敵の先制の砲撃と雷撃を回避した第零駆逐隊の6人は、散開しながら深海棲艦達に近づいていく。
本来ならば、敵艦側がもう一撃加える所だが、缶とタービンを強化された彼女達は、接近速度が半端ない。
慌てて前面に展開したフラッグシップ級ナ級後期型IIが口を開き、駆逐艦ならではの砲撃の連撃に切り替える。
「来るわよ!初霜、陽炎に付いてらっしゃい!」
「盾役は任せるわ!」
「沖波、行くね………!」
「大潮も突っ込みます!」
だが、一斉に放たれた砲撃は、陽炎が二振りのバルジトンファーを素早く回転させて簡易のシールドを作り、上手く受け流していく。
そして、そのまま零距離まで近づくと、敵駆逐艦の脳天に次々と強力な鈍器を華麗に叩き込み、文字通り頭をかち割っていく。
これには、ナ級も耐え切れず、血を噴き出しながら沈んでいく。
「砲戦………開始するわ!」
加えて、その後ろから適正距離まで近づいた初霜が、両手の主砲を次々と撃ち始めると、陽炎を囲い込もうとしたナ級の急所に的確に吸い込まれ、爆発が複数起こる。
「突貫………!」
「いっきますよー!」
更に、陽炎と同じく、左手のバルジトンファーで簡易シールドを作り出した沖波と、両腕のアームガードを交差させた大潮が突っ込み、陣形を乱した敵駆逐艦達に、追い打ちをかけていく。
残ったフラッグシップ級ナ級後期型IIも反撃を試みるが、自分達よりも素早い第零駆逐隊には、乱戦では砲撃が中々当たらず、むしろ同士討ちする艦が現れてしまう。
結局、凶悪と言われた深海棲艦の駆逐艦は、ほとんど何も出来ないまま沈んで行ってしまった。
「こちら敷波、敵潜水艦複数発見。迎撃するよ。」
一方で敷波は、魚雷の再装填を急ぐ敵潜水艦の頭上に素早く移動すると、手で回転させていた魚雷を下に向ける。
「爆雷が効かないなら、こうだよ………ね!」
すると、軽空母等が爆撃を水中に放つ時のように、海中に雷撃を真上から叩き込んでいく。
流石にソ級も、いきなり頭上から爆雷よりも遥かに強力な魚雷が、降って来るとは思わなかっただろう。
完全に不意を突かれた潜水艦の1隻が絶叫と共に吹き飛び、爆沈する。
「1隻落とせば、こっちのものかな?」
仲間の突然の撃沈に、動揺するソ級達。
その隙を狙い、敷波は容赦無く、次々と魚雷発射管から魚雷を引き抜き、両手に持って回転させて、正確に落としていく。
綻びは一気に広がり、あっという間に夜戦で強力な潜水艦は全滅させられた。
「T字有利ヲ作リナサイ!有利ナ陣形ヲ作ッテ、奴ラヲ一網打尽ニスルノヨ!」
司令塔である軽巡棲姫の叫びを受けて、フラッグシップ級重巡ネ級複数達が、初霜達に対し、素早くT字有利の陣形を取る。
しかし………いきなり、その内の数隻が、派手な炎を上げて撃沈していく。
「ナ、何!?」
「T字有利になってくれて、ありがとう。お陰で、陽炎型自慢の雷撃が狙いやすいわー。」
皮肉たっぷりに言い放つのは、陽炎。
彼女は、8門の魚雷発射管から一斉に雷撃を放ち、横に展開したネ級達に、カウンターで魚雷を撃ち込んでいったのだ。
しかも彼女の艤装には、魚雷の次発装填装置が備えられており、おまけでもう一発8門の魚雷を同時に放つ事が出来た。
ネ級の束と言っても、計16門の魚雷に耐え切られる存在は中々いない。
また残存艦も、その間に初霜達の接近を許してしまい、トドメを刺されていく。
「マ、待テ!?コイツ等ガ、ドウナッテモ………!?」
敗戦濃厚になった事で、残ったネ級の1隻が、アイオワ達に砲門を向けて脅しをかけようとする。
だが、その頭が撃ちぬかれ、黒い血を流しながら沈んでいく。
「悪いな!そっちが最前線で鍛え抜かれているように、こっちも同じように鍛え抜かれてるんだよ!」
撃ったのは、いつの間にかアイオワ達の近くまで周り込んでいた深雪。
彼女は、ニヤリと笑いながらも、油断なく他に近づく敵艦がいないか確認をする。
そして、アイオワに英語で語り掛ける。
「あー、大丈夫ですか?………ていうか、日本語オーケイ?というか、タメ口オーケイ?」
「え、ええ………。」
「じゃあ、遠慮なく………。アイオワさん、無事?あたしの名前は、深雪。第零駆逐隊が来たからには、もう大丈夫だぜ!」
「何なの………貴女達?」
只々、この凄腕の駆逐艦達に呆然とするアイオワに対し、深雪はきょとんとした顔をする。
どうやら彼女は、第零駆逐隊や蒼海の英雄………初霜の事は知らないらしい。
「ヒューストンさんや、ブインのガンビーさんや、ラバウルのサラトガさんから手紙で聞いてないのか?………いや、あー、成程。3人共、「あの事」を気に掛けてくれたのか。」
「え?」
「いや、こっちの話!とにかく、みんな無事で良かったよ。この海域だと、あたし達が全力で駆け付けても被害が出る事が結構あるからさ。」
どうやら、アイオワや後ろの貨物船の乗組員達は、相当運が良かったらしい。
深雪は安心させるように、握手を求める彼等の元に行き、左手で次々と応えていく。
勿論、右手の主砲は離さず、隙を見せてはいない。
アイオワは、再び戦場を見る。
深海棲艦側は、もはや随伴艦が残っておらず、軽巡棲姫が1隻で戦っている状態であった。
「何デ!?何デ負ケルノ!?」
「………沈めるわ。」
動揺する司令塔に対し、初霜が冷徹な言葉と共に、両腰に備え付けられた魚雷を次々と射出していく。
火にくべられた姫クラスに、沖波が連装砲の砲弾を炸裂させて、大潮は特型内火艇を操り追撃を加える。
軽巡棲姫には、強力な深海棲艦ならではの、肉体を回復させる再生能力があるみたいだが、あっという間にその力も消耗していく。
「嫌アアアアアアアアア!?」
もう持たないと、悟ったのだろう。
軽巡棲姫は悲鳴と共に素早く反転すると、一目散に海域から離脱していく。
「逃がさない!」
初霜は、その背中を追おうとしたが、肩に敷波の手が掛けられた。
「ストップ、初霜!アタシ達の目的は、敵の殲滅じゃなくて、貨物船の乗組員の救助だよ!優先順位、間違えないで!」
「……………。」
敷波の言葉を受け、初霜はしばらく黙っていたが、やがて両手に持っていた主砲を基部に仕舞うと、振り向き言った。
「そうね………ごめんなさい。深雪の元に行きましょう。」
そう言うと初霜は、仲間を連れて、深雪やアイオワの元に向かった。
――――――――――――――――――――
「ありがとう、助かったわ。で………貴女が………えっと、蒼海の英雄?」
「初霜です。後ろにいるのが陽炎、沖波、大潮、敷波になります。」
アイオワは、合流してきた初霜達に日本語でお礼を言う。
それを受けて初霜も、日本語でアイオワに対して喋り出した。
どうやら泊地の艦娘達は、全員英語や地元の言葉は喋られるように座学を習っているらしいが、ここはアイオワが合わせる形を取る。
これは一応、ショートランド泊地の提督が日本人と聞くから。
また、日本がアメリカ以上に艦娘の豊富な、「艦娘大国」であるからというのもある。
艦娘である以上は、アメリカ最高傑作と言えるアイオワであっても、敬意は払うべきであると考えたのだ。
一方、アイオワや第零駆逐隊に助けられる形になった貨物船の乗組員達は、皆がこぞって、初霜達に感謝の言葉を述べていた。
初霜は、現地の言葉で彼らに話す。
「怖い思いをさせて、ごめんなさい。私達よりも、身体を張って守ってくれたアイオワさんを労ってあげて下さいね。」
「勿論、彼女も素晴らしいです。でも、やはり貴女達も、蒼海の英雄とその仲間達に相応しい実力者でした。」
船長である男が代表して、初霜と握手を交わす。
彼は気にしていなかったが、初霜は一応相手を気遣って、機械化された義手の右手では無く、生身の左手で応えた。
そして、泊地へと向き、彼らに告げる。
「仲間である大潮が、大発動艇を用意してくれています。それに乗って、泊地へと向かいましょう。藤原提督は、治療や食料の類を用意してくれています。」
「何から何までありがとうございます!お言葉に甘えさせて貰います!」
その後は、大破したアイオワを護衛する関係で、ゆっくりではあるが、泊地へと帰投する事になった。
九死に一生を得たアイオワは、不思議な気分であった。
別に、駆逐艦娘達に助けられた事が、不快なわけでは無い。
只、この対深海棲艦の最前線で、夜戦を主力で戦っているのが、小型艦である彼女達だとは思っていなかったのだ。
(どういう理由なのかしら………?)
疑問を感じながらも、アイオワは初霜達第零駆逐隊に導かれて、ショートランド泊地へと向かう事になった。
――――――――――――――――――――
「ふう………。」
明け方近く、ショートランド泊地に辿り着いたアイオワは、鎮守府等艦娘のいる施設には必ず設置されている大浴場に直行する事になり、そこでゆっくりと浸かる事になる。
その湯船は特殊な成分で出来ており、艦娘の傷を徐々にだが癒す効果がある。
これを艦娘達は船渠(ドック)入りと呼んでおり、戦いで傷ついた後は、必ず行う事になっていた。
更に、今回は見合わせられたが、高速修復材(バケツ)と呼ばれる特殊な原液を使う事で、一瞬にして傷を癒す事も可能であるらしい。
只、こちらは高価な上に劇薬である為に、余程の事が無ければ使われないのがセオリーとされている。
また、高速修復材(バケツ)を使ったとしても、どうしても治せない傷もある。
例えば、四肢が千切れてしまうと、再び生やす事は現在の治療では無理であった。
(あの子の右腕もそうなのかしら………。)
アイオワが頭に浮かべるのは、初霜の右腕の義腕。
余程の過去と覚悟が無いと、ああいった装備は付けられないだろう。
と、そこに………。
「うっひょー!流石、アメリカのスペシャルな戦艦!体型があたし達とは、もう段違いだぜ!」
「深雪………言ってて空しくならないの?そりゃ、アタシ達駆逐艦の中にも、桁違いの胸部装甲を持っている人はいるけれどさ………。」
「私達も、由良さんくらいの身長と胸は欲しいわよねぇ………。」
声と共に大浴場の扉が開き、6人の駆逐艦娘が入って来る。
深雪を先頭に、敷波、陽炎、大潮、沖波、そして初霜だ。
いずれもアイオワに比べれば、まだまだ子供でありモデル体型の者は1人もいない。
とはいえ艦娘になった時点で身体的成長は止まってしまう為、彼女達の実年齢は見た目には比例しないが………。
そこでアイオワの目に、さっきまで考えていた初霜の義腕が目に入る。
彼女の義腕は肩口まで続いており、ほぼ右腕全てが機械化されているような状態であった。
視線に気付いたのだろう。
湯船に浸かった初霜が、聞いてくる。
「この腕、気になりますか?」
「ええ………。ごめんなさい、アメリカでは見かけなかったから。それも艤装のようなものよね?」
「はい。艤装を付けなくても、独立して動くようにはなっていますが、これも艤装の一部です。私の右腕の義腕と沖波の左目の義眼は、秋津洲さんが整備してくれているんです。」
そういえば………と思い、アイオワは沖波を見る。
彼女は、余程拘りがあるのか、湯船に浸かっている時も曇らない風呂用の眼鏡を付けていた。
その左目は、確かによくよく見ると、少し右目に比べて少し色が違っている。
「そういえば、探照灯になっていたわね。」
「あ、どうも………。ちょっと昔、色々あったので………。」
「苦労しているのね。」
アイオワはその瞬間、仲間達が………特に初霜と陽炎の顔が曇ったのを見逃さなかった。
だからこれ以上は、深く詮索はしないようにする。
ここで、素早く話題を変えようとしたのか、大潮が話しかけて来た。
「大潮達がこの時間に入浴してきたのは、アイオワさんに伝えたい事があったからです。あの艤装ですが………流石にあそこまで破損していると、秋津洲さん達でも、元に戻す事は不可能らしいです。」
「そう………結構派手に壊してしまったものね。」
「ですので、アメリカ本国から予備の艤装一式が船で輸送されるまで、しばらくは泊地内で待機になります。」
いきなり暇になったものだとアイオワは思った。
一応、トレーニング等は出来ると思うが、それだけでは物足りなかった。
幾ら強力な戦艦でも、砲撃訓練等は欠かしたくは無いのが本音だ。
だが、肝心の艤装が無ければ元も子もない。
「どうしようかしら………?」
「アイオワさん。とりあえず、船渠(ドック)入りが終わったら、藤原司令に挨拶をしませんか?それに、この泊地にいる仲間達も紹介したいですから。」
そう言って来たのは、陽炎。
確かに挨拶は必要だと感じたアイオワは、艤装が届くまでの間は、新たな仲間との交流の時間にしようと決める。
そこで、1つ気付く。
「秘書艦は、どんな人なのかしら?」
「私です。」
「え、陽炎?………秘書艦が出撃していたの?」
「春風っていう補佐がいるんです。それに、私達が担当するのは夜間で、昼間はさっき言っていた由良さんが秘書艦を勤めています。」
「へー………。」
アイオワは成程………と心の中で思う。
対深海棲艦の最前線である為に、いつ襲撃や救難信号を受けてもいいように、秘書艦も昼間と夜間の2つの時間に分けているらしい。
特に、夜間は提督が眠っている時間である為、補佐も付けている状態なのだ。
その仕組みに感心しながらも、6人の駆逐艦娘に問う。
「じゃあ何?貴女達は夜戦担当?」
「そうだよ。アタシ達、基本は昼夜逆転生活を過ごしてるんだ。」
敷波が、やれやれと手を開いて告げる。
まだまだ精神的にも肉体的にも脆い駆逐艦にしてみれば、ハード過ぎる生活では無いか?と思わずアイオワは考えてしまう。
その後、初霜達と語らった彼女は、船渠(ドック)入りを終えると、執務室へと向かう事になった。
この作品のメイン艦娘達のイメージ
身長:陽炎>深雪≧春風≧敷波≧沖波>初霜≧大潮
胸部装甲:春風>沖波>陽炎>大潮≧敷波≧深雪≧初霜
当然ながら、戦艦であるアイオワはどちらも破格というわけで…。
次回からは、初めてショートランド泊地にやって来た彼女の視点で、所属艦娘達が紹介されていきます。
激戦区に所属する、様々な艦娘や提督達の姿をお楽しみ下さい。