鳳凰院凶真と沙耶の唄   作:folland

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別ルートです


※05

今日も沙耶の元へと足を運ぶ。

 

沙耶と会って話をして以来、夕方に沙耶の家に出向くのが日課となっていた。

 

この世界で唯一の人間。

俺を理解し、支えてくれる少女。

 

Dメールのことやタイムリープのことなども話した。

俺の弱音や愚痴なども嫌な顔をせず聞いてくれる。

 

宇宙から来た存在。

孤独な少女。

 

俺と話すときはとても楽しそうにしている。

逆に帰るときは寂しそうな眼をしている。

俺なんかが力になれることはたかが知れているが。

俺と話すことで寂しさが紛らわせるならいくらでも話そう。

 

 

そんなことをつらつらと考えていたら、沙耶のいる空き家へと着いた。

 

 

 

 

夕暮れの中、空き家に入る。

人気のないリビングを通り過ぎ、2階へ。

そのまま屋根裏部屋への階段を上がろうとする。

そのとき、携帯の着信音が鳴った。

 

誰からか確認してみると、知らないメールアドレス。

 

不審に思い、内容を見てみる。

 

 

―――

 

件名:沙耶だよ♪

 

おかえり、倫太郎!

 

―――

 

沙耶からだった。どうやら俺が付くと同時にメールを送ったらしい。

 

「ただいま沙耶、メール見たぞ」

 

そう声を掛けながら階段を上る。

 

「倫太郎、ちゃんと打ててた?」

 

「ああ、バッチリだ」

 

沙耶はニコニコしながら屋根裏部屋の地べたに座っていた。

 

この携帯電話は沙耶が自分で入手したものだ。

タイムリープのためにも自分の携帯がいるということになったが、俺が買うより沙耶が自分で手に入れるほうが早いといったのだ。

 

何かしら非合法の方法で手に入れたのだろうか。

まぁ手に入ったのならとやかくは言わない。

どうせそのうちタイムリープをすることになるのだし。

 

「しかし手に入れたばかりだというのに、もうしっかりメールを打てるのだな」

 

「えへへ、練習したからね」

 

花が咲いたような笑顔をこちらに向ける沙耶。

俺までなんとなく嬉しくなってくる。

 

「もうDメールでもタイムリープでもなんでも来いだよ」

 

サムズアップをして陽気に言う沙耶。

 

「Dメールを使ったら世界線が変わって今の沙耶の記憶が保てなくなる。タイムリープも俺の携帯電話を使えばいいだろう」

 

Dメールに関しては、使うつもりもない。

エシュロンに捕捉されたDメールを消去しても、その後にDメールがあったら同じことだ。

 

それに世界線が変われば、今の沙耶と別れることになる。

タイムリープの48時間制約を解放できたら世界線を移動するが……それまではせめて一緒にいたかった。

 

また、タイムリープに関しては俺の携帯電話を使うつもりだった。

 

「俺と沙耶が出会った日に俺がタイムリープをして、そのあと俺の携帯電話を沙耶に渡せばいい」

 

俺はタイムリープのために自分への電話は必ず自分で取る。

タイムリープした後は、その後に沙耶がタイムリープすることを知っているので携帯電話を沙耶に渡せばいい。

 

「む~。わかってるけど、自分の携帯が持てたことがうれしかったの!」

 

「そうだな。これで沙耶の声がいつでも聞けるわけだしな」

 

「いつでも電話でもメールでもしてきていいんだからね」

 

「ああ、わかった」

 

そういって、沙耶は俺の左手を握ってきた。

 

柔らかな感触がする。

 

守りたい。

一緒にいたい。

 

俺は沙耶に微笑みかける。

沙耶も俺に微笑んでくれる。

 

そうして俺と沙耶は、他愛無い話をしだすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「それで……タイムリープマシンの調子はどうなの?」

 

「ああ……芳しくないな……」

 

沙耶は俺の目的について心配してくれている。

だが、相変わらずタイムリープマシンの調査はうまくいかない。

 

まゆりを、紅莉栖を。2人を助けたい気持ちは今でも変わらない。

だがその気持ちだけでは現状は如何ともしがたかった。

 

一歩も前に進めない。

沙耶といない時の俺は、その焦燥感で自分の身を焦がされていたのだった。

 

「無理……しないほうがいいよ……。できないことは、できないって言ってもいいんだよ……」

 

心配そうな目でこちらを見上げてくる沙耶。

沙耶の右手がこちらを優しく握ってくる。

 

「心遣いはありがたい……。けど、それでも、俺はやらなきゃいけないんだ……」

 

救いたい。あの二人を。

 

その死を何度も見てきたまゆり。俺の大切な幼馴染。

俺を何度も助けてくれた紅莉栖。俺の愛しい人。

 

地獄の世界に放り込まれてもその気持ちは変わっていない。

それだけが今の俺の存在意義だからだ。

 

「沙耶には感謝している……。でも俺は、諦めるつもりはない……!!」

 

そうだ、諦めてはいけない。

今までどれだけの思い出を犠牲にしてきたのか。

どれだけ傲慢なふるまいをしてきたのか。

 

沙耶には救われた。

一時は生きている意味すら見失いかけた。

正気を失いかけた。

 

だが、俺は。

償わなければならない。

報いを受けなければならない。

そして……俺が背負ってきたものをなかったことにしてはいけないのだ。

 

「倫太郎……」

 

儚げな声。

沙耶はうつむき、なにがしかを考えているようだ。

 

「倫太郎に……聞きたいことがあるの……」

 

ポツリと、こぼれるように紡がれた言葉。

 

「なんだ? 何でも聞いていいぞ」

 

その様子が気になり、なるだけ優しい声を出す。

沙耶はうつむいたままだ。

口だけぼそぼそと動かしている。

どんなことを聞きたいのだろうか。

 

俺は急かすことなく静かに待った。

 

 

しばらくして、沙耶は何かを決意したかのような目でこちらを見上げた。

 

「倫太郎……倫太郎は……大切な人たちが……その……変な風に見えるのは、いやだよね……?」

 

「それは……」

 

俺が口を開くと、途端に沙耶は心配そうな顔で俺を見つめてくる。なんだろう。

 

沙耶の考える本当のところがわからないが、俺は俺の思うところを口にした。

 

「たしかに……今の、人が肉塊に見え、世界が地獄のように見えるのは……正直かなり堪える」

 

そこで俺は口を止める。

沙耶は続きを促すように俺を見ている。

 

少し、間をおいて俺は宙を見ながら続きを答えた。

 

「だが、ラボメンは……俺にとっての大切な人は……変わらず大切だ。どんな姿であっても、だ」

 

そう言って沙耶の方に向き直る。

 

「もちろん、沙耶も大切だからな」

 

そう言って左手で、沙耶の右手を優しく握る。

 

「……うん、ありがとう」

 

そういって顔を下に向ける。

沙耶が何を考えているかはわからない。

ただ、俺のことについて真剣に考えてくれているのはわかる。

それだけで、単純にうれしかった。

 

「じゃああたしは……うん……そうだね……やっぱり……」

 

ぶつぶつと小さく何かを漏らした後、俺に満面の笑みを向ける。

 

「うん、倫太郎!きっと大丈夫!そのうち解決するよ!」

 

「え?あ、ああ」

 

何とも漠然とした言いように少し呆気にとられる。

何が大丈夫なのだろうか。

沙耶は何かをする気なのだろうか。

 

ただ、考えてみてもよくわからない。

だが沙耶は俺を応援してくれている。それは間違いなくいえることだった。

根拠がなくとも、何とかなる。そう信じさせてくれる強い言葉だった。

 

「……そうだな、きっと大丈夫だ」

 

そういって微笑みかけると沙耶も嬉しそうに微笑んだ。

 

そうだ、きっと何とかなる。

根拠も何もないが、沙耶といるだけで俺は何でもできる気がした。

 

きっと、まゆりも紅莉栖も救うことができる。

 

そうして、すべてが解決したら、沙耶をラボメンに迎えよう。

きっとどうにかなる。何とかなるさ。

 

 

俺は呑気にそんなことを考えていた。

 


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