(大き〜)
地霊殿の扉の前についたグラスは、大きく深呼吸をしてからノックをした。
(まさかこんなことになるとは······運がいい日のジェラルド並みついてないぞ)ハァ…
グラスがため息をついた直後に扉が開いた。黒、赤、紫の市松模様に彩られた床に、輝くステンドグラスの天窓が特徴的な内装だ。グラスが辺りを見渡していると、大階段の奥から人影が現れた。
「ようこそ地霊殿へ」
そう言うと出てきた少女は膝を曲げ西洋風のお辞儀をした。
ピンクの髪に水色でフリルのついた服。そしてスリッパを履いていて、だいぶ特徴的な容姿だが。グラスが気になったのは、
(なんだあの目は?)
コードに繋がれている不気味な目だった。
「『なんだあの不気味な目は?』ですか。これはサードアイ。第三の目です」
「っ!?」
「私は古明地さとり、この地霊殿の主です。貴方の名前は····サイモン・グラスですか」
「心が読めるのですか?」
「『お気の毒に』ですか。いいえ、私はそうは思っていません。心が読める力、これは誰にでも通用する最高の能力です」
「·······」
「『物腰は柔らかいが自信家で強い精神を持っている』ですか。なかなか人を見る目がありそうね」
「そりゃ私は学者ですから、心理が専門の」
「どうりで。ついてきて頂戴。貴方とはじっくり話したいの」
さとりは奥の方へ進みだした。
グラスは無言でついていくが非常に焦っていた。
(じっくり話す?まずい、"財団"について---)
「"財団"とは何ですか?·······考えるのをやめましたね。『今考えていることしか読めない』その通りです。基本的には。······ふふふ、『例外があるのか?』そのうちわかりますよ。」
さとりに部屋に案内される頃には、グラスの服は汗でぐっしょり濡れていた。
部屋に入ると先程あった鬼が出迎えた。
「よぉ!さっきぶりだな!まぁ腰掛けろ」
勇儀が館の主でもないのにグラスを席に案内した。さとりも腰掛けると勇儀が話し出した。
「今日地上から赤い獣が数体降ってきて、近づいた奴の様子がおかしくなってんだ。少々記憶が飛んでるらしい。そしてその後にお前が降りてきた。あんたはあいつらに追われてたんだろ?何か知らないか?」
「·········」
グラスは冷や汗をかきながら黙り込んだ。
「さとり、なんか分かるか?」
「『逃げてきただけ逃げてきただけ逃げてきただけ』」
「彼はそう考えていますが。一瞬だけ読めました。『数多の声』数多の声とはなんですか?」
グラスが滝のように汗をかく。しかしSCP-939という単語は読まれていなかった。
「教えてくれよグラス。お前を助けたことのお礼としてさ」
勇儀は優しく言うが圧がすごい。本当に潰れてしまいそうだ。このままでは命に関わると思い、グラスは最低限の情報を吐くことにした。
「・・・数多の声。私の仲間が研究している野生動物です」
「ほぉ。それで何故黙ろうとしていた?」
「この生き物は秘密裏に研究しています。何故ならこいつは記憶を消す効果のある揮発性の液体を出すことができ、群れをなす。人々のパニックは避けられない」
「嘘はついていませんね。どうにか隠しているだけかもしれませんが」
「幻想郷にはお前が連れて来たのか?」
「いえ、目が覚めたら森にいて、そしたら数多の声に追われている黒髪の赤と白の服を着た少女が私に群れをなすりつけてきました」
ここで両者の顔が曇り、お互いを見て言った。
「正邪ですね」だな」
「正邪?」
「この前幻想郷の秩序を転覆しようとした天邪鬼だ。現在指名手配されて逃走中だ」
「面倒なことになりましたね。一度皆を呼んで話したほうがいいのでは?」
「そうだな。フッ!」
突然勇儀がグラスを掴み、そのままグラスが看病されていた部屋にぶち込まれた。
「あんたにこの部屋やるからしばらくここで暮らせ、皆にはあんたを襲わないように言っとくから。じゃあな!」
そう言うと勇儀は行ってしまった。
グラスは一人部屋に取り残され、布団に倒れ込んだ。
「···········」
「夢であってくれ·········」
そのままグラスは死んだように寝てしまった。
CC BY-SA 3.0の基づき作成
グラス博士の人事ファイル
著者:Pair Of Ducks
URL:https://scp-wiki.wikidot.com/dr-glass-personnel-file
作成年:2009
SCP-939 “数多の声”
著者:Adam Smascher
URL:https://scp-wiki.wikidot.com/scp-939
作成年:2011