「やめろラファ!」
“ガキンッ!”
そんな声と共に、金属同士がぶつかり合う甲高い音が鼓膜に響いた。
釵による一撃に備えていた飛鳥であったが、いつまで経っても振り下ろされない釵と耳に響いた音に疑問を抱きながら目を開く。
そこには、自らに向けられている2つ釵と、その釵が振り下ろされるのを止めている刀の姿が目に入った。
「下がれラファ、この子は倒すべき敵じゃない」
刀の方から。男性の声が聞こえた。
そちらに視線を向けると、そこには自分に釵を振り下ろそうとしていた亀の様な生物と瓜二つの存在が居た。
「止めるなレオ!だいたい、敵じゃないと何故わかる!?」
「この子の恰好をよく見ろ、制服だ。それに、俺達の敵ならもっと敵意なんかがあるはずだけど、この子からは何も感じない。ただの学生だ。……それに、俺達は“アクニン”じゃないんだ。疑わしきは処刑するのは正義に反する」
釵を持った異形の抗議の声に、刀の異形が諭すように答える。
この両者、背格好は似ているが持っている武器や性格等、違う所もあるようだ。
よく見ると、頭に巻いているハチマキの色も違う。釵を持っている異形が赤のハチマキなのに対し、刀の異形は青のハチマキだ。
「だったとしても「ラファ、リーダーとして命令する。落ち着け」ッ!?……チッ!」
食い下がる赤ハチマキ異形だったが、青ハチマキ異形の強い口調に不満そうにしながらも釵を治める。
赤ハチマキが下がったのを確認すると、青ハチマキは今度は飛鳥に視線を向ける。
「お嬢さん、俺の仲間がすいません。少々荒っぽい奴でね…どれ、お手をお貸ししましょう」
青ハチマキの異形は飛鳥を労うような言葉を話した後、手を差し伸べる。
その手は、人間のものとはかけ離れていた。
緑色のゴツゴツした手。指は3本しかなく、少し湿っているようであった。
作りものにしてはリアルすぎる、まるでゲームなどに出てくるモンスターの様であった。
差し出されたその手を見て、飛鳥は思わずたじろいでしまった。
「あ~そんなんじゃダメダメ!レオはただでさえ仏頂面なのに、そんな笑みの一つもない顔じゃ逆にプレッシャー与えちゃうよぉ!女の子にはもっと優しくしないとね、レオ♪」
「むうぅ……」
そんな飛鳥の姿を見て、青ハチマキをからかう様に今度は橙色ハチマキの異形が前に出る。
橙色ハチマキの異形は、赤と青の異形より一回り程小さく、首には鎖や数珠、サングラス等色々な物をアクセサリーの様にぶら下げていた。
橙ハチマキは「ほらどいてっ!おいらがお手本見せてあげる!女の子には優しさを持って接しなくちゃ~」と言いながら青ハチマキを後ろへ追いやり、飛鳥の前に立つ。
「えっと…コンバンワ!……でいいんだよね?ごめんね~トーキョーに来たの最近でさ~まだ日本語慣れしてないんだよね~…あっ!君の制服、確かハンゾーガクエンってとこの制服だよね!?君、あそこの生徒なの?学食にピザってある?おいらピザ大好きなんだよね~♪」
橙ハチマキは一方的に飛鳥に話しかける。
しかし、今の状況を飲み込み切れていない飛鳥は答えることが出来ずにいた。
それもそうだろう。いきなり見たこともない異形の者から「お前の学校のピザの味はどうだ?」と聞かれて、戸惑うなという方が酷というものだ。
「ほらっ!女の子にはこうやって気さくに話しかけた方がいいんだって!見てよ、この緊張のほぐれた表情!」
飛鳥の戸惑いの表情を見て「緊張がほぐれた」と勘違いした橙ハチマキは、他の異形に自慢げに話す。
「…脈拍上昇傾向確認。呼吸回数も多い。極度の緊張状態だと思うけど………」
そんな橙ハチマキに、今度は紫ハチマキの異形がツッコミを入れた。
紫ハチマキの異形は、他の異形よりも細長く、メガネを身に着けており理知的な印象を受ける。
他の異形とは違い、背中の甲羅にはさらに重そうな機会を背負っており、レンズがいくつも付いた機械的なゴーグルを頭に着けていた。
「え~そんなことないよ!彼女、おいらの口説き文句にもうメロメロだって~」
「……口説いてたのあれ?ラファのツンデレの方がまだわかりやすいよ…」
「誰がツンデレだ誰が!」バシィッ!
「おいお前たち!今はコントやってる場合じゃないだろ!?」
「おぉ!いいじゃん、やろうよコント!レオは加〇ちゃんね」
「ぺっ!……なにやらせんだ!?てか令和で伝わるのかこれ?」
紫ハチマキの言葉に、赤ハチマキが反応して頭を叩く。
橙ハチマキの悪ノリに青ハチマキが乗ってしまう。
4体の異形の者達は飛鳥を差し置いて“やいのやいの”と騒ぎ始めた。
しかし、飛鳥は内心でかなり焦っていた。
(まさか目の前にいるのって……妖魔!?)
飛鳥は自らの血の気が引いて行くのを感じた。
妖魔。それは忍の流した血を糧に現世に誕生すると言われている人間とは違う種族の異形の者達。
古来より、人間に仇なす存在として言い伝えられ、何人も善忍たちが妖魔退治で命を落としたという話も授業で霧夜から聞いたのを覚えている。
(もしそうなら……まずい!)
飛鳥は固唾を飲んだ。
目の前の妖魔の実力は、目の前でのその動きを見た飛鳥が一番よく知っている。
何故妖魔が自分たち忍と似た動きをするのかは分からないが、今の自分では4体同時に相手をするのは絶望的だと本能的が語り掛けてくる。
なら、どうするか?
(…ここは、撤退するしか…ないよね……!)
自分一人ではこの妖魔たちに立ちうちは出来ない。しかし、仲間たちと一緒なら勝機が見えるかもしれない。妖魔の情報を先生に伝えれば、今後の対策も立てられるかもしれない。
それに、ここは人混みからは離れているとはいえまだ街中だ。ここで戦えば一般人も巻き込まれてしまう危険性もある。
飛鳥はこの場で戦う事よりも、この妖魔たちを誘導し、なおかつ生き残って仲間たちに情報を渡す為に動くことを決意した。
幸い、目の前の妖魔たちの意識は自分に向いていない。逃げるチャンスは、今だ。
飛鳥は妖魔たちに気付かれないようにスカートのポケットに手をゆっくりと伸ばした。
「だあぁぁぁ!もうめんどくせぇ!俺様が話を付けてやる!!」
「ラファはだめだよ!おいら達の中で一番顔怖いし最終的に手が出るんだから!」
「心配すんな、俺様が手を出すのはお前だけだマイキー」
「それはそれで嫌なんだけど!?おいらに手ぇ出すのもやめてぇ!?」
「…まぁ、マイキーの事はともかくラファはさっきの件もあるからダメだな」
「………ふんっ」
「ともかくって何ッ!?簡単に片づけないでよリーダー!?」
「それじゃあ間をとって僕が話そうか?一応女の子とチャットとかしてるから経験あるけど…」
「チャットとリアルの女の子は違うでしょ!それにドナのチャット相手って『ゴスロリネコミミ忍者』ってハンドルネームの人でしょ?属性盛りすぎておいら的にはネカマだと思うからガチ恋はやめた方がいいと思うよ~」
「……ねぇ、人のチャット相手をバカにするのやめてくれない?普通に不快だから…………後、別にガチ恋じゃないし……」
4体の妖魔は飛鳥の動きに気付かず、まだわちゃわちゃと話し合っている様だ。
もし飛鳥にもう少し余裕があったら、この妖魔たちのやり取りを微笑ましそうに見ることもできたかもしれない。
だが、飛鳥はポケットの中にある
1cm…また1cm……ゆっくりと手をポケットに近づけていき―――やがて手はポケットの中にある丸い物を掴んだ。
「……あん?おい、女。一体何を――」
ッ!?赤ハチマキに気づかれた!?
タイミングを計っている暇はない、今やるしかない!!
「はぁッ!!」
飛鳥はそう短く叫んで、ポケットの中から取り出した球のような物を地面に叩きつける。
球は地面に衝突した衝撃で“ボムッ!”と音をたてながら粉々に砕け、次の瞬間には辺りを白く、深い煙が覆った。
そう、飛鳥が地面に投げたものは忍が使う道具の一つ―――煙玉である
「ッ!?これは、煙玉か!?」
「この臭いは……ふむっ、粉砂糖と硝酸カリウムかな?毒とかではなさそうだよ~」
「冷静に分析してる場合か!?あの子を今逃がしたらやばい!阻止するぞ兄弟たち!」
「大丈夫だよレオ~!おいらがちゃんと足を掴んでるからー!」ガシッ!
「それは俺様の足だ!早く離しやがれバカマイキー!」
「あっ、ラファの足だったのね……道理で下水臭いわけだよ…」
「喧嘩売っとんのかおどれはぁ!?」
煙玉に動揺して、異形達の包囲網が手薄になる。
逃げるなら、今しかない!
そう判断した飛鳥は、足に力を籠めて走り出した。
その時、飛鳥は気が付かなかった。自分が落とした手裏剣を仕舞い忘れた事。そして、その手裏剣を落としてしまったことに…
「ゲホッ!ゴホッ!……みんな大丈夫~…」
煙が薄れた後、橙ハチマキの異形が他の異形の方を見ながら言った。
他の異形達もまだ咳込んでおり、全身粉塗れの様子だが、身体に大きな異常はなさそうだ。
「あぁ…なんとかな……」
「ぺッ!ペッ!……畜生、口ん中に粉入ったじゃねーか……」
「みんな大丈夫そうだね~……いや~、それにしてもトーキョーの女子高生って煙玉なんて持ってるんだねー。おいらびっくりしちゃったよー!」
「んなわけねーだろ!?明らかに異常だわ!?」ゴンッ!
のんびりと話す橙ハチマキの頭に、赤ハチマキの拳骨が炸裂した。
「痛ッ!なにすんのさラファ!?」
「お前が寝ぼけた事言ってっからだ!その足りない頭で考えてみろ、一般人が煙玉なんて持ってるわけねーだろ!」
橙ハチマキの抗議の声にも怯まず、赤ハチマキが続ける。
たしかに、この地域の不良達は常に木刀やらメリケンサックといった武器を所持しているという世紀末的な環境だ。女子高生でも自衛の手段として武器を持っていてもおかしくはない
しかし、煙玉は本来敵の視界を煙によって遮り、その隙に撤退や攻撃をするための道具であり、一学生が自衛のために持っているというのは無理がある。
では、何故彼女は煙玉なんて持っていたのか?
そう言った物を作るのが趣味の人間?新手のパーティグッズ?…………あるいは、
「………」
一方、青ハチマキは何も言わずに空を見ていた。
夕日が沈みかけ、雲一つなく鳥も飛んでいない、なんの変哲もない空であった。
…妙だ。
青ハチマキは空を見ながら思った。
自分たちが煙に包まれていたあの時、青ハチマキは煙の中からカエルの様に高く跳んだ影を確かに見ていた。
しかし、周りを見渡してもあの影の正体だと思われる者の姿はなく、鳥の様に空高くに飛んでいった様子もない。
つまり、あの影は自分たちが煙に視界を奪われている数分の間に、自分たちの目の届かないところまで驚異的なスピードで移動したことになる。
先程まで地にへたり込んでいた女学生の姿がないことを見る限り、あの飛び去った影の正体も彼女であることは状況が物語っていた。
彼女は一体……
「ッ!……みんな、これ…」
青ハチマキが考え込んでいると、ずっと黙っていた紫ハチマキが足元に落ちていたものを拾って他の異形達に見せた。
それは銀色に輝いている十字型の物で、鋭く研がれた刃はどんなものでも貫いてしまいそうなほどに洗練されていた。
異形達は、それに見覚えがあった。これは忍の武器の一つ―――手裏剣だ
「………レオ、お前の目も節穴だな」
赤ハチマキはイラついたように青ハチマキを睨みつけながら言った。
青ハチマキはその言葉に反応せず、目を閉じてため息をついた。
それは、先程の学生の正体を見抜けなかった自分の未熟さを反省しているようにも、自分と同じ位の歳の少女が自分たちと同じ暗い道にいるかもしれないという事実を憂いているようにも見えた。
「今回はラファが正しかったようだ……」
あの跳躍力に煙玉、そして手裏剣
これらに共通する存在は一つしかない。
「彼女は――――――忍者だ」
青ハチマキの言葉に、他の異形達に緊張が走った。
「彼女が忍者!?それってめっちゃクールじゃん!!」
……訂正しよう。1体を除いて緊張が走った。
「
紫ハチマキが呆れたように言った。
彼らの頭の中に、とある人物の言葉が響く。
『忍には見つかってはならない。我々の様な異形の者は見つかった瞬間に敵とみなされ――――処分の対象になるだろう』
処分。それはつまり死だ。
自分たちのような未知の存在など、人間たちにとっては害でしかないのだ。それも当然だろう。
仮にあの少女が、仲間の忍たちに自分たちの事を伝えてみろ。自分たちはトーキョー全ての忍者に狙われることになるかもしれない。そうなったら、自分たちも全員無事では済まないかもしれないだろう。
しかし、自分たちはまだ死ねない。
まだ、知りたい事を知れていない。そのためにニューヨークからトーキョーに来たのだ。それを知るまでは、死ぬわけにはいかない。
ならば、どうするか……
「これからどうする?」
「はっ!どうするもこうするも、答えは一つだろ」
紫ハチマキの言葉に、赤ハチマキが肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべながら答える。
「……一応、その答えって奴を聞かせて貰えるか―――ラファエロ」
「決まってんだろ――――――」
「とっ捕まえてボコってから考える!ニューヨークの頃から変わんねぇよ!!」
慣れた手つきで釵を手で回しながら赤ハチマキ―――ラファエロは走り出した。
ミュータント・パニック地元の映画館でやってなくて見れなかったぁ(泣)
アマプラ待ちだなこれ……
映画やったけど、タートルズ界隈そんなに盛り上がってない気もするんだよなぁ……
日本でタートルズを再び流行らすことはもう不可能なのだろうか……
カグラサイドは昔の記憶を頼りに書いてるけど、なんか違う感あったら教えて欲しいゾ
次回は気分次第…
ここまでご拝読ありがとうございました