百合の間に挟まりたかった男、ゲットマシンに挟まれる 作:青川トーン
アタシの親父は新エネルギーの開発研究者だった、ルミナザイトが見つかる以前からエネルギー問題は深刻化していて、あらゆるものの値段は上がる一方でアタシ達もまた決して裕福とは言えない生活をしていた。
しかし希望はあった、宇宙から微量ながら降り注ぐ宇宙線を増幅してエネルギーとする「ゲッター理論」さえ完成すれば世界はよくなるだろうと。
だが、不幸な事に月でのルミナザイト発見があらゆる新エネルギー開発事業をぶち壊してしまった、わずかな量で莫大なエネルギーを産むソイツは既存の燃料なんかより遥かに効率が良く。態々月まで取りに行って帰って来るだけでも莫大な利益を生み出した。
当然ゲッター線研究もその煽りを受け、おまけに他者を追い落とす為のルミナザイト技術者のネガティブキャンペーンもありそれが原因で親父は心労に倒れ、この世を去り……お袋はアタシを置いてどこかへ消えていった。
瞬く間にすべてを失い、荒れ狂い、近寄るもの全てを薙ぎ倒す日々を送っていたアタシはある男と出会う。
そいつの名は早乙女、父と同じゲッター線研究者でありその恩師だった、かつて1度だけ会った事があったのでアタシは警戒を緩めた。博士は父の事は残念だったと言い、せめてもの罪滅ぼしに私の身柄を預かると言った。そして……まだゲッターを、親父の夢だった未来を諦めていない事も。
そして早乙女研究所での新たな日々が始まった、アタシの役目はゲッター線を動力とするマシン類のテストパイロットだ。早乙女博士の実子である達人、ミチルの二人はよくアタシの面倒を見てくれた。
まるで兄と姉が出来たような感じがして、また幸せを手に入れたと気づいた日にアタシはとても嬉しくて涙が止まらなかった。
ある日、ゲッター線研究へ資金を投入してくれている組織の役員が研究所に視察に来た。彼らはルミナザイト一極の今の技術開発や文明の発展に危機感を覚えており、いざという時に備えてゲッター技術に投資をしていたという。
ルミナザイトは現状、月でしか発見されていない。それも結構な量でこそあるがもし仮に月と地球が分断されてしまえば今の貯蔵量では地球は10年も持たない事。またルミナザイトは決して安全安心のエネルギーではなく、一定条件を満たすと自己増殖を引き起こすという。
これを人々は無限のエネルギーだと喜んでいるが、もし例外的な状況での増殖が引き起こされた時、莫大なエネルギーが生み出されて大惨事になりかねない危険性も孕んでいるのだと。
だからゲッターは希望であり可能性だ、と早乙女博士が締めくくった。
それを聞いてなおのこと、アタシはゲッターに携わる事に強い誇りを感じるようになった。
そして、その日アタシは親友と呼べる存在と出会う事になる。
リリア、彼女は非常に体が弱く車椅子でなければ外に出る事もできない様な弱っちい奴だった。
だがこの早乙女研究所に来た事、少量であるが増幅されたゲッター線に満ちたこの空間にいると体調が改善されるのだという。
最初は何をそんなバカなとアタシもリリアの親父も思っていたが、本人がゲッター線を浴びた上でアタシや達人さんがよく訓練に使ってる訓練用のマシンに乗って無事に降りて来た事から認めざるを得なかった様だ。
リリアの母は早くに亡くなってて、男手一つで育ててきてそれは随分と苦労があったというソイツは泣いて喜び、この研究所にリリアを預けると言い出した。リリアもようやく元気に動けるようになれるとそれはもう当然賛成した。
早乙女博士はゲッターの新しい可能性を見て、さらに研究に打ち込むようになった。
それからの日々はもう賑やかだった。
アタシとリリアはどっちがよりうまくマシンを扱えるか競い合い、勉強もほっぽりだして丸一日訓練装置に乗っては達人さんに叱られ、あんまりに格好に頓着しないアタシに対してミチルさんとリリアがオシャレを叩き込もうとしてきたり……そして一緒に夜通し未来について語り合ったりなんてしていた。
将来的には3機のゲットマシンが合体する宇宙開発用ロボなどを前提としていて増殖合金や可変フレームに様々な副次的な技術を生み出してはそれを資金としてさらにゲッター開発につぎ込み、やがてルミナザイト技術に関係なく早乙女研究所は発展していき……ついには月面研究所まで完成させることとなった。
これはゲッターロボのテスト運用の為のモノであり、アタシ達はついに地球から宇宙に行く事になった。流石に宇宙船まではゲッター線動力!とはいかず既存のモノをつかった移動になったが勝手が違いすぎてそれはもう一苦労、リリアの奴は真っ先に適応しやがったがアタシは一番最後まで慣れなかった。
そして月面基地でアタシら人類はゲッター線研究において大きな一歩を踏み出した。
有人ゲットマシンによる、合体実験。
無重力あるいは低重力の宇宙空間内での最初の合体を前にしてアタシ達に恐れはなかった。
失敗すればハジをかく、ハジとは死の事だ。何もなせず死んでいく事をアタシはハジと呼んだ。
そして最初の実験はフェニックス号のアタシ、ユニコーン号のリリア、そしてヒュドラ号の達人さんの3人で行う事になった。まあ当然ながら実験は一発で成功、三形態のゲッターがこの宇宙に飛び立った。
この結果を受けて、ゲットマシンの組み合わせ形態に悩んでいた博士は3番機ポジションにヒュドラ号とクラーケン号の2つを用意していた。どうにも宇宙空間と水中仕様で悩んだらしく、ならば両方作った方がいいかと若干の変更を加えた2機を製造。ならばと修理の際の予備という事で何機が同じゲットマシンを作ったりマイナーチェンジを繰り返したり、開発チームも大忙し。
一方でアタシらは出て来たモノにうまく適応して乗りこなすのが仕事だ、ミチルさんも合体訓練には参加していたが……やはり毎度毎度が命がけだ、時には衝撃でゲッターの機体フレームがダメになったり、デブリに衝突してあわや大惨事という事態もあった。だがそんな危機を乗り越えていったある日。
私達の日常を終わらせる者達がやってきた。
宇宙軍を蹴散らし、地球外文明の奴らが攻撃を仕掛けて来たのだ。当然ながら月面基地にも敵はやってきた、アタシ・リリア・達人さんの3人がちょうど訓練をしていたその時であった。
初めての実戦、ゲッターロボには有事の際の武器がいくつか搭載されていた為に敵を追い払う事に成功したが……敵の攻撃で格納庫に居たミチルさんが死んだ。
アタシは誓った、奴らを一人残らずぶっ倒すと。だがその前に研究員たちや生き残った宇宙軍の連中を一度地球へと退避させる必要がある。そこからアタシ達の過酷な旅が始まった。
物資が圧倒的に足りず、怪我人だらけ。いくつかの試作ゲットマシンは月に置き去りにする事となった。1年近くを過ごした基地に必ず帰ってくると心に決めて、地球へ向かって旅立つ。
当然敵もそう簡単に見逃してくれない、かろうじて戦える宇宙戦闘機とゲッターロボだけが戦力に絶望的な撤退戦を繰り広げた。繰り返す戦いに顔を知ったパイロット達が死んで、数を減らしていく戦力、そして次々と沈む護衛艦、最後まで残ったのは2隻だけだった。
そして地球を前に、ゲッターもまた満身創痍だ。だが今引き連れている奴らを地球へと降下させる訳にはいかない。徹底的に叩いて壊滅させる……これが最後の仕事だと思っていた。
決戦を前にアタシはリリアと共に居た、フェニックス号とユニコーン号、そしてクラーケン号の並ぶ格納庫で最後の休息をとっていた。達人さんは前の戦いで負傷しており、戦える状態じゃない。
「アタシはリリアやみんなと出会えてよかった、思い残す事はまあまだまだあるが……これが最後でも後悔はない」
「ユユカ、それはダメですよ。まだミチルさんの仇を討ってないしゲッターを動かせるのはわたくし達しかいない……ここで死ぬよりも酷い未来でも生き残らねばなりません」
アタシの弱音を見抜いたのかリリアに殴られる、おかえしに一発殴る。
熱い、痛い、生きているんだ。
そんな中警報が鳴る、出撃だ。
二人で、達人さんを欠いた状態で動かすゲッターはいつもより動きが悪かった、だがそれでも後には引けない敵を蹴散らし、蹴散らし、傷ついて、数を減らしていった。
2隻の艦艇が最後の降下を始めるその時、敵の一機が博士たちの乗る艦へ向かって突撃した。
ダメだ、間に合わないと思ったその時、ヒュドラ号が……達人さんが乗ったゲットマシンが敵と衝突して、身を挺して守り、私は再び家族と呼べる人を失って生き延びた。
全身が焦げ付いたゲッターが浅間山の地に降り立つ、アタシはリリアの胸の中で泣き叫んだ。
だが戦いはまだ終わってなどいない、ミチルさんも達人さんも失い……3人目のゲッターチームをすぐさま補充しなければならない。なのに私はその3人目が気に入らない、リリアと私さえ生き残っていればいいという気持ちとゲッターに相応しくない軟弱な候補どもに苛立ちが隠せなかった。
そんなある日、早乙女博士が一人の男を連れて来た
そいつの名は「タケシ」
まあ随分とガタイだけはいい、多少泣き言を言っていたもののやむを得ず乗せられたゲットマシンの中でつぶれてハジをかく事はなかった。
だが中々気に入らん男だった、何もかもを見通しているようなつもりで居て、ゲッターにやけに詳しく、かと思えばルミナスナイトやらルミナザイトやらに気を回している。
挙句の果てには「ルミナスナイトには乗らんのか?」などと聞いてきて頭に来たアタシは奴をぶん殴り言ってやった「ルミナザイトなんざ消えちまえばいい、オヤジを殺したあんなものはな!」
まるで堪えた様子もなくすぐにすまんと頭を下げて来たがその態度が余計に腹立たしく、ついには鉄パイプでぶん殴ってしまうもそれも全然効いていない、こいつ体が鉄で出来てんのかよと思いながらアタシは怒りをぶつけてしまっていた。
だが奴はそれを全部その身で受け止めていて、アタシは気付かされた。
こいつはアタシの今の苦しみを理解しようとしてくれていた、だからアタシは手を止めて奴に言った。
「アタシを殴れ」
「そいつは嫌だぜ、お前を殴ったらリリアさんに殺されちまう」
聞かされるのはリリアに滅茶苦茶詰められたという事、アタシの知らない場所でリリアは随分こいつを試していたらしく……なんと目の前で鉄パイプを握りつぶすのを見せられたそうだ。
あいつ……いつの間にそんな狂暴になってたんだ……と気持ちと隠し事してやがったなという気持ちがせめぎあい何とも言えなかったが……とにかくタケシは……こいつは人間的には信じてよさそうだと感じた。
ただなんかゲッターについて語る時、やたらと胡散臭くて気色悪くなるのは何なのだろうな……
ちょっと悪質な宗教家というかゲッター教みたいなの作りそうな危うさを感じる語り方なのがちょっとアタシは無理だった。
まあゲッターチームとしては申し分ない働きをしてくれるし、アタシらの事を気にかけてくれる、そして何よりもアイツ自身が強くなろうとしている姿にアタシらは間違いなく仲間だと言えるようにはなっていた。
戦いを終えて、新たなゲッター「ライトニング」のコクピットの中でゲッターの光を見た今だからこそ思う。
あいつを導いたのはゲッターだ、だがアイツがアタシらと一緒に戦う覚悟を決めたのは……あいつ自身の意志だと。
果て無き戦い、虚無の世界、そんなもの知った事じゃない。
アタシ達はアタシ達の意志で戦い未来を切り開いていく。
「いくぜダチ公!」