「参ったわね………。ここまで数が多いとは………。」
雲の隙間から月明かりが覗く、春の夜。
日本本土から遥か南東のソロモン海にて、金髪ロングのスタイルの良い、灰色の瞳を持つ艦娘が、危機を迎えていた。
彼女の名前は、アイオワ。
アメリカ合衆国最高傑作の決戦用の艦娘であり、本国から転籍命令が出たため、様々な島で燃料の補給を行いながら、ここから北のショートランド泊地へと向かっている最中であった。
しかし、後少しで辿り着きそうになった所で、深海棲艦に襲われて沈没しそうになっていた貨物船を見つけ、こうして交戦する事になったのだ。
「貴女ハ、ココデ沈ムノヨ………!」
「そう簡単に行くと思っているのかしら………?」
流暢な英語で喋りながら、日本語で語る深海棲艦達を睨みつける。
目の前に立ちはだかるのは、黄色く輝く、所謂フラッグシップ級と呼ばれる重巡ネ級達。
更に、その前面には、先制雷撃等を使いこなすフラッグシップ級駆逐艦ナ級後期型II達が多数いる。
仕舞いには、水中に夜戦で強力無比な潜水艦である、フラッグシップ級ソ級が待ち構えている状態だ。
この豪華な敵艦達を纏めるのは、黒髪の長髪を持ち、目を隠しながらも笑みを浮かべる、左腕が巨大で歪な艤装と化した鬼女………軽巡棲姫である。
(ショートランド泊地近辺の深海棲艦は凶悪だと聞いたけれど、これまでとは………!)
口では強気の発言をしながらも、アイオワは、心の中では舌打ちをしていた。
何故ならば、その強力な艤装はボロボロで、身体も至る所から出血をしており、追い込まれていたからだ。
本来ならばアメリカの最高傑作と言われるだけあって、単艦でも、この程度の敵艦は本気になれば、全滅は無理でも追い返す事が出来る。
だが彼女は、その場を動けずに大破してしまった。
動けない理由………実は、後ろには、脱出艇に乗って逃げようとした貨物船の乗組員達がいるのだ。
(私が動けば………この人達は、ハチの巣にされる。それだけは、艦娘として………許されない!)
例え轟沈する事になっても、最後まで抵抗して、彼らだけは逃がさないといけない。
決意を固めたアイオワが、まだ無事である右舷の3本の主砲と3本の機銃を敵艦に向ける。
それでも、深海棲艦側は、笑みを崩さない。
むしろ、このボロボロの艦娘を、どう嬲ろうか考えている最中だ。
どう考えても、アイオワに待っているのは絶望しかない。
しかし………そこに、北西から光が向けられた。
「何!?増援ガ来タノ!?」
軽巡棲姫を始めとした艦娘達は驚き、陣形を慌てて変更し、北西に向けて防御を固める。
それが探照灯による物だと分かったアイオワは、まだ希望は消え失せて無かったと安堵する。
(良かった………貨物船の人達が、泊地に増援を呼んでくれていたのね!ナイスよ!)
「こちら、第零駆逐隊。只今より、救援に入ります。」
「………え?」
電探から、若干高い独特の声の日本語が聞こえてくる。
今、通信越しの人物は、何と言っただろうか?
確認するようにアイオワは、本土で散々習った日本語で反証してみる。
「駆逐………隊?」
「そうです。私は、第零駆逐隊の旗艦である初霜。アイオワさん、貴女達を助けます!」
力強い声が響き渡るが、アイオワは混乱する。
駆逐隊という事は、文字通り駆逐艦しかいない艦隊だ。
確かに夜戦に強いだろうし、機動力も高いだろうが、とにかく脆い。
戦艦どころか、重巡も軽巡もいない時点で、戦闘能力はたかが知れている。
「う………そ………。」
アイオワは青ざめた。
よりによって、この凶悪な敵艦の編成に対して、只の駆逐艦達が挑みに来ている。
返り討ちに会って悲惨な事になる光景が、アイオワの脳内に予測出来た。
実際、敵艦達も同じ事を考えたのだろう。
軽巡棲姫を始め、全ての敵艦達がせせら笑っていた。
「沈ミニ来タノハ、ドノ子達カシラ?」
巨大な左腕に備えられた探照灯を向けた軽巡棲姫は………眉を潜める。
その視線を追ったアイオワも、理解する。
単縦陣の先頭を疾走してきた、特に小柄な駆逐艦娘………蒼い海色の鉢巻を付けている艦娘の腕まくりをして露出している右腕が、ブルーメタリックのカラーの、鋼と鉄で出来た艤装………義腕になっていたからだ。
「蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装………?」
「あ、あの義腕の艦娘は………!」
「間違いない!やった!」
「え………?」
だがここで、後ろで守られていた乗組員達の顔が、恐怖から希望に変わる。
彼らは、先頭の艦娘を視認した途端、一斉に現地の言葉で叫んだ。
『「蒼海の英雄」が来てくれた!!』
その言葉にアイオワは、思わずまた、先頭の駆逐艦娘を凝視してしまった。
――――――――――――――――――――
「やっぱり、この義腕………目立つわね。秋津洲さんは、何でこの色に拘りがあるのかしら?」
先頭にいる小柄な駆逐艦娘は、長い黒髪を先端で白い髪紐で縛っており、赤系統色の瞳を持っていた。
良く目立つ蒼い海色の鉢巻を巻いており、そして、派手なブルーメタリックの義腕を、右腕に付けている。
彼女は、初春型駆逐艦である初霜であった。
義手の右手に持った単装砲と、生身の左手に持った連装砲を構えた彼女は、軽く後ろを見る。
「陽炎………貴女はどう思う?本気で、この色が似合うと思っている?」
「威圧感は抜群じゃないの?いかにも義腕って感じだし。」
「それ………褒めているの?」
「蒼海の英雄様らしいって事よ。」
2列目で肩を竦めながら軽く冗談を飛ばすのは、狐色のセミロングの髪を、大きな白いリボンでツインテールにしたスパッツを履いた艦娘。
背中の艤装の基部には、バルジの艦橋部分に取っ手の付いた武装………トンファーのような二振りの鈍器を備えている。
彼女は、陽炎型駆逐艦のネームシップである陽炎。
軽く口笛を吹きながら、次発装填装置付きの魚雷発射管を確認していた彼女は、3列目の艦娘を見てみる。
「沖波、アンタも何か言ってやったら?」
「敵艦はフラッグシップ級重巡ネ級、フラッグシップ級駆逐艦ナ級後期型II、フラッグシップ級潜水艦ソ級、いずれも複数いるよ!」
「………いつも思うけど、アンタも別ベクトルで真面目よね。」
「だ、だって、これが仕事だし………あ、最後尾に軽巡棲姫もいるから!」
「うっわー………よりによって、神通さんに瓜二つの敵艦かー………。」
若干オドオドしながらも索敵をするのは、両脇の髪を肩まで伸ばし、前髪と後ろ髪はショートぐらいで切っている、髪の色が所々違っている艦娘。
青いフチの半月眼鏡が特徴だが、一番の変わった所は、左目が義眼になっているのか、探照灯のように光を放っている所であった。
どうやらズーム機能も備えているらしく、敵艦の種別や配置も説明している。
彼女は、夕雲型駆逐艦である沖波。
索敵をした彼女は、陽炎と同じバルジトンファーを左手に持ちながら、4列目の初霜並みの小柄な艦娘を見る。
「アイオワさんは、脱出艇に乗った乗組員を守ってるよ。大潮さん、大発動艇は後で必要になるかも………。」
「分かりました。攻撃には、特型内火艇を使う事にしましょう。沖波も無理はしないように。」
「はい………ありがとうございます!」
「さて………アゲアゲで行きましょうかね!」
ノリノリでありながらも丁寧口調で語るのは、薄群青色の髪を薄萌黄のリボンを使い、ツーサイドアップで纏めている艦娘。
4隻の種類の違う船を率いているのが特徴で、他にも、両太ももにそれぞれ4連装魚雷発射管を装備している。
変わった所があるとしたら、煙突帽子を被っており、両腕にはアームガード付きの主砲と魚雷を付けている事だ。
彼女は、朝潮型駆逐艦である大潮。
改装後と改装前の装備を混同して使っていた彼女は、5列目の脚周りを気にしている艦娘を見る。
「深雪、何か主機を気にしているみたいですが、大丈夫ですか?」
「いや、全然大丈夫じゃないって!加熱して火を噴きそうだよ!?深雪さま、燃えちまう!?」
「抽水して冷やして下さい。………取りあえずは、護衛対象の保護を!」
「へいへーい。………いいなー、みんな改二だし。」
不満そうに口を尖らせるのは、黒の外ハネするショートボブを備えた、標準的な白と青のセーラー服の艦娘。
他の艦娘達のように特徴的な武装は備えていない物の、「とある事」が原因で、主機から煙が吹き始めており、海戦に中々集中できていない様子であった。
彼女は、吹雪型駆逐艦である深雪。
どこか荒っぽく振る舞うヤンチャそうな姿をした彼女は、最後尾の溜息を付いている艦娘を見る。
「敷波!いつもの通りの作戦だってさ!いっちょやろうぜ!」
「アタシとしては、この不安な面子で救出作戦をしようというだけで、心配だよ。」
「まあまあ、敷波も、その「不安な面子」の1人に入ってるんだから、気にするなって!」
「ふん!………ま、とにかくやるからには、全員、冷静でいてよ!」
若干つっけんどんでありながらも周りを気遣っているのは、栗茶色の長髪を黒いリボンでポニーテールを纏めた、焦げ琥珀の目を持った艦娘。
どういう用途で使うのか分からないが、左右の手の中で魚雷を回転させているのが特徴であり、両手に持つはずの主砲は、ベルトで腰に掛けてしまっている。
彼女は、綾波型駆逐艦である敷波。
深雪の言葉に不満そうに反応しながらも、冷静に彼女は先頭の初霜に声掛けをする。
「深雪も言ったけど、とりあえずアタシを含め、全員いつもの対応でいいかな。」
「そうね。それで宜しく頼むわ。」
「但し、初霜。深追いだけはしないでよ。後々、面倒だから。」
「心に刻んでおくわ。………そろそろ無駄口を叩いている暇は、無いみたいね。」
静かな初霜の言葉に、第零駆逐隊全員が正面を見る。
軽巡棲姫とフラッグシップ級重巡ネ級複数が砲撃体勢を整え、フラッグシップ級駆逐艦ナ級後期型II複数とフラッグシップ級潜水艦ソ級複数が雷撃の構えをしたからだ。
射程外から先制攻撃を放って、一気に沈めようという算段であるらしい。
初霜は、各艦に命令をする。
「攻撃開始と共に一気に飛び込むわよ。沖波、敵の動きを見て、カウントして。」
「うん。………3、2、1………。」
沖波がカウントを始めると共に、軽巡棲姫が腕を構えて、愉悦の表情で叫ぶ。
「死ネ!!」
「………0!」
「第零駆逐隊、散開!!」
その号令と共に、6人は一斉に「加速」した。
――――――――――――――――――――
『ッ!?』
次の瞬間、アイオワも敵艦達も、皆が驚く事になる。
6人の駆逐艦娘達に向けられた圧倒的な物量の砲撃と雷撃。
駆逐艦故に、1発でも当てられれば沈められると高を括ったのもあり、味方の砲撃や魚雷同士がぶつかり合って攻撃がチグハグになったのもある。
だが、それでも一度に放たれた量は多かった。
それを………6人全員が、全て回避する。
急加速した彼女達は、まるで流れるように魚雷と魚雷の隙間をすり抜けて、砲撃の雨の下を潜り抜けて………。
こんなのは、もう慣れっこだと言わんばかりに。
「練度が違う!?………いや、それ以上に!?」
アイオワは気付く。
6人の駆逐艦が、明らかに駆逐艦以上の速力を出している事に。
基準としては、「高速+」………いや、一番上の「最速」だ。
「まさか、全員が装備しているの………!?「新型高温高圧缶」複数と「改良型艦本式タービン」を!?」
缶とタービンを強化している事に気付いたアイオワは、駆逐艦ならではの戦い方を知る事になる。
――――――――――――――――――――
「各艦、被害状況を!」
「こちら大潮。特型内火艇1隻が魚雷を回避しきれずに破壊されましたが、もう1隻は無事です。大発動艇は2隻とも大丈夫ですよ。」
「深雪だ!煙がヤバいが主機はまだ持ってる!これより作戦行動を開始するぜ!」
「次弾が来る前に懐に飛び込むわよ!夜戦決戦用駆逐隊………第零駆逐隊の力を見せましょう!」
味方に大した被害が無い事を確認した初霜は、敵を睨みつける。
そのまま彼女は、海戦に没頭していった。
――――――――――――――――――――
同時刻、ショートランド泊地の執務室では、セミロングの茶髪の後ろ髪を、縦ロールにして肩から前に流している艦娘が、通信機器に耳を当てていた。
彼女は、神風型駆逐艦である春風。
妖精さんと呼ばれる小人の補助を受けながら、今正に行われている海戦の様子を、電探と呼ばれる通信機器で聞き取っている彼女は、椅子に座っている男………ショートランド泊地の提督に、状況を報告する。
「司令官様、第零駆逐隊が救援に入りました。アイオワさんも貨物船の乗組員も全員無事らしいです。」
「そうか………一番速く現場に急行できる彼女達ならば大丈夫だと信じていたが………、今回は無事に上手くいったみたいだな。」
落ち着いた声に反して、見た目の年齢は若く、20代前半だろうか。
少しだけホッとしたように呟いた提督は、手書きの書類を記すと春風に渡す。
「これを秋津洲に。アイオワ達の船渠(ドック)入りと高速修復材(バケツ)、それに乗組員向けの手当てや食料品等の備品の使用許可証だ。」
「分かりました、「藤原 仁(ふじわら ひとし)」司令官様。手配しますね。」
春風もショートランド泊地提督………藤原提督も、脆い駆逐隊を送った割には、もう海戦の心配はしていなかった。
彼等は、既に6人の艦娘が要救助者を連れて帰投してきた時の為の準備をしている。
それだけ、第零駆逐隊に対する信頼は厚かった。
春風の去った執務室で、藤原提督は机に両肘を付き、手を組んで静かに呟く。
「蒼海の英雄………か。どちらにしろ、初霜達ならば、慢心した敵等に苦戦はしないだろう。………「お前」も私と同じ意見だろう?」
その言葉に応える者は、誰もいなかった。
知っている方は、こんばんは!
知らない方は、初めまして!
岸波&磯風をメインにした「艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~」完結から、約1週間。
予約投稿をしていた分、新たな艦これ小説を少し準備していました。
今回の主役艦娘は、タイトルの通り「初霜」!
しかし、今回の初霜は、前回の小説の初霜と違い、右腕に義腕を付けている設定です。
また、タグにある通り今回は群像劇である為、他の7人の艦娘がメインの章もあります。
この「導入編」は、主にアイオワ視点で展開される事になります。
また長い話になると思いますが、気長にお付き合いして下さると有り難いです。
それでは皆様、また私の描く艦これの世界を楽しんで貰えると嬉しいです。
改めて、試読や感想の方、宜しくお願いしますね!