ウエストウッドの森を出て、街道を道なりに進んでいって辿り着いた港町【ロサイス】。
山で暮らしていた俺にとっては初めての港町と言う事で、どんなモノなのかと期待していたのだが……思っていたのとは大分違う町だった。
別に寂れているわけではないのだが、思っていたよりも町に活気がない。
鉄塔の様な場所に空中に浮んだ船が泊まっているのは珍しい光景だが、ガキの頃親父から聞いた港町とは大分懸け離れているな。
港は交易の重要な拠点だと思っていたんだが、この町の様子を見る限りだとこの世界ではそこまで重要視されていないのか。……でもアルビオンは浮遊大陸だし、自国の生産のみで暮らしていくのは無理があると思うんだがな。
想像していた町との違いに若干肩を落としながら、港でトリステイン行きの船の情報を集めていると―――
「……トリステイン行きの船が出てない?」
「あぁ。時期が悪かったな、兄ちゃん」
―――港で働いているおっちゃんからそんな話を聞くことが出来た。
なんでも浮遊大陸であるアルビオンは一定の周期でハルケギニア中の空を回っているらしく、それぞれの国の港に最接近する日が決まっているらしい。
トリステインの港に最接近する日は2つの月が重なる夜らしく、今は時期ではない為船が出せないそうだ。
「船が出せないって割には、今まさに積荷を降ろしているみたいだが?」
「アレは別の港からやって来た船だろ。あまり見かけない船だし、恐らくはどっか国の商船だろう。自分の船を所有するなんざ、かなり大金持ちだろうな」
羨ましいと言いたげなおっさんを無視しつつ、今港で積荷を降ろしている船に眼を向ける。
港に泊まっている船は他の船と比べても大型で、かなりの重量の荷物を運ぶ事ができそうだ。
実際に船から降ろされている積荷の数は多く、これからこの町で商売でも始めるんじゃないかと思ってしまう位の数だ。
中には一際は大きな荷物もあり、本当に人の手で運べるのか怪しいくらいの大きさだ。
まぁ船に乗せることができたんだから、船から降ろす事もできるとは思うが……一体何を運んでいるんだ? 大きさから見て大型の熊が入っていても不思議じゃないな。
「商船にしては積荷の数がとんでもない様な気もするが……。王国軍に貢物でも持って来たのか?」
「今や敗色濃厚な王国軍に貢物なんざしたら破産しちまうって。貢ぐなら反乱軍の方だと思うぜ」
「敗色濃厚? そんなに王国軍は追い詰められているのか」
「あぁ。なんでも反乱軍の指導者が虚無の力を持ってるとかで、国の兵力の大半が反乱軍に寝返ったって話だ。それ以外にもこの国にはない技術を持っているらしく、王国軍に端から勝ち目はなかったんだよ」
「だから敗色濃厚な王国に見切りを付け、甘い汁の吸えそうな反乱軍に近付こうって訳か。流石は商人、損得の見極めが早い」
「それがしっかりと出来てないと商人なんてやってられないだろうからな。当然の決断だろうよ」
自分の国のトップが替わろうとしているのに、おっさんは余り興味が無さそうだった。
恐らくおっさんは、国のトップが替わっても自分達の生活が良くなる訳じゃないと分かっているんだろう。
だから王国軍が勝とうが、反乱軍が勝とうがこのおっさんにとっては如何でも良いんだろうな。
「……ところで、トリステインの港に最接近するのは何時頃なんだ?」
「あ? あ~……大体8日後だな。他の国の港町はもう過ぎちまったし、地上に降りたかったら8日ほど待つしかない」
「そうか。色々とありがとな、おっさん。仕事の邪魔をして悪かった」
「なぁに気にするなって。どうせ大陸が港に近付くまでは暇だったからな」
「それでも仕事はあるだろうに……。ま、いっか。それじゃ俺はもう行くよ」
「おう、元気でな」
おっさんから情報を仕入れた俺は、鉄塔のような場所から離れ、ティファニアが待つ町の路地へと向かう。
ティファニアの奴、自分の耳の事を気にしているのか、服装の事を気にしているのか、町に入った途端人目を避けるように行動しだしたからな。俺の背中に隠れて離れようとしないし、一緒に行動しても邪魔に為りそうだから、今は路地で隠れてもらっている。
ティファニアの奴にも色々とあるんだろうが、俺の背中に隠れているほうが目立つって気付いてもらわないと困る。
耳は帽子で隠しているんだし、下手に隠れず堂々と歩いていたほうが回りも気にしないと思うんだがな。
ずっと森の中で暮らしていたから分からないのかもしれないが、今後の事を考えて後でしっかりと話しておかないとな。
そんな事を考えながらティファニアの元へと向かうと、何故かティファニアが見知らぬ屈強な男三人に絡まれている。
恐らくはこの港で働いている奴なんだろうけど、ティファニアもティファニアで何してるんだか。
俺が戻るまで路地で隠れてろって言ったのに、なんで路地から出てきてるんだアイツ。
なんか面倒臭いことになっているなと溜息を吐きながら、ティファニアを助けるべく男共の所へと向かう。
「おい、あんた等。俺の連れに何してんだ」
「レイジッ! やっと迎えに来てくれた」
「あ? なにもんだテメェ」
「その子の連れだ。ったく、大人しく待ってろって言ったのに何やってんだよ」
「待ってたけど、この人達がいきなりやって来て……」
「そうかい。全く目ざとい連中だな、死肉を喰らう鴉でもそこまで目ざとくは無いぞ」
男達の目ざとさに呆れて溜息を吐くが、流石に死肉を喰らう鴉と比べられたのが癪だったのか、男の一人が俺の胸倉を掴み、残りの二人が俺を逃がさないように取り囲んでくる。
「テメェ……いきなりやって来て随分な口の利き方だな。あまり舐めた真似すると、可愛い彼女の前で恥を掻く事になるぜ」
「……なんだお前ら、俺に喧嘩を売ってんのか? だったら止めときな、怪我だけじゃすまないぞ」
「生意気な口も大概に…し、ろ……」
「大概に……なんだって?」
鬱陶しさのあまり、胸倉を掴んできた男の首を鷲掴みにし、そのまま片手で男を持ち上げる。
持ち上げられた男は苦しさの余りもがき暴れるが、手を離してしまう程の暴れ方じゃない。
仲間の一人を持ち上げられて残りの二人も動揺しているようだが、男を助けようとはしない。
俺が男を片手で持ち上げて恐れをなしたのかもしれないが、これはこれで都合が良い。
俺は持ち上げた男を片手で後ろに振り飛ばし、軽く力を解放して男達を威圧する。
「……こうみても俺達はお前らに付き合ってやるほど暇じゃねぇんだ。それでも付き合えってんなら、今すぐテメェ等を血まみれにしてやってもいいんだぞ」
「ヒッ!? お、お前みたいな奴に付き合ってられるか。何処へでも行っちまえ!」
「へぇ……まだそんな口が利けるのか。だったらまずは、その無駄に回る舌から抜いてやるか」
「ヒィッ?! お、覚えてやがれッ!!」
捨て台詞を残した男は、この場から見っとも無く逃げ出していった。
俺を取り囲んでいた仲間も男が逃げるのを見て、後を追いかけるようにこの場から去っていく。
まったく、ガタイの割に肝の小さい連中だ。あの程度の脅しで逃げるとか、信じられねぇな。
見っとも無く逃げ去って行く男共の後姿を眺めながら、解放していた力を抑え込み、大きく息を吐いた。
「やれやれ、口だけは一人前な連中だったな。……で、大丈夫かティファニア」
「うん、大丈夫。ありがとうね、レイジ。お陰で助かったよ」
「礼を言うくらいなら大人しく隠れててくれ。そうすればこんな面倒な事に為らなかったのに」
「私はちゃんと隠れてたんだよ? でも、あの人達が急にやって来て、無理やり路地の奥に連れて行こうとするから……」
「それはさっきも聞いた……が、その服装じゃ下卑た男を引き寄せても仕方が無いか」
「……私の服ってそんなに変かな?」
「ティファニアには似合ってると思うが、お前の服装は布地が薄い上に丈が短すぎるんだよ。それに胸もデカイから如何したって人目を引くんだよ。それじゃ飢えた連中から誘われてると思われても仕方がないぞ」
自分が周囲から如何見られているのか自覚したのか、ティファニアは顔を真っ赤にする。
俺としては今まであの服装で平然としていられた事の方が驚きだが、人目を避けて森の中で生活をしていたから分からないのも無理ないか。
「べ、別に誘ってなんかないよ! ただ、この服の方が胸も苦しくなくて楽だから着てるだけで」
「ティファニアが如何思おうと、周囲の男達がそんな事分かる訳ないだろ。嫌ならあぁ言った連中を一人で追い返せる様に為るか、服装を目立たない物に変えるしかないぞ」
「うぅ……。いきなりそんな事を言われても……」
「まぁティファニアの性格的に言い寄ってきた男を追い返せるとは思えないし、服装を変えるのが一番手っ取り早いだろうな。船は暫く出ないそうだから、買い物をする位の時間はあるぞ」
「あ、そうなんだ。それじゃさっそく服を―――」
買いに行こうとティファニアが言い掛けた時、港の方から大きな物音が聞こえてきた。
一体何事かと物音が聞こえてきた方に眼を向けると、商船に乗っていた一際大きな積荷を降ろしている光景が眼に入ってくる。
荷物を降ろしている最中に何かトラブルでも起こったのか、船の近くは大勢の人で集ってきている。
何が起こっているのか気に為った俺達は、人が大勢集っている所に行ってみるが、人が多すぎる所為で何が起こっているのか見る事が出来ない。
仕方がなく、近くに置いてあった箱の上に乗って覗き込んでみると、大きな積荷の正体は大きな檻であることが分かり、中に緋色の龍が捕らえられていた。
暴れ防止の為なのか、口はロープで縛り付けられていて、翼も同様にロープで無理やり畳んである。
まさか積荷の正体が龍だとは思わなかったが、あの大きさ……まだ子供か?
「わぁ……綺麗な竜。あんなに綺麗な竜は初めて見た。ね、レイジ」
「確かに綺麗な緋色だが、大きさから見てアイツまだ子供だな。親元を離れて何やってんだ?」
「え、あの大きさで子供なの? 四人くらいなら一緒に乗れそうな大きさだよ」
「俺の世界の龍から見ればまだ子供だ。アイツは六、七mあるかないか位だが、成体の龍なら十mは軽く超える。それを考えれば子供もいいところだ」
「へぇ~。レイジって結構竜に詳しいんだね」
「まぁ昔から触れ合ってきたからな。自然と詳しくも為る。……しかしアイツも運が悪いな。よりにも寄って人間に捕まるなんて」
「あの竜、この後どうなっちゃうの?」
「それは捕まえた奴次第だと思うが、肉体をバラバラにされて研究材料になるか、観賞用として一生檻の中で見世物になるか、反乱軍への貢物として献上されるか。ま、なんであろうと碌な目に合わないだろうな」
「そんな……。それじゃあの竜が可哀相だよ。レイジ、なんとか出来ない?」
「なんとかって、お前もさらっと無茶な事を頼んでくるな」
「うぅ……。やっぱり無理?」
「……人目がなけりゃ出来ない事は無いが、今は無理だな」
俺の言葉に落ち込むティファニアを他所に、檻の中に捕らえられた龍の様子を窺っていると、突然檻の中に閉じ込められていた龍が暴れだした。
長い事檻の中に入れられていてストレスが溜まっていたのか、檻を激しく揺らして暴れだす。
「こら、大人しくしろ。このトカゲがッ!」
暴れる龍を大人しくさせようと船乗りの男が棒で龍の頭を叩くが、それがいけなかった。
人間に頭を叩かれた事が原因なのか、檻に閉じ込められたのが原因なのか、それともトカゲ呼ばわりされたのが原因なのか分からないが、緋色の龍の眼が変わる。
龍の怒りに触れたのに伴って、港周辺の気温が少しずつ上がってきている様に感じられる。
「あれ? なんだかさっきよりも暑くなってきている様な……」
「……ティファニア、急いでここから離れるぞ」
「え? どうかしたの、レイジ」
「あの船乗りの男が龍を怒らせたみたいだ。此処に留まっていると巻き込まれるぞ」
「……へっ?」
よく分かっていないティファニアの手を引いて、一刻も早くこの場から逃げ出そうとしたとき、檻の中で何かが焼けるような音が聞こえてくる。
その音に釣られて檻に眼を向けると、龍の頭を叩いていた棒が突然燃え上がり、龍の口と翼を封じていたロープが焼け落ちていた。
突然の出来事に船乗りの男も棒を手放して飛び退くが、龍はまだ檻の中にいると油断しているのか、その場から逃げ出そうとはしなかった。
「お、おい、竜を縛ってたロープが燃えたぞ」
「大丈夫だ。相手はまだ鉄の檻の中に居るんだぞ。何も出来やし―――」
「うるさい。……お前達、よくもわたしをこんな檻に閉じ込めてくれたな。絶対に許さないッ!」
緋色の龍は怒りを顕わにしながら息を大きく吸い込み、口から火炎弾を吐き出した。
咄嗟の判断で船乗りたちは逃げ出したが、火炎弾を受けた鉄の格子が溶解し、火炎弾が直撃した倉庫は爆発し炎上する。
倉庫が爆発したのを切欠に港はパニックに陥り、集っていた人々は一斉に逃げ出す。
パニックに陥る人々を他所に緋色の龍は鉄の檻を溶かし、炎を纏いながら外に出たかと思うと空に向かって声高々に吼えた。
龍の咆哮が港町に木霊し、余りにも大きな声量に誰もが足を止めて耳を塞ぐ中、緋色の龍は目に付く物を手当たり次第に破壊し始める。
「つ~ッ。す、凄く大きな声。まだ耳の置くがキーンって言ってるよ」
「ガキの癖に大した咆哮だ。……でも、このまま暴れさせるのは不味いな」
「そうだね。このままじゃ街の人達が危な―――」
「このまま暴れられたらトリステイン行きの船が出せなくなる」
「え、そっち?! 街の人達の安全とかじゃないの!?」
「あん? なんで俺が見ず知らずの人間の安全を考えなくちゃいけないんだ? そんなところまで面倒見切れねぇよ」
「で、でも、人が居ないと動かせる船も動かせなくなるんだよ?!」
「わ~ってるよ。目的がなんであろうと、やる事は変わらない。被害が大きくなる前にアイツを止めないとな。……ふと思ったんだが、アイツの背中に乗せてもらえば船に乗る必要がなくなるよな」
「なんでも良いから早く止めようよ~……」
「わーったよ。とりあえずティファニアはどっかに隠れてろ。直ぐに終わらせる」
「う、うん。レイジも気をつけてね」
「任せとけって」
ティファニアと別れて、怒りのままに暴れまわっている緋色の龍の元へと向かう。
鉄を溶解させる炎を吐きだす相手に普段着で挑むのは流石に厳しいが、炎に当たらなければ如何と言う事は無いだろう。
ティファニアの安全を考えるとあまり時間も掛けられないし、速攻で屈服させるとするか。
モブ男が鼻の下を伸ばすのに、零児だけティファニアの格好を見ても何の反応も無いのは、彼の周りにいる女性たちのスタイルが良い所為です。姉もティファニア程でないにしろ大きいので、見慣れちゃってるんですね。
まぁぶっちゃけ、ティファニアの事を女性としてみていな…ゲフンゲフン。