本当はもっと早く更新したかったけど、どうもやる気が起きなかったので、更新が遅れてしまいました。
多分今後も今回みたいに更新が遅れる事があるかもしれません。
それと今回の話は普段より短めです。というか、前回が長すぎた。
ウェールズたち王国軍が拠点にしている城の近く広がる森の中。そこで俺はヒルダの分の食料を探していた。
既に時刻は夕暮れを越えて空には一番星が輝き始めている。この時刻となると夜行性の獣以外は積極的に活動しなくなる為、あまりのんびりと森の中を散策していられない。
ティファニアには早く帰ると言っているし、さっさと獣を狩って城に戻りたいんだが……頑張ってくれたヒルダの事を考えると、普通のサイズの獣では物足りない。
頑張ってくれたアイツを労うためにも、大物を狩りたい所だが……流石に欲張りすぎだろうか?
もう少し探して見つからないようなら目に付いた獲物を狩る事にしよう。
そう思いながら森の中を歩いていると、俺の少し先の所を大きな猪が歩いているのを見つける。
向こうも俺の事を認識したのか、こっちを見詰めながら鼻息を荒くして右前脚で地面を抉る。
昔、故郷で見かけた猪と比べると少々小ぶりではあるが、ヒルダの腹を満たすには十分なサイズだろう。
俺が背中に背負った剣の柄に手を伸ばし抜刀すると、猪も俺に向かって突撃して来る。
猪は周囲に生える木々を物ともせず薙ぎ倒し、真っ直ぐこちらへと全速力で駆けてくる。
俺は寸前の所で猪の突撃を躱し、擦れ違い様に剣を振り上げ、猪の喉を掻っ捌く。
動脈と共に喉笛を切り裂いたため、巨大な猪は断末魔の悲鳴を上げる事はなかった。
猪は突撃して来た勢いを殺す事ができず、転ぶように倒れてそのまま数mは地面を滑る。
そして猪は首から血を流しながらよろよろと立ち上がり、俺の方を振り返る……が、そこで力尽きたのかそのまま倒れて絶命する。
俺は剣に付いた血を振り払ってから納刀し、今しがた斬った猪に近付く。
そして猪を鷲掴みにし、そのまま持ち上げようとするが見た目通りの重量があるため、流石に片手では持ち上げる事ができない。
竜化すればこの程度、造作もなく持ち上げられるが……流石に変身して戻るわけには行かないか。直ぐ近くだし。
そんな事を考えていると、血の匂いにつられたのか肉食と思われる獣の群れが周囲を取り囲んでいた。
コイツ等も腹が減っているのか、俺が狩った猪を横取りしようと企んでいるんだろうが、流石にコイツをくれてやる訳には行かない。
かといって、一体一体切り払っていくのも時間が掛かる上に面倒だ。
だから俺は自分の中に眠る竜の力を軽く解放し、周囲を取り囲む獣達を威嚇する。
「……俺はお前らに用は無いが、どうしてもと言うなら少しだけ遊んでいくか?」
力を解放したまま剣の柄に手を伸ばそうとした瞬間、周囲を取り囲んでいた獣達は脇目も刳らずこの場から逃げていった。
周囲に獣達がいない事を確認した後、俺は解放していた力を抑え込み、元の状態に戻る。
軽く解放していた程度だから、反動自体は大したことは無いが、飯も食わずにここまで来たから流石に腹が減ってきた。
さっさとこの肉をヒルダに届けて俺も食事にしよう。そう思いながら猪の方に向き直ると、サイフィスの奴が俺の元へとやって来た。
『レイジ』
「サイフィスか。コッチに来てティファニアの方は大丈夫なのか?」
『えぇ、心配ないわ。それよりも貴方、さっき力を解放したでしょ。何が遭ったの?』
「いや、大した事じゃねぇよ。俺が狩った猪を横取りしようとした獣どもを脅しただけだ」
『そう。ただ狩猟に行っただけなのに、力を解放するなんて何事かと思ったら……』
「なんだ。城にいても俺の力を感じ取れるのか」
『当然よ。貴方の力なら世界の果てにいても感じ取れるわ』
「そいつはスゲェな。ところでサイフィス。この猪を城まで運んでくれないか。力を抑え込んだ状態だと重くて無理そうだ」
『それくらい構わないけど、貴方が力を解放すれば良いだけの話ではないかしら?』
「腹が減って無理だ。流石の俺も空腹には勝てん」
『……やれやれ仕方の無い子ね』
サイフィスは呆れたようにそう呟くものの、風で巨大な猪を浮き上がらせてくれる。
これでなんとか猪を運んでいくことが出来そうだが、城の中に運ぶときは如何するか。
このまま城内に入ったら周りの連中に勘繰られるかもしれないし、あまり目立つ様な事はしたくない。
何か方法はないかと考えながら森の中を歩いていると、突然頭上に大きな影が落ちる。
突然の影に驚き、空を見上げてみると俺の頭上をあの黒い竜が城の方に向かって飛んでいるのが見えた。
俺は急いで森を抜けて城の状態を確認する……が、城は俺が出たときと何も変わらず、城内で何か騒動が起こっているようにも見えなかった。
「……なんともない、みたいだな」
『そうみたいね。あれ程の竜なら城を落とせるでしょうけど、リスクも大きいからそれを避けたね』
「アイツにそこまでの知性があるとは思えないが?」
『それ位の知性がなければ、今頃城を襲っているわよ』
「……それもそうか」
『それより、このファンゴをどうやって城内に運ぶの? 私が浮かせたままでは勘繰られるわよ』
「そうだな……俺が運んでいるように見せかけるか。猪が浮んでいるよりも、俺が運んでいるよう見せた方が変に勘繰られずに済みそうだ」
『貴方がそれでいいならそうしましょう』
サイフィスの了承を得た俺は、猪の毛皮を鷲掴みにし、巨大な猪を俺が担いで運んでいるかのように見せかける。
実際にはサイフィスが風で浮ばせているので、特に重さも感じず、俺はただ毛皮を引っ張っているだけ。
端から見たらとんでもない怪力にみえるだろうが、巨大な猪が浮びながら付いてくるよりはマシに見えるだろう。
「それにしても、あの竜は本当に何なんだ? いい加減に鬱陶しいんだが」
『恐らくあの竜は虚無の力に反応して襲っているのだと思う。そうでないと説明が付かないわ』
「虚無の力に反応してって、そんなの普通分かるものか?」
『……普通は無理でしょうけど、長い時間と世代をかけて調教すればあるいは』
「もし仮にそれが本当だとすれば、誰かがあの竜を生み出したって事だよな。そんな事をする奴がこの世界にいるのか」
『えぇ。虚無の力を忌み嫌う者達がいるわ。……でもそれは、ティファニアにとって辛いものになるわね』
嘆くようにサイフィスはそう呟く。
それがどういう意味なのか問おうにも、城門が目の前にまで迫ってきていた。
これ以上サイフィスと会話していると、城の連中に変な噂が立つからこの話はここまでだ。
今度機会が会った時にでも、今の話の続きを聞かせてもらうことにしよう。
そう考え、口を開かず黙っていると、サイフィスも分かっているのか、これ以上話そうとはしなかった。
俺の姿を確認した兵が城門を開けた為、俺も急いで門を潜り城内へと入る。
城内に入って直ぐに門は硬く閉ざされるが、俺が巨大な猪を担いでいるように見えるためか、城の兵士達はざわざわと騒ぎ出す。
「……おい見ろよ。あのデケェファンゴ。お前、あのサイズを一人で運べるか?」
「出来るわけないだろ。数人掛かりでも運べるかどうかなのに、片手で持ち運ぶとか……あの男、人間じゃ無いんじゃないか?」
周囲に居る兵士たちの話し声が聞こえてくるが、実際に騒ぎ出されると流石に煩わしいな。
騒ぎ出す兵士たちに対し俺は小さな溜息を吐き、これ以上面倒な事が起こらないうちにヒルダの元へと向かう事にした。
………
……
…
城の者にティファニアたちの居場所を聞いて船の発着場へと向かうと、そこに何故か赤髪と青髪の少女達の姿も会った。
彼女たちがどうしてティファニアと一緒に居るのか謎だが、それ以上に分からないのはティファニアがあの二人と楽しげに談笑していることだ。
あの二人と話す機会なんて無かったし、楽しく談笑するような仲じゃないと思うんだが、俺が狩りに行っている間に何かあったんだろうか。
……まぁティファニアにとって悪い事って訳でもないし、アイツの正体がバレない分には問題は無いか。
そんな事を思いながらアイツ等の元へ歩いていくと、ティファニアは俺に気がついたのか、コッチに向かって嬉しそうに手を振るってくる。
それに釣られて赤髪と青髪も俺に気が付くが、コッチを見るなり二人して目を丸くして驚きを顕わにする。
「お帰りなさい、レイジ。言っていた通り早かったね」
「まぁな。あまり待たせるとヒルダが餓死するから出来るだけ急いできた」
「そうなんだ。でも、それだけの大物を仕留めてくるなんて流石レイジだよ」
「この程度の相手、如何って事無いさ」
ティファニアと話をしながらヒルダの方に眼を向けると、倒れ伏せていたヒルダは起き上がっており、俺の方……と言うよりも猪を凝視している。
よっぽど腹をすかせているのか、目も血走っていてこのまま放っておくと、こっちに飛び掛ってきそうな気がしてならない。
これ以上待たせるのは可哀そうだし、食事にしたいところだが、流石に船の発着場のど真ん中で猪に齧り付かせるわけにはいかないか。
ヒルダには悪いがもう少しだけ我慢してもらうとしよう。
彼女には申し訳ないと思いながら、俺はティファニアを連れてアイツ等の傍へと歩いていった。
「腹減っているところ悪いが、少し場所を移動するぞ、ヒルダ」
「え、なんで? ここで食べればいいじゃない」
「流石に道のど真ん中で食い散らかしたら城の連中に文句を言われるからな。もう少しだけ我慢してくれ」
「兄様に文句を言うような奴はわたしが全部焼き払ってあげる。だからそのお肉ちょうだい」
「俺は面倒な騒ぎを起こしたくないんだよ。とにかく端っこに移動するぞ」
俺の言い分に文句を言いながらも、ヒルダは俺の後をついてくる。
その後をティファニアと何故か赤髪と青髪の少女たちも一緒になって付いてくる。
青い鱗の竜も一緒に付いてくるが、コイツも猪を食べたいだろうか? 食べたいならヒルダに頼むしかないが、ヒルダが肉を分けるとは思えないし、我慢してもらうしかないか。
「それでなんでお前らまで来るんだ。お前らは関係ないだろ」
「確かにその竜の食事とは関係は無い。でも、私は貴方に用がある」
「俺に用事? 一体何の用だ?」
「ラグドリアン湖での件。貴方の名前を出した事でスムーズに話が進み、湖の水位が元に戻った」
「そりゃ良かったな」
「それと精霊からの言伝。『例の件、宜しく頼む』と」
「……宜しく頼む、ねぇ。用件はそれだけか」
「えぇ。ただ、私としては貴方に早く精霊との約束を果してもらいたい。湖の水位が戻っても、精霊が痺れを切らしたらまた増水させる可能性がある。それは困る」
「成る程ね。確かにその可能性が無いとは言い切れないが、安心しろ。必要な物は取り戻してある。後はアイツに届けるだけだ」
「そう。それならいい」
俺の返事に満足したのか、青髪の少女はそれ以上口を開こうとはしなかった。
必要な事以外は話さないようにしているのか、なんとも無口な奴だと呆れながら城壁の近くにまで移動する。
この辺りなら食い散らかしてもさほど迷惑にはならないだろうし、恐らく大丈夫だろう。
そう判断した俺は、サイフィスに運んでもらった肉を地面に置き、袋の中からナイフを取り出して猪の肉を少しだけ分けてもらう。
「……それじゃヒルダ、食っていいぞ」
「待ってました!」
俺の言葉を待っていたと言わんばかりにヒルダは駆け寄り、猪を勢いよく齧り付いていく。
よほど腹が減っていたのか、ヒルダは周りの目など気にせずに貪るように肉を喰らう。
俺は見慣れた光景だから気にしないが、流石にメイジの二人にこの光景は刺激が強すぎるのか、若干顔色が悪くなっている。
このまま此処に留まっていたら赤髪の方が吐いてしまいそうだし、早々にここから移動するとしよう。
「俺もそろそろ飯にするが、お前らはもう喰ったのか?」
「うんん。まだだよ。レイジが戻ってから一緒に食べようと思って待ってたの」
「そうなのか? 別に先に食べてても良かったのに」
「でもそうなったらレイジ一人で食事をする事になるじゃない。そんなの寂しいよ」
この世界に来るまでは一人暮らしをしていたんだし、一人で食べる事くらい何とも思わねぇよ。
思わずそう言ってしまいそうになったが、一応俺の事を思ってそう言ってくれているのだし、口には出さずに飲み込んだ。
「それでそっちの二人は如何する。俺達は厨房に向かうが」
「一緒に行く。私たちもまだ夕食を食べていない」
「折角の機会だし、ご一緒させてもらうけど……ちょっとお肉は遠慮したい気分ね」
「そうか。ならさっさと向かおう。流石に生肉を持ったままうろつきたくは無い」
「……そう言えばレイジ、そのお肉は如何するの?」
「この城の料理人に焼いてもらう。自分で狩った獲物だからな、少しでも自分の糧にしないと」
「あ、あの光景を見た後でお肉を食べられるなんて。……見た目以上の胆力ね」
「別に凄くはねぇよ」
驚いたような、呆れた様な感じで呟く赤髪に、俺は適当な返事をして話しを打ち切る。
俺もいい加減腹が減っているし、何時までもこんな所で喋っていたくない。
押し寄せて来る空腹感を堪えながら、俺は何時もより少し多い人数を連れてこの城の食堂を目指し、歩き始めた。
当初の予定では四人での食事風景とかも入れるつもりでしたが、そこまでやるとまた長くなりそうなので、今回はここで切ります。
その所為で今回のサブタイが随分と適当になったけど、それはいつもの事か。