蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第11話 ~貨物船「らいちょう」~

「貨物船って事は何?軍用のタンカーを改造したの………?」

「………というよりは、この船その物が「移動鎮守府」と言った方がいいでしょうか?」

「鎮守府!?これが!?」

 

驚きを隠せないアイオワに対して、沖波が珍しくニコニコの笑顔で説明をしていく。

艦娘大国である日本は、本土だけに艦娘を配備しているわけでは無い。

このような最前線の泊地や基地に送り込まれる事もあるが、それ以上に特徴的なのが移動鎮守府と呼ばれる存在だ。

豪華客船から大型の漁船、果てには深海棲艦との海戦で汚れた戦場の後始末を担う、通称「後始末屋」と呼ばれるものまで種類は様々で、その仕事兼護衛をこなす艦娘達がいる。

彼女達はそういった船で生活をしながら、深海棲艦の襲撃から「家」を守りつつ様々な土地を周っているのだ。

 

「その中でもこの貨物船は、日本本土から私達の泊地や2つの基地に、貴重な物資を供給してくれているんです。」

「中では艤装を外す時もあるんでしょ………?揺れとか船酔いとかは大丈夫なの?」

「艤装の技術を応用している上に、妖精さんが管理をしてくれているから、基本的には大丈夫です。操舵室も特殊な艤装となっていて、艦娘が妖精さんのサポートを受けながら、船を動かす仕組みになっています。」

「じゃあ、さっき言っていた「よつちゃん」っていうのは………。」

「海防艦娘の第四号海防艦ちゃんです。らいちょうの操舵を担当してくれている凄い子なんですよ!」

「……………。」

 

アイオワは絶句する。

もしかしなくても、最新鋭の技術が埋め込まれている船なのだと、彼女は感じた。

そして、初霜が言っていた、「帰りの手段」に付いても悟ることになる。

この貨物船はこれからブイン基地に寄ってショートランド泊地まで向かうから、相乗りさせて貰おうという算段なのだ。

 

「凄いのね………。ここの搭乗員である艦娘達は………。」

「はい。本当は、大潮さんも元々はらいちょう所属だったんですが、私の為に………。」

「そこは気にしない約束です。ほら、みんなが手を振ってくれていますよ。」

 

何気なく重要そうな沖波の話を、さらりと流した大潮の言う通り、貨物船の運搬口が開く。

そして、艤装を付けた艦娘達が手を振りながら次々と中から出てくると、それぞれ指示を出しながら運搬が始まる。

船の中でクレーンが、作動しているのだろうか。

轟音が響き渡り、その後、荷物が積み込まれたコンテナが大発動艇に乗って出現して、ラバウル基地へと運ばれて行く。

その中には手作業で艤装のパワーを活かしながら、怪力を発揮して運んでいく艦娘達もいた。

夕暮や早霜達が、置き場所の指示を出しに走って行く中、アイオワは見る。

艦橋から水着を着た艦娘が海に飛び込み、こちらに向かってくるのを。

恰好を考えると、彼女は潜水艦娘である。

長い黒髪とぴょこんと立ったヘアパーツが特徴で、水着の上にはグレーのスカーフを締めたノースリーブのセーラー服を着用していた。

彼女が上陸してくるのを見て、喜多見提督と龍田が前に出て敬礼をする。

潜水艦娘も答礼で応えたが、その直後に満面の笑みで龍田に抱き着く。

龍田も嬉しそうにその頭を撫でていた。

 

「彼女は………。」

「潜水艦娘である伊47だ。ヨナと呼んでやってくれ。」

「龍田と仲がいいんですね………。」

「当然だ。昼に言った龍田を助けてくれた潜水艦娘が、彼女だからな。」

 

伊47………ヨナは、龍田の轟沈を防いでくれた恩人であるらしい。

喜多見提督が話すには、知り合ったばかりの彼女は、特攻兵器を積んでいたという艦としてのトラウマから悩む事が多かった。

そこで、御礼も兼ねて、旧知の仲の提督がいたこの移動鎮守府を紹介した結果、幾ばくか明るくなったという。

 

「ヨナちゃんはね~優しい子なんです~。アイオワさんも抱きしめたくなっちゃいますよ~!」

「あ、ごめんなさい………。貴女がアイオワさんですね。宜しくお願いします。」

「宜しくね。確かに可愛くて抱きしめたくなっちゃうかも!」

「おーい………アイオワさんのボディだと、流石に窒息するぞ?」

 

深雪のツッコみに、グラマラスな体を持ったアイオワは、怪訝な顔を見せてしまうが、ヨナはそれが面白かったのか笑っている。

確かに、この潜水艦娘には笑顔が似合いそうではあった。

 

「ヨナ。らいちょうの提督に会いたいのだが………。」

「今、出てきますから大丈夫です。ヨナも本当はもっとみんなと話をしたいけれど………ちょっと艦の状態を、海中から確認してきますね。」

 

ヨナはそう言うと、船からタラップが降りてくるのを確認して、龍田達に手を振って再び抜錨していく。

アイオワは皆と同じように手を振った後、タラップの方を見て………目を見開く。

そこには、物資確認用のタブレットを持った、ダークオートミールのショートボブの艦娘………恐らく秘書艦を引き連れて、紫の長いサイドテールを鈴の髪飾りで止めた、白い軍服を着た少女が降りてくる。

 

「アレが………アドミラル?」

「曙さーん!岸ちゃーん!元気にしてたー!?」

「くぉら!沖波っ!あたしの事は、提督か船長と呼べって言ってるでしょ!?」

「え………?提督?というか、もしかしなくても彼女って………。」

「はい、綾波型駆逐艦の曙と夕雲型駆逐艦の岸波。らいちょうの提督と秘書艦です。」

「えええっ!?」

 

大潮の説明に、またしてもアイオワは素っ頓狂な声を上げる。

珍しくテンションが高い沖波に対して、グーで殴るぞと言ってのけている曙は、艦娘であり提督であるらしい。

つまり、「艦娘提督」であるのだ。

 

(実際に見る事になるなんて………。)

 

艦娘提督という概要は、実はアメリカでもあった。

艤装を付ける事で強靭な肉体を手に入れられる艦娘を提督に据える事で、深海棲艦からの襲撃に備え、生存率を上げるという試み。

自衛が出来る分、何か不測の事態があっても教育に費やす時間や費用を無駄にしなくて済むし、緊急時の人事異動等を防ぐ事も可能になる。

勿論、艦娘が提督になる事で、単純な戦力が減ると思われるが、同型艦が複数いるような艦娘大国である日本ならば、そこに関しては大した弊害も無い。

効率化という意味では、艦娘の許可さえ手に入れられればかなり有用だと言えた。

………とはいえ全体的に身体的に幼さが残る傾向のある駆逐艦娘が提督だと、そのギャップに、初対面の人物は思わず驚くであろうが。

そのアイオワの視線を感じたのだろうか。

曙が眉を潜めて、彼女の方を見てくる。

 

「………ん、新入り?見た所、戦艦クラスよね?初霜、もしかして彼女がアイオワさん?」

「ええ、そうよ。アメリカの決戦艦娘。基地を紹介して周ってるの。」

「成程ねぇ………。見て分かると思うけど、貨物船らいちょうの提督を勤めている曙よ。気軽に「提督」か「船長」って呼んでよね。」

「よ、宜しくアドミラル………。」

 

両腕を腰に手を当ててドヤ顔でふんぞり返る提督である曙を見て、困惑するアイオワであったが、それまでタブレットに目を通していた秘書艦である岸波がここで呟く。

 

「ぼの先輩。龍田先輩達と確認を取った所、搬入予定の物資が、リストから漏れている事は無さそうです。」

「ゴラァッ!?岸波ぃっ!?アンタ、今の話聞いてなかったの!?」

「失礼しました、ぼの先輩。」

「やっぱり、聞いてなかったでしょ!?その呼び名、止めろって何度言えば分かるのよ!?アイオワに対して面子丸つぶれじゃないの!?」

「………そうですね。申し訳ありません、アイオワ先輩。ぼの先輩がいつものペースで。」

「いつものペースなのは、アンタよ!岸波ぃっ!!」

 

いきなり繰り広げられるラバウルの夫婦とは別種の漫才に、また唖然とするアイオワ。

第零駆逐隊の面々はというと、皆笑っている。

陽炎に至ってはゲラゲラと腹を抱えている状態だし、真面目そうな初霜ですらクスクスと笑みを見せている状態だ。

ある意味、一発で空気を変えられるこの秘書艦は大物だと感じてしまった。

 

「えーっと………凄いのね、貴女達………。」

「トドメになるから、変に褒めようとするのは止めて………。もういいわ、曙で。とにかくあたしは喜多見提督や初霜達と話してくるから、物資の管理宜しく。」

「了解しました。皆様、ぼの先輩を宜しくお願いします。」

「アンタ、絶対にいつか泣かす!!」

 

後ろを向いて岸波に叫びながらも、肩を怒らせて曙は、喜多見提督やアイオワ達を引き連れて、タラップを渡り、らいちょうの中へと向かって行く。

アイオワは、そんな彼女の言葉など気にした様子も無くあくまでマイペースにタブレットを弄りながら、らいちょう所属の艦娘達に話しかけに行く岸波を見て、少しだけ苦笑した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

らいちょうの船内を歩き、執務室へと向かった曙は、客を招き入れる。

沖波が語っていた通り、揺れに関しては比較的抑えられている上に、戸棚等はちゃんと固定されている為か、比較的部屋の中は綺麗であった。

その曙に対し、喜多見提督は1歩前に出ると頭を下げる。

 

「まずは曙。基地への物資の輸送、本当にありがとう。お陰でこちらは本当に助かっている。」

「どういたしまして。………現地政府の状況は相変わらず?」

「ああ。相変わらず出し渋られているよ。お前達が居なければ、この基地等は成り立たない状況だ。」

 

喜多見提督の言葉を聞いて、アイオワはショートランド泊地の藤原提督の話を思い出す。

オーストラリア等の現地政府は、我が物顔で泊地管理をしている日本を始めとした国の艦娘達が気に入らない。

それ故に、物資等の協力を出し渋られている状態が続いているのだ。

 

(そう考えると………確かに、この船の重要性は高まるわよね。)

 

2人が色々と話をしている中、アイオワが上を向いて考えていると、扉が叩かれる。

曙がどうぞというと、紫がかった黒の髪を持つ幼い娘を連れて来た、15歳位の茶髪の少年が入って来た。

 

「船長、「凛世(りんぜ)」を連れて来たよ。」

「ありがとう、「肇(はじめ)」。あんたも折角だから、アイオワに挨拶しときなさい。」

「分かった。………それとどうぞ、龍田さん、喜多見提督。」

 

肇と呼ばれた少年は、龍田に凛世と呼ばれた娘の手を渡す。

龍田と喜多見提督は身を屈めて少女の視線に立つと、笑みを浮かべて可愛がり始めた。

 

「もしかして、この娘が2人の………。」

「そうです。このらいちょうには、深海棲艦の攻撃等で親がいなくなった孤児や、ケッコンカッコカリした提督と艦娘の子供が預けられています。曙船長は仲間達と共に、子供達の教育をしてくれているんです。」

 

肇と呼ばれた少年曰く、下手な泊地よりもこの最新鋭技術を盛り込んだ移動鎮守府は頑丈なので、子供に恵まれた提督達は、ここに預ける事が多いらしい。

ここならば、爆撃等の被害にあう事も少ないし、常に艦娘達が守ってくれる。

また、同じ境遇の子供達同士で、コミュニケーションも取れる為、教育をしてくれる「先生」達が居れば、普通の学校と変わらなかった。

 

「………まあ、俺もそういう意味ではみんなと同じなんですけれどね。宜しくお願いします、アイオワさん。」

「宜しくね。………貴方が最年長?」

「はい。………ブインに寄ってますよね?親父は相変わらずでしたか?」

 

その言葉で、彼がブインの工藤提督の子供なのだとアイオワは気付く。

確かに、何処か顔付きが似ているような気もした。

しかし、アイオワの顔から父親の様子を悟った肇は、肩を落とすと嘆息する。

 

「情けない物です。曙船長は、しっかり前を見ているのに………。親父はお袋の存在にずっと縛られて………。」

「自分の父親を、悪く言うのは感心しないわね。………それに、あたしにしてみれば、あの前任の「クソ提督」に、随分と苦労させられたわ。」

「クソ提督………?」

「あたしの………一応、夫よ。病弱だったから、もうこの世にいないけどね。………アイツのお陰で、あたしは未亡人で三児の母よ。」

「そ、それはまた凄いわね………。」

 

平然と言ってのける曙であったが、その瞳には少し寂しさがあった。

彼女は説明してくれる。

元々このらいちょうは、その前任の提督………「井村 幸(いむら さち)」提督が初代船長であったのだと。

曙はその秘書艦であり、紆余屈折があってケッコンカッコカリをしたのだ。

だが、その夫は病弱であり、しっかりと療養をしなければ、早期に命を落とすと言われていた。

それでも、らいちょうを運行する者がいなければ、前線の泊地が危機にさらされるという事で、ストレスの溜まる提督業を貫いて亡くなったのだ。

 

「まあ、そんな所に惹かれるあたしもバカだけどね………。とにかく、あたしは大本営に言って引き継がせて貰ったのよ。このらいちょう自体が………夫の形見のような物だもの。」

「曙………。」

「でもね………最近は育ってきた子供達を見て、陸に戻るべきじゃないかって考えるようにもなったわ。特に親しい仲間と共に孤児院を運営しながら、子供達を育てていくのも悪くないかなって。」

 

その為に、今は引き継ぎ………と言ったら変だが、秘書艦の岸波に管理を任せてみているらしい。

 

「只、彼女………要領はいいんだけど、マイペースな上に、ああ見えて海戦での指揮能力が高いから、提督に据えていいか迷ってるのよねぇ………。」

「それはまた、贅沢な悩みね………。」

「ま………今、気にしていても始まらないわ。散歩がてら、この船内を案内するから付いて来て。」

 

曙は伸びをすると、喜多見一家とアイオワ達を連れて、執務室を後にした。




今回の貨物船らいちょうの説明をするに当たり、緋寺様に許可を貰い「後始末屋」の設定を使いました。
そんな緋寺様が2023年5月6日現在、連載している艦これ小説が、「後始末屋の特異点」。
私個人としては、かなり面白い小説作品だと感じていますので、是非読んでみて下さい(熱いダイマ)。

リンク先のURL:https://syosetu.org/novel/309478/

また、緋寺様、改めてありがとうございます。
この場を借りて、お礼を言わせて下さい。
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