修復したデバイスの試運転、対ベルカ式の訓練、そしてカートリッジシステムの必要性の検証も兼ねて、なのはとフェイトはアースラチームと模擬戦を行う事となった。
「でも艦長、ウチのチームに
エイミィが当然の疑問を投げかける。武器に特化したアームドデバイスは癖が強い。頑丈なデバイスとそれを操る優れた体術がベルカの騎士の規本スタイルだ。どうしても近〜中距離戦を熟す魔導師が必要だった。
「あら、ベルカ式の使い手ならウチにも1人いるじゃない。と言ってもあの子が使うのは近代だから、少し勝手が違うでしょうけど。あともう1人は……私にちょっと考えがあるわ」
そう言いつつリンディは2人の局員に連絡を取る。1人は快く承諾してくれたが、もう1人は何故自分がと困惑していた。予想通りの反応に彼女は事情を説明する。
「これはフェイトさんのメンタルを考慮した結果です。今のあの子に必要なのは、きっとあなたみたいな人間よ。え、クロノ? あの子も候補だったんだけど、これからの人間関係を思うとあなたの方が適任だと判断しました」
リンディの説得に折れ、通話相手はしぶしぶと了承の返事を返す。その様子を見ていたエイミィは密かに心の中で合掌するのだった。
◇
「うう、緊張するなぁ。どんな人だろうね、レイジングハート」
【
アースラが用意した戦闘空間内でなのはは緊張の面持ちで対戦者を待っていた。今までフェイトやシミュレーションで戦闘経験を積んできた彼女だったが、大人と戦うのは初めてである。怖い人じゃないといいなと思いながら、
そして待つ事、約5分。遂にその時が訪れる。
宙空に描かれる転移の魔法陣。円の中央から濃紺の隊服の上に甲冑を身に纏った人物が現れた。
「どもども〜、今回アースラ代表として訓練相手を務めるドロッセル・フィエロでっす! お手柔らかにお願いしま〜す!!」
「ふぇ!? フィエロさん?」
なのはの反応に悪戯が成功した子どものようにフィエロが笑う。
「あはは、驚いた? そう、アースラ唯一のベルカの騎士ドロッセル・フィエロとはぼくの事さ。さあ、いざ尋常に勝負だ!!」
戦う気満々のフィエロとは違って、不意打ちを食らったなのははそうもいかない。狼狽える様子を見かねてリンディから通話が入る。
「なのはさん、驚いてる暇はありませんよ。どんなに仲の良い友人でも、敵にならないとは限らないんですからね。最悪、またフェイトさんと戦う事になる可能性だってあるんです。今のうちに慣れてください」
「わ、分かりました。よろしくお願いします!!」
「バッチこーい! ジェットボンバー! セット、アップ!!」
フィエロの呼び掛けに応えて彼女のデバイスが戦闘モードに移行する。現れたのは鎖で繋がれた鉄球ーーモーニングスターと呼ばれる武器だ。
【
「シュート!」
なのはから桜色の魔力弾が放たれる。その数は8発。それに対してフィエロも鉄球を振りかぶり、強靭な膂力で投擲した。
「メテオストライク!」
交差する魔力弾と鉄球。3発のシューターが誘導機能を駆使して相殺しようとするものの鉄球に備え付けられたブースターがそれを許さない。その勢いを一切衰える事なくなのはへ着弾してしまう。
「〜〜ッ痛ぅ!?」
体重が軽い為になのはは彼方へと吹き飛ばされる。間一髪レイジングハートで防御したが両手が痺れていた。もしフレーム強化していなかったら、デバイスを砕かれて直撃していただろう。
(守りに入っちゃダメだ。攻めないと)
フィエロの方を伺うと特にダメージを受けた様には見えない。鉄球がブンブンと元気よく振り回されている。
「今度はこっちからいくよー!!」
猛スピードでフィエロが距離を詰める。そうはさせじと、なのはも得意な間合いをキープしようと後退した。
「もう一度、シュート!」
再び放たれる魔力弾。今度は放射状に飛ばしてフィエロの周りを取り囲む。そしてすかさずレイジングハートを砲撃モードに移行してトリガーを引く。
「ディバインバスター!!」
シューターの包囲網で逃げ場を潰したところでの砲撃。先程とは違ってダメージは免れられないだろう。
「カートリッジ、ロード!」
フィエロの呼び掛けにジェットボンバーが反応し、手元の柄から薬莢が炸裂・排出された。それと同時に鎖が棒へと変化し、鉄球にも棘状の突起物が生えて水色の魔力光で輝く。
【
「ノヴァクラッシュ!!」
フィエロはまるでバットを振るうかのようにフルスイングしてなのはの砲撃をそのまま打ち返した。
「ええっ!?」
まさか攻撃を跳ね返されると思わなかったなのはは目を丸くして必死に回避する。
「フッフッフッ、普通に撃ってもぼくには当たらないよ〜。もっと工夫しないとね」
硬い防御力と高い攻撃力を兼ね備えたフィエロ。確かになのはが戦った赤髪の少女ーーヴィータによく似ている。リンディが彼女を対戦者に選んだ理由を彼女は実感した。
(でも、負けない!)
ここで負けるようでは協力者になんてなれない。ヴィータ達が戦う理由を知る為にも、止める為にも、なのはには更なる『強さ』が必要だった。
『スターライトブレイカー』
なのはの最大魔法にして切り札。
それを撃つ機会をなのははひたすら待つ。勝負はまだ始まったばかりなのだから。
◇
時を同じくして、別の場所ではフェイトとアルフが対戦者と対峙していた。
「どーも、プレシア事件以来だな」
相手に選ばれたのはアーベント。腰には既にデルタギアを巻いて臨戦体制である。
「あの、なんでこっちは2人なんですか?」
「ハンデ」
彼の素っ気ない返答に、フェイトはバルディッシュを持つ手に力が入るのを感じた。
「デルタギアには飛行機能が付いていない。陸士専用として作ったからな。だから今回お前は得意の空戦を封印して戦ってもらう。その代わりに使い魔と一緒に戦って構わない」
「舐められたもんだね。あたしとフェイトの2人をいっぺんに相手する気かい?」
2対1、それも長年過ごしてきた主人と使い魔だ。
そこいらにいる有象無象とはコンビネーションが違う。そんなフェイト達を1人で相手取ると言い切るアーベントに2人は苛立ちを感じずにはいられない。
「お前達なんて俺1人で十分だ。少なくとも今のままならな……変身」
アーベントがデルタフォンに起動トリガーを呟く。
【Standing by――】
不穏な空気が立ちこめる中、電子音が無感情に鳴り響く。
「あまり…調子に乗らない方が良いですよ。手加減してあげたいのに、思わず力が入りそうになる…」
フェイトの口から出た言葉は、普段の彼女からは考えられないほど冷たい声だった。
「その言葉、そっくり返すよ。強い言葉を使っていると……弱く見える」
挑発を挑発で返し、アーベントはデルタムーバーに差し込んでデルタギアを起動させる。
【――Complete.】
デルタへと変身したのと同時に、戦闘開始の合図が鳴った。最初に仕掛けたのはフェイト。彼女は持ち前のスピードで一直線に飛び掛かり、バルディッシュを振り下ろす。
「おっと」
それを読んでいたのかアーベントは一歩前へ出て間合いを潰し、難なく長柄を掴んで魔力刃が届くのを防ぐ。しかしその隙を逃すまいとアルフが彼の背後に回り込む。
「もらったぁあ!」
アルフの拳が叩きこまれる。
完璧なタイミングの一撃をアーベントはバルディッシュを力任せに振るって払いのける。これに堪らないのはフェイトだ。デバイスを手放す事ができない彼女はバルディッシュごと振り回されて、彼の代わりにアルフの拳を受けてしまった。
「ぐはっ!?」
「ふ、フェイト!? ごめん、ごめんよ!」
吹き飛ぶフェイトをアルフが気遣う。スピードは誰にも負けないと自負する彼女だが、代わりに防御力が人一倍薄い。肉弾戦を得意とするアルフの拳は途轍もないだろう。
「敵を前に余裕だな。ファイア」
【Burst mode.】
アーベントはデルタフォンに新たに音声入力を行い、ブラスターモードを起動させる。そして嵐のような魔力弾の弾幕がフェイトを襲った。
「こんの、止めろぉおおおお!!」
撃ちのめされる主人の姿に激昂したアルフが飛びかかる。しかしアーベントは彼女の猛攻を適当にあしらいながら、銃口をフェイトに向け続けた。
「〜〜っつ!!」
格の違いを教えてやろうと飛び込んでは返り討ちにされ、フェイトは羞恥と怒りで狂いそうな己を必死に抑える。
母から言われた。
依存するなと、強くなれと。なのに今の自分は真逆の姿だ。無様な事この上ない。
(こんなところで…立ち止まっていられないんだ)
そう改めて闘志を燃やしたところでアーベントの弾幕が止んだ。
「チャージ」
再充電を意味する単語ーーフェイトが待ち望んでいた弾切れである。
起死回生は今しかないと判断し、魔力を漲らせて再び突貫した。
「あぁああああアア!!」
そんな決意を抱く少女に向けてアーベントは無慈悲に引き金を引いていった。