かれる前にさっさと行こう」

 

梟の存在が若干気に為るものの、立ち止まっている余裕が無いため、無視して先へと進む。

巡回の兵が来なかったらサイフィスに調べてもらうんだが、優先すべきものを間違えちゃいけない。

俺は盗まれた指輪を取り戻す為に来たんだ。それ以外の事に構っていられるか。

自分にそう言い聞かせて梟の存在を無視し、クロムウェルが寝ている三階の寝室を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

先ほどの視線以降、これと言った問題も起こらず、難なく三階の寝室の傍にまで辿り着く事ができた。

寝室の前には案の定ガーゴイルが配備されいるものの、兵士の姿は見える範囲にはおらず、扉の前には石像が四つ置かれているだけだった。

幾ら逆賊とは言え、反乱軍の頭なんだからもっと厳重に警備していても良さそうなものだが、この程度の数しか居ないとは拍子抜けするな。

手薄すぎる警備に呆れながら、俺は手頃なゴミを廊下の奥へと向かって放り投げた。

ゴミはガーゴイルたちの前を通過し、ガーゴイルたちの視線は放り投げたゴミへと一斉に向けられる。

視線がゴミへと向けられた隙に俺は奴等に近付いて、手前の二体の首を切り落とす。

二体がやられた事に残りも直ぐに気づくが、騒がれる前に残りのガーゴイルの首も切り落とした。

切り落とした首は胴体からずり落ち、床に当たりそうに為るがその前にサイフィスが回収してくれたため、音も無く静かに邪魔な石像を排除できた。

 

『流石ね。でも、私に頼めばもっと楽だったと思うけど?』

「お前に頼んでばっかってのも気が引けるからな」

『別にもっと頼ってくれても良いのよ』

「そうか?」

『そうよ』

 

今でも十分頼りにしているんだが。思わずそんな言葉が出そうになったが、今は時間が惜しいため、口には出さず飲み込んだ。

俺はそのまま扉を開け、クロムウェルがいる寝室に忍び込む。

寝室と言うだけはあって、部屋の中には天蓋つきの大きなベットがあり、他にはクローゼットや洗面台などが置かれている。

天蓋つきのベットには、高い鷲鼻の金髪のオッサンが高いびきを上げて眠っていた。

熟睡しているのか俺が入ってきた事に気付いた様子もなく、放っておいても問題は無さそうだ。

眠っているオッサンを無視し、俺は手始めにクローゼットの中から調べ始める。

クローゼットの中には高そうな服が何着も入っているが、ソレとは別に箱が隠すように置いてあった。

箱の中には宝石などの貴金属類が入っている。所謂ジュエリーボックスと言う奴だろう。

高そうなものが色々と入っているが、この中にお目当てのアンドバリの指輪はないらしく、サイフィスから別の場所を探しましょうと提案される。

今度は洗面台の引き出しなどと開けて探ってみるが、ジュエリーボックスなんて物も無く、髪を整えるための櫛や香水なんかが入っているだけだった。

男が香水なんか使うのだろうか。思わずそう言ってしまいそうに為ったが、今は関係ない事なので黙っておく。

念のため、本棚の中も調べてみるが、結局お目当ての物は見つからなかった。

後探していない場所となると、オッサンが眠っているベットくらいなものだが、何が哀しくてオッサンが眠っているベットを調べないといけないんだ。

それに身に付けたまま眠っているとしたら、最悪オッサンの身体を調べなくちゃ為らない。……そう考えると一気にやる気がなくなってくる。

しかし、これも俺の目的の為だと自分に言い聞かせてベットに近づこうとしたとき、背後から何者かの気配を感じた。

俺は咄嗟に剣を抜いて振り返り様に切りかかるが、男が持っていた杖に何故か受け止められてしまう。

杖に受け止められた事に驚くが、よくその杖を観察してみると杖に緑色の光が纏わりついていて、その光が刃の様に形成されている。

その事から俺や親父の使うドラゴンブレードや、妖夢の断迷剣みたいに自身の魔力を杖に纏わせて刃を形成しているんだろう。

まさか異世界で自分が良く知る技に出会う日が来るとは思いもしなかった。

相手の杖に内心驚きながらも、仕切りなおすために後ろに軽く飛んで間合いを離す。

 

「……夜分遅くに何事かと思えば、閣下のお命を狙う逆賊とはな。魔法の使えない平民がよく此処までこれたものだ」

 

背後から俺に襲い掛かってきたのは、城を巡回している兵士ではなく、マントを羽織った位の高そうな金髪の青年だった。

青年の肩には一羽の梟が止まっていて、首をせわしなく動かしている。

 

『あの梟……二階で見かけた子ね。どうやらあの人間の使い魔だったみたい』

「使い魔に監視をさせて、自分は寝ていたのか? だとしたら給料泥棒だな。……サイフィス、予定変更だ。急いでヒルダたちを呼んできてくれ」

『あら。私が居なくても平気なの?』

「あの程度の輩ならなんとかなるだろ」

『それもそうね。なら、彼女たちが来る前に取り戻しておいて頂戴ね』

「分かってるさ」

 

俺の返事を聞くとサイフィスは、部屋の窓の隙間を通ってヒルダたちを呼びに行ってくれる。

アイツ等が此処に来るまで恐らく10分と掛からないだろうし、人が集まらない内に盗るもの盗っておくか。

 

「何を一人でゴチャゴチャと……。城に侵入しただけでは飽き足らず、閣下の命を狙う賊め。国家転覆を企てた罪で私が処断してくれる」

「ハッ。国家転覆とか何言ってるんだテメェ。先にアルビオン王家に反旗を翻したのはテメェ等だろ。そう言う台詞は王家を滅ぼして、新しい国を起こしてからいいな。反逆者」

 

俺の安い挑発で頭に血が上ったのか、青年は杖に魔力の刃を纏わせたまま俺に斬り掛かって来る。

煽られる事になれていないのか、怒りで視野が狭まっているらしく、太刀筋は雑で隙も多い。

この程度の腕前で俺に勝てると思っているようだが、この程度の輩にやられるような生半可な修行はしていない。

青年の雑な剣を捌き、がら空きと為った腹に向かって渾身の力で蹴り込む。

蹴られた青年は身体をくの字に曲げながら吹っ飛び、廊下の窓際の壁に激突する。

そのまま意識を失ってくれると楽だったんだが、流石にそう上手くはいかず、相手の意識はあるようだ。

 

「……う~ん、こんな夜中にいったい何事だ」

 

青年が壁に激突した音で眼を覚ましたのか、ベットで眠っていたオッサンが不機嫌そうに起きる。

こっちとしてはあの青年に用はないし、オッサンが起きたのなら指輪のありかを吐かせて、回収しよう。

そう思い、オッサンに近付こうとしたとき、視界の端に映っていた青年の周りに電気が発生している事に気付けた。

何かが来る。そう感じた俺は物陰に隠れようとするが、俺が隠れるよりも早く雷撃が放たれる。

青年から放たれた雷撃は俺の身体を貫き、全身に衝撃と激痛が一瞬にして走った。

 

「この私を蹴り飛ばすとは大したものだ……。だが、貴様のような魔法を使えない平民が何人束になろうとも、我等メイジに勝てるものかッ」

「えぇい、一体なんだというのだ! ちゃんと説明しろ!」

「このような時間に騒がせてしまい申し訳御座いません、閣下。今、閣下のお命を狙おうとした賊を退治したところで御座います」

「そ、そうか。だったらその死体をさっさと持って行け。死体があっては寝るに寝れん」

「ハッ」

 

オッサンの前で格好を付けた青年は、オッサンの命令通り俺を連れて行こうと近付いてくる。

今の一撃で俺を倒したと思い込んでいるのか、杖に刃を纏わせる事もせず、無防備な状態で俺の間合いに踏み込む。

青年が俺の間合いに踏み込んだ瞬間、全身に走る激痛を無視し、剣を振り上げた。

青年は俺が剣を振り上げようとしている事にギリギリで気付くも、俺の間合いの中に十分に踏み込んでいたため、避けきる事も出来ずに杖を斬られ、身体を触れた切先により切り裂かれる。

太刀筋に沿って血を流しながらその場で倒れこみ、青年は痛みに耐えるかのようにその場で蹲る。

 

「……相手が死んだか如何かも分からないのに不用意に近付きすぎだ。あの程度の雷撃でやられるほど、俺の身体は軟じゃないんだよ」

「き、さま……ッ」

「えぇい、この役立たず! こうなったら、貴様を我が意の侭に操ってくれる!! さぁ跪け!」

 

そう言ってオッサンは俺に向かって右腕を伸ばし、右手の指に嵌められた水色の玉石の指輪を見せ付けてくる。

どうやらあの指輪が目的の物らしく、水色の玉石が光るのを見て、俺はその場で跪いた。

 

「ふっふっふ。我が虚無の力に従えられぬ者はない。さぁ~て、貴様を如何してやろうか。平民にしては腕が立つ様だし、ただ殺してしまうのは惜しいか」

 

俺が指輪の力で跪いたと思っているのか、オッサンは勝ち誇った様子で近付き、俺の処遇を如何するか検討し始める。

指輪の力を信じて疑わないようだが、このオッサンも不用意に近付きすぎだろ。まったく。

 

「……やれやれ、過信し過ぎだな。こりゃ」

「ん? 何か言ったか?」

「いや、そろそろ迎えが来る頃なんでな。アンドバリの指輪はアンタの右腕ごと貰っていくぞ」

 

俺はオッサンの返事を待たず、立ち上がり様に剣を振り上げ、宣言どおりオッサンの右腕を切り落とす。

オッサンは何が起こったのか分からず、少しの間呆然としていたが、自身の腕から噴出す血と腕から走る痛みに漸く何が起こったのか理解する。

 

「……ひ、ひぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

品の無い悲鳴を上げながら、斬られた腕を押さえて蹲るオッサンを尻目に、俺は切り落とした腕を拾い上げて、指に嵌められていた水色の玉石の指輪を回収する。

コレがアンドバリの指輪だと思うが、サイフィスが居ないからイマイチ確証が持てないな。

 

「き、きさま、返せ。その指輪は私のものだ!」

「返せって、これはお前の物じゃないだろ。まったく盗人たけだけしいとはこの事か」

 

あくまで自分の物だと言い張るオッサンに呆れていると、騒ぎを聞きつけてぞろぞろと兵士達が集まってくる。

部屋の中で起こった惨事に誰もが目を丸くするが、集った兵士一人一人を相手にしてる余裕は無い。

 

「ご無事ですか、閣下!?」

「無事なものかッ! 早くその男を殺せ!」

「ハッ!」

 

俺は部屋に突入してこようとした兵士に向かって、オッサンの腕を投げつける。

先頭の兵士が腕を投げつけられて驚いている隙に部屋の窓を割り、そのまま躊躇わずに飛び降りた。

三階の窓から飛び降り、重力に従って下へ下へと落下していると、緋色の龍が大慌てで飛んで来るのが見える。

緋色の龍は全速力で俺の方へと飛んできて、俺はそのまま龍の背中に着地する。

俺を背に乗せた龍は力強く翼を羽ばたかせて、一気に高度を上げて城から離れていく。

 

「間に合った! もう兄様、無茶しすぎ」

「お前なら必ず来てくれると信じていたから飛べたんだよ」

「……調子がいいんだから」

「まぁまぁ。ところでレイジ、怪我は無い?」

「ああ。部屋の中で雷撃を一発もらったが問題はない」

「いや、問題あるよね、それ!?」

「そんな事より、アンドバリの指輪ってのはコレでいいのか」

 

文句を言いたそうなティファニアを無視し、俺はあのオッサンから盗って来た水色の玉石がはめ込まれた指輪をサイフィスに見せる。

 

『……えぇ、その指輪で間違いないわ』

「よっし。ならこれでアイツの頼みを達成したも同然だな。あとはこの国を出るだけか」

『そうだけど、簡単に出させてくれるかしら?』

「難しいだろうが、出さないって言うなら力尽くでも押し通るさ」

『それもそうね』

「そう言う事だ。それじゃヒルダ、全速力で逃げるぞ」

「わたし風龍じゃないからあまり速く飛べないけど、頑張れるだけ頑張ってみる」

「あぁ、頼りにしてるぞ」

「任せて!」

 

騒ぎ立つ城を尻目に俺達は夜の闇の中へと消えていく。

どの程度の規模の追っ手が掛かるか分からないが、何が来ても強引に押し通っていくだけだ。




侵入者によりレコンキスタの盟主とメイジが斬られた事にどよめき立つ城内。盟主が腕を斬られるという大事件により混乱を尻目に、黒髪の女性は一人で鏡の前に立っていた。
本来なら対象物を映し出すはずの鏡だが、鏡面に女性の姿は映し出されておらず、夜の闇に包まれた全く別の部屋が映し出されていた。

「ジョセフ様。起きて下さい、ジョセフ様」
「……なんだこの様な時間に」

女性が鏡に向かって声を掛けると、暗い風景が動き誰かが起き上がり、聞こえるはずのない男性の声が聞こえてくる。
寝起きだからか、その声はとても眠そうであり、無理に起された事に気分を害している様な感じだった

「このような時間に起こしてしまい申し訳御座いません。ですが、こちらで少々トラブルが……」
「トラブルだと? 態々私を起こさねばならないような事か?」
「はい。…さきほど城に賊が侵入し、クロムウェルの腕を切り、例の指輪を奪っていきました。メイジ一人も斬られています」
「……ほう。詳しく説明しろ」
「はっ」

鏡の向こうの男に説明を催促された女性は、嫌な顔一つせず城で起こった事件の事を話す。

「王国軍に止めを刺すべく、兵を一箇所に集め、手薄となっていたところを狙われたらしく、まんまと奪われたとのことです」
「……その賊と言うのはメイジか」
「いえ。話によれば身丈ほどの長さの剣を操る剣士だったと」
「剣士、つまりは平民か。くっくっくっく、面白い。貴族に不満を持っても、実際に刃向かう平民はいないというのに、その者は城に侵入しただけではなく、腕を切り落として見せるとは。大した度胸ではないか」

女性の話を聞いた男は鏡の向こうで声を殺しながら楽しげに笑う。
貴族が聞けば大騒ぎしかねない事件だと言うのに、その男はとても楽しそうに笑っている。

「ジョセフ様、いかが致しましょう」
「ふむ……。その賊の追跡はしているのか?」
「いえ。盟主の腕が斬られたと言う事で城内の混乱が酷く、未だに追跡部隊の一つ出せておりません」
「使えぬ連中だ。シェフィールド、お前はその逃げた賊の行方を追え。多少時間が掛かっても構わん」
「畏まりました。……クロムウェルの処遇はいかが致しましょう」
「放っておけ。壊れた道具に用はない。そんな事よりもその賊に興味が湧いた。なんとしても見つけ出せ」
「承知いたしました。それではお休みなさいませ、ジョセフ様」

女性は鏡の向こうの相手に頭を下げると、鏡は本来あるべき鏡面へと戻り、女性の事を映し出す。
城の混乱は今だ続いているが、女性はその混乱など気にも留めず、その部屋を後にした。
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