「どうしよっかなぁ、本当にできちゃったよ…」
とある研究室で一人、少年が呟く。
ボサボサの黒髪を首の後ろで結わえた少年。その手には白銀に輝く1本のベルトがある。
「半分洒落のつもりだったんだけどなぁ」
少年は不遇な人生を過ごしていた。
この世界は魔法という技術が存在し、扱う事ができるか否かは生まれた瞬間に決まる。魔法を扱う為の器官『リンカーコア』。それを持って生まれた者にだけ魔導師への道が開かれる。
幸い少年には才能はあった。だが、適正というものが無かった。
何をするにしても長続きしない。そのせいで成績は下の下。教師はおろか家族からも見放される始末だ。
代わりに興味がある事に対しては常人以上にのめり込むという悪癖を持つ。
それ故に日頃から『無能』、『リンカーコアの持ち腐れ』、『役立たず』などと謗られてきた。少年はたいして気にしなかったが、今回は少し状況が違う。
数多の次元世界の平和を守る組織『時空管理局』。その精密技術官の最終試験として、魔導師が魔法を行使する為の
「さすがは
少年が作成したのは
「ま、作っちゃったものは仕方ないし。せっかくだから試運転しとこうかね」
気怠げにそう言いつつ少年はベルトを腰に巻く。そして流れるような仕草で拳銃のグリップに似た物体を口元に近づけ起動トリガーとなる言葉を紡ぐ。
変身――
【Standing by――】
電子音が室内に響く。少年はそのままベルトの側部、ビデオカメラの形状をした箱へと差し込む。カチッと小気味のいい音と共に接続されたグリップがベルトを起動させて装着者をあるべき姿へと変貌させる。
ベルトを起点として青白い閃光が少年の体をフレーム状に奔る。そしてフレームに沿って黒いスーツが覆い、変身は完了する。
【――Complete.】
橙色の複眼、人骨にも似た白色のライン、闇夜に溶けるような黒のスーツ。
作中において最初期に開発されたというライダー。
――仮面ライダーデルタ。
手を開閉して着心地を確認すると、少年は側部に備え付けられたグリップをビデオカメラ『デルタムーバー』ごと引き抜く。
「ファイア」
再び口元に近づけてそう呟き、遠方にある的に目掛けて引き金を引く。すると魔力で形成された光弾が発射され正確に的を撃ち抜いていった。
「動作に問題なし。ほんとどうするよ、これ…」
うろ覚えの記憶で作ったので本物と比べれば細部が異なるかもしれないが、それでもここまで再現できたのだから及第点は与えてもいいだろう。そう自分に言い聞かせ今後の方針を考える。
「試験は合格できそうだけど、人手不足の『陸』がうるさいだろうなぁ」
ライダーズギアは謂わば、魔法が苦手な魔導師の為のデバイスである。魔法とは学問の一種だ。世の中には勉強が苦手で運動の方が得意という人間もいる。その逆も然り。
しかしこの世界の魔導師という職種はそうはいかない。特に時空管理局の武装隊という戦闘魔法のエキスパートは文武に秀でていなければ務まらないのだ。
よってこのライダーズギア――『デルタギア』はあらかじめ機能を限定して作った。
これはデバイスが自動で魔導師から魔力を運用する仕組みになっている。通常は『身体強化』と『防御力』に全振りし、遠距離攻撃する場合は腰の『デルタムーバー』による魔力弾のみ。魔力保有量が多いほど稼動時間が長くなるが、攻撃力に変化はない。誰が着ても安定した戦闘力が出せるというのがこのデバイスの売りである。
「過ぎたるは及ばざるが如しって言うし、これはこれで良いか…」
下手に強力なものを作って危険視されても困る。何事も順序というものがあるのだ。
更に言えばまだこれは試作機。とりあえず形にしただけの間に合せである。中途半端なものを運用して、その後に問題が発覚してしまったら意味がない。やるのなら問題点を徹底的に洗い出して改良する必要がある。
さもなくば、このベルトはゴミとして扱われて歴史の闇へと消える事となるだろう。普段の100倍以上の意欲を発揮して作ったものをそんな扱いされては堪らない。
これが後に『管理局の黒い悪魔』と呼ばれ、次元世界を震撼させる男――アーベント・ターナーの最初の功績だった。