滅竜魔導士がオラリオに迷い込むのは間違っているだろうか   作:合体魔人トム・ブラソン

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第七話 君の魂

この世界は滅茶苦茶だ。

 

そう感じざるを得ないほどに、理不尽な出来事が起こり続けている。

 

宿主(ナツ)のような振る舞いを続けようとしたが、俺には無理だった。あの楽観的で直情的で眩しいほどに家族を大事するそんな彼に、俺はなれなかった。

 

 

憧れた彼には成れないが、俺には俺のやり方がある。

 

理不尽を受け入れ、ただ流されるだけの生き方など、薩摩隼人の血が許さない。

 

俺は覚えている。幼き頃、祖父から叩き込まれた言葉を。

 

 

「男ならば一度口にしたことは命を賭けてでも守れ。舐められたら殺せ。それが九州男児よ。」

 

 

誇張でも冗談でもない。俺の家では、それが本気で教えられていた。

 

弱き者を守るためならば、拳を振るうことも辞さない。だが、一度でも己の信念を曲げ、腰を引いた瞬間、男としての価値は消え失せる。

 

この世界に来てから、何度もその信念を試されてきた。

 

その度に彼(ナツ)ならこうするだろうな、という生半可な気持ちで乗り越えてきた。いや、逃げてきた。

 

だけど、それも今日で終わり。

 

 

「お前は殺し屋か?」

 

 

友人にそう笑って問われたこともある。

 

 

「いや、違う。」

 

 

俺は否定する。殺しを生業とするわけではない。

 

だが、俺の生き方に楯突く者には、容赦をしない。

 

この拳は、大切なものを守るためにある。

 

彼(ナツ)みたいにお調子者で明るくて、大事な家族の名前を誇りをもって大きく叫ぶことは出来ないけど、俺は俺流のやり方で家族を大事にしよう。

 

だから俺の生き方は、楽観的なヒーローにはなれない。

 

だが、薩摩隼人として生きるならば、決して恥じることはない。

 

 

「覚悟はあるか?」

 

 

目の前女傑(自分)にそう問いかける。

 

にぃ、と口角を上げ喜びの色を浮かべた声で女傑が答えた。

 

 

「何を……!」

 

理不尽に対する怒りを薪に、轟々と燃え盛る炎を纏った拳が唸りを上げる。

 

その拳を受け止めたのは、女だった。

 

頬にかすり傷を負いながらも、不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「ふん、男に殴られるのは初めてじゃない。いい顔するようになったじゃないか」

 

 

女傑と呼ぶにふさわしい剛胆な佇まい。

 

俺の拳を弾き飛ばし、鋼のような拳が俺の顔面に迫る。

 

寸前で避けるも、頬をかすめる衝撃。鼓膜が揺れるほどの一撃。

 

 

「ほう……やるじゃねえか。」

 

 

互いに一歩も引かぬ殴り合い。

 

骨が軋む音が響き、筋肉がぶつかり合う感触が広がる。

 

まるで、獣同士の戦いのような、純粋な肉弾戦。

 

だが、俺は負けるつもりはない。

 

薩摩の誇りに懸けて、拳一つで決着をつける。

 

「俺のすべてを、磨き上げてきた技術で。」

 

殴り合いの中で、無意識に体が動く。ボクシングのフットワークで距離を測り、カウンターを狙う。

 

女傑は一歩も引かず、いくつもの修羅場で培った鋭い打ち込みを繰り出す。突きの速さ、重さ、角度……ただの喧嘩ではない、鍛え上げられた技の応酬。

 

俺はローリングで攻撃をかわし、ボディへと左のジャブを打ち込む。だが彼女も反応が速い。前蹴りで距離をとり、鋭い右の正拳突きを放つ。

 

「おもしれぇ……!」

 

拳と拳、技と技のぶつかり合い。力だけではない、培った経験と技術の全てをかけた戦い。

 

殴り合いではなく、真剣勝負。

 

女傑の大振りなストレートが飛んでくる。

 

 

「もらった」

 

 

俺はそれにカウンターを合わせるべく、瞬時に炎を拳へと纏わせた。

 

轟音と共に、俺の拳が彼女の顎を狙う——が、

 

 

「甘い!」

 

 

彼女はその瞬間、さらなるカウンターを叩き込む。

 

俺の拳が顎へと炸裂するのと同時に、彼女の拳も俺の頬にめり込んだ。

 

一瞬の静寂。

 

次の瞬間、俺は炎の勢いで後方へ吹き飛びながらも、反動を利用し、再び女傑の懐へと猛然と飛び込んだ。

 

 

「まだ終わっちゃいねぇ……!」

 

 

拳を叩き込もうとした、その瞬間——

 

 

「動くな!ガネーシャ・ファミリアだ!」

 

 

鋭い声と共に、甲高い声が周囲に響く。

 

数名の武装した獲物を構え、俺たちの戦いを制止する。

 

女傑が悔しげに舌打ちする。

 

 

「チッ、あと一撃だったのによ。」

 

 

俺は拳を下ろし、息を整える。

 

 

「……どうやら、勝負はお預けみてぇだな。」

 

 

俺は女傑がすぐに戦いをやめたことに驚いたが、フェルズから問題を起こすなと言われた手前、ここで捕まったら後が面倒だと判断しその場から逃げた。

 

ガネーシャファミリアの誰かが俺を呼び止めたがそれを無視し、路地裏へ走り抜ける。

 

 

「またなぁ、色男!また喧嘩しようなぁ!」

 

 

女傑のそんな言葉と女傑に対しての りの声を背に、路地裏へ消えていく。

 

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