蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第24話 ~初霜の闇~

その日の夕方頃、泊地に帰投した初霜達、第零駆逐隊は、桟橋から離れた訓練海域に、亡骸が乗った大発動艇を一時的に括りつける事になる。

桟橋には、避難してきた脱出艇が停泊している為、疲弊した乗客達に亡骸を見せる事を避けなければならなかったからだ。

………無論、最終的には故郷に持って帰って貰う為に、迎えの船に引き渡す形になるが。

その訓練海域に、夕方に起床した春風がやって来て、提督からの指示を伝えに来る。

 

「亡骸に関しては、わたくしや由良さんが責任を持って管理をします。まずは、初霜さんは工廠で秋津洲さんの下で、義腕を取り換えて下さい。その後、皆様で船渠(ドック)入りを。」

「ええ。その後は………。」

「一旦、休んでください。昨日の今日で、昼も夜も大忙しでは無いですか。」

 

春風や藤原提督は、初霜達が今回の海戦で何をやらかしたのか、把握しているのだろう。

だが、即座にアイオワに対して、初霜達の過去を話す事は、避けるように促した。

冷静に考えれば、昨日の昼にはアイオワと初霜の演習があったし、夜は沖波が彼女の看病をしていたのだ。

更に、明け方から丸一日全員で海戦をこなして後始末までしていたのだから、休める時に休んでおかないと、本当に身が持たない。

春風の指示には、流石に今回は従わなければならなかった。

 

「春風は大丈夫なの?」

「強制休暇を貰った事で、多少は身体が良くなりました。もう、こうして動きたくて仕方ない程にはうずうずしいていますので、今から乗客の方への食事を作って参りますね。」

 

軽くピョンピョンとジャンプをした春風は、亡骸の乗った船に向けて祈りを捧げると、足早に桟橋の方へ駆けていく。

続いて、大発動艇をコントロールできる由良が来た事で、本当に任務を引き継ぎ、初霜達は、ぐっすりと休む事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

アイオワが次に、初霜達と満足に話せる機会が出来たのは、帰投してから3日後の夜であった。

それまでは、迎えの船が来るまで、乗客達の様々なサポートをしなければならなかったし、初霜達があんな状態であった為、しばらく時間をおかなければならなかったからだ。

全ての手続きが一段落した事で、ようやくアイオワは、沖波に呼び出されて、夜の浜辺を散歩する事になった。

 

「何処に向かうの?」

「墓地です。」

 

沖波が案内してくれたのは、訓練海域の近くにある小さな墓地であった。

ここには、このショートランド泊地の海戦で犠牲になった艦娘や関係者の墓がある。

その内の1つの墓に、春風や雪風も含んだ7人の第零駆逐隊の仲間達が集っていた。

沖波は、その内の1つの墓に献花すると、深く祈りを捧げる。

アイオワは、その墓主の名前をみた。

そこに書いてあった名前は、「新郷 辰巳(しんごう たつみ)」。

 

「この方は………。」

「藤原司令が言っていた前任の司令です。3年前に亡くなったっていう………。」

 

陽炎が答えると、ずっと祈りを捧げていた沖波の肩を叩いて立たせる。

沖波は苦しそうな顔をしていたが、アイオワの視線に気づくと、安堵させるように少しだけ笑みを見せようとする。

 

「前任のアドミラルが、関係しているの?」

「その前にまず、あの海戦で話題になった「若葉」が何者なのか、答えなければなりません。」

 

初霜はそう言うと、意を決したようにアイオワを見る。

彼女は、陽炎と沖波に目配せをして許可を貰うと、過去を告げ始めた。

 

「彼女は、初春型3番艦の若葉。私と陽炎と沖波の………本土のある軍港都市にいた時に、共に艦隊を組んでいた艦娘なんです。」

 

思えば、変わった艦娘だったと初霜は語る。

同型艦が多数いる中で、その若葉は、本名も「若葉(わかば)」であった。

普段は必要以上に喋らない性格で、何を考えているのかも分からない。

たまに海戦の後等で話すと、痛みに喜ぶような発言をする事があった為、周囲に誤解される事も多かった。

 

「若葉は、痛みは生きている実感なんだ………って、私達にはこっそり教えてくれました。」

 

陽炎はそう言いながら、少しだけ笑みを浮かべる。

生真面目で冗談の通じない性格でもあった為、天然っぽい発言で、同部屋の初霜を笑わせる事も多かったと。

ある意味、和やかな雰囲気をもたらしてくれる艦娘であったので、初霜も、陽炎も、沖波も、一緒にいて楽しかった。

だが………。

 

「ある日、若葉は轟沈しました。強大な深海棲艦………巨大な一本角を付けた、「角付きのレ級」の前に。」

「角付きの………レ級?」

 

影を落とした初霜の言葉に、アイオワは驚愕する。

一般的に、航空戦艦レ級は、現時点ではエリート級までしか確認されてしない。

しかし、突然変異なのか、フラッグシップ級のように黄色く輝き、目を蒼炎のように蒼く光らせ、立派な一本角を生やしたレ級に、4人は出くわしたのだ。

当然ながら、その突然変異種のレ級は、他のレ級達とは実力も知性も桁違いであった。

そして………その海戦で、若葉は沈んだ。

 

「私は沈もうとする若葉を、右腕で支えて助けようとしました。でも、あのレ級は、トドメの砲撃を放ち、私の右腕ごと、若葉を奪っていったんです。」

「じゃあ、初霜が生身の腕を失ったのは………。」

「その時の海戦が原因です。」

 

暗い表情をする初霜の生身の左肩を、陽炎は軽く抱き寄せる。

そして、辛そうにする彼女から、一回説明を引き継ぐ。

 

「若葉を失った私達は、勿論落ち込みました。でも、同時に初霜が片腕を失って、再起不能になった事に頭を悩ませていました。」

 

日常生活に支障をきたす隻腕の艦娘。

いや、隻腕では、艦娘としての力すら発揮できない。

こうなった以上、初霜は退役をするしか道が無かった。

でも、それではダメだったのだ。

何故なら、陽炎と沖波はともかく、初霜は、若葉を奪ったレ級に対し復讐を望んでいたから。

 

「そんな時に………身を粉にして何とか出来ないか動き回っていたのが、私達の軍港都市時代の司令である新郷司令。大本営に土下座すらして、初霜に何とか出来ないか聞いたらしいんです。」

「まさか、その答えが………。」

「そうです。大本営が提示してきたのが、よりにもよって、艦娘強化計画。余計な兵装を付けた神経接続の痛い義腕を提供する事で、実験台にしたんですよ。………それを受け入れた初霜も、初霜ですけど。」

 

呆れたように嘆息する陽炎を見て、アイオワは日本の中にあるドス黒い物を感じる。

本人の復讐をしようとする意志を利用して、新兵器の実験台にしたのだから。

 

「陽炎、貴女はそう言うけれど、私は感謝しているのよ?だって、この腕があるお陰で、私は日常生活に支障をきたしてないし、何よりまだ戦えるもの。」

「アンタが良くても、私は納得して無いの!………艦娘をパーツとしか見なしていない大本営には、怒りしか感じないんだから。」

 

アイオワは、どう言えばいいのか分からなくなった。

初霜の意志も、陽炎の意志も、どちらにも正しさがある。

それ故に、どちらも否定する事が出来なかった。

だから、とりあえず話を進めて貰う。

 

「それで………その後、貴女達3人はどうしたの?」

「新郷司令が様々なパイプラインを使って情報を収集した結果、このショートランド泊地で、その角付きのレ級の目撃情報があったんです。」

「だから、4人で転籍をしたのね。」

「最前線故に、危険でしたけれどね。只、義腕を付けた初霜の海戦能力は想像以上でした。………何より、復讐心が当時の彼女を暴走させていました。」

「……………。」

 

先日の演習や海戦で、初霜が暴走すると、どれだけ危険なのかは、アイオワは身を持って知っている。

復讐心に飲まれた初霜は、正に悪鬼の如く暴れ回っていたのだろう。

 

「問題はここからです。その初霜の姿を見て、良かれと思って行動していた新郷司令は、取返しの付かない事をしたと思い、後悔に襲われたんです。」

「それはそうよね………だって、アドミラルは………ん?」

 

ここで、何かに気付きかけたアイオワに、陽炎は首を縦に振る。

 

「そうです。新郷司令は、初霜の事………好きだったんですよ。」

 

新郷提督にしてみれば、自分の好きな艦娘の願いを叶えてあげようと必死になったのだ。

でも、その結果、自身の行為によって、好きである艦娘が「歪んでいった」。

それは提督業の難しさも合わせ、多大なストレスに繋がった。

 

「………私は、あの人との距離感を間違えました。好意に気付きながらも、気付かないふりをしていたのですから。その結果、3年前………あの人を「暴走」させてしまったんです。」

 

ここで、目から光を失いながらも、初霜が再び話し出す。

ある日、執務室で彼女は、新郷提督に対し、満面の笑みで………狂った復讐鬼の笑みで感謝の言葉を述べてしまったのだ。

この力をくれて、ありがとうございます………と。

その結果、彼は遂に精神が壊れて、初霜に襲い掛かり、首を締めあげて来たのだ。

 

「どうせ君が壊れてしまうのならば、僕が先に壊してやるっ!!………と、あの人が述べていたのを、今でもハッキリと覚えています。その時になって、私は………ようやく自分が壊れている事を自覚したんです。」

「壊れているってそんな………。」

 

思わずアイオワは、否定しようとする。

しかし、初霜は首を振り、頭を抱えて言葉を紡ぐ。

 

「勿論、みんな優しいから否定してくれます。でも、私は壊れてしまっていたから………あの人を壊してしまったんです。そして………。」

「そ、そして………?」

「新郷提督は、私が「殺しました」。初霜さんを救うために。」

「っ!?」

 

声は、ずっと黙っていた沖波から出た。

彼女もまた、目から光が無くなっていたが、言葉はハッキリとしていた。

自分の罪を包み隠さないように………。

 

「部屋に入ったら、初霜さんが首を絞められていたので、反射的に部屋の机にあった果物ナイフで、後ろから胸を刺したんです。もっと良い方法はあったのに………。」

「沖波………。」

「私は罪を償う為に、一時的に懲罰艦隊へと送られました。………左目はその時に失って、義眼になったんです。」

 

アイオワは悟る。

看病をしてくれた時に沖波が、自分が初霜を狂わせた原因の1人だと呟いていた理由が分かった。

大事な仲間に、致し方ないとはいえ、提督殺しの罪を着せてしまったのだ。

それに、懲罰艦隊に送られたのだから、どんな苦しみを更に味わったのかは想像できない。

初霜の歪みが加速したのは、否めないだろう。

 

「酷い話だよなぁ………。艦娘を管理する提督が、艦娘と無理心中しようとするんだからよ。」

「深雪、死者を冒涜するものでは無いですよ。………艦娘という数多の命を管理するからこそ、司令官は普通の精神では、やっていられないのです。」

 

深雪や大潮が自身の価値観を語るが、その声もアイオワの耳には中々入って来ない。

今は亡き新郷提督を含め、4人は運命の悪戯によって、人生を狂わされてしまった。

そして、生きている3人は今もまだ、引きずっているのだ。

 

「ねえ、初霜………。」

 

色々と言いたい事はあった。

だが、アイオワは悩んだ末に、1つだけ聞いた。

 

「貴女は………貴女自身は、これだけの仲間達の支えや想いがあっても、まだ壊れているって思っているの?」

「壊れています。だって、私は………。」

 

即答した初霜は、俯きながらも呟く。

 

「まだ、若葉を殺した、角付きのレ級への復讐を………諦めきれていないのですから。」

 

復讐鬼になっている限り、初霜は壊れた人形のままである。

それでも………彼女は「相棒」であった若葉を奪った角付きのレ級の命を奪う事を望んでいる。

冷酷に………残酷に………残虐に………。

その想いを抱いている限り、一生自分は変われないと分かっているのに。

破滅しか待ち受けていない初霜に対し、アイオワは………掛けるべき言葉が見つからなかった。

2つの事件を、未だに悪夢で見る初霜の闇は………深い。




第16話の時点で予測出来た方もいるかもしれませんが、初霜達の根幹に根付く人物は艦娘である若葉でした。
また、度々話に出ていた新郷提督が、どのような人だったのかも、明らかになる事に。
ここまで色々と行動が裏目に出てしまうと、皆狂ってしまうのかもしれませんね。
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