「うおぉおりゃああああ!」
赤い竜巻がデルタへと変身したアーベントに衝突して彼を住宅街の一角にめり込ませる。
爆音が轟くものの封鎖結界内では彼ら2名しかおらず、住人が慌てて出てくる様子はない。
「チッ、歯応えのねぇヤロウだ。そのヘンテコな
瓦礫の山に埋もれるアーベントを見下ろしながら赤い竜巻ーー鉄槌の騎士の異名を持つヴィータが毒づく。
己と
男をすぐさま敵認定したヴィータの行動は速かった。シャマルに一定の距離を保たせながら封鎖結界を張らせ、その間に男をボコって立ち去るという作戦である。脳に障害でも与えれば、他所にヴィータ達の情報を漏らす心配もない。
はやての人生を血で染めたくはない。
そう不殺の誓いを立ててはいたが、今回は仕方がない。かわいそうだが、まともに意思疎通できない体になってもらおう。運が良ければ、全て終わった後でシャマルが治療してくれるはずだーー完治できるかは知った事ではないが。
「降参してももう遅せぇ。竜の巣から卵を盗もうとするてめぇが悪いーーアイゼン!」
【Schwalbefliegen.】
そう言いつつ、ヴィータは手の指にピンポン玉サイズの鉄球を複数精製する。そしてそれを宙空に放り、鉄槌型デバイス『グラーフアイゼン』で打ち込んだ。
「ファイア」
それを読んでいたかのようにアーベントはデルタムーバーを引き抜き、不規則に動く鉄球を次々と迎撃していく。
(射撃に関しちゃ中の上ってところか。でもな!)
「たかが飛び道具にやられるほどベルカの騎士は甘くねぇんだよ! カートリッジ、ロード!!」
主人の呼びかけにアイゼンが応え、筒状の部分が上下に可動して薬莢を排出。魔力を全身に漲らせながら、アイゼンは片側をロケットのような推進機構に、もう片側をスパイクのような形状に変形させる。
【Raketenhammer.】
噴射口から魔力が噴出され、ヴィータは再び竜巻のように高速回転しながら突撃する。それを躱せないと判断したアーベントは両腕を構えて防御姿勢をとる。
炸裂する打撃音と同時にまたもや吹き飛ばされるアーベント。
いくら防御力が高いとはいえ、こう何度も大技を喰らえばひとたまりもないだろう。魔力、体力より先に気力が尽きてもおかしくない。
しかし雑魚なら既に撤退しているところを、
(まぁ、それでも負ける気はしねぇけどな)
敵は明らかに陸戦魔導師。空を自在に翔ける
ラケーテンハンマーをあと3発も当てれば流石にもう立てまい。
(ヴィータちゃん、急いで!? はやてちゃんが怪しがってる!)
そしてシャマルからも催促の念話が入る。
どうやら
(チンタラ時間かけてらんねぇ。このまま一気にきめてやる!)
とにかく
「そろそろ
「おいおい、何を焦ってるんだ? 追い詰めてる側の台詞じゃないだろ。戦場にしか生きる場所がない騎士らしく、もっと楽しんでいけよ」
「うるせぇ! サンドバッグを叩くのはもう飽きたって言ってんだ! 恨むなら半端な力で挑んだ自分を恨むんだな!!」
叫ぶと同時にヴィータが猛スピードで接近する。その勢いは凄まじく、アーベントが放つ銃弾をものともしない。
繰り出される乱打。
一撃、また一撃と打ち込む度にアーベントの体が上下左右に舞う。
「こいつで仕舞いだ! ラケーテンハンマー!!」
最後にヴィータが放つのは自身の得意技にして、アーベントを何度も空へ飛ばした技だ。しかも今回は零距離ーー威力は今までの比ではない。
「させるかっ!!」
間一髪のところをアーベントに長柄の部分を掴まれて阻まれるが問題無い。このまま強引に押し切るのみ。
「ぶち抜け! アイゼン!!」
主人の闘志に呼応するかのようにアイゼンの噴射する魔力が勢いを増す。
アーベントもそうはさせじと踏ん張る手足に更に力を込めた。
「うぉおおおおおお!!」
「うぉおおおおおお!!」
咆哮と意地がぶつかり合い、天地を震わせる。アーベントの足場が耐えきれず、互いに攻撃と防御の姿勢を維持したまま駒のように回転する。永遠に続くかと思われた攻防だが、それも陰りが見え始める。
「な、アイゼン!?」
先に力尽きるのはヴィータ、いやその相棒であるアイゼンの方だった。カートリッジで増強された魔力が底を着きかけ、噴出している魔力がみるみる弱まっていく。
(今ままでの中で一番力を入れてんだぞ! なのになんで押し切れねぇ!?)
その瞬間、彼女の脳裏にある仮説が浮かぶ。
勢いよく吹き飛ぶ姿。
一々癇に障る口振り。
最高の一撃を止められる現状。
(まさかコイツ、この瞬間をずっと狙ってたのか!?)
開戦当初から戦局はヴィータに傾いていた。軽々と吹き飛ばされ、銃撃に徹するアーベントの姿を見て彼女は思う。
大したことない敵だと、飛び道具だけが取り柄の男だと。例え近接戦になろうとも、それはベルカの騎士の得意分野。自分が遅れをとる筈がない。実際の所その通りで、近接戦になると男は防御に徹していた。
だが、それらが全て仕組まれていたものだったとしたら、誘導されていたとしたらーーこの状況はまずい。
そして遂にヴィータの動きが止まった瞬間を見逃さず、アーベントが銃口を向ける。
「っぐ!? くっそぉおお!!」
放たれる銃弾の雨に晒されるも、デバイスを手放す訳にいかないヴィータは受け続けるしかなかった。頼みの綱の騎士甲冑が少しずつ削られる。銃撃の中ではやてのデザインしたウサギの装飾付きの帽子が吹き飛ぶ。それを目にして怒りが頂点に達するものの、打開策が思いつかない。
「おらぁっ!!」
「おっと、くらうかよ」
苦し紛れに蹴り上げるが、いかんせんヴィータの体格は10歳児程度の少女。リーチが足りず、不自然な姿勢での攻撃はあっさり躱されてしまう。
デバイスで繋がれたデスマッチは彼女から最大の武器と翼を奪っていた。
「データも集まってきたし、そろそろ
そう言いつつ、アーベントは掴んだ手に力を込める。するとバキッと嫌な音がヴィータの耳に届く。
「バカな!? アイゼンが!?」
アームドデバイスのアイゼンにほんの僅かだがヒビが入る。それを信じられない面持ちでヴィータは見つめていた。
「実はアームドデバイスには弱点がある。俺が掴んでるところをよく見てみな」
掴んだ箇所はカートリッジシステムの
いくらアームドデバイスが強力であろうと、それはカートリッジを
銃撃に警戒するあまり、デルタの怪力を甘くみたヴィータの
「ちくしょう! 離せぇええ!!」
アイゼンの危機にヴィータは蹴りや拳を浴びせようとするが、冷静さを欠く攻撃が通用するはずがない。アーベントには余裕で躱わされ、息切れして動きを止めたところを銃撃が襲う。その銃弾を受けて再開する猛攻。
その光景はまるで闘牛のようだった。
そして遂にヴィータが膝をついた。
非殺傷設定された銃弾とはいえ、痛みは実弾レベル。彼女の全身を激痛が蝕む。
「クソッ…。まだだ…まだ、アタシは…負けてねぇ!」
己を鼓舞するように吼えるも、体は言う事を聞いてくれない。手はアイゼンを掴んで放さないが、足に力が入らない。
「終わりか。まぁ、お前さんはよく頑張ったよ。お疲れ様。残りの連中もすぐに後を追わせてやる」
アーベントが言い終わるやいなや、ミシリと鈍い軋み音と共にアイゼンが両断された。
戦場を駆けた無二の相棒の無惨な姿にヴィータの頬を涙が伝う。少女の心情など知った事かとアーベントはその顎を蹴り飛ばして距離を取る。
そしてデルタギアのベルトから心臓部ーーミッションメモリーを抜き取り、デルタムーバーに装着した。するとデルタムーバーは銃身を伸ばし、より凶悪な
「灰は灰に、塵は塵に…。チェック…」
【Exceed charge.】
魔力光がベルトから腕を辿り、デルタムーバーへと流れ着く。それと同時に放たれた銃弾がヴィータに着弾すると、△の形状の魔法陣が彼女を宙空に磔にし、眼前に青紫色に輝く三角錐状の杭が出現した。
そしてアーベントは天高く跳躍し、跳び蹴りを放つ。
恐らくこれが敵の切り札なのだろう。
デバイスを失い、騎士甲冑も維持できる時間はあと僅か。助かる術はーー無い。
走馬灯というのだろうか。
はやてと出会ってからの数々の思い出がヴィータの脳裏を駆け巡る。
今までの闇の書の主とは違う、心優しい少女。
力を求めず、ただ静かに暮らしたいと彼女は語っていた。
それはヴィータ達も同じ気持ちだった。
ただ主の言われるがまま戦う日々に疲れていたという事もある。
はやてとの生活は楽しかった。
真面目な性格で顰めっ面が多いシグナムは笑顔が増えた。
畏怖される守護獣のザフィーラが子ども達を背中に乗せているのは面白かった。
なんでも卒なくこなすシャマルが料理下手というのを初めて知った。
楽しかった、嬉しかった、幸せだった。
だからこそ闇の書がはやての命を蝕んでいると知った時、何かの間違いだと思いたかった。
自分達は穏やかな日々を暮らしたかっただけなのに、なんでこんな目にあうのかと世界を呪った。
いや、数多の次元世界を滅ぼしてきたこの身ならば、まだ報いとして受け止められたかもしれない。しかし、はやては違う。
彼女はただ無作為に選ばれただけにすぎない。闇の書が自身を十全に扱える人間として主に選ばれただけだ。家族を奪われ、足を奪われ、更に命まで奪われるーーそんな悲劇を
「う…おぉおおおお!!」
ヴィータの心に闘志が蘇る。目の前の悪魔を打ち倒せと肉体に命じる。このままでは死んでも死にきれない。
「やめろォオオオオ!!」
その願いが神に届いたのか、2人の間に乱入者が現れる。
「ザフィーラ!?」
乱入者の正体は盾の守護獣ーーザフィーラ。彼はその異名の通り高い防御力の持ち主だ。両腕を重ねて
「グッ、ヌゥオオオオォッ!!」
それでも
苦悶に顔を歪めながらも、彼は力任せに
「ッ痛〜〜!? たかが犬の分際でやってくれるな」
必殺の一撃を防がれ、逆に反撃されるという屈辱にアーベントの口調に苛立ちが混じる。その姿に多少溜飲を下げながらヴィータは仲間に駆け寄る。
「悪い助かった…って、ザフィーラ!? お前、腕が!」
「問題無い。心配するな…」
直撃を防いだはずなのに、彼の両腕は灰色に変色していた。よく観察すると僅かに痙攣している。これでは戦闘は難しいだろう。無表情で佇む彼の姿が痩せ我慢しているようにも見える。
「逃げてもいいぞ? 本気で逃げられたら追いつける自信がないし。でも、その時は代わりにこいつを頂いていくけどな」
そう言いながらアーベントは半壊した
「落ち着け、挑発だ。シャマルから敵について話しは聞いている。相手を話術で誘導し、わざと怒らせて攻撃の隙を作るタイプだ。むしろ俺の方が相性は良いだろう」
『兵は詭道なり』、はやてが読んでいた本の中にそんなことわざがあったのをヴィータは思い出す。
それが事実なら確かにザフィーラは天敵に近い。激情家の自分とは違って、冷静さは参謀のシャマルと同等。更に筋骨隆々の体躯、格闘能力、獣化とトリッキーさならば守護騎士の中でも1番だ。
「分かった。でも、気ぃつけろよ。アイツの口車に乗るとずるずる引っ張られる。全部無視しろ!」
「心得た!!」
アーベントと守護騎士の第ニ戦。
夜闇がまた一段と深まる。
主人公が外道な気がしますが、そのとおりです。基本スペックはなのは達の方が圧勝なところを、あの手この手でやりくりしてます。だから自然とえげつないキャラになってしまいました。