虚無のエルフと神殺しの竜   作:ベヘモス

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最近、大極竜玉が欲しくて『究極の甲殻』ってイベクエをやってるけど、大極竜玉よりも鎧竜の天殻の方が集る。今のところ使い道が無いから五つも要らんっての。

あ、今回は全編ティファニアの視点でお送りします。


第三十二話 赤い少女と青い少女

黒い竜に襲われるけど、突然降ってきた雷のお陰で難を逃れた私達。あの竜が私たちを襲う理由も、あの雷の事も何も分からないけど、皆が無事で本当に良かった。

もしあのまま戦いに為っていたら絶対レイジが無茶をするに決まってるもの。守ってくれるのは嬉しいけど、レイジが怪我をする所なんて見たくないよ。

 

「とりあえず全員無事だな」

「うん。でも、さっきの雷なんだったんだろう?」

「さぁな。なんかよく分からない奴に助けられたのは間違いないんだが」

「よく分からない奴ってなに?」

「俺も知らん。黒い竜を追い払った後、何処かへ飛んでいったからな」

 

なんだか要領を得ないけど、とりあえず私達は誰かに助けられたって事だけは分かった。

その助けてくれた相手が誰なのか、それはレイジも分かっていないみたいだけど、もしその人に会うことが出来たら今回のお礼を言いたいな。

助けてくれた誰かに心の中で感謝しつつ、黒い竜が襲っていた船の方に眼を向けると、誰かが私たちの方に向かって手を振るっているのが目に見えた。

人影は見えるんだけど、私の目じゃ手を振るっている相手が誰なのかまでは分からない。

私達に助けを求めて手を振るっているのかもしれないけど、流石にヒルダちゃんだけじゃ船の人たち全員は助けられないよね。

 

「……ねぇレイジ、あの船だけど―――」

「ウェールズの奴が乗ってるな。アイツ、皇子の癖にあんなところで何してんだ」

「え、あの人影ってウェールズ皇子なの?!」

「あぁ。……ティファニアには見えないのか?」

「人の輪郭は分かるけど、相手が誰なのかまではちょっと……」

 

私の目が悪い……って訳じゃないと思うし、多分レイジの目が良すぎるんだよね。

船までそれなりの距離はある筈なのに、この位置からウェールズ皇子の事が見えるなんて流石だね。

 

「それでどうするの兄様。あんな奴無視して下に降りる?」

「……それでも構わないがそう言う訳にもいかなさそうだ」

「どうして? お腹が空いてるとはいえ、あんなボロボロの船なら置き去りに出来るよ」

「いや、向こうがコッチに近づいてきてるんだよ」

 

呆れた様子でレイジがそう言うから船に眼を向けてみると、確かに私たちの方へ船が近付いてきている。

黒い竜に襲われてボロボロになっているけど、船はしっかりと飛んでいた。

あんな状態でコッチに来ようとしているのに、無視して行くのは流石に可哀そうだよね。……でもあの船、一体どうやって浮んでいるんだろう?

 

「このまま無視して行くのもアレだし、少し挨拶だけしていくか」

「……挨拶だけじゃ絶対にすまないと思う」

「まぁそういうな。それは俺も思っているから」

「だったらあんな人間なんか無視すればいいじゃない。兄様は物好きなんだから」

「……あのさ、ヒルダちゃん。もしかしてウェールズ皇子のこと嫌い? なんか態度が刺々しいけど」

「あの金髪だけじゃなくて人間自体が嫌い。あんな連中、好きになる理由がないもん」

「そうだったのか。……まぁなんとなくそんな気はしてたが、俺とティファニアは半分は人間だぞ」

「兄様とティファニアはいいの!」

「なんだそりゃ」

 

ヒルダちゃんの言葉にレイジは呆れた様子で笑う。

レイジの言うように私たちには人間の血が半分流れてる。その事を気にするなら、私たちはヒルダちゃんに嫌われても不思議じゃない。

でも、ヒルダちゃんは私達はいいって言ってくれた。それって私達に流れている血を気にしないくらいに、ヒルダちゃんが私達に心を開いてくれているって事なのかな。そうなら嬉しいな。

 

「まぁヒルダの好き嫌いは置いておいて、ウェールズの奴に挨拶していくぞ」

「そんな事よりわたしのご飯は?」

「……あとで何とかするから我慢してくれ」

「むぅ……」

 

不満そうな声を挙げながらも、ヒルダちゃんは翼を羽ばたかせて船の方へと飛んでいく。

ヒルダちゃんはなんだかんだ文句を言いながらも、レイジの言う事をちゃんと聞く。

兄様って呼んでいるくらいだもの。ヒルダちゃんはレイジの事を慕っているんだね。

そう考えると少し微笑ましい様な気もするけど、それを口にしたらきっとそんな事無いって否定しそうだから黙っていよう。

 

そんな事を考えていると、ヒルダちゃんは直ぐに船と合流した。

ヒルダちゃんは船の甲板よりも高い位置を静止したから、なんだか私達が船の乗組員さんたちを見下ろすような形になってしまう。

ウェールズ皇子が乗っているんだし、もう少し高度を下げて目線を合わせる様にした方が良いと思うんだけど、ヒルダちゃんはそうするつもりはないみたい。

流石に皇子を見下ろすのはどうなんだろうって思うけど、甲板にいるウェールズ皇子は嬉しそうな顔で私たちの事を出迎える。

 

「レイジ君、ミス・ティファニア。久し振りだね。どうやらまた君達に助けられた様だ」

「久し振りと言うほど時間は経っておりませんよ、ウェールズ皇子。それに今回のは向こうが逃げただけですので、お気に為さらないで下さい」

 

レイジがウェールズ皇子に丁寧な言葉遣いを使っている事に、私は思わず驚いてしまう。

あのレイジがこんな言葉遣いをすることなんてまずないし、最初にお会いしたときもレイジは普段と何も変わらない態度と言葉遣いだった。

あの時は森の中だったし、人の眼も余りなかったから直さなかったんだろうけど、今回は船に多くの人が乗っているから気をつけているのかな。

……でも、ヒルダちゃんが高い位置で静止したから見下ろす形に成ってるし、レイジがこんな言葉遣いをするのもなんか凄く変な感じ。

 

「あ、アンタ達、こんな所で何してるのよ!?」

「その喧しい声は……桃髪? お前こそこんな所で何してるんだ」

 

レイジが素の口調に戻り、視線を右に向けるとそこには何故かルイズさんと、羽根突き帽子を被ったお髭の男性がいた。

帽子の人は確か……トリステインの漁村で会った、ワルドさんだったかな。魔法衛士隊の隊長さんだったと思うけど、なんでトリステインの人達がアルビオンに、ウェールズ皇子と一緒に居るんだろう? それにサイトさんの姿も見えないけど、船の中にいるのかな。

 

「相変わらず無礼な奴ね。その態度いい加減改めないと牢に入れられるわよ。あと、ウェールズ皇子を見下ろしてるんじゃないわよ!」

「そう言うお前も相変わらず喧しい奴だが、その態度を見るにちゃんと元に戻れたみたいだな。良かったじゃねぇか」

「あ、あの時の事は忘れなさい!」

「…? 何の話をしているんだルイズ。あの時とは一体―――」

「わ、ワルド様はお気に為さらないでください。これは…その……ちょっとした事故がありまして」

「事故?! それは大事じゃないか! どうしてもっと早く教えてくれないんだ。どこか怪我はしていないかい? 具合の悪い所とかは―――」

「だ、大丈夫ですってワルド様。もう終わった事ですし、ご覧の通り私は元気です」

「そうか、それなら良いさ。でも、次からはもっと早く話しておくれ。君にもしもの事があったら、私の胸は張り裂けてしまう」

「……はい」

 

ルイズさんとワルドさんは人目も憚らず、甲板の上で仲良さそうにしているけど……あの二人の態度になんだか違和感を感じてしまう。

あの二人の間に温度差があるって言えばいいのか、ワルドさんは真剣に心配しているのに、ルイズさんは少し困っていると言うか、迷惑がっているようにも見えてしまう。

あの二人の関係が良く分からなくて私は首を傾げるけど、レイジはあの二人にもう興味がないのか、既に視線をウェールズ皇子の方に戻していた。

 

「ところで、何故ウェールズ皇子がこの様な所に居られるのですか。もしかして以前仰っていた海賊の真似事とやらですか」

「その通りだ。レコン・キスタとの決戦も近いから少しでも敵の物資を集めておきたかったんだが、その帰り道であの黒い竜に襲われてね。君達が通りかからなければ沈められていた」

「そうですか。しかし、皇子自ら海賊の真似事とは……それほどまでに手が足りないと」

「あぁ。軍と呼べるほどの人数もいないからね。私も形振り構ってはいられないのさ」

「さようですか。……今回は運が悪かったとは言え、こんな事で兵を失ったら意味ないだろ」

 

レイジは呆れた様子で私達にしか聞こえないくらいの小さな声で呟いた。

その呟きに私はなんて声を掛けたらいいか戸惑っていると、突然ヒルダちゃんが船とは違う方向を振り向く。

ヒルダちゃんは何かを警戒するように低く唸り声を挙げ、レイジもヒルダちゃんが向いている方向に視線を向けながら、背中の剣に手を伸ばす。

私は一体何が来ようとしているのか分からず、ただ成り行きを見守っていると……アルビオン大陸とは反対側、地上の方から数名の人間を乗せた青い竜がコッチに向かって飛んできている。

その竜を見たとき、私は反乱軍の人たちに見つかったのかと思い警戒したけど、青い竜の背中には私の知っている人たちの姿が在った。

 

「追いついたぞ、ルイズ! 無事か……って、なんで零児たちがいるんだ?」

「それはコッチの台詞だ黒髪。どうも変な縁があるみたいだな、俺ら。……出来る事なら断ち切ってしまいたい」

「会って早々ひでぇこと言うな、おい!」

 

青い竜に乗ってきたのはサイトさんとギーシュさん。それとラグドリアン湖で会った赤い髪の子と青い髪の子。名前は……なんて言ったかな? ちゃんと自己紹介してないから分からないや。

 

「サイト! それに皆も無事だったの!?」

「皆のお陰で何とかな。……実際死ぬかと思ったけど」

「よく無事だったね君たち。私も心配していたよ」

「ワルド……」

 

サイトさん達の無事を喜ぶルイズさんとワルドさんとは逆に、青い竜に乗ってきた皆の反応は冷たい。

特にワルドさんに対するサイトさんの目は厳しく、なんだか怒っている様な、恨んでいる様な気さえする。

此処まで来る道中に何があったのかは分からないけど、あの二人の関係はあまりよくないと言うことは私でも分かった。

 

「……ところで皇子、何時まで此処に留まっているお積りですか。先の事もありますし、あの竜が戻ってくる前に早々に移動するべきだと思いますが」

「ん、あぁそうだね。…総員配置に付け! あの黒い竜が戻ってくる前にこの空域を抜け、全速力で城へ戻るぞ!」

「「「「「はっ!」」」」」

 

ウェールズ皇子の号令を合図に船員さんたちが一斉に動き始め、お城へと向かうために船の針路を変える。

黒い竜の所為で限界が近いのか、ボロボロの船が動くたびに木片が落下していく。

正直お城まで辿り着けるのか不安だけど、進む事はできるみたいだし多分大丈夫……だよね。

 

「……レイジ君、すまないが君達も一緒に来てくれ。君とは少し話がしたい」

「ま、そうでしょうね。分かりました、ご一緒させて頂きます」

「えぇ~。兄様、やっぱり行くの」

「こうなる事は分かっていただろ。我慢してくれ」

「むぅ~……」

「不貞腐れないでヒルダちゃん。お腹空いてるのは皆一緒だから」

「そうじゃなくて、人間が大勢いる所に行きたくない」

「あ、そっちなんだ」

 

ヒルダちゃんが不貞腐れる理由に思わず苦笑いを浮かべていると、私とレイジ以外の皆が信じられないモノを見るような目でヒルダちゃんの事を見ていた。

 

「ね、ねぇ貴女達、その竜ってもしかして韻竜なの? 既に絶滅したと言われる韻竜を使い魔にするなんて、どれだけ才能が―――」

「おい、桃毛。次にわたしの事を〝韻竜〟なんて呼び方をしたらその頭を噛み砕くぞ。わたしは古の時代から存在する龍の末裔だ。そんな呼び方をするな」

 

ルイズさんの呼び方が気に入らなかったのか、ヒルダちゃんは怒りを顕わにしてルイズさんを睨みつける。

ヒルダちゃんが怒るのと同時にヒルダちゃんの身体が凄く熱くなって、乗っているのが辛くなってくる。

ロサイスの時みたいに炎は纏っていないけど、このままだとちょっと危ないかも……。

なんとかヒルダちゃんの怒りを静める方法はないかと考え始めた矢先、レイジはまるで子供を眺めるかのように優しい手つきでヒルダちゃんの頭を撫で始めた。

 

「落ち着け、ヒルダ。腹が減って気が立っているのは分かるが、アイツに噛み付いても仕方がないだろ」

「でも兄様! あいつが―――」

「だから落ち着けって。アイツ一人殺したところで他の連中が呼び方を変える訳じゃない。だったら、アイツ等の戯言なんて聞き流すくらいでないと、やってられないだろ」

「………………」

「それにだ、お前が怒ると体温が上がるみたいだからな。そろそろ落ち着いてくれないとティファニアがやばい」

「……分かった、我慢する」

「いい子だ。……ま、そう言う訳だからお前等も気をつけてくれよ。俺もそう何度も止められないからな」

「え、えぇ……気をつけるわ」

 

ヒルダちゃんの怒りが収まるのと同時に、ルイズさんはその場に座り込んでしまう。

ワルドさんは直ぐにルイズさんに手を差し出して立ち上がらせようとするけど、ルイズさんは腰を抜かしているのか立ち上がることは出来なかった。

それを見たワルドさんはルイズさんを抱き上げて、そのまま船室へと戻ってしまう。

抱き上げられたルイズさんは恥ずかしそうにしながら、サイトさんの様子をしきりに窺っていたけど、何も言わずにワルドさんに連れられて船の中へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

ボロボロの船がお城に辿り着く頃にはお日様も大分傾いていた。

飛んでいる途中で船が壊れないように慎重に飛んでいたからか、お城に着くまでにだいぶ時間が掛かった。

目が覚めてから碌に食べずに来たから、私とヒルダちゃんの空腹はそろそろ限界に近い。

ウェールズ皇子がレイジに何の用なのか分からないけど、お城に付いたらまずは食事にしてもらいたいな。

 

「ウェールズ皇子! ご無事でしたか! 帰りが遅いので皆が心配しておりましたぞ」

「すまない。敵の物資を奪った帰りに例の黒い竜に襲われてね。戻るのが遅くなってしまった」

「さようでございますか。……ところで、そちらの方々は? 見たところ貴族の方々のようですが」

「彼等はトリステインから来た客人で、赤い竜に乗っているのは以前に話した私の命の恩人だ。丁重に持て成してくれ」

「畏まりました」

 

出迎えてくれた臣下の方に、ウェールズ皇子は私たちの事を紹介してくれた。

そんな皇子と臣下の方の話を他所に、レイジはヒルダちゃんに少し離れた所に下りるよう指示を出す。

ヒルダちゃんはレイジの指示通りの場所に着陸するけど、地面に降りた瞬間に限界が着たのか、地面に倒れ伏せて動かなくなる。

 

「だ、大丈夫ヒルダちゃん?」

「お…おなかすいた……」

「此処までよく頑張ってくれたな、ヒルダ。ありがとう。それと、無茶をさせて悪かった」

「そんなことよりごはん……」

「あぁ分かった」

 

そう言いながらレイジは疲れ果て、地面に倒れ伏すヒルダちゃんを労うように頭を優しく撫でる。

撫でられるヒルダちゃんを少しだけ羨ましく思いながら眺めていると、レイジは私たちの元を離れ、ウェールズ皇子の元へと向かう。

 

「ウェールズ皇子、少しお時間を頂いても宜しいですか」

「あぁ、なんだい」

「見ての通り私の連れがお腹を空かせているので、出来れば食事を取らせてあげたいのですが」

「それなら構わない……と言いたいところだが、生憎と私達も逼迫していてね。君と彼女の分ならともかく、竜の食事となると流石に厳しい。すまない」

「いえ、この状況下で無理を言っているのは私の方です。皇子はお気に為さらないで下さい。しかし、そうなると……仕方がないか。ウェールズ皇子、先ほど仰っていたお話の件ですが、後にさせて頂いても構いませんか」

「それは構わないが、何をするつもりだい?」

「いえ、あの子の食料を確保しに少しばかり狩りに出ようかと思いまして」

「この時間から? ……いや、でも、君の実力なら問題はないか。よし分かった。なら兵士に門まで案内させよう」

「ありがとうございます。それではまた後ほど」

 

ウェールズ皇子にお礼を言ってから頭を下げたレイジは、頭を上げたら直ぐに踵を返して、私たちの元へと戻ってくる。

 

「……話は聞こえていたと思うがそう言う事だ。ちょっとばかし行って来る」

「うん、分かった。気をつけてね、レイジ」

「あぁ」

「にいさま、おおものをおねがいね」

「分かったよ。……それじゃ行って来る。直ぐに戻るから少し待ってろ」

 

そう言ってレイジは兵士さんに連れられてヒルダちゃんのご飯を獲りに出かける。

レイジだってお腹が空いている筈なのに、そんな素振りを見せないで何時もと変わらない様子で歩いていく。

あぁ言う所は流石だなって感心しちゃうけど、自分だってお腹が空いてるんだから、何か食べてから行けばいいのに。

感心しつつも呆れながらその後姿を眺めていると、何時の間にか青髪の女の子が私たちの傍にやって来ていた。

何時の間にやってきたのか全然気が付かなかったけど、青髪の子も私と同じ様にレイジの後姿を眺めている。

私はレイジとその子を何度も見返すけど、二人の接点がこれと言って思い浮かばない。

レイジは私とずっと一緒にいたんだし、この子と知り合うことなんてまずなかったと思うけど……。

 

「……………」

「……………」

「……なに?」

「え、あ、いや、その…レイジの事を見てたけど、何の用なのかなって」

「別に大した用じゃない。だた、彼に少し話があるだけ」

 

そう言って青髪の子はレイジの事をジッと見つめているけど、この子の事を見ていると何故か危機感のようなものを感じてしまう。

この子に対しての苦手意識……とはちょっと違うかな。そう言うのとは根本的に何かが違うと思う。

どうしてこの子に危機感を懐いているのか、私にも良く分からないけど、レイジの事をジッと見詰めているのがちょっと嫌だな。

よく分からない危機感に私自身困惑していると、ウェールズ皇子がこちらへやって来ていた。

 

「ミス・ティファニア。先の話は聞いていたと思うが、君は如何する? そちらの竜の分は無理でも、君の分の食事なら用意できる筈だ」

「お心遣いありがとうございます、ウェールズ皇子。ですが、私はレイジが戻ってくるのを待ちます」

「いいのかい? 彼の実力なら問題はないと思うが、一度狩りに出たら簡単には戻ってこないと思うが」

「はい、大丈夫です。それにレイジは直ぐに戻るって言いましたから、私だけ先に食べる訳にはいきません。ご飯は彼が帰ってきてから一緒に食べます」

「そうか。それなら城の者に伝えておこう。それでそちらの君は……あれ、まさか貴女は―――」

「私も彼を待ちます。彼には聞きたい事と伝えたい事があるので待ちます」

「そ、そうか。……しかし、何故貴女が此処に?」

 

ウェールズ皇子は困惑した様子で青い髪の子を見ている。

もしかしたらお知り合いなのかもしれないけど、青髪の子はウェールズ皇子を顔を合わせようともしない。

お友達にしては随分と仲が悪そうに見えるし、二人は一体どういう関係なんだろ?

 

「タバサが残るっていうならワタシも残ろうかしら」

 

私たちの元に突然赤い髪の子がやってきて、自分も此処に残るって言い出してきた。

レイジに用があって残るって言う訳じゃないみたいだからいいけど、皆して突然やってきすぎだよ……。

 

「キュルケ。別に無理に付き合わなくてもいい。これは私の仕事」

「そう言う事言わないの。第一、貴女達だけにしたら凄く空気が悪くなりそうだしね。折角の機会なんだから、少しくらいは親睦を深めてもいいじゃない」

「……………」

「そう言う事なら後の事は貴女に頼みます。貴女達の食事と部屋の準備もさせておくので、好きな時に城の者に声を掛けてください」

「ありがとうございます、ウェールズ皇子。それでは後の事はワタクシにお任せを」

 

赤い髪の子がそういうと、ウェールズ皇子は一つ頷いて私たちから離れていく。

そしてウェールズ皇子はルイズさんやワルドさん達と一緒にお城の中に入っていった。

サイトさんは此処に残ろうとしたけど、ルイズさんとギーシュさんに無理やり連れて行かれたみたい。

あの人もレイジに用があったみたいだけど、どうして今日に限ってレイジの元にこんなに人が集るんだろう? 普段は私たちしかいないのに……。

レイジの周りに人が集る状況に、どうしてか不満を感じていると、赤い髪の子が私に話しかけてきた。

 

「……さて、こうしてお話しするのは初めてよね。ワタシはキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。気軽にキュルケって呼んでいいわよ。それでコッチの子はタバサ。ちょっと無口だけど、悪い子じゃないから仲良くしてね」

「あ、初めまして。私はティファニアって言います。宜しくお願いします」

「よろしくね。……それにしても、学院で見たときから思ってたけど本当に綺麗ね。顔は整ってるし、髪も綺麗。胸は大きいのに線は細い。……悔しいけどワタシよりも美人ね」

「あ、ありがとうございます」

 

赤い髪の子―――キュルケさんは、私の事をジロジロと見ながら綺麗だと褒めてくれる。

褒めてくれるのは素直に嬉しいんだけど、人に見られるのはやっぱり慣れないな。服を変えてから大分マシになったけど、何時に為ったら慣れるんだろう。

 

「え、えっと、キュルケさんとタバサさんはアルビオンに何しにきたんですか?」

「ワタシ達はただのオマケよ。この国に用があったのはルイズ達だし」

「ルイズさんが? 一体何をしに来たんだろう。まだ戦争が終わったわけじゃないのに……」

「目的までは聞いてないわ。でも、魔法衛士隊の隊長さんが一緒にいる位だし、かなり重要な事だって言うのはたしかね」

「……それが分かっていながら此処まで来るキュルケは物好き。それに付き合う私も同じ」

「だってこんな事に為るなんて思ってなかったんですもの。あ~ぁ、こんな事に巻き込まれる位なら学院で大人しくしていれば良かった」

「…? 何かあったんですか?」

「遭ったのよ。ワタシ達、この国とトリステインを結ぶ港町のタルブって町で滞在してたんだけど、そこで野党の襲撃があったのよ。数も多い上にメイジまでいて酷かったわ。衝撃してきた野党やメイジはワタシ達と、町の自警団がなんとかしたけど、あのワルドって衛士隊の隊長さん。混乱に乗じてルイズだけ連れて先に行っちゃったのよ」

「先に行ったってえぇ!? 町の人たちや皆さんを置いて行っちゃったんですか?!」

 

キュルケさんが話してくれた信じがたい話に、私は思わず大声を出してしまう。

この人が私に嘘を話している…ようには見えないし、もしそれが本当だとしたらとんでもない事だよ。

 

「そうよ。襲撃の最中、町を離れようとする貨物船に飛び乗ったらしいけど、酷い話しよね。ワタシ達どころか町の人たちも見捨てたんだから」

「……そっか、それで合流した時の皆さんの目が冷たかったんだ」

「ダーリンに関してはそれ以外にもあるみたいだけどね。でも、あの隊長さんは見損なったわ。どんな任務を受けたのか知らないけど、町の人たちを見捨てるなんて信じられない」

「ですね。あの人はレイジの手柄を横取りするような人ですし、私もあまり信用できる人じゃないと思います」

 

キュルケさんの話を聞いて、私はあの村での出来事を思い返す。

あの時は本当に苦労して倒したのに、何食わぬ顔であの人はその功績を奪っていった。

レイジは全く気にしていない様子だったけど、私は本当は渡したくなかった。あの竜をレイジが倒した事を褒めてもらいたかった。レイジの事を認めて欲しかった。

でもそれが出来なくなって、私は本当に歯がゆい思いをしたのを今でも覚えてる。

 

「あら、貴女達もしかして知り合い? 彼の手柄を横取りって何をしたの?」

「知り合いと呼べるほどの仲ではありません。ただ、トリステインの漁師の村で会った事があるだけです。その村は凄く大きな海竜に荒らされていて、船が何隻も沈められて困っていたんです。そこに私たちが訪れて、その暴れる海竜を倒したんですけど……後からやって来たグリフォン隊の人たちが、あの人たちが竜の死体と手柄を寄越せって言って来たんです。レイジが傷付きながらも倒した相手だし、私としては渡したくなかったですけど、彼は村の人たちに支援する事を条件に渡しちゃって……」

「……それってもしかして、黒いラギアクルスの事? 普通じゃ考えられないサイズだったって、あの隊長さんが自慢げに話してたけど、本当に彼が倒したの? ちょっと信じられないわね」

「本当です! 私は嘘なんか付いてません!」

「ッ?!」

「レイジは本当に強いんです。私の家を壊した黒い竜も撃退したし、怒って暴れるヒルダちゃんを止めたし、学院に現れた竜もレイジは一歩も引かず戦ったし、ガノトトスとか言う足の生えた魚の頭を刎ねたり、新型のガーゴイル五体を一瞬で斬り捨てたり出来るんです! レイジの強さは本物です!!」

「分かった、分かったわよ。……思ったよりも感情的ね、貴女。そう言うの嫌いじゃないけど」

 

キュルケさんが信じてくれなかった事に思わず反論してしまったけど、自分でも驚いてしまうくらいに感情的だった気がする。

今までこんな風にムキになる事なんかなかったから、自分でも少し戸惑っちゃうな。

 

「ご、ごめんなさい、キュルケさん。私ムキになっちゃって」

「あぁいいのよ。ワタシは全然気にして無いから」

「……でも、さっきの話、あまり人前でしないほうがいい」

「えっ?」

 

キュルケさんと話していたら、タバサさんが会話に入ってきた。

私は彼女の言葉を聞き流す事が出来ず、驚きながら彼女の方を振り向く。

 

「彼が強いと言うのは私も同意する。けど、ハルケギニアに住む人の大半、特にメイジたちは剣士は弱いものだと思っている。竜の討伐はメイジでも命がけだから、剣士が倒したなんて話は誰も信じようとしない。メイジである貴女に協力したと言うなら信じてもらえると思う」

 

タバサさんは淡々を思った事を口にしているけど、彼女の言葉に私は凄く落ち込んでしまう。

もしタバサさんの言っている事が本当だとしたら、この先レイジは誰にも褒めてもらえない。認めてもらえない。

あんなに頑張っているのに、傷付いてまで戦ってくれているのに、誰にも認めてもらえないなんて、そんなの哀しすぎるよ……。

 

「……でもそれだと褒められるのは私で、レイジを褒めてくれる人は誰もいない。私は彼が戦う所を見てるしか出来ないのに、私だけが褒められるなんて……そんなの嫌だよ」

「だったら話さなければいい。嘘だと思われるのも、自分だけが褒められるのも嫌なら、胸に秘めたまま黙っていればいい。そうすれば嘘だと思われることも称賛される事もない」

「……………」

 

タバサさんの言葉に私は何も言い返せなくなった。

彼女の言うように、私が黙っていれば嘘だと思われることも、私だけが褒められる事もない。……でも、本当にそれで良いのかな? 私が彼にしてあげられる事ってそんな事しかないのかな。

 

「はいはい、そこまでにしておきなさいタバサ。貴女の言っている事が間違いではないけれど、それ以上は言いすぎよ」

「……………」

「そこでだんまりを決め込まないの。……ごめんなさいね、この子も悪気がある訳じゃないのよ」

「……いえ、大丈夫です」

「まぁタバサの言うように信じられないって言うのは本当よ。でも、ワタシは貴女の言っている事が嘘だとも思っていないわ。あんなに真剣な表情で好きな人の自慢話をされたら、嘘だなんて思えないわよ」

「別に自慢話をしてる訳じゃないですし、私は彼の事を好きなのかも分かりません。ただ、レイジにしてあげられる事はないのかなって。私の魔法は一度使うと後が続かなくて戦いの役には立て無いから、それ以外の事で役に立ちたくて……」

「う~ん……直接会って話してみないと何とも言えないけど、そう言う事されても喜ばないと思うわよ」

「そうでしょうか?」

「そうよ。むしろ鬱陶しがって邪険に扱いそうね。彼みたいなタイプは……そうね、傍で支えてあげる方がいいんじゃないかしら。見ているだけなのは辛いかもしれないけど、貴女が傍にいるだけで彼の力になれているわよ」

 

傍にいるだけでレイジの力になれる。本当にそんな事があるとは思えないけど、でも、もしそうなれたらレイジが無茶をしなくても済むようになるのかな。

私の魔法じゃあまだ一緒に戦う事は出来ないけど、傍に居る事で彼を支えてあげられる……そう言う私に為れたらいいな。

 

「……本当にそうだと嬉しいです。ありがとうございます、キュルケさん。なんか相談に乗ってもらっちゃったみたいで」

「別にいいわよ。ま、恋愛相談ならワタシに任せなさい。こう見えても何人もの男性を付き合ってきたから経験豊富なのよ」

「ただし、誰一人として長続きはしていない」

「ちょっとタバサ! 今はその事を言わなくて良いのよ!」

「だけど事実。こう言う事はバレる前に言っておいた方がいい」

「確かにそうだけど~……。折角かっこよく決めてたんだから、最後までいい格好させなさいよ」

「私はキュルケが恥を掻く前に手を打っただけ」

「……ぷ、ふふ」

 

二人のやり取りがなんだか面白くて、いけないと思いながらもつい笑いが込み上げて来る。

キュルケさんとタバサさんは性格は正反対の様に見えるけど、お二人にはこれが丁度良いのかもしれない。

 

「ちょっとティファニア。笑わなくたっていいじゃないの」

「ご、ごめんなさい。お二人のやり取りが面白くてつい」

「失礼しちゃうわね、まったく。……まぁいいわ、笑ってくれたお礼も兼ねて貴女達の事、色々と聞かせてもらうわよ」

「話せる限りのもでよければ」

「全然構わないわよ。彼を待つ間の暇潰しにもなるしね。……と言う訳だからタバサ。アンタもちゃんと話に混ざりなさいよ」

「……なんで私まで」

「なんでも何もないわよ。折角の機会なんだから色々と話を聞こうじゃないの」

「……分かった」

「うん、よろしい」

 

明るいキュルケさんと、無口なタバサさん。やっぱり二人の性格は正反対だと思うけど、このお二人にはこれで良いのかもしれない。

私とレイジの関係とはまた違うけど、こんな風に気軽に話せる友達がいるって言うのは少し羨ましいかな。




……戦闘があったわけでもないのに、文字数が一万を超えるとは。
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