滅竜魔導士がオラリオに迷い込むのは間違っているだろうか 作:合体魔人トム・ブラソン
この世界は滅茶苦茶だ。
そう感じざるを得ないほどに、理不尽な出来事が起こり続けている。
憧れた彼には成れないが、俺には俺のやり方がある。
理不尽を受け入れ、ただ流されるだけの生き方など、薩摩隼人の血が許さない。
俺は覚えている。幼き頃、祖父から叩き込まれた言葉を。
「男ならば一度口にしたことは命を賭けてでも守れ。舐められたら殺せ。それが九州男児よ。」
誇張でも冗談でもない。俺の家では、それが本気で教えられていた。
弱き者を守るためならば、拳を振るうことも辞さない。だが、一度でも己の信念を曲げ、腰を引いた瞬間、男としての価値は消え失せる。
この世界に来てから、何度もその信念を試されてきた。
その度に
だけど、それも今日で終わり。
「お前は殺し屋か?」
友人にそう笑って問われたこともある。
「いや、違う。」
俺は否定する。殺しを生業とするわけではない。
だが、俺の生き方に楯突く者には、容赦をしない。
この拳は、大切なものを守るためにある。
だから俺の生き方は、楽観的なヒーローにはなれない。
だが、薩摩隼人として生きるならば、決して恥じることはない。
「覚悟はあるか?」
目の前
にぃ、と口角を上げ喜びの色を浮かべた声で女傑が答えた。
「何を……!」
理不尽に対する怒りを薪に、轟々と燃え盛る炎を纏った拳が唸りを上げる。
その拳を受け止めたのは、女だった。
頬にかすり傷を負いながらも、不敵な笑みを浮かべる。
「ふん、男に殴られるのは初めてじゃない。いい顔するようになったじゃないか」
女傑と呼ぶにふさわしい剛胆な佇まい。
俺の拳を弾き飛ばし、鋼のような拳が俺の顔面に迫る。
寸前で避けるも、頬をかすめる衝撃。鼓膜が揺れるほどの一撃。
「ほう……やるじゃねえか。」
互いに一歩も引かぬ殴り合い。
骨が軋む音が響き、筋肉がぶつかり合う感触が広がる。
まるで、獣同士の戦いのような、純粋な肉弾戦。
だが、俺は負けるつもりはない。
薩摩の誇りに懸けて、拳一つで決着をつける。
「俺のすべてを、磨き上げてきた技術で。」
殴り合いの中で、無意識に体が動く。ボクシングのフットワークで距離を測り、カウンターを狙う。
女傑は一歩も引かず、いくつもの修羅場で培った鋭い打ち込みを繰り出す。突きの速さ、重さ、角度……ただの喧嘩ではない、鍛え上げられた技の応酬。
俺はローリングで攻撃をかわし、ボディへと左のジャブを打ち込む。だが彼女も反応が速い。前蹴りで距離をとり、鋭い右の正拳突きを放つ。
「おもしれぇ……!」
拳と拳、技と技のぶつかり合い。力だけではない、培った経験と技術の全てをかけた戦い。
殴り合いではなく、真剣勝負。
女傑の大振りなストレートが飛んでくる。
「もらった」
俺はそれにカウンターを合わせるべく、瞬時に炎を拳へと纏わせた。
轟音と共に、俺の拳が彼女の顎を狙う——が、
「甘い!」
彼女はその瞬間、さらなるカウンターを叩き込む。
俺の拳が顎へと炸裂するのと同時に、彼女の拳も俺の頬にめり込んだ。
一瞬の静寂。
次の瞬間、俺は炎の勢いで後方へ吹き飛びながらも、反動を利用し、再び女傑の懐へと猛然と飛び込んだ。
「まだ終わっちゃいねぇ……!」
拳を叩き込もうとした、その瞬間——
「動くな!ガネーシャ・ファミリアだ!」
鋭い声と共に、甲高い声が周囲に響く。
数名の武装した獲物を構え、俺たちの戦いを制止する。
女傑が悔しげに舌打ちする。
「チッ、あと一撃だったのによ。」
俺は拳を下ろし、息を整える。
「……どうやら、勝負はお預けみてぇだな。」
俺は女傑がすぐに戦いをやめたことに驚いたが、フェルズから問題を起こすなと言われた手前、ここで捕まったら後が面倒だと判断しその場から逃げた。
ガネーシャファミリアの誰かが俺を呼び止めたがそれを無視し、路地裏へ走り抜ける。
「またなぁ、色男!また喧嘩しようなぁ!」
女傑のそんな言葉と女傑に対しての りの声を背に、路地裏へ消えていく。