蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第13話 ~先生として~

朧や漣達と別れたアイオワ達は、船内の階段を登って寝室の近くへと向かう。

ケッコンカッコカリをしている提督と艦娘の子供や、孤児達がいるというだけあって、その部屋の数はかなり多い。

 

『わーーーい!』

「お?」

 

先頭に立って歩いてきた曙の姿を視認したのか、濃い青色のロングヘアーのスタイルの良い駆逐艦娘を筆頭に、パジャマ姿の子供達が出てくる。

 

『船長ーーー!アイオワさーーーん!こんばんはーーー!』

「もう、潮………。子供達は眠らせておけっていったでしょ?」

「ごめんなさい、曙ちゃん。みんな、アイオワさんに会いたいって言って………。」

 

ちょっと困ったような顔をしたその艦娘………潮は、アイオワにペコリと頭を下げると、後ろを振り向き、小さな子供を抱きながら出てくる2人の艦娘を見る。

薄緑色のセミロングの髪に黄緑がかった瞳が特徴的な女子高生風の艦娘と、金髪碧眼の美少女で、両サイドを三つ編みにした後丸めて御団子状にしているお嬢様風の艦娘だ。

 

「貴女達は………!?」

「ちーっす!アイオワさん、こんばんは!最上型の鈴谷でーす!潮ちゃん達と一緒に、らいちょうの中でみんなの先生役やってまーす!そして………!」

「こっちはお久しぶりですね、アイオワ。私は、アメリカの空母レンジャー。同じく先生役を担っています。」

「レンジャー………貴女、この船に配属されていたのね。………って、まさかヴェールヌイが言っていた釣り仲間って!?」

「はい!面白いですよね、釣りって!」

 

子供をあやしながら、満面の笑みで応えるレンジャー。

どうやら大潮やヴェールヌイの言っていた釣り好きの海外艦というのは、彼女の事であるらしい。

アイオワの知っている情報だと、アメリカから日本に派遣された所までは知っていたが、まさかここで釣りにハマり、先生役を担っているとは思わなかったのだ。

ここで、それまで控えていた沖波が笑みを浮かべながら前に出てくると、アイオワに説明をする。

 

「ヴェールヌイさんも言ってましたけれど、レンジャーさんは、日本の色んな文化に慣れ親しんでいます。鈴谷さんは軽空母で、夜戦を得意としているんですよ。そして、潮さんは、らいちょうの中で最強の艦娘なんです!」

「え………最強!?」

 

その言葉に、アイオワは思わず潮を凝視してしまう。

若干オドオドしている感じに見える駆逐艦娘であるが、練度がとんでもないというのが、沖波の言葉であるらしい。

潮は、思わず手を振りながら否定する。

 

「お、沖波さん!?そんな、私強く無いですよ!?恥ずかしいよ~!?」

「遠慮しなくてもいいですよ!あの勇姿はしっかりと刻まれてますから!」

 

一体、沖波の過去に何があったのかは分からないが、彼女は潮という艦娘に対し、羨望すら抱いているように思えた。

そこで、レンジャーと同じく子供をあやしていた鈴谷がニコニコと笑いながら言う。

 

「遠慮しなくていいよ、潮ちゃん?沖波ちゃんの言う事は事実だし!ね!」

『先生最強っ!!』

「だ、だから!もう!みんな、私をおだてないでって!」

 

子供達にまで一斉に言われた事で、顔を真っ赤にする潮。

アイオワは、艦娘は見かけによらないのか?と感じる。

だが、申し訳ないが、少なくとも今の潮の様子からだと、そこまでのオーラは見受けられなかった。

 

(海戦になると化けるのかしら?例えばキレると怖い………とか?)

 

何となく考えてみるアイオワであったが、温厚な潮がキレると、どうなるのか想像が付かない。

そんな彼女の姿を見た曙が、コホンと息を吐き、話を始める。

 

「この3人は、子供達の生活面での面倒と、中で開いている学校での教師役を担っているの。かなり大変な仕事だけど、嫌な顔せずに頑張ってるわ。元からの気質があるんでしょうね。」

「愛される体質なのね。」

「折角だから、みんなもアイオワを歓迎しちゃいなさい!さあ、突撃!」

『はーーーい!!』

「え!?ちょ!?ま!?」

 

曙の号令と共に、子供達の一斉タックルを受け、もみくちゃにされるアイオワ。

和やかな時間が少しの間、過ぎていった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

最後に曙が案内をしてくれたのは、らいちょうの上部に備え付けられた操舵室である。

………といっても、その中は普通の船と違い、舵を取るような仕組みでは無い。

中に入ると、赤く灯された部屋の中に、艤装を付けた2人の艦娘が、のんびりと夜食を食べていた。

片方は、二つに結んだ赤茶色の髪と目を持った、かなり幼い海防艦らしき艦娘。

もう片方は、緋色のクセのある髪と瞳を持ち、ウサギの髪飾りを付けた駆逐艦らしき艦娘。

2人はアイオワ達に気付くと、笑顔で手を振って来る。

 

「おお!卯月のあねごぉ!噂のアイオワのあねごぉが来てくれましたよー!」

「本当だぴょん!………むむ!?流石戦艦、グラマラスだぴょん!」

「えっと、貴女達は………。」

「おっと、自己紹介忘れてた!よつは第四号海防艦!みんな「よつ」って呼んでくれてるよぉ!」

「卯月は、睦月型の卯月だぴょん!うーちゃんって呼んでくれると嬉しいぴょん!」

「えっと、宜しく………またまた個性的な艦娘ね………。」

 

よつはともかくとして、卯月は多摩に匹敵するインパクトの語尾だ。

これも、艦娘になった時の弊害なのかもしれない。

曙がアイオワの横に並ぶと、説明を始める。

 

「2人はこのらいちょうの操舵手よ。交代で任務に当たってくれているの。小さいけれど、この貨物船の生命線を担っているのよ。」

「へー、どうやって操作するの?」

「おーおー、気になりますか、アイオワのあねごぉ!実は、妖精さんのいるエンジンルームに直結していまして………やってみた方が早いですねぇ。」

 

よつはそう言うと、実際に操作をしてくれる。

まず彼女は、狭い部屋の前面に置かれた主機のような靴に足を通した。

すると、前の机からキーボードが浮かび、ゴーグルが降りてくる。

左右からはハンドルのような物も出てきて、よつはそれらを巧みに操作していく。

僅か数秒で、船体の周囲の構図や海域の状態を示したマップが、部屋の中に表示される形になった。

 

「凄い………!」

「沖波辺りが言っていると思うけれど………この操舵室が一種の艤装のような物だぴょん!ここで船を操り、航路の安全を確保するんだぴょん!」

「卯月のあねごぉと、交代で勤めているんです。基本的には主機がスクリューや舵に連動していて操作に困らないんですよぉ。やむを得ず急旋回をする時は、ハンドルを使います。」

「本当に最新鋭の技術が集められているのね………。機密レベルも高いはずだわ………。」

 

アメリカでも、このような移動鎮守府は計画されているのだろうか?

そう思ったアイオワは、曙に聞いてみる。

すると、彼女はこう答えた。

 

「大本営がアメリカ政府と情報交換を行っているって聞くから、近い内に開発されるかもね。只、妖精さんの技術の応用が前提だから、慎重になっている部分もあるのよ。」

「確かに………悪用されたら不味いものね。」

 

前に大潮が、無理に妖精さんを鹵獲しようとして、極秘裏に暗殺された研究者がいるという話をしたほどだ。

それだけ、対深海棲艦における妖精さんの力は、何物にも代えがたいのである。

基本的に謎の多い彼女達ではあるが、戦友である以上、仲良くしていきたいのが艦娘達の想いであった。

 

「さて………これで、紹介する仲間は全員ね。艦娘は勿論、子供達もどうだった?」

「みんな元気いっぱいだったわ。これも曙や貴女の夫の影響なのかしら?」

「アタシに関しては、どういう意味か敢えて問わないであげるけど………あのクソ提督に関しては、熱さもあったものね。そう映ってくれたのならば、草葉の陰で喜んでくれているんじゃないのかしら?」

 

少しだけ………ホントに僅かだけではあるが、誇らしげに言う曙の姿を見て、アイオワは生前の2人の夫婦の姿を思い描く。

きっと、曙が色々と文句を言いながらも、夫………井村提督の事を、心の中から尊敬して愛していたのだろう。

その姿があるから、今の移動鎮守府らいちょうが成り立っているのだ。

 

「さてとっと………まずは積み荷を、ブイン基地やショートランド泊地にも届けなきゃね。喜多見提督、帰りにまた寄りますから、娘とはそこで親子の時間を過ごしてください。」

「気遣いありがとう、曙提督。その時は、お言葉に甘えさせて貰うよ。」

「龍田もそれまで我慢してね、後、あたしが言うのもなんだけど、あんまり尻に敷かない事。」

「も~、曙ちゃんったら~。………分かってるわよ、ね。」

 

娘である凛世の手を繋ぎながら、喜多見提督も龍田も笑みを浮かべた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

深夜に差し掛かる時間。

喜多見提督夫妻と別れたアイオワ達は、らいちょうの艦橋に立つ。

彼女達の艤装や荷物、それに二式大艇ちゃんは既に積み込まれており、出航準備は整っていた。

汽笛と共に、貨物船はラバウル基地を後にする。

喜多見提督達は、見送りの為に桟橋に立って手を振ってくれた。

しかし、その中に綾波等、敷波の嘗ての仲間達の姿はいない。

 

「仕方ないよね………あの状態じゃ。」

 

癇癪を起こしてばかりの綾波や、無気力症候群に陥った海風と文月の姿を思い出し、敷波は艦橋の手すりにもたれかかりながら、離れて行くラバウル基地を見ながら嘆息する。

アイオワは何か掛ける言葉を探したが、他人がどうこう言って解決できる問題では無いと悟り、今は陽炎と大潮と深雪に任せてそっとしていく事にする。

そんな中、彼女は初霜と沖波と共に、曙に連れられて艦内を進んで行く。

 

「何処に連れて行くの?」

 

アイオワは問うが、曙は人差し指を口に当てて、静かにして………とジェスチャーを送ると、ある部屋の前に案内をして、扉を半分だけ開く。

覗きこむと、そこはトレーニングルームであった。

その中には、トレーニングウェアに着替えた朧と天霧に見守られる形で、潮がバーベルを持ち上げていた。

 

「潮も真面目だよね。早く寝ないと明日に響くのに………、こうして毎日、トレーニングを欠かさないでいるんだから。」

「一日子供達の世話や教育をした後なんだろ?色々と疲れているのによくやるよ。」

 

指導役を担っていると思われる朧と天霧は、感心半分、呆れ半分で、潮が身体を壊さないように見守っている。

対する潮は彼女達に対して、こう言った。

 

「いつ、深海棲艦が襲ってくるか分からないもの。この船が沈められたら、子供達がみんな危険な目にあっちゃう。私はこれでも、みんなの先生だから………!」

 

そう言うと、汗を流しながら潮はバーベルを何度も持ち上げていく。

何だかんだ言って、朧や天霧が見守っているのは、彼女の想いを把握しているからだろう。

その様子を見たアイオワは、そっと静かに廊下に出て曙、初霜、沖波の3人に告げる。

 

「彼女の原動力は、「守る」って想いなのね………。」

「そうですね。きっとそれは、何にも代えがたい力だと思いますよ。」

 

初霜は、真面目な顔でアイオワの言葉に応える。

表情の中に、若干寂しさが混じっているように思えたのは、気のせいだろうか。

沖波も何度も頷きながら、話して来る。

 

「潮さんが最強なのは、みんなを守りたいって思っているからなんです。その言葉を実践するのは本当に難しいけれど………でも、後悔しない為に自分と闘えているんです。」

「そうね………伊達に先生じゃないわよね。」

 

アイオワは、潮に対する認識も改めようと思った。

あの必死に努力する姿を見ると、どうしても応援したくなるのだから。

 

「………じゃ、艦橋に戻りましょうか。大潮と再会した事で、多分、この船の艦娘達の大半は、「アレ」をしているでしょうし。」

「アレ?」

「見れば分かるわ。」

 

曙はそう言うと、3人を伴って来た道を戻って行った。




貨物船らいちょうの日本艦娘の本名②

潮…「風香(ふうか)」
鈴谷…「翠(みどり)」
第四号海防艦…「桜(さくら)」
卯月…「亜子(あこ)」

これで、現時点で紹介できる艦娘達は、出尽くした感じです。
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