レイジに連れられて赤い竜の背中に乗って、ロサイスの港を後にする私達。
港が壊されて、船も燃え尽きちゃったとは言え、本当にこんな事をして良かったのかなって思う。
確かにあんな檻に閉じ込められて可哀相だなとは思ったけど、まさかこんな事をするなんて思ってなかったから驚いた。
あの商人さんには悪い事をしちゃったけど、レイジに竜を助けてってお願いしたのは私だし、仕方が無い……んだよね。
「……風が気持ちいいな。龍の背に乗るなんて久し振りだ」
「え、レイジは前にも竜さんの背中に乗ったことがあるの?」
「子供の頃に一度だけな。あの時は親父の奴を随分と困らせたもんだが、我が侭を言ったのは姉貴で、俺はそれに便乗しただけだけどな」
「それでも竜の背に乗れるなんて凄いよ。この世界ではメイジでも乗れるのは限られてるって姉さんが言っていたもの」
「ん~……竜にもよるが、別に魔法使いじゃなくても背に乗せてくれるぞ。例えばコイツみたいに」
「わたしの場合、あの人間から逃げようとした時に貴方達が乗ってきただけだと思うけど」
「とか言いつつも嫌がってるわけじゃないんだろ? 本当に嫌なら背中に乗った時点で振り落とすしな」
「……まぁ、貴方はあの人間から逃げるのに手を貸してくれたし、他の奴等とは違うみたいだから別に良いかなって」
赤い竜は照れているのか、そっぽを向きながら何処か照れくさそうにそう言ってくれた。
なんだかこうして話していると竜も人も大して変わらない様な気がする。
レイジはこの子の事をまだ子供だって言っていたけど、私にもなんとなくそれが分かった。口調や態度からして子供っぽいというか、なんだか大人の竜には思えないもの。
「お、なんだ照れてるのか? ガタイは良くてもまだまだガキだな」
「なっ?! だ、誰も照れてなんかいない! へんな事を言っていると本当に振り落とすよ!」
「おい馬鹿やめろ! そんな事されたら落ちちまうだろうが!」
「ふふ。すっかり仲良しだね」
「「何処がだッ! ……………」」
息がピッタリな二人を見て、私はまた笑ってしまう。
二人には失礼かなとは思うんだけど、二人が喋った後のなんとも言えない微妙な間が可笑しくてつい。
失礼だと思いながら二人の事を笑っていると、ふと私の事を抱き締めているレイジの手が異様に熱い事に気付く。
なんとなく気になって、私の腰に触れているレイジの左手を見てみると、彼の左手が赤く爛れているのが眼に入った。
「れ、レイジ! その左手は如何したの!?」
「あ、コレか? この龍を押さえつける時に火傷した」
レイジは何て事ないって言いたげに話すけど、どう見ても放っていて良い様な怪我じゃない。
血も出ているのか、レイジの手が触れている私の服が赤黒く染まっていってる。
「火傷なんて可愛いものじゃないよ! とにかく手を見せて!」
「無茶言うな。こんな所で手を見せたら、お前が落ちるだろ」
「それは……確かにそうかもしれないけど。……あ、そうだ。竜さん」
「ん? わたしの事?」
「うん。お願い、私達を地上まで早く運んで欲しいの」
「それは構わないけど、わたしは〝竜さん〟なんて変な名前じゃない。ヒルダっていうちゃんとした名前があるんだから」
少しだけ怒ったような感じだけど、竜さん……もとい、ヒルダちゃんは自分の名前を教えてくれた。
私達に少しだけ心を開いてくれたのか、単純に竜さんって呼び方が嫌だったのかは分からないけど、きっとご両親が付けてくれた名前なんだよね。
だったら、竜さんなんて呼ばないでちゃんとヒルダちゃんって読んであげた方がいいよね。
「ヒルダちゃんね、覚えたわ。それじゃヒルダちゃん改めてお願い、私達を地上まで運んで」
「分かった。少し飛ばすから掴まってて」
「いや、だから、俺の怪我は放っておいても大丈夫……って、うおッ?!」
レイジの言葉を無視して、ヒルダちゃんは速度を上げて地上へと一気に降下する。
風に煽られて飛んで行きそうになる帽子を片手で押さえ、ヒルダちゃんは下へ下へと突き進んでいく。
目の前に雲が現れても気にせず進んでいると、雲を抜けた先に私の知らない大地が眼に飛び込んできた。
何処までも続いているかのような平原、白い雲に手が届きそうな程に高い山々に、草原を掛ける動物達。
後ろを振り返れば地平線の向こうに、蒼くて物凄く大きな湖の様なものが見えた。多分アレが〝ウミ〟なんだと思う。
ウエストウッドの森の中でずっと暮らしていた私には、初めて目にするモノばかりでなんて言い表せばいいのか言葉が見つからない。
空から見るこの広い世界に目を奪われるけど、今はレイジの手当てを優先しないと。
この素敵な景色を何時までも見ていられないのは残念だけど、レイジの怪我は方って良い様な怪我じゃないもの。早く手当てしてあげないと。
そう思いながら何処かに都合の良い場所がないか探していると、街道から外れた森の傍に綺麗な小川らしきモノを見つける。
ヒルダちゃんも同じ物を見つけたのか、私が教える事無くその小川へと向かって飛んでってくれる。
小川の水を飲んでいたケルピたちは、私達が近付いてくるのを見て大慌てて森の中へと姿を消した。
休憩している所を邪魔しちゃったけど、こっちも急いでいるから悪く思わないでね。
「ほら、着いたよ」
「ありがとう、ヒルダちゃん。それじゃ行くよ、レイジ」
「だから、この程度なら放っておいても大丈夫だって」
「そんな事を言ってたら傷口にばい菌が入るよ! ホラ早く!」
「へいへいっと」
レイジは自分の怪我をなんとも思っていないのか、凄く面倒くさそうにヒルダちゃんの背から降りる。
そんなレイジの態度にムカムカしたものを感じながら、私も荷物を持って彼と一緒に小川へと向かう。
「レイジ、傷口を見せて」
「火傷の手当てくらい自分出てくるっての。患部を水に浸けとけば大丈夫だ」
「そんなので良い訳ないでしょ! つべこべ言ってないでちゃんと見せて!」
「な、なんだよ。今日はやけに強引だな」
「全部レイジが悪いんじゃない。ほら、早く見せて」
「わーったよ。……ったく、心配性な奴だな」
レイジはブツクサ文句を言いながら、左の掌を私に見せてくれた。本人は火傷したって言っていたけど、左の掌は私が思っていた以上に酷い状態だった。
一体如何してそうなったのか、掌の皮はなくなっていて、肉の部分が焼け爛れている。
私を抱き締めたときに傷口が開いたのか、掌からは血が滲み出していて、とても放っていて良い様な状態には見えない。
患部は凄く熱を持っていて酷い状態なのに、こんなの辛くない筈が無いよ……。
「………………」
「ん? 如何したティファニア。傷を見るのは初めてなのか?」
「そうじゃないよ。……レイジは辛くないの? こんなに酷い怪我なのに」
「ん~……確かに痛いし熱いが、修行時代に負った怪我に比べればこの程度なら問題ない」
「今まで一体どんな修行をしてたのよ……。まぁいいわ、とにかく今は手当てをしなくちゃ。えっとまずは患部を冷やさないとね」
「だから川に手を突っ込んどけば―――」
「レイジは動かないでそこに居て」
「―――……はい」
勝手な事を言うレイジを一喝しつつ、家から持って来た鞄の中から使えそうな物を取り出す。
まずは患部を冷やさなくちゃいけないから、川の水を汲むための器と綺麗な布を出しておこう。
本当は火傷に効く薬が有れば一番いいんだけど、あの瓦礫の中から薬を探す余裕なんてなかったし、見つけたとしても使える状態だったか分からないもの。薬は街に着いてから買おう。
薬を持って来れなかったことを悔みつつ、小川の水を汲みに行く。
直ぐに水を汲んで行くんじゃなく、一度器を水で濯いでから改めて汲んでレイジの元に戻る。
動かないように左手で優しく彼の手を握って、一気に水を掛けるのではなく少しずつゆっくりと掛ける。
「つッ」
「あ、ごめん。痛かった?」
「いや、思ったよりも水が冷たかっただけだ。気にすんな」
「うん……」
レイジは気にするなって言うけど、顔を顰めていて痛そうに見える。
でも、その事を指摘してもレイジは強がって何も言わないだろうから、私も何も言う事が出来ない。
出来るだけ早く痛みが治まって欲しい。そう思うと気持ちが焦ってしまうけど、手の熱が引いてくれるわけじゃない。今の私に出来る事は、小川の水を汲んでレイジに掛けてあげる事だけ。
そう考えると私に出来る事って本当は何も無い様な気がして、気持ちが滅入ってくる。
ヒルダちゃんと止める時だって、私は物陰に隠れているだけで何も出来なかった。レイジの様に強くないんだから仕方のない事かもしれないけど、これからも傷付いていく彼を見ている事しか出来ないのかな。
「おい、ティファニア」
「えっ? あ、なにレイジ」
「水、もう無くなったぞ」
「あ、本当だ。ごめん、ちょっとボーっとしてたみたい。直ぐに新しいの汲んでくるね」
「いや、手は大分冷えたからもういいよ。ありがとうな、ティファニア」
「うんん、気にしないで。私にはこんな事くらいしか出来ないから……」
「こんな事って、そこまで親身に他人の心配が出来れば十分だと思うけどな」
幾ら親身になっても、傷付くレイジを見ている事しか出来ない。思わず出掛かった言葉を、私は口に出さずに飲み込んだ。
この気持ちを言葉にして吐き出すのは簡単だけど、吐き出したところできっとレイジは気にするなって言って笑い掛けてくれるだけだもの。何の解決にもならない。
隣りで一緒に戦う事が出来ないのは分かってる。でも、それでも彼の役に立ちたい。……この気持ち、矛盾してるのかな。
「さってと、手の熱も取れたことだし、日が暮れる前に野営の準備でもするかな」
「うん、そうだね……って、レイジ何をするつもり?」
「あ? 何って森に入って木の枝でも拾って来ようかと」
「だ、駄目だよそんなの! まだ左手を布で巻いてないんだから」
「だから大丈夫だって。ティファニアには黙ってたけど実は俺、人間と竜の間に生まれた混血児でな。この程度の傷なら一晩もすれば完全に治る」
「だからってそのままにして良い筈ないよ! 人と竜の混血だとしても、傷が治るまで一晩掛かるんでしょ!? だったら治るまで今夜一晩は大人しくしてて!」
「そ、そうは言うけど晩飯だって確保しに行かないといけないんだぞ。ティファニア一人じゃ無理だろ」
「確かにそうかもしれないけど、私は傷付いているレイジを放っておく事の方が出来ないの!」
「……まいったな、こりゃ」
私の気持ちを全く理解してくれていないのか、レイジは困ったように苦笑いを浮かべるだけで、今日は私に任せるって言ってくれない。
全然大人しくしてくれないレイジに怒りを爆発させていると、直ぐ傍で何か大きな物が落ちるような音が聞こえてきた。
音が聞こえた方に眼を向けると、巨大なアプトノスが地面の上に横たわっていた。
なんでアプトノスがこんな所で横たわっているのか分からず、首を傾げていると空からヒルダちゃんが私達の元に舞い降りてくる。
「ヒルダちゃん、そのアプトノス一体どうしたの?」
「これはわたしの晩御飯よ。でも、流石に大きすぎるから二人に少しだけ分けてあげる」
「え、いいの!? ありがとう、ヒルダちゃん!」
「う、うん、……でも、本当に少しだけだからね!」
「それでも十分だよ。……と言う事でレイジ、これで夕食の心配をしなくて済むね」
「あ~……そうみたいだな。ったく、タイミングが良いと言うか、なんというか」
「ぶつくさ言ってないで、手当ての続きをしちゃうから大人しく座って。レイジは今夜一晩は安静にしてなくちゃ駄目だよ」
「わーったよ。それでティファニアの気が済むなら好きにしろよ」
「そうさせてもらいます。……ほら、左手を出して」
「へいへい」
漸くレイジも分かってくれたらしく、下手に動こうとはせずに私の手当てを大人しく受けてくれる。
でも、レイジが本当に安静にしているとは思えないから、木の枝を拾いに行く前にヒルダちゃんに見ててもらうように頼んでおこう。あと、左手を動かさないようにしっかりと固定しないと。
……それにしても、さっきレイジが物凄い事を告白していた様な気がする。自分は人と竜の混血児だとかなんとか。
人と竜の混血だって言われてもレイジはレイジだし、私も人とエルフの間に生まれた子だからきっと似たようなモノだよね?
共通点って言って良いのか分からないけど、私と同じ様なものを持っているのを知れたのは嬉しいかな。
………
……
…
レイジの治療を終え、見知らぬ土地で一晩を明かした後、何かが風を斬る音で目を覚ました。
野営の為に薪を拾いに行ったり、アプトノスからお肉を切り出すのに悪戦苦闘した所為か、自分でも驚くほどに疲れていたみたい。目を覚ました時、お日様はすっかり昇っていた。
普段は日の出くらいには目を覚ますのに、こんなにぐっすり眠っていたのは凄く久し振り。
レイジが貸してくれた毛布を取って、寝惚け眼のまま辺りを見渡していると、少し離れた所でレイジが剣を振るっているのが眼に入る。
レイジの身長ほどもある長い剣を軽々と持ち上げ、目に見えない何かを斬るように剣を素早く、そして鋭く振り下ろす。
普段はあまり見せない真剣なレイジの横顔。その顔をもう少しだけ見ていたかったけど、私の視線に気付いちゃったのか、レイジは腕を止めてこっちに振り向いた。
「ん? なんだ起きたのかティファニア。今日は随分とぐっすり寝てたな」
「お早う、レイジ。流石に昨日は慣れない事をしたから疲れたみたい」
「そりゃそうだろうよ。全く、だから獣の解体は俺に任せろって言ったんだ」
「でもレイジに任せたら左手を絶対に動かすでしょ。そんなの駄目に決まってるじゃない」
「右手だけでも解体してみるっての」
「またそんな無茶を言う……。ところで左手はもう良いの?」
「あぁ、お陰さまでこの通りだ」
そう言って見せてくれたレイジの左手は、傷跡一つ無く綺麗なまでに治っていた。
とても一晩で治るような怪我じゃなかったのに、本当に治っちゃうだなんて……。これが竜の血の恩恵なのかな? 少なくとも普通の人間だったらこんなにも早く治るわけないよね。
「どうだ? 驚いたか」
「驚いたけど、でもそれ以上にレイジの怪我が治って良かったって思ってる」
「だから心配する必要なんてなかったんだよ。あの程度の怪我なら直ぐに治っちまうんだし」
「レイジはその事を知っていたからでしょ。私は知らなかったんだから心配するのは当然だよ」
「そうだとしてもアレは心配しすぎだっての。それよりも早く顔を洗って来い。酷い顔をしてるぞ」
「ね、寝起きなんだから仕方が無いじゃない。あんまりジロジロと見ないでよ」
「見られたくなかったらさっさと洗って来い。でないと、見たくなくても見えちまうから」
「う~……レイジの意地悪」
「文句を言ってないでさっさと洗って来いっての」
物凄くぞんざいにあしらわれた様な気もするけど、あまり深くは気にしないでおこう。レイジの口が悪いのは今に始まった事じゃないし。
心の底からレイジの口の悪さも治ればよかったのにと思いながら、彼に言われた通りに近くの小川で顔を洗う。
小川の冷たい水はまだ寝惚けたままの頭によく効いたのか、若干重たかった頭が大分スッキリする。
目も覚めたし、今日の朝食は如何しようかなんて考えていると、ヒルダちゃんが大きなファンゴを銜えてながら森から出て来た。
「お、戻ったのかヒルダ。また随分とデカイ猪を捕まえてきたな」
「生意気にもわたしに向かってきたから返り討ちにしたの。凄いでしょ」
「あぁそうだな。俺は昔それ以上にデカイ猪を捕まえた事があるから、それを超えるサイズの物を捕まえてきたら褒めてやるよ」
「……素直に褒めてくれない。捻くれ者」
「別に捻くれている訳でもねぇよ」
レイジがヒルダちゃんに朝食を獲って来るように頼んだのか、二人は昨日よりも仲がいいように見える。
ヒルダちゃんのお陰で朝食を考えなくても良くなったけど、流石に朝からお肉はちょっと厳しいかな。
果物とかの方が良かったけど、ヒルダちゃんは竜だし、やっぱりご飯はお肉とかになっちゃうよね。
「さて、ヒルダも戻ってきたことだし、アレを食ったら出発するか……って、どうかしたのかティファニア。なんか暗い顔をしてるぞ」
「あ、いや、朝からお肉はちょっと重たいかなって思って」
「そうか? 俺は別になんとも無いんだが……」
「それはレイジが男の人だからだよ。でも、しょうがないよね。頑張って食べるよ」
「あまり無理して食べて戻されても困るんだが……。あ、そうだ。サイフィス、暇ならちょっくら森で果物でも採ってきてくれ。……別にいいだろ、どうせお前飯の間は暇なんだから」
「…? サイフィス?」
レイジが此処に居ない誰かに頼むと風が吹きぬけ、森の木々を大きく揺らした。
少しの間、風に揺らされた木々がざわついていたけど、それも次第に収まって元の静かな森へと戻った。
私は突然の突風に驚いていたけど、レイジとヒルダちゃんは動じる事無く、捕まえてきたファンゴを二人で分け合っている。
朝からお肉は胃に辛そうだけど、私も食べないわけにはいかないし、頑張って食べよう。
そう思って私も二人の所へ行こうとした時、森から風が吹いてきて何故か木の実が風に乗って私の元へと飛んで来た。
「あれ、木の実が飛んで……。あれ?」
予想すらしていなかった出来事に如何したら良いのか分からず、私はただ戸惑うことしか出来なかった。
風に乗って飛ばされてきたにしては、そこまで強風じゃなかったし、誰かが私に向かって木の実を投げて来たわけでもないし、一体なんなんだろ?
訳が分からないまま木の実と森を交互に見ていると、お肉を焼く準備をしていたレイジが声を掛けてくれた。
「今度は如何したんだよ、ティファニア。落ち着きがないぞ」
「だって、森から木の実が飛んで来たんだよ? 普通、不思議に思うじゃない」
「あぁ、それだったらサイフィスが持って来てくれたもんだよ。気にせず食っていいぞ」
「サイフィス? そういえばさっきも呼んでたけど、一体誰の事?」
「前に話した謎の声の主だよ。風の精霊らしいんだが、名前が無いって言うから俺が勝手につけた」
「風の精霊さん……。私、ハーフエルフなのに全然知覚できないな」
「俺も視認できているわけじゃ……あ、なに? 面倒だから実体化してないだけ? そこは面倒臭がらずに頑張れよ。……貴方にだけは言われたくないってそれは一体どういう意味だ!?」
今度は突然レイジが目に見えない誰かと喧嘩を始めちゃった。
端から見ると大声で独り言を言っているようにしか見えないけど、きっとレイジには精霊さんの声が聞こえているんだよね。
そう考えるとレイジって凄いなって思うけど、人前で精霊さんと会話するのは絶対に止めた方がいいと思う。事情を知らない人が見たら、凄く危ない人に見えるから。
「え、えっと、サイフィスさん……でいいのかな? その、木の実を採ってきてくれてありがとう」
木の実を採ってきてくれたお礼を見えない精霊さんに向かって言う。
私の向いている方向に精霊さんがいるのか分からないけど、私の言葉はちゃんと届いているみたいで、凄く優しい風が私の頬を撫でる。
姿は見えないし、言葉も聞こえないけど、それでも気持ちが伝わるなんて不思議な気分だな。……でも、決して悪い気分じゃない。
「全く、ただの調査だってのに同行者が二人も増えるなんてな」
「二人? それじゃヒルダちゃんとサイフィスさんも一緒に来るの?」
「あぁ。サイフィスの奴は俺達の旅に興味があるらしい。ヒルダは……なんで一緒に来るんだ?」
「えっ? え~っと…………せ、折角自由になれたんだし旅をしようと思って。一人で旅するよりも大勢で旅をした方が楽しそうだから、一緒について行こうと思ったの」
「ふ~ん……。ま、俺は別に構わねぇけど、旅の間はお前の背に乗せてもらうぞ」
「わたしは別に構わないわよ。人間の歩く速度に合わせて歩く方が疲れるし。……兄様の場合は、竜の姿に戻った方が絶対早いと思うんだけど」
「あの姿は凄く疲れるから嫌だ」
「……普通、逆だと思う」
レイジの発言にヒルダちゃんは呆れて溜息を吐いた。
ヒルダちゃんに賛同するように風が吹き抜けるけど、レイジは聞き流しているのか、黙ってお肉を焼いている。
旅に出た時は同行者が増えるなんて思ってなかったけど、こうして皆でお喋りするのは凄く楽しい。
……出来れば精霊さんともお話がしたいけど、私の耳じゃ聞こえないみたいだから仕方が無いよね。
「ヒルダちゃん、サイフィスさん、それにレイジ。長い旅になるかもしれないけど、これから宜しくね」
「うん、こっちこそ宜しく、ティファニア」
「別に今更言う様な事でもないだろ……って、サイフィス! 空気を止めて焚き火の火を消すな!!」
レイジがサイフィスさんに怒られた……のかな。レイジがお肉を焼くのに使っていた焚き火の火が突然消えてしまった。
一人で怒っているレイジを見て、これからなんだか騒がしくなりそう気もするけど、こういう騒がしさなら悪くないって思えてしまう。
旅の仲間も増えたし、私に一体何が出来るのかは分からないけど、レイジの足を引っ張る様な事だけはしたくない。
自分に出来る事を見つけて、レイジを助けられるように頑張るから。見守っていてね、お母さん。
やっとメインキャラが一同に会する事ができた。これで物語が本格的に進められそうで、今までと何も変わらない様な気がする。