「昨日の演習があった次の日に、一緒に連れていくなんて、藤原提督も結構スパルタだよね。」
「ビスマルクさん達も言っていたけど、慣れて貰わないといけないのでしょうね。とにかく、私達は速く出撃しましょう。」
工廠で艤装を素早く背負った敷波と大潮は、会話をしながらも桟橋へと向かって行く。
今回の救難信号のポイントは少し離れている為に、急がなければならない。
夜明けも近づいている為、恐らく現場では昼戦になる。
その為、第零駆逐隊は、今回は足止め役を担う事になっていた。
先行して抜錨するのは、初霜、陽炎、沖波、大潮、敷波、そして雪風だ。
彼女達にとって心配の懸念になっているのは、先日「やり過ぎてしまった」旗艦の初霜。
陽炎がしきりに気にしてはいるが、初霜自身の心はやはり、ここに有らずと言った感じだ。
それでもしっかりと準備を行って、素早く動いているのは身体が慣れているからであるが。
「………間に合うでしょうか?」
「間に合う事を願うしか無いよ。とにかく急がないと。」
先輩達に続いていく形になり、多少不安を見せる雪風を、沖波が安心させる。
ここで迅速な行動を心掛け無いと、第零駆逐隊としての存在意義に関わる。
初霜もそれは分かっているのか、懐から取り出したナイフで、大潮の操る大発動艇と特型内火艇を桟橋から切り離す作業を手伝う。
「初霜………今は、任務集中ね。」
「ええ。………第零駆逐隊出撃!」
心配する陽炎の言葉に応えながら、初霜は抜錨していく。
夜戦決戦用の駆逐艦達は、順次発艦していった。
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一方でアイオワ達は、秋津洲の艦娘デッキを使っていた。
先頭から深雪、パース、デ・ロイテル、ヒューストン、プリンツ、瑞鶴、アイオワという順番だ。
クレーンやリフト、ハンガー等を駆使して、順次、重量級の艤装を装着していく。
全員の準備が終わった所で、妖精さん達がサムズアップでサイン。
秋津洲が先頭の深雪に対して、先行して偵察を行っている二式大艇ちゃんから見た様子を、伝えてくれる。
「状況はあまり良くないかも………。第零駆逐隊が急いで向かっているけど、みんなも早く助けに行ってあげて!」
「分かった。………アイオワさん、病み上がりだけど、頼むぜ!」
「ええ、分かっているわ。昼だからこそ、存在感を見せないと。」
「気負い過ぎないでくれよ!じゃ、発艦!」
今回は、流石にポーズは取らずに、普通に出撃していく深雪。
続いてパース達が、順次抜錨していく。
最後にアイオワが、艤装の状態を確認して飛び出していった。
単縦陣になりながら、彼女達は南に向かって舵を切る。
時間が勝負の海戦は、もう始まっていた。
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「思ったより遠いわね………。」
出撃をしてから、30分位が経過しただろうか。
救難信号を発した客船までの距離が遠く感じたアイオワは、顔をしかめる。
そうしている内に、二式大艇ちゃんが飛来してきて、人型ロボに変形をする。
旗艦である深雪の傍に浮遊しながら、秋津洲の声が聞こえて来た。
「第零駆逐隊交戦開始!敵艦構成、フラッグシップ級ツ級複数!フラッグシップ級雷巡チ級複数!その後方より軽空母ヌ級が複数!旗艦は、重巡ネ級改1隻と思われるかも!」
「また、ヌ級がツ級の後ろに隠れて攻撃機を飛ばしているのね………。」
苦い顔をするのは瑞鶴。
深海棲艦にも、頭の良い存在がいるらしく、戦術を練ってくる艦も多い。
今回のヌ級は、対空迎撃が得意なツ級の後ろに隠れる事で、安全圏から攻撃機を飛ばしているのだ。
「確か、日本では「後方彼氏面」………って言葉が流行ってるのかしら?」
「そうなのよ、ヒューストン!………かなりイライラする艦娘達も多いのよねぇ。」
「やっばーい!?でも、だったら私達も、瑞鶴を後ろに隠してもいいわよね!」
「戦術の1つですからね!でも………初霜達は大丈夫かなぁ?」
「初霜が対空迎撃を得意としているから、そこまで心配は無いわ。只………。」
艦隊内で会話を繰り広げる中、パースが何かを言おうとして口をつぐむ。
恐らく、昨日の演習の事を気にしているのだろうと、アイオワは思った。
「パース、気遣いをしなくていいわ。あの演習は私から申し込んだんだから。」
「そうですか………。アイオワさんも、あまり気にしないで下さいね。」
「ありがとう。」
パースにお礼を言いながら、アイオワは集中力を高める。
距離や時間を考えれば、そろそろ交戦に入る。
その予測通り、客船らしき艦影が見えてくる。
だが、その船は傾いており、沢山の羽虫のような攻撃機が飛来していた。
「瑞鶴さん、順次発艦してくれ!援護に入るぜ!」
「任せて!五航戦の力、見せてあげる!」
瑞鶴が弓に矢を番えて空へと飛ばすと、炎に包まれて攻撃機へと変化する。
二式大艇ちゃんも前線に飛んでいく中、本隊が海戦へと突入していった。
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「うわ………。」
客船の近くまで行った所で、アイオワは改めて嫌悪感を覚える。
救難信号を発していた船は、所々焦げており、火を噴いていた。
浮力は完全に奪われており、今にも傾いて沈みそうになっている。
只、乗客は順次脱出艇に乗り込んでおり、船から避難をしていた。
最初に第零駆逐隊に出会った時に、深雪がアイオワ達は相当運が良いと言っていたが、船の傾き具合を見ると、その意味を改めて理解させられる事になった。
「とにかく、雷巡を沈めていってくれ。脱出艇に魚雷をぶつけられたら一巻の終わりだ!」
「ABDA艦隊、交戦に入るわ。」
「プリンツは瑞鶴さん、守ってるね!」
ヒューストンやプリンツといった各艦娘達が、素早く役割を理解して行動に移す。
アイオワもチ級達に狙いを定めながら、砲撃を始めて行った。
前線を見ると、第零駆逐隊の面々は、機動力を活かして攪乱に入っている。
実力を知らなかったから密かに心配をしていたが、臨時メンバーの雪風も、滑るように敵艦の攻撃をかわしながら、手に持った高角砲を当てていた。
これならば、任務に支障は無いだろう。
だが、一方で深雪は、軽く脱出艇の様子を確認して………苦い顔をする。
「どうしたの、深雪?」
「アイオワさん………アレ。」
深雪が首を向けた方向に着目してみて………アイオワは、思わず悲鳴を上げそうになる。
脱出艇の1つがボロボロになって転覆しており、辺り一面の海が真っ赤に染まっていた。
そして、所々に千切れた手足や穴の開いた肉片等、見るも無残な光景が広がっている。
中には、明らかに子供と思われる物まで………。
「深雪、これ………。」
「間に合わなかったんだよ、あたし達は。」
その光景から目を背ける事無く、悲しそうに見つめながら深雪は呟く。
アイオワも思わず唇を噛む。
第零駆逐隊が全力で飛ばしても間に合わない程、遠すぎたのだ。
だが、ここで深雪の告げた言葉に、アイオワはハッとさせられる。
「こうなると、もう初霜は止まらない。………初霜は、止められない。」
アイオワは振り向き、前線で暴れ回る蒼海の鉢巻を巻いた艦娘を視界に入れる。
その目は、やはり悪鬼に………いや、復讐鬼に染まっていた。
――――――――――――――――――――
瑞鶴達が来た事で、パワーバランスは変わった。
ツ級は対空迎撃に集中しなければならなくなった分、第零駆逐隊の接近を許す羽目になり、至近距離から主砲で射抜かれてしまう。
こうなると、チ級は瑞鶴の攻撃機による爆撃や、パース達の砲撃をまともに受ける形になってしまい、こちらも次々と沈んでいく。
壁が無くなった事で、ヌ級は逃げようとするが、それを許す程、今の初霜は優しくは無かった。
「逃がさない………!」
戦場から我先にと逃げようとするヌ級に対し、魚雷を次々と放っていく。
6発全て放った後は、予備の3発も素早く装填して、とにかく雷撃を喰らわせて憎き深海棲艦達を火柱に包んでいった。
あっという間に数が減った事で、初霜は周りを見渡す。
率いていたネ級改が、見当たらなかったからだ。
「沖波!ネ級改は!?」
「東に逃げているよ!追いかけるの!?」
「当たり前でしょ!」
それだけを言うと、初霜は何と単艦で猛追していく。
「ちょっと、初霜!?………あー、もう!追いかけるよ!悪いけど、大潮とパースさん達は、脱出艇の人達の無事を確認して!」
初霜を素早く追いかけて行ったのは、陽炎、沖波、敷波、雪風、深雪、アイオワの6人。
ブレーキ役の大潮を置いていくのは不安であったが、彼女は大発動艇で脱出艇の人達を救うという任務がある為、これは仕方がない。
大潮は、敷波とアイコンタクトを取ると、パース達と脱出艇に向かう。
アイオワは、心に不安を覚えながらも、深雪と共に、陽炎達に付いて行った。
――――――――――――――――――――
初霜は缶とタービンを強化している為、ネ級改に追いつくのは、苦労しなかった。
ネ級改は、逃げられないと思った途端、素早く振り向き、上部の二振りの尻尾から砲撃を放って牽制する。
初霜は右に動く事で、その砲弾を躱す。
「沈メ!」
その隙に今度は、ネ級改は尻尾の中から魚雷を取り出し、投げつけるように移出する。
だが、この雷撃も初霜は左に動く事で、悠々と回避。
「速イ!?」
流石に激戦区の深海棲艦と言っても、ここまで速力に特化させた駆逐艦は見た事が無いのだろう。
初霜の異常性に驚愕しながら、何とか距離を取ろうと砲撃と雷撃を繰り返す。
一方で、初霜は、目を見開いたまま、敵艦の攻撃を避けて距離を詰める。
そして、徐にマウントしていた主砲を取り出すと、2つの尻尾の口に向けて砲撃を放つ。
「ガッ!?」
砲撃は、正に魚雷を取り出そうとしていた尻尾に炸裂し、誘爆を起こして吹き飛ばす。
だが、再生能力を備えているのか、吹き飛んだ尻尾がメキメキと生えてくる。
ところが………。
「あら?これは「殺しがい」があるわね。」
「ッ!?」
初霜は、復讐鬼の目を向けたまま、邪悪な笑みを浮かべた。
すると、再生している途中の尻尾に、更に正確に砲撃を撃ち込む。
ネ級改の尻尾は元々硬質であったが、再生中はそうはいかない。
面白いように吹き飛ぶ尻尾を見ながら、初霜は笑う。
狂ったように。
楽しむように。
「ナ、何ダ!?貴様ハ!?」
敵艦の言葉に応えてやる義理は無い。
初霜は、苦しむネ級改の尻尾の再生速度が鈍って来たのを見て、砲撃を下………両脚に向ける。
こちらは、尻尾よりも簡単に吹き飛び、海面に倒れた。
「オ、オアアアア!?」
後ろに倒れ込み、必死にもがくネ級改。
初霜は、今度は両腕を吹き飛ばし、ダルマにしていく。
尚も勝手に再生していく尻尾や脚、腕を何度も何度も射抜いて行って、深海棲艦に痛みと絶望と恐怖を与えていく。
「嫌ダ………!?嫌ダッ!?」
抵抗する力すら奪われ、再生能力を逆手に痛めつけられる事になったネ級改は、死に怯える。
だが、初霜は狂気の笑みを浮かべたまま、静かに宣告する。
「いい顔ね。貴女が奪った命は、どんな顔をしていたのかしら?」
「ア………アアア………!?」
よりにもよって、世界で一番逆らってはいけない存在に出くわしたかもしれない。
直感で悟ってしまったネ級改は、ダルマ状態で震える。
気付けば、尻尾も腕も脚も、もう再生はしなかった。
「オ………オ願イダ………!ユル………シテ………。」
「……………。」
もはや抗う気力も無いネ級改を覗き込む形になった初霜は、両手に持った主砲を艤装の基部に仕舞い、静かに嘆息して告げる。
「本当に、甘いのね。」
次の瞬間、ネ級改は痙攣する。
初霜の義腕の爪が伸びており、モーター音と共に手首が高速回転し………ドリルクローによって、心臓が抉られていたからだ。
「許すわけ………ないでしょ?」
冷酷に告げた初霜の言葉は、絶命したネ級改には届かない。
哀れな敵艦は、絶望の顔を浮かべながら、蒼い海に沈んでいく。
敵の黒い返り血をたっぷり浴びた初霜は、歪んだ笑みを浮かべていた。
よく、ガ〇ダムで不殺キャラが、相手の機体の武装や手足を全て奪って、ダルマにする描写がありますが、やられた方はこんな気分なのかなって思って書きました。
こんな風にされたら、凶悪なネ級改も命乞いをするに決まっていますね。