アイオワ達が艦橋に戻ると、そこでは様々な艦娘達が、船の横から釣り糸を垂らしながら夜釣りを楽しんでいた。
村雨、ヴェールヌイ、岸波、あきつ丸、よつ、レンジャー、そして大潮。
彼女達は、思い思いの釣り竿を垂らしながら、のんびりと会話をしていた。
「………これ、釣れるものなの?」
「リラックス効果はあるわよ。みんなで好きな事出来るもの。」
高速で動く船で釣りをしても、魚は恐らく引っ掛からないだろう。
だが、彼女達は釣りという行為その物を、愛してやまない艦娘達。
こうして竿を垂らしているだけで、至高の時を過ごせるのだ。
「言い方は悪いけれど、戦闘狂が海戦を楽しむような物よね………。」
「否定はしないけど、熱くなれる物があるのはいい物よ。………あー、あたしも釣りたくなってきた。村雨!竿1本貸して!」
そう言い残して、曙も夜釣りを楽しみ始める。
残されたアイオワは、初霜達と共に、大潮が釣りに勤しむ様子を眺めていた陽炎達と合流する。
「何ていうか………釣りって奥が深いのね。」
「悪い事ばかりじゃないぜ。秋には秋刀魚漁に行って、沢山お土産を持って来てくれる。」
「サンマを………?」
日本で有名な魚だとは知っているが、ニヤリと笑う深雪の様子を見ると、どうやら味も絶品であるらしい。
「日本の文化には、刺身や寿司もありますからね。………鮮度の関係で、生魚は中々食べられないですけれど、高級魚ですよ!」
夢見心地な陽炎の顔を見て、アイオワは唖然とする。
生魚をそのまま食べる文化は、あまり浸透していないからだ。
腹を壊しそうであったが、そこら辺は国の違いなのだろうか。
「とにかく、大潮さんが楽しんでいる以上、私達は………。」
何気なく沖波が右前方を見て、固まる。
目を見開いた彼女の左目の義眼が、機械音を立てる。
ズーム機能を使ったのだと、直感的にアイオワは悟る。
「沖波………?」
「右45度に白い鬼火の敵攻撃機の群れ!遠方よりこちらに接近!」
『!?』
悲鳴に近い言葉を聞いた途端、艦橋にいた艦娘達が釣り竿をそのままに置いて、艦内に走っていく。
それより僅かに遅れて警報が鳴り響き、卯月の放送が鳴り響いた。
「右45度に白の鬼火の敵攻撃機だぴょん!更に先頭から、駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦接近!続いて、潜水艦、戦艦、雷巡も!」
放送を聞いたアイオワは驚愕する。
様々な艦種のオールスターだ。
恐らく、らいちょうが巨大である故に、遠方からでも視認出来るのだろう。
その為、船の操舵室の索敵範囲も広く作られているみたいだが、防衛は時間との戦いになるのは否めなかった。
大潮と共に艦橋に残っていた曙が、懐からマイクを取り出して艦内放送をする。
「鈴谷!レンジャー!「夜間作戦航空要員」装備!夜偵を放って敵の本陣を探って!朧と天霧は、「12cm30連装噴進砲」で対空迎撃!あきつ丸とよつは、子供達を艦内中央部に避難させて!岸波は「対潜短魚雷」で潜水艦に対応!後、アンタが司令塔やりなさい!」
「了解、船長!各艦、右90度より取舵を取って回り込みながら接近するぞ!らいちょうに砲雷撃を向けるな!」
既に工廠に辿り着き、艤装の装備をしているのだろうか。
普段のマイペースっぷりが信じられない位の、岸波の勇ましい声が、曙の装備したイヤホンから聞こえてくる。
どうやら、電探で応えてくれているらしい。
やがて工廠から扉が縦に開き、艦娘の出撃準備が整う。
囮になろうと考えたのか、伊47………ヨナと共に、真っ先に艤装を装備した岸波が、右方に抜錨していく。
続いて、噴進砲………巨大なロケットランチャーを怪力で構えた朧と天霧が飛び出していった。
そのまま村雨、ヴェールヌイ、漣、潮、多摩………装備の関係か少し遅れて、鈴谷とレンジャーが出撃して、夜偵を飛ばしていく。
「……………。」
「大丈夫よ、みんな鍛えられてるから。只、いつの間に深海棲艦の群生が出来ているとはね………。」
「私も出撃した方が………。」
「流石にあの大きな艤装を、即座に装備させるのは困難よ。でも、第零駆逐隊の力は借りるかも。………あ、折角だから海戦の様子、見て聞く?」
突然の深海棲艦の襲撃を前に、アイオワはどうしても心配になってしまう。
その気持ちを察した曙は、彼女に双眼望遠鏡と電探を渡した。
――――――――――――――――――――
敢えて直線的に突撃せず、別角度から岸波が接触した事で、敵駆逐艦、軽巡、重巡が一斉にらいちょうの方ではなく、岸波の方を見る。
速力の関係上、若干ヨナは遅れていたが、それでも援護出来る範囲であった。
「岸波さん、いつもの通りにいくね。ヨナ………今はこの8門の魚雷があるから!」
ヨナが先制攻撃で遠距離から魚雷を1本放ち、接近するフラッグシップ級重巡リ級を爆発させる。
思わぬ不意打ちを受けた事で、敵艦達は驚くが、すぐに駆逐艦や軽巡がソナーを起動させて、ヨナの位置を把握しようとする。
だが、これも予測済みの行動。
ヨナは敢えて蛇行しながら動く事で、敵先行艦隊の動きを制限する。
「動きが………鈍重だ!」
更にソナーを起動させる事で、どうしても動きは鈍る。
岸波はその隙を狙い、敵艦に接近すると、次々と駆逐艦や軽巡クラスを連装砲で射抜いて沈めていく。
その岸波を狙って、白い鬼火の攻撃機が爆撃を仕掛けようとするが、その一部が纏めて吹き飛ぶ。
追いかけて来た朧と天霧が、噴進砲を放ち、叩き落としていったのだ。
「岸波ちゃん!後続艦隊追いついて来たよ!援護に入るね!」
「さーて、久々の激戦区での戦いだ!」
朧と天霧が追いついた事で危機感を抱いたのか、敵艦達は魚雷を放つ。
しかし、水中にいるヨナが警告してくれたお陰もあって、この攻撃は当たらない。
もう1つ言えば、完全に相手も頭に血が上っているのか、らいちょうではなく、岸波達を狙ってくれているお陰で後ろを気にしなくて済んだ。
その隙に、漣や潮達も合流する。
「漣とうちゃーく!さてさて、早速雷撃戦行きますか!」
「ここは、私と漣でどうにかする。岸波や潮達は潜水艦や戦艦、雷巡の相手を頼むよ。」
漣とヴェールヌイが即座に魚雷を撃って、その数を更に減らした事で前への道が開く。
先行艦隊の残敵掃討を彼女達に任せて、岸波、ヨナ、潮、村雨、多摩は火力の高い艦隊へと接近をしていく。
勿論、フラッグシップ級雷巡チ級は魚雷を放つし、フラッグシップ級戦艦ル級は遠距離砲撃を仕掛ける。
だが、それも当たらなければどうという事は無い。
それを見たのか、夜戦では別格の強さを誇るフラッグシップ潜水艦カ級が、魚雷による攻撃を仕掛けようとするが、ここで岸波がヨナのサポートを受けながら飛び出す。
彼女の両ふとももには、変わった形の魚雷が装備されていた。
対潜短魚雷………水中奥深くの潜水艦を狙う為に作られた局地戦用の魚雷だ。
「喰らえ!!」
海中に叩き込まれた魚雷は、爆雷の数倍の威力を発揮し、ヨ級を次々と爆発させていく。
思わぬ切り札兵器の登場に、流石の深海棲艦達も動揺をしてしまった。
「村雨、潮。多摩は雷巡を狙うから、戦艦の足止めを任せるにゃ!」
「別に倒してしまってもいいんでしょ?………なーんてね!」
村雨は冗談めいた事を言いながら、左腕に巻き付けられた錨付きの鎖を振り回し、ル級の脳天に叩きつけて怯ませる。
その隙に接近をすると、盾のような両腕の中に入り込み、手持ちの拳銃を模した機銃と艤装の右の単装砲、左の連装砲を全て放って撃沈する。
「守る子供達がいるんです!やらせはしません!」
ヤケクソ気味に砲撃を放つ別のル級の砲撃を躱しながら、潮も接近をする。
彼女には、村雨のような近接攻撃武器は存在しなかったが、だからと言って離れていてはどうしようもない。
一気に接近………というか突進すると身体を預ける形で盾のような右腕に左肩からぶつかっていく。
そして、左腕の機銃を至近距離から乱射すると、強引に敵艦の防御をこじ開けた。
「沈めます!」
そのまま右足を入れ込み、ル級の顎を蹴り飛ばすと、右手の主砲を向けて顔を吹き飛ばす。
見た目とは裏腹に荒々しい海戦を見せる潮を見て、多摩は嘆息した。
「流石、らいちょう最強の艦娘にゃ………。やる事がエグイにゃ。」
そう言いながらも、多摩も背中の艤装から伸びる両サブアームの魚雷を、次々とチ級にぶつけて、派手な炎を上げていく。
海戦を有利に進めている彼女達に、少し離れた所から夜偵を飛ばしていた鈴谷とレンジャーの通信が入って来る。
「敵さん、見っけた!!………あれ、この親玉って………。」
「北方………棲姫?」
2人の通信は、艦橋にいるアイオワ達にもしっかりと伝わった。
――――――――――――――――――――
北方棲姫とは、小さな姫のような姿をしている陸上型深海棲艦だ。
可愛らしい容姿を持ち、護衛要塞と呼ばれる、丸い球体のような騎士を従えている。
勿論、人畜無害とは程遠い存在ではあるが、その愛らしさから一部の艦娘達の間では「ほっぽちゃん」と呼ぶ者もいる程。
しかし、ここで問題なのは南方のショートランド泊地の近くに、文字通り北方と名の付いた姫クラスがいる事であった。
「何かの拍子に迷い込んだのかしら………?」
「確かなのはこのまま放っておいたら、近くの船舶に被害が出るって事よ。可哀そうだけど。」
アイオワの疑問に対して、曙は軽く流すと初霜達を見る。
彼女は頷くと、後ろの仲間の5人を見渡した上で応えた。
「戦車付きの大発動艇と特型内火艇を貸して下さい。私と沖波と大潮が中心になって、対処してきます。」
「そうね。岸波達が応戦している隙を狙って、一気に近づいて。頼むわよ。明石、準備お願い!」
曙が許可を出すや否や、初霜達も工廠へと走っていく。
どうやら、らいちょうの作りはしっかりと把握しているらしく、素早く工廠まで辿り着き、艤装や対地装備を整え抜錨していく。
敵艦隊のジャマが入らないように、大回りで動かないといけない分だけ時間は掛かるが、缶とタービンを強化している彼女達ならば、接近には苦労しないだろう。
曙と共に残されたアイオワは、何も出来ない自分がもどかしくて仕方がなかった。
「じれったいわね………本当に大丈夫かしら………。」
「仲間なんだから、信じてあげなさい。それに最初の邂逅で、その実力は嫌という程、知っているでしょ?」
「そうだけれど………今日一日、私の案内で疲れているでしょうし………。」
ショートランド泊地の藤原提督の言葉が、どうしても頭に残る。
彼女達は便利屋なのだから、疲労の蓄積が問題点になる。
もしも過度な海戦に耐えられなかったらと思うと、心配にならない方がおかしかった。
――――――――――――――――――――
深夜の海戦が始まって、大体30分後であろうか。
岸波達の海戦は、大体終わったらしい。
しかし、万が一の為、彼女達は順次補給に戻って来る。
最初に噴進砲の弾薬を補充しに戻ってきた朧の話だと、初霜達の第零駆逐隊が向かった方向では、やはり海戦の音が響き渡っていたとの事だ。
「援護に行く?」
「村雨やヴェールヌイに準備はさせといて。」
大発動艇等を使える2人に用意をさせた曙であるが、彼女達の最優先事項はらいちょうの安全の確保だ。
周辺の警戒も欠かしてはいけない以上、簡単には出向けなかった。
「彼女達は………。」
「戻って来たぴょん!先頭で深雪が………。」
「本当!?」
操舵室にいる卯月の通信が聞こえて来た事で、アイオワは双眼望遠鏡で、敵攻撃機が飛んできた方角を見てみる。
だが………深雪は苦い顔だ。
「な、何………?まさか………!?」
「あー………もしもし。アイオワさん、いる?あたしの顔が見えているなら、心配しなくていいよ。轟沈が出たわけじゃないから。只………ねぇ………。」
深雪が疲れたような声で、後ろを見る。
その方角を見ると、闇夜の中から次に初霜が現れた。
だが………。
「っ!?」
アイオワは衝撃を受ける。
初霜は平然としていた。
だが、その身体は………真っ黒な返り血で全身が染まっていたのだ。
突如発生した、久々の海戦。
軽巡棲姫の次に出て来たのは、北方棲姫になります。
初霜に何が起こったのかは、次回をお待ちください。