魔法世界の仮面舞踏会   作:マルク

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強さのカタチ

 

 

なのは側の決着がついた頃、フェイト側は未だに膠着状態が続いていた。

 

欠伸(あくび)が出そうなぐらい(のろ)いな。面白いほどよく当たる。ああ、そういえばプレシアから虐待されてたんだっけ? その痩せっぽっちの体は食事も碌に与えられてなかったせいか。悪い悪い、無神経な事を聞いたな」

 

アーベントの耳障りな声が鬱陶しい。挑発だと分かっていても会話に聞き捨てならない単語を入れられ、フェイト達は冷静さを保てずにいた。

 

「相棒の犬っ子も、その程度の力でイキがっていたのか? ほら、お前が弱いからご主人様がどんどん傷つく。

使い魔はただ存在するだけで主人の負担になるっていうのに不様だな。お前は愛玩動物(ペット)以下だよ」

 

片や親の愛に飢えた生真面目な少女、片や精神年齢が主人以下の獣。アーベントの盤外戦術に抗うには2人は若すぎた。

 

「アルフ、一旦戻って!」

 

歯軋りしながらもこのままでは埒があかないと、フェイトはアルフを呼び戻す。主人の呼び掛けに待ってましたと言わんばかりにアルフはすぐに後退し、フェイトの前に仁王立ちになった。

 

防御魔法(シールド)張って! 守りはお願い!!」

 

「うん、任せて!!」

 

アルフが張った魔法陣が盾となり、アーベントが放つ魔力弾から2人を守る。その間にフェイトはバルディッシュに意識を集中して魔法を構築した。

 

「ランサー、セット」

 

【Get set.】

 

彼女の周囲に4個の発射体(フォトンスフィア)が生成される。

 

「ファイアッ!!」

 

【Photon Lancer.】

 

電気を帯びた槍のように鋭い魔力弾が射出された。それを見たアーベントはすかさずデルタムーバーで撃ち落としていく。

 

「チッ!?」

 

しかしフェイトの魔力弾は速射性に優れている。全ての迎撃は間に合わず、1発着弾を許してしまった。その対応を見たフェイトは自身の推察に確信を持つ。

 

(やっぱり! 撃ち落としにきた!)

 

先ほどから彼女が感じていた違和感の正体。それはアーベントが模擬戦が始まってから一歩も移動していない事だった。何の意図があってかは分からないが、これを好機と考えてアルフに指示を出す。

 

「そのまま防御して! 攻撃は私がやる!!」(合図するから、その時は組みついて捕縛魔法(バインド)!!)

 

「わ、分かった!!」

 

指示と同時に飛んできた念話に戸惑いながらも、アルフはアーベントの弾丸から主人を守り続ける。

戦法を変えた2人に対し、アーベントは依然としてデルタムーバーによる銃撃に徹している。ここで両者の力関係(パワーバランス)が逆転した。

弾速、威力はほぼ互角でもアーベントの連射速度では3発分しか相殺できない。最後の1発が彼の体を射止める。たった1発、けれども着実にダメージを与える1発だった。

 

その筈だった。

 

(なんで!? なんで動かない!?)

 

このままいけばアーベントの敗北は必至。

だというのに彼は頑なに戦法を変えようとしない。

 

周りこむだけでフェイトが見つけた攻略法は役立たずになる。

だというのに彼の心は折れない。

 

デルタという無機質な仮面で顔を隠すアーベント。その戦闘人形のような姿が不気味だった。まるで母の命令に従順だったかつての自分のように――

 

胸の奥でギシリと鈍い音が響く。

 

そして訪れる通算4回目の弾切れ。一刻も早く目の前の男を視界から消したい一心でフェイトは命じる。

 

「今!!」

 

主人の号令と同時にアルフが飛び出す。アーベントの両手を掴み上げ、更にそのまま捕縛魔法(バインド)で彼の体を拘束した。デルタの怪力で強引に振り解こうとするが、身体強化したアルフと魔法による2重拘束は簡単には外せない。

 

「アルカス・クルタス・エイギアス。煌めきたる天神よ いま導きのもと降りきたれ…」

 

その間にフェイトが詠唱するのは自身が持つ中でも最高ランクの魔法だった。天候を味方にする儀式魔法で、その一撃はなのはに撃ったファランクスの全弾を合わせたものに匹敵する。

快晴だった空に暗雲が垂れ込め、戦場に闇の帳が下ろされた。異変に気づいたアーベントが拘束を解こうともがくがもう遅い。

 

「バルエル・ザルエル・プラウゼル。撃つは雷、響くは豪雷。アルカス・クルタス・エイギアス」(アルフ、もう十分! 逃げて!!)

 

最後の詠唱が終わった瞬間、アルフがアーベントから離れる。残されたのは捕縛魔法(バインド)で動けない怨敵のみ。

 

「サンダー・フォール!!」

 

ありったけの魔力を込めてフェイトはバルディッシュを振り下ろす。そして天より巨大な雷が落ち、アーベントの体を飲み込んだ。着弾と共に閃光と爆音が戦場を染め上げて一時の静寂が訪れる。

 

「やっりー! さすがフェイト!!」

 

煙が晴れて倒れ伏すアーベントの姿を見て、アルフが勝利の喝采を送る。それを聞いてフェイトも警戒心を解き、バルディッシュを下ろす。その瞬間――

 

「オォオオッ!!」

 

突如、アーベントが身を跳ね上げて特攻してきた。完全に虚を突かれたフェイトは反応できない。

 

(死んだふり!? 本命はこっちだ!)

 

銃撃に慣れたところに初めて見るアーベントの最高速度(トップスピード)。しかもフェイトは大技を使って疲労困憊。大ダメージを覚悟して身を固めるが、アルフがそれを許さなかった。

野生動物の本能故か、余力がある故かは分からない。彼女はその不意打ちに対応してみせた。

 

「させるか!!」

 

アーベントの体にタックルして主人への進行を阻み、背後に回り込む。

 

「い・い・加・減・寝てな!!」

 

アルフは腕力に物を言わせてアーベントを持ち上げ、そのまま後方へブリッジして彼の後頭部を地面に叩きつけた。

 

俗に言う〝ジャーマン・スープレックス″というプロレス技だ。デルタを纏っていても分かるぐらい首がおかしな方向へ曲げられてアーベントは今度こそ沈黙した。

 

【Winner,Fate and Alf pair.】

 

リンディ側からも勝ち名乗りが上がり、フェイトも緊張の糸が切れて膝が崩れ落ちる。 

 

軍配はフェイト達に上がった。望んだ通りの結果に落ち着いた。けれども、フェイトはそれを全く嬉しいとは感じなかった。

 

この胸のわだかまりの正体が分からないまま、真逆に喜ぶ使い魔(アルフ)に対してぎこちない笑顔で応えるのだった。

 

 

 

 

模擬戦が終わってしばらくした後、なのは達はアースラの艦橋に集められた。

 

「それでは発表します。厳正なる考慮の結果、カートリッジはなのはさんのレイジングハートにだけ組み込む事になりました」

 

「…え?」

 

リンディから告げられた内容になのはは驚く。負けた自分が何故と。アルフも結果に納得いかず、リンディに抗議する。

 

「なんでさ! 私達は勝ったのに、なんでフェイトはダメなんだよ!」

 

「確かに勝敗だけを見ればフェイトさんは勝ちました。ですが、私は一言も〝勝った方にカートリッジを組み込む”とは言ってませんよ? それに…どうして自分はダメなのかは、フェイトさん自身が1番分かっているんじゃないかしら?」

 

リンディの言葉にフェイトは暗い表情で俯く。

 

「なのはさんとフェイトさん、2人ともトドメを刺す時に力押しになってしまう傾向がありますね。必要以上(オーバーキル)の魔法を撃ってしまい、その直後を狙われています。特にフェイトさん…」

 

「はい」

 

「アルフさんを組み付かせて大技を撃つ。実に合理的な戦術と言えるでしょう。ただし、人道的に考えるとこれは問題行動です。今回はアルフさんの回避が間に合ったから良かったものの、一歩間違えればあなたは自らの手で愛する家族の命を奪っていたかもしれないんですよ。なのはさんにも言えますが、非殺傷設定をあまり過信しないように…」

 

「はい、ごめんなさい…。アルフも…ごめんね……」

 

管理局では常に様々な戦術が研究されている。その中にはフェイトが使用した戦術もあった。

 

非殺傷設定を用いた同士撃ち(フレンドリーファイア)である。

 

しかしいくら非殺傷設定とはいえその効果は絶対ではなく、一歩間違えば大怪我になる。更に、もし実行するなら捕獲役は誰がやるのかで問題となった。

 

第1候補に挙がったのは低ランクの魔導師だ。犯罪者相手に同じ手は2度と通じないと考えた場合、どうしても一撃で仕留める必要がある。なので攻撃役は高ランク者に任せようとなるのは仕方なかったのかもしれない。

だが、それに待ったをかける者がいた。言わずと知れた低ランク者達だ。彼らにだって叶えたい理想がある。守りたい家庭がある。そんな危険な役回りを進んでやりたがる者は殆どいなかった。どんな美辞麗句で飾ろうと、それが高ランク者の踏み台にしかならない事に気づいていたのだろう。

 

次に候補に挙がったのは〝使い魔”だった。彼らは動物を素体に作られた魔法生命体。その作り方は死亡直前又は直後の動物に人造魂魄を憑依させるという代物だ。契約破棄か完全破壊されない限り、常に主人の魔力を消費して顕現し続ける。このシステムを利用して〝主の為にその身命を捧げよ”とでも契約してしまえば抵抗される心配もないだろう。されたら契約破棄して本来の末路を辿ってもらえば済む話だ。肝心の素体も、捨てられた動物や殺処分予定の動物を使えば入手経路には困らない。問題があるとすればただ一つ、〝倫理観”だけだ。

血肉どころか、命すら人間の為に捧げるこのシステムを〝使い魔愛護団体”が見逃すはずがない。時空管理局は魔法ありきの組織だ。管理局で働きたいという魔導師達の善意で稼動している。そんな組織が犯罪者紛いの事をしていれば糾弾は免れない。就職希望者は激減し、遠からず管理局は崩壊するだろう。

 

結局良い解決策が見出せず、この戦術は〝禁じ手”とされた。間違ってもこれを常態化してしまってはならないとリンディを含めた高官達に厳命されている。

 

「それともう一つ気になったのが、戦闘中のフェイトさんの様子です。相手の挑発に心を乱されて、立て直しに苦労してましたね。カートリッジシステムは扱いが難しく、これまで以上に繊細な制御力(コントロール)が要求されます。今のあなたには自爆装置でしかないと判断しました」

 

「はい…異存ありません…」

 

実力に見合わないものを得ても、待っているのは破滅だ。それが分からないフェイトではなかった。ただそれでも悔しいという気持ちは抑え切れない。そんな心情を察したのか、なのはが声を掛けてきた。

 

「フェイトちゃん、大丈夫?…」

 

「うん、大丈夫。なのはは先に行ってて。すぐに追いつくから…」

 

下手な演技と自覚しているが、なのはは押し黙る。いくら心配しても当人が大丈夫と言えば、もう踏み込めないと分かっているのだろう。

親友と歩いていた魔導師の道。ずっと一緒だと、そう信じて疑わなかった。しかし、その道を1人取り残されてしまった事にフェイトは孤独と不安を感じずにいられなかった。

 

 




個人的に直接敵にしがみ付いてからのスターライト・ブレイカーが1番確実な倒し方だと思ってる
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