蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第20話 ~駆逐艦VS戦艦~

第零駆逐隊は基本、昼夜逆転の生活を送る。

主に深海棲艦が船を襲撃するのは、夜である事が多い為、奇襲に備えないといけないからだ。

一時的とはいえ春風に強制的に休暇が与えられて、雪風が臨時メンバーに入った事で、改めて実戦形式の演習をこなさないといけなくなった。

………と言っても、春風にしてみれば、その昼夜逆転生活が基本である。

更に、藤原提督から秘書艦補佐の任務すら、自分と由良で時間をずらしてカバーすると言い渡された為、夜の時間は暇だ。

だからこそ彼女も、訓練海域の縁に座り、退屈そうに第零駆逐隊の演習をぼんやりと眺めていた。

 

「ピロリン。第零駆逐隊の平均身長が下がりました。第零駆逐隊の色気が下がりました………。」

「春風ぇっ!アンタ、強制休暇中とはいえ、ケンカ売るのならば買うよ!?頭ぶっ叩く事くらいは、セーフだからね!」

「………別にいいではないですか。事実なのですし。」

 

本当に暇そうに呟く春風に対し、グーで拳を握って見せる陽炎。

ここまで来ると、この春風………加奈の本名を持つ春風は、同型艦の春風達に比べると随分と失礼だ。

それだけ、この第零駆逐隊の気質に染まってしまっているとも言えるが………。

 

「雪風、色気無いのでしょうか………。」

「ほら、雪風が落ち込んだ!そんな邪魔な胸部装甲を持っているから、海戦で痛い目を見るのよ!」

「むー、人の傷口に塩を塗る真似をする陽炎さんも、どうなのですか!?」

 

あーだこーだと、口論を始める陽炎と春風。

その様子に苦笑しながらも、大潮は2人をなだめる。

何だかんだ言って、輪が乱れそうになった時に真っ先に動いてくれるのは、彼女であるらしい。

一方で旗艦の初霜は、仮に今の7人の遊撃部隊で出撃した時の役割を考えているらしく、真剣な表情で腕を組んでいた。

 

「随分、悩んでるね。」

「ええ。日傘を防御に使える春風がいないから、盾役が減るもの。私の義腕や大潮のアームガードだと、自分を守るのが精一杯だし………。」

「陽炎と沖波頼りってわけか………。雪風は小柄な分、回避には長けているけれど………。」

「し、敷波さんまで、雪風をチビだと言うんですか!?」

「いや、誤解だって!?そこまで過剰に反応しなくても!?」

 

状況が悪かったらしく、敷波と雪風の間でも口論が発生。

ここは、沖波と深雪が仲裁に入ろうとするが、中々収まらない。

そこで、初霜がふと気づく。

 

「あら………?アイオワさん。」

『え?』

 

彼女の言葉に、一斉に全員が、制服を着てやって来たアイオワの姿を凝視する。

その顔は真剣そのもので、初霜を真っ直ぐ見ていた。

 

「もしかして、アイオワさん………。」

 

その決意に満ちた瞳を見て、陽炎は彼女が何を言いたいのか心当たりがあった。

横目でさっきまで口論をしていた春風を見るが、彼女も真顔で頷く。

アイオワは、初霜が訓練海域の端まで歩み寄って来るのを見ると、彼女に対して告げる。

 

「初霜、お願いがあるの。」

 

8人の第零駆逐隊の面々が見守る中、アイオワは頭を下げる。

 

「私と………1対1の演習をして。」

 

それは、アイオワの踏み出す勇気の証であった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

次の日の昼、よく晴れた中で初霜とアイオワは、藤原提督の許可を貰い、訓練海域で演習をする事になった。

当然ながら1対1の形式である為、やろうとしている事は決闘に近い。

 

「遂に来ちゃったわね………この時が。」

 

昨晩の春風のように、訓練海域の縁に座って嘆息しているのは陽炎。

彼女は何故か、艤装を付けていた。

いや、彼女だけでない。

出撃可能な第零駆逐隊の6人全員が、縁に並んでおり、艤装装着状態だ。

これは、救難信号が来た時にすぐに抜錨出来るようにする為であるが、理由はもう1つある。

「ある事」が起こった際に、対処をする為だ。

無論、陽炎達は、それが起こらない事を願うしか無いのだが………。

 

「………最悪、陽炎が何とかするしか無いわね。」

 

また深く溜息を付きながら、陽炎は覚悟を決めた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「アイオワさん、そちらの準備は宜しいですか?」

「ええ………大丈夫だけど………本当にその位置でいいの?」

 

初霜の通信を受けて、アイオワは困惑する。

彼女の立っている位置は、艦娘の射程では「長」と呼ばれる距離。

アイオワを含む一般的な戦艦の、丁度ギリギリの射程内であり、逆に初霜のような駆逐艦の射程からは、程遠い位置であった。

 

「一応言っておくけれど、私の砲撃届くわよ?」

「構いません。遠慮なく撃って下さい。それと………。」

 

初霜は改まって、確認するように通信で聞いてくる。

 

「私は演習と言っても、「敵」として対峙した相手には、容赦はしません。………その前提で挑みますが、大丈夫ですね?」

 

流石にこの発言には、アイオワはムッと来た。

まるで、自身が格上のような発言だ。

そもそも、夜でなく昼という時間を選んだ時点で、アイオワにとって圧倒的有利な条件であった。

夜ならば闇に紛れる事が出来るが、昼はそうはいかない。

普通ならば、圧倒的火力と防御力を持つ戦艦の前に、駆逐艦は成す術も無いはずであった。

 

(余程自信があるのか、それとも私が舐められているのか………。)

 

歓迎会の時に春風が言っていた、慢心するなという言葉が頭をよぎる。

とにかく、やるからには遠慮をしてはいけなかった。

仮に慢心してやられては、アメリカの決戦艦娘の名が泣く。

 

「とりあえず、大破に追い込んだ方が勝ちね。」

「はい、肩の妖精さんの指示を仰いでください。」

 

2人の肩には、笛を持った妖精さんが乗っていた。

この妖精さんは旗を持っており、青い旗が小破、黄色い旗が中破、赤い旗が大破のダメージを表す。

但し、実弾では無く使うのは、海水にも優しい素材のペイント弾だ。

初霜の装備している魚雷も、炸裂したら、同じ素材の塗料が撒き散らされる仕組みになっていた。

 

「では、準備をして下さい。」

「分かったわ。」

 

とにかく、脆い駆逐艦には、主砲を1発でもいいから直撃させればいい。

アイオワは、巨大な3門の三連装砲………計9門の主砲を一斉に撃つ構えを見せる。

後は、妖精さんの合図を待つだけであった。

 

「レディ………!」

 

辺りが静まり返る。

そして………。

 

ピィーーーッ!!

 

「ゴーーーッ!!」

 

合図と共に、アイオワの砲身が凄まじい轟音を発する。

強力無比な砲撃が初霜に向けて飛来する。

 

(これで………どう!?)

 

勿論、アイオワだって修羅場は潜り抜けている。

全ての砲撃を一点に集中させるわけではない。

先程も述べたが、1発でも当てれば勝ちなのだ。

彼女は初霜を中心に、3×3の正方形の形に着弾するように砲撃を調整した。

普通ならば、避けられない正確な一撃。

だが………相手が普通で無かったら?

 

(!?)

 

アイオワは凝視する。

初霜は、何の迷いも無しに前進した。

身を低くして。

それこそ、水面ギリギリに倒れ込むような勢いで。

 

(しまった!?)

 

アイオワは気付く。

初霜は缶とタービンを強化している。

その為、加速力も並の駆逐艦以上に速かった。

しかも、長距離に砲撃をするという事は、それだけ縦に弧を描くという事。

つまり、砲撃は上から降って来る為、前に「最速」で直進してしまえば、回避が出来るのだ。

 

(こっちの射程で始めたのは、初霜の慢心とかじゃなかった!?)

 

戦艦の砲撃は、駆逐艦と違って連射が効かない。

一度放ってしまうと、次弾装填までにどうしても時間が掛かる。

最初から、初霜はアイオワの砲撃を空振りさせて、自身が突っ込む時間を稼ぐ算段であったのだ。

 

「副砲、展開!」

 

咄嗟にアイオワは下がりながら、右に2門、左に4門備わった連装砲を前に展開する。

とにかく、主砲を装填するだけの時間を稼がなければならない。

展開が完了する度に、順次、突撃する初霜に向けて3回発射。

今度は直撃を狙わず、敢えて初霜の足元に着弾するようにコントロールする。

思った通り、初霜は直進するのを防がれるが、それでも最低限の迂回でアイオワへと迫って来る。

 

「何て速さなのよ!?」

 

初霜が両手の主砲を構えるのを見たアイオワは、左膝を上げて股間を、腕を交差させて、胸と首、顔といった急所を防御する。

途端に至近距離まで迫った初霜の砲撃が、アイオワにこれでもかという位、炸裂する形になった。

しかも、尚も下がる彼女に対し、初霜は貼り付き右の単装砲と左の連装砲を乱射する。

この距離では装填が終わった主砲は、死角になって当たらない。

 

「この………しつこいっ!」

 

逆転を狙い、アイオワは、咄嗟にガードに使っていた左足を伸ばして初霜の喉元を蹴り飛ばそうとする。

だが、それは初霜が咄嗟に防御として使った義腕に弾かれた。

それでも、僅かながらに彼女が後退した事で、距離が出来る。

 

「いい加減………に………!?」

 

初霜の攻撃が止んだ事で防御を解き、反撃に移ろうとした瞬間であった。

アイオワは見た。

義腕で防御をした初霜を、間近で。

 

(な………に………!?)

 

ほんの一瞬だった。

だが、ハッキリと見てしまった。

初霜の目を………。

悪鬼の如く、憎しみに満ちた目を。

 

(あ………ああ………!?)

 

アイオワは反射的に飛びのきながら、主砲の内の三連装砲を1門斉射する。

初霜は後方に弾き飛ばされた勢いを利用して、バク宙をする事で回避をした。

派手な水柱が2人の間で立ち、アイオワに下がる隙を与えてくれるが、それでも水柱が静まり返った中から出て来た初霜の目は、見間違え無く、憎悪に………狂気に染まっていた。

 

(殺られる………!?)

 

アイオワは悟る。

初霜は、「演習をする」つもりでこの戦いに挑んでいるわけではない。

本気で相手を「殺す」つもりで………アイオワに対峙していた。

 

(か、陽炎が隠したかったのは………!?)

 

あの黒ずんで帰って来た夜を思い出し、アイオワは歯をガチガチと鳴らす。

陽炎が初霜に拳骨を喰らわせたのは、近づいて来た時に、この目をアイオワに見せないようにしていたからなのだ。

恐怖に染まったアイオワは、尚も「その目」で突撃しようとする初霜を見て、叫ぶ。

 

「機銃斉射!絶対に近づけないで!!」

 

悲鳴にも近い叫びがこだまする中、アイオワの懸命の防戦が始まる。

対空迎撃用の機銃を、咄嗟に弾幕として使用する判断をしたのだ。

肩にいる妖精さんは、既に青い旗………小破の印を掲げていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「あーあ、アレは見ちゃったわね………。しかも、初霜………やっぱり自分をコントロール出来て無いし………。」

 

もはや呆れた様子で呟くのは、膝の上に肘を乗せ、頬杖を突いた状態の陽炎。

彼女は恨めしそうに横目で春風を見た。

 

「どーしてくれるのよ。アイオワさん、完全に混乱してるわよ?伝えるには、早かったんじゃないの?」

「………いずれ分かる事ならば、今の内に分かって貰う必要はあるのでは無いのですか?」

 

それに対して春風は、この結果はやむを得なしといった感じだ。

2人の後ろに立っていたビスマルク達が、嘆息しながら言う。

 

「ある意味、この泊地の洗礼よね。私もイタリアもローマも、みんなあの目に威圧されて敗戦したもの。」

「でも、あの目を知っておかないと、同じ海戦には連れていけないわ。」

「初霜の過去も、関係しているんだもの。慣れて貰わないと。」

 

やっとアイオワに遠慮せず、好き勝手に喋る事が出来ると思ったのか、3人の高速戦艦達は、素直に思った事を口にしていく。

そう………彼女達は、アイオワと同じように初霜に挑んでいた。

しかも、3人揃って負けていたのだ。

 

「やっぱり………今回も、この陽炎が出向くしかないのかしら?」

「それが一番ですよ。………後で責任を持って、わたくしがジュースを奢りますから、頼みますね。」

「なーにが頼みます………よ。釣り合い取れないっての!」

 

文句を言いながらも、陽炎はゆっくりと抜錨していく。

初霜とアイオワの白熱した海戦は、尚も続いていた。




妖精さんの旗の設定は、アニメ2期の5話を参考にしました。
機動力の初霜と火力のアイオワ。
己の武器を活かす為に、色々と策を練るのは考えていて楽しかったですね。

…それ以上に、春風の畜生っぷりが印象的かもしれません。
今回の春風は、かなりいい性格してます。
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