滅竜魔導士がオラリオに迷い込むのは間違っているだろうか   作:合体魔人トム・ブラソン

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第一話 道は前しかない

走る、走る、走る。

 

 目の前に緑色の蛇みたいな怪物が立ちはだかる。

 奴は雄たけびを上げ、大きな口をあけ炎を吐いてきた。

 

 だが、そんなものは効かないと、記憶が、知識が、経験が教えてくれている。

 

 自身の直感に身を委ね、素早く奴の下へ潜り込み、拳に炎を纏わせ、体を捻りながら飛び上がり、アッパーカットを叩きこむ。奴は大きく仰け反り、わずかに体が浮き上がった。そして隙を逃さないと言わんばかりに、今度は脚に炎を纏わせ鋭い蹴りを腹に叩き込んだ。その威力たるや、奴は数回バウンドをしながら大きく後方へ吹き飛ばされた。

 

 ピクピクと痙攣を起こしながら、起き上がろうとする姿を捉え、トドメと言わんばかりに大きく息を吸い炎を吐き出す。奴は炎に飲み込まれ小規模の爆発を起こして消滅した。

 

 

駆ける、駆ける、駆ける。

 

 

 大きな音をを聞きつけたのか、数体の怪物が駆け寄ってくる。

 息を整える暇もなく、視界に捉えた階段へと一目散に走っていく。

 

 これで最初にいたエリアから7つ目の階段を駆け上がる。

 そうして目に飛び込んできたのは白濁色の壁面と果てしなく高い天井、そして一つの"闘技場"だった。

 

 

――ここはマズイ。今すぐ逃げろ。

 

 

 荒れた息と震える手足を整えながら、頭の中で鳴り続ける警鐘を必死に抑える。

 視界をせわしなく動かし、"道"を探すが時は待ってくれない。

 

 壁にヒビが入り、怪物たちが生まれてくる。

 

 最初のエリアにいた時に比べれば、体の使い方は上手くなった。敵の攻撃がしっかりと見えるようになった。炎を暴発させることも、過剰に発動させることも、空回りさせることもなくなった。自信もついたし、感覚も研ぎ澄まされているのもわかる。

 階段を上がるたびに多種多様な怪物たちが立ちふさがってきたが、突破することができた。

 

 もっとも、今に至るまで少なくない傷を負ったし、身に纏っていた衣服はすでにボロボロだ。死の恐怖も味わった。猛毒に苦しめられもした。途方もない闇夜の中を歩き続けるかのように、先の見えない戦いも多かった。

 

 それでも、倒せない敵ではなかった。乗り切れる試練だった。波があった。

 だが、ここはそうじゃないと本能が告げる。

 

 道を見つけた。迷わず走った。

 

 

――逃げる、逃げる、逃げる。

 

 

 湧き出てきた骨の怪物たちを避けて通る。避けて通れない場所にいた怪物は、全力の炎と力を込めて殴り、蹴り、吹き飛ばして道をこじ開けた。

 

 迷宮の中を彷徨いながら突き進み、時は引き返しながら階段を探す。

 

 咆哮が木霊する。

 

 強大な威圧感を全身に浴びながら、ついに階段を見つけた。だが怪物たちはそう簡単に通してくれない。絶対に生きて返さないという使命を帯びているかのように、怪物たちは通路を埋め尽くした。

 

 真正面から挑む時間はない。だから、正攻法ではない搦手でこの窮地を逃れる。

 

 脳裏に現れた"活路"を眼前に描きながら両脚に炎を纏わせ、祈るように気炎を吐いて両脚に貯めた炎を放出する。瞬間、全身に飛んでもない重圧が掛かる。

 

 活路は前ではなく、上にあり。

 

 怪物たちの上を擦れ擦れに飛びながら、偶に来る攻撃を何とか躱しながら階段の前に不時着した。疲れ果てた身体に底をつきかけた魔力。何とか受け身を取り、ボロボロになりながらも必死に体を起こし、迫りくる脅威から逃げるために歩みを進め、何とか逃げ出すことができた。

 

 鉛のように重たい心と身体を引きずりながら、階段を上り少し先の岩陰で腰を落とした。

 

 震える手で背嚢を下ろし、中から松明と水を取り出す。水を口にし、思わず出そうになった涙を堪え松明に火をつける。そうして轟々と燃え盛る松明を口に入れ、咀嚼し、回復していく体力と魔力を実感しながら息を整える。先に進むための覚悟を取り戻すために。

 

 

――道のりは遠く。光はまだ見えない。

 

 

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