魔法世界の仮面舞踏会   作:マルク

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譲れないもの

 



この広大な次元世界において、あってはならない存在がある。遥か古代文明又は未確認の世界によって生み出され、現存の魔法技術でも再現不可能な遺産ーー総して〝ロストロギア”と呼ばれているものだ。

 

場合によってはそのロストロギア自身が滅亡の引き金となった事もある。悪しき心を持つ者に利用されない為にも、速やかに確保・管理しなければならない。

 

その使命を背負ったものが時空管理局本局である。

 

但し、ひとくちにロストロギアといってもピンキリで世界を滅ぼすような力を持つ物はそう簡単には見つからない。中には一度も遭遇する事なく引退してしまう局員もいる。なので、ごく短期間で立て続けにそのレベルの物が発見されるという事態は天文学的にあり得ないーーはずだった。

 

(しかも同じ世界、同じ街だもんなぁ。金◯一やコ◯ンと良い勝負だよ)

 

そんな事を考えながら、アーベントは本局の喫煙室で先刻見た戦闘記録を思い返す。

 

一つは管理外世界『地球』の魔導師『高町なのは』。対峙したのはハンマー型のデバイスを武器とする赤髪の少女。

 

もう一つは先の『ジュエルシード事件』の重要参考人にして、現在は管理局嘱託魔導師である『フェイト・テスタロッサ』。彼女が対峙したのは剣型のデバイスを振るう紫髪の女性。

 

敵が使う魔法は『ベルカ式』と言い、なのはや管理局が使う『ミッドチルダ式』とは異なる対人戦闘に特化した術式だ。最大の特徴はデバイスに搭載されたカートリッジシステム。圧縮魔力を込めたカートリッジをデバイス内で炸裂させ、一時的に爆発的な火力を出す事を可能とする。

そんな相手になのは達は善戦するも敗北し、各々のデバイスを破壊されてしまう。

 

更に今回の犯人達はリンディやクロノと因縁があった。リンディの夫にしてクロノの父ーークライド・ハラオウン。彼は一級捜索指定ロストロギア『闇の書』の移送中の事故で殉職してしまうのだが、なのは達が戦っていた相手こそ闇の書の守護騎士システムによって顕現した『ヴォルケンリッター』という存在だった。

 

(記録では騎士は全部で4人。闇の書の持ち主を含めば、敵は最低でも5人か。伏兵がいなけりゃ良いが…)

 

アーベントは口元に咥えたタバコをゆっくりと吸って憂鬱な気分とともに紫煙を吐き出す。

 

闇の書なんて危険物を守る騎士達は強力だ。戦闘経験も計算に入れると、彼らの力量はニアSランクはいくかもしれない。そんな猛者が4人と考えると、アーベントもタバコの1本は吸いたくなる。

 

「そろそろ戻るか。アテンザにドヤされちまう」

 

そしてアーベントは重い足取りでメンテナンスルームに向かっていると、丁度目の前を後輩のマリエル・アテンザが横切った。小柄な体に似合わない大荷物を持って駆けていく姿を不審に思い、彼も後を尾けていく。

 

辿り着いた先のメンテナンスルームはなにやら騒がしくなっていた。なのはのレイジングハートとフェイトのバルディッシュがひたすら一つの単語を繰り返し発声していた。

 

【【Please Please Please Please ……】】

 

ただならぬ事態にアーベントは後輩に問いただす。

 

「アテンザ、何があった? 説明しろ」

 

「あ、アーベント先輩。えっとですね、この子達が不足しているパーツがあるから、それを使って直してくださいって言い出したんですよ。それでたった今そのパーツを持ってきたところです」

 

話を聞くとアーベントはコンソールを操作して再度確認する。レイジングハート達の修復に必要なパーツは既に揃えていた。ならばこれは追加・強化する為のものという事になる。

 

「『CVK-792』っておい、これカートリッジシステムだぞ!? こんなものをこいつらにぶち込む気か? 断われよ!!」

 

「え〜、せっかくこの子達が自分の意思で決めたんですよ? 尊重してあげるのはデバイスマイスター冥利に尽きるじゃないですか」

 

不満そうに言い返す後輩の頭にアーベントはゲンコツを落とす。

 

「あ痛っ!? な、何するんですか?」

 

「あ・の・なぁ、機械が持ち主の意思を無視(シカト)して行動する事を世間では『暴走』って言うんだよ。お前もマイスターの端くれなら、これがどれだけヤバい状況なのか自覚しろ。そもそも艦長やフェイト達には伝えてんのか?」

 

「い、いえまだです。艦長からはデバイス修復に関して全面的に任せると言われていましたし、出来上がってからで良いかなと思いまして…」

 

「事が事だ。今すぐ報告してこい。カートリッジシステムの危険性は艦長も知っているはずだ。これで何かあったら幼い命が2つ、しかもAAAランクの魔導師が消える事になるんだぞ。自分の預かり知らないところで部下にそんな真似されて、あの人が責任取ってくれると思うか?」

 

戦闘機で例えるなら、プロペラ機にジェットエンジンをくっ付けるようなものだ。ロクな結果にはならないだろう。アーベントの言葉にマリエルの顔がみるみる青くなる。

そこへデバイス側から懇願の声が上がった。

 

Please let our explain.(事情を説明させてください。)

 

彼らの語る内容を簡潔にまとめると、なのは達を勝たせてやれなかったのが悔しくて仕方ないというものだった。献身の心にマリエルは目頭を熱くするも、アーベントは冷ややかに返答する。

 

「ダメだ」

 

一刀両断とはまさにこの事だろう。それでもしつこく食い下がるデバイスに対して、アーベントは溜め息をついて底冷えのするような声で語る。

 

「……俺の信条はな『機械は人間のサポーターでしかなく、それ以上の存在になってはならない』だ。人間でもない奴らが生意気な事を言ってるんじゃねーよ。その証拠に見てみろ」

 

アーベントがマリエルを指差す。彼女はガタガタと体を震わせていた。今まで見た事がないアーベントの怒りと気迫に気圧され、怯えているのだ。

 

「こうなったのは俺が怒っている事が分かるせいだ。『生き物』は五感を駆使して感情を感じ取れるが、お前らはどうだ? 特に何も感じないんだろ? 自覚しろ。いくら優秀な人工知能を積んでいようが、お前らは所詮『機械』だ。怒りも悲しみも理解できない分際で主人を危険に晒してんじゃねーよ。ネジ1本になるまで解体するぞ」

 

アーベントの捲し立てるように語る内容にレイジングハートは反論できなかった。人の感情の機微を読めないわけではないが、方法が心拍数、体温、表情筋などで統計的に算出するというものだ。言葉に込められた思いの重さなど感じられるはずがない。現に今の自分は機械でしかないと断じられておきながら、心の痛みというものを感じていなかった。この鉄の体には痛覚などないのだから。

 

【…… Still please. (それでもお願いします。)Sir is a little crazy.(サーは少しおかしくなっています。)

 

普段は寡黙なバルディッシュが声を上げる。続けろとアーベントに促されて誰にも言えなかった悩みを打ち明けていった。なんでもプレシアから面と向かって決別の意思を向けられたのが堪えたらしく、母の別れ際の言葉である『依存するな』、『強く生きろ』を至上の命題にしてしまったらしい。

 

Since then(あれ以来 ), Sir has changed.(サーは変わりました)

 

「あー、そういえばクロノが不覚を取ったとかぼやいてたな。嘱託試験の時に倒したんだって? たいしたもんじゃないか。具体的にどこが問題なんだ?」

 

Too much training.(練習量が過剰なんです。 ) Sir will break her body someday.(サーはいつか体を壊すでしょう)

 

「へぇ、だったらなおさら嫌だね。そんな理由じゃあ却ってあの子の成長の妨げになる。プレシアが望んだ強さは腕っぷしじゃないだろ」

 

強い武器を手に入れて強くなったと感じるなんて、銃を手に入れたチンピラと変わらない。アーベントはフェイトにそういう人種になってほしくはなかった。

 

「とりあえずお前らはもっとポジティブに考えろ。歴戦の騎士を相手に10歳児が善戦したんだぞ。そこに注目してやれ。強い敵が現れるたびに武器を強化していったらキリがないっつうの。最悪ロストロギア並みの危険物扱いされるぞ。手持ちの戦力でなんとかするのも一つの強さだ」

 

But if master lose again.(しかし、それでまた敗北してしまったら…)

 

「まず前提から間違えてる。俺達の勝利は闇の書の主人を捕まえる事。騎士達の勝利は闇の書が完成するまで主人を守り抜く事。ぽつぽつ起こる戦闘で勝ったところで意味ねーだろ。戦術的勝利なんてくれてやれ。戦略的に勝てば良いんだよ」

 

「相変わらず先輩ってマイスターらしくないですよね。普通こういうのってリンディ艦長のような指揮官の考え方ですよ?」

 

「みんな血の気が多いだけだ。まぁ、だからこそ武装隊の連中とは話が合わないんだけどな。というか、お前もボサっとしてないで早く報告を済ませろ。その間に俺もこいつらの改造をしておくから」

 

修復じゃなくて改造と言い出した事にマリエルは不思議そうに首を傾げる。

 

「敵のアームドデバイスは頑丈なのが売りだ。ならデバイス同士でカチ合う事も考えて、フレームを強化しておいてやる」

 

その言葉にデバイス達が嬉しそうに点滅する。得心がいったマリエルもその案に賛成した。

 

「さすが先輩! それならカートリッジの許可が下りても下りなくても、なのはちゃん達の戦力アップに繋がりますね!!」

 

デバイス内で魔力を炸裂させるので、カートリッジシステムは相応の頑強さが求められる。それに対してレイジングハート達は分類上、インテリジェントデバイス。人工知能のせいで繊細な作りをしているため、本来なら相性最悪の組み合わせだ。魔導師の技量次第で多少の運用はできたとしても、いずれフレームの強化は必要だっただろう。

改造自体もカートリッジを無理矢理組み込む事に比べれば遥かに楽な作業である。

 

「というか…お前はそれもせずに搭載する気だったのかよ。これはもう一発痛いのをかましてやろうかね」

 

再びゲンコツを作るアーベントの姿を見て、慌ててマリエルは悲鳴を上げながら逃げ出す。

 

「お前らも主人への言い分けを考えておけよ。何の相談も無しに危険な改造を望んだ事に対してな…」

 

【【Yes, I'm sorry.(はい、申し訳ありませんでした。)】】

 

謝罪をアーベントは笑顔で聞き入れ、早速作業に取り掛かるのだった。

 

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