蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第21話 ~艦娘強化計画~

アイオワはとにかく必死であった。

缶とタービンの強化に任せて張り付いてくる初霜に対し、とにかく盛り沢山の機銃を連射する事で、近づけさせないようにしている。

しかし、幾ら駆逐艦とはいえ、機銃だけで迎撃出来る程甘くはない。

初霜は、魚雷を全て捨てて誘爆を防ぎ、右腕の義腕で防御行動を取りながら、接近を繰り返していた。

 

「何なの!?貴女は何なのよっ!?」

 

叫んだって何かが変わるわけではない。

だが、初霜の悪鬼のような目を見てしまっては、叫ばずにはいられなかった。

明らかに、救われた船員達から慕われている「蒼海の英雄」とは真逆の姿。

それこそ、「復讐鬼」という表現がピッタリであった。

 

「ま、不味い………!?」

 

アイオワは青ざめる。

肩の妖精さんは黄色の旗………中破の印を上げていた。

幾ら戦艦の防御力と言っても、これだけ砲撃を受けたらダメージは積み重なる。

これが、赤の旗………大破になったら、アイオワの敗北だ。

一方で、初霜も機銃の斉射を受けて青い旗………小破の印が付いていたが、まだまだ戦える状態だ。

とにかく、主砲………いや、副砲でもいいから、1発確実に当てなければならない。

だが、下がる隙を与えてくれない。

 

「来ないで!!」

 

遂にアイオワは適正距離を測りかねて、明後日の方向に三連装砲を1門撃ってしまう。

それだけでも、初霜に近づく隙を与えてしまう。

急所は何とか守っていたが、それでも艤装や体中が塗料だらけになっていった。

 

「ど、どうすれば………!?」

 

アイオワは何とか頭を動かそうとするが、上手く働かない。

あの目を見た瞬間に、完全に恐怖心が自身を支配してしまった。

もしも、冷静さを保てていたのならば、先程のように敢えて主機による蹴り等を駆使した近接格闘戦に持ち込む事で、距離を強引に離れさせる事は可能であっただろう。

その選択を取れなくなったのは、あの目に近づかれるのが怖いから。

 

「!?」

 

やがて、アイオワは絶望する。

ずっと斉射していた機銃の弾が、底を尽きたのだ。

この隙を逃す程、初霜は甘くはない。

 

「う………ああああああああああ!!」

 

半ばヤケクソでアイオワは背中の巨大な艤装を振り回した。

左から振りかぶられた砲台は、初霜の右手の単装砲を弾き飛ばす。

ところが、それは暴走する彼女に対し、火に油を注ぐ行為にしかならなかった。

 

「ぐあっ!?」

 

右の鋼の拳で顔を殴られたアイオワは思いっきり吹き飛び、海面を転がる。

何とかバランスを保った妖精さんが、赤の旗………大破の印を上げる。

でも、初霜の攻撃は止まらない。

彼女はアイオワの上に馬乗りになると、右の義腕を振りかざす。

5本の指の爪が伸び、手首がモーター音を立てて、ドリルのように高速で回転を始める。

 

(え………!?)

 

アイオワは驚愕する。

悪鬼の目を見せる初霜は、アイオワの心臓の横にある艤装………先程、自身を弾き飛ばした部分に向けてそのドリルを炸裂させようとして………。

 

「なーに、やってるのよ!」

 

突如、背後から襟首を掴まれ、彼女は後方へと思いっきり投げ飛ばされた。

アイオワは呆然とする。

水面を転がる形になった初霜は、咄嗟に起き上がり、そのドリルの手首を「アイオワに助太刀した人物」………陽炎に向けた。

彼女はそれを見て嘆息すると、アイオワの肩の妖精さんを拾い上げて、赤い旗を見せる。

 

「ちゃんと見なさいって。文句なしでアンタの勝ち。………ドリルクローによるオーバーキルは、失格にするわよ?」

「……………そうね、ごめんなさい。」

 

しばらくその場で、身構えていた後、陽炎の言葉で正気に戻った初霜は、ドリルのように回転していた腕のモーターを止めると、爪を引っ込める。

 

「ドリル………クロー………?」

「大本営が、初霜に付けた余計な兵器の1つです。………一応、接近戦での、最後の切り札ですね。」

「……………。」

 

身を起こしたアイオワは、陽炎に初霜の義腕に付いて問う。

陽炎は、困ったような顔をして尚も初霜を注視しながら、説明をしていく。

大本営は、初霜の義腕を、艦娘の強化計画の一端にしていると。

例えば、彼女のように腕を失って隻腕になった、優秀な艦娘が居たとする。

その艦娘を退役させるのは勿体ない為に、こうして義腕に色んな武装を付ける事で、海戦能力を強化しようとしているのだと。

 

「初霜は、とある理由でその計画を受け入れたから、持ちつ持たれつの関係なんですけどね。………只、頭に血が上ると、演習でも「敵」として対峙した相手には、あんな風に暴走するんです。」

 

陽炎の話を聞いていくうちに、アイオワの頭に先日の夜の海戦の事が、また思い起こされる。

北方棲姫を沈めて、全身黒ずんで帰って来た初霜の姿。

あの時も、恐らく悪鬼の目をしていたはずであろう。

だが、それより気になるのは………。

 

「ね、ねえ………答えて、陽炎………。ま、まさか………北方棲姫を初霜は………?」

 

震える声で、自身の考えを否定して欲しいように、陽炎に聞いてくるアイオワ。

だが、陽炎はもう隠せないと思い、素直にアイオワに向くと頭を下げて言う。

 

「思っている通りです。………初霜は、あのドリルで………北方棲姫の心臓をぶち抜きました。」

「……………。」

 

アイオワの頭の中に、何故か愛らしい笑みを浮かべる北方棲姫の姿が浮かんだ。

そして、恐怖に怯えるその姫クラスの心臓を、あのドリルで一突きして絶命させる悪鬼の如き初霜の姿が………。

 

「うっ………!?」

 

想像してはいけない構図を浮かべてしまったアイオワは、思わず口に両手を押さえて嘔吐する。

そのまま横に倒れ込み、意識が遠のく。

 

「アイオワさん!?アイオワさん………!?」

 

陽炎の叫びが響く中、アイオワの視界が暗転した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

アイオワが倒れたその日の夕方、初霜は陽炎と共に、執務室に呼ばれた。

予め風呂と着替えは済ませており、ペイント弾の汚れは取り払われている。

だが………当然ながら、初霜の気分は晴れなかった。

 

「アイオワを気絶させたらしいな。」

 

入るなり、開口一番に藤原提督から飛んできた言葉は、厳しいものであった。

初霜も弁明する事も出来ず、素直に頭を下げる。

 

「申し訳ありません。また、抑えが効きませんでした。」

「まあ………演習を黙認したこちらにも、責任はあるだろう。だが、何故、同じ事を繰り返す?」

 

藤原提督がそう言うと、初霜は俯きながら呟く。

 

「繰り返す理由………。だって、私は………。」

「「もう壊れたから」という言葉で、誤魔化そうとするな。」

「……………。」

 

また、言葉を先読みされた事で、初霜は黙ってしまう。

確かに、それは言い訳にしか過ぎない。

でも本当に、彼女自身の心は、壊れてしまっているのだ。

 

「………ごめんなさい。」

 

結局、初霜はそう言って謝る事しか出来ない。

藤原提督は、謝る対象が違うと言いながらも、初霜の所まで行き、片膝を付いて彼女を見上げる。

初霜は、今にも泣きそうな顔をしていた。

そして、不安そうに呟く。

 

「提督………貴女は第零駆逐隊を結成した際に、旗艦を私に任命しました。でも、私なんかで本当にいいんですか?こんな失態を繰り返すのならば、陽炎や大潮の方が………。」

「………敢えて、厳しい事を言わせて貰う。過去に囚われるな。私の前任はとんだ「置き土産」をしていってくれたみたいだが………その言葉を真に受けていたら、いつまでも歩みが止まったままだ。」

「でも………。」

「義腕があるから、不安なのか?陽炎も沖波も、他の皆も、全員がお前を受け入れてくれている。その温かい心に背くのか?」

 

ここまで厳しく、しかし熱く諭すような事を語る藤原提督も珍しい。

実際、昼の秘書艦としてその場にいた由良も、一緒に入って来た夜の秘書艦として扉の傍にいた陽炎も、父性を感じさせるような印象を受けた。

しかし、初霜が演習という名の決闘をして失態を犯した時は、いつもこうなのだ。

それは、何とか過去から立ち直って欲しいと願う、親心のような物。

でも、初霜の心にはどうしても届かない。

 

「私………どうすれば、「直る」のですか?」

「何度も言うが、「壊れた」と思うな。お前も陽炎も、壊れていない。勘違いをしないでくれ。それでは、いずれ力の扱い方を間違ってしまう。」

 

藤原提督が心配しているのは、初霜の破滅であった。

既に歪み始めている彼女を、何処かで戻してあげなければならない。

そうしなければ、連鎖的に陽炎や沖波も歪んでしまうだろう。

だからこそ、藤原提督は、初霜に対する説得を諦めない。

 

「どうしようもない時は、仲間を信じろ。この泊地の仲間達の顔を思い出せ。お前を信じてくれる、大切な仲間達の………な。」

 

藤原提督は、初霜の肩を叩くと陽炎を見る。

陽炎も暗そうではあったが、それでもしっかりと頷くと、初霜と一緒に執務室を出て、部屋へと戻って行く。

その様子を見送った後、藤原提督は椅子に腰かけ額に手を当てた。

 

「大本営は………どうやら初霜を、殺人マシンにしたいらしいな。」

「お顔が宜しく無いですが、大丈夫ですか?」

 

それまで後ろに控えていた由良が、濡れタオルを持って来てくれる。

藤原提督は、そのタオルを額に当てながら、大本営から送信されて来ているリストを見てみる。

中には、初霜の義腕………例えば、ドリルクローに対する効果を記すような項目もあった。

流石に、こればかりは素直に事実を書くわけにはいかない。

他国の決戦艦娘に効果てきめんだと記してしまえば、大本営はこぞって、他の艦娘達にも、この機能を配備するだろう。

 

「………悪いが、一眠りする。適当な時間に起こしてくれ。」

「分かりました。」

 

由良に引継ぎを行うと、仮眠室へと入っていく藤原提督。

その双肩に伸し掛かった物の重さを感じた由良は、深く溜息を付いた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

時間は過ぎて、次の日の明け方………。

曇り空が広がっている中で、アイオワは目を覚ます。

気付けば、自室のベッドに運ばれていた。

ペイント弾や嘔吐した際の汚れは綺麗に拭き取られており、服も寝間着に着替えさせられていた。

どうやら、妖精さんやビスマルク達が何とかしてくれたらしい。

 

「目を覚ましましたか?」

 

ベッドの傍には、眼鏡を掛けた駆逐艦………沖波が腰かけていた。

どうやら夜間の間、ずっと看病をしてくれていたらしい。

 

「沖波………。」

「ごめんなさい、初霜さんが迷惑を掛けて………。」

「何で………貴女が謝るの………?」

 

頭を下げる沖波を見て、アイオワは不思議な気分になる。

初霜自身が頭を下げるのならば、まだ分かる。

だが、流石に直接目を合わせられなかった為か、代わりに看病をしてくれた沖波が頭を下げているのだ。

これはおかしい。

更に言えば、その初霜に演習の申し出をしたのは、アイオワ自身なのだ。

つまり、今回の結果は自業自得。

勇気を出して1歩進んだ先にあったのが、灼熱地獄だっただけなのだ。

そのアイオワの考えを理解したのだろう。

沖波は俯きながら、語り始める。

 

「初霜さんがああなってしまったのは………私のせいでもあるんです。昔に私が取った行動が、初霜さんをおかしくしてしまったから………。」

「どういう事?」

 

彼女の言葉に、アイオワは意味が分からなくなる。

沖波が何をすれば、初霜の悪鬼のような目に繋がるのだろうか。

どう見たって優しそうな性格の沖波に、何の罪があるのか。

アイオワが首を傾げる中で、沖波は思い切って顔を上げて告げる。

 

「アイオワさん………。実は、私………ここの前任の新郷提督を………。」

 

ジリリリリリリリリリリ!!

 

『!?』

 

その時である。

警報が鳴り響き、出撃の合図が下される。

由良の泊地内放送が響き渡り、救難信号の地点が告げられる。

 

「救難信号は客船からです!泊地より南に距離が少し離れています!深雪以外の第零駆逐隊は、先行して陽動を!続いて、深雪、パース、デ・ロイテル、ヒューストン、プリンツ、瑞鶴、アイオワの7名が主力艦隊として追いついて下さい!」

 

泊地内が、途端に慌ただしくなった。




《ドリルクロー》
イメージとしては、「スーパーマ〇オRPG」のク〇パの最強武器ですね。
引っかいたり、回転させながら貫いたりする武装です。

ここで、今作の大本営の闇の部分が1つ明らかに。
確かに艦娘の有効活用としては、正しいのかもしれませんが、人間としては見なしてないですよね。
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