蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第31話 ~劣等感の共感~

陽炎の告げた残酷な現実を前に、サムは俯き黙っていた。

正直、陽炎としては、彼女の心が折れてしまっても仕方ないと感じる。

憧れの駆逐隊に、艤装の性能故に入れないと結論付けてしまったのだ。

故に、サムが癇癪を起して、罵詈雑言を投げつけられても、黙って受け入れようと思った。

だが………。

 

「わ、私………諦め………たくない。」

「サム?でも………。」

「確かに私、陽炎の言う通り遅いよ!でも、私だって出来る事がある!このまま全て艤装のせいにして、諦めるなんて嫌!」

「アンタ………。」

「お願い、陽炎!見捨てないで!私………アメリカでも空回りばっかりで………呆れられて………ここに飛ばされたのは、それもあって………。」

 

厳しい現実を突きつけられても、サムは折れなかった。

陽炎を責めるわけでもなく、むしろ懇願するように訴えてくる。

そして、最後は消え入りそうな声で、また俯いて自身の事を告げた。

どうやら、第零駆逐隊に拘るのには、サムの過去も関係しているらしい。

 

「………空回りには、何か理由があるの?」

「………アメリカの駆逐艦には、「フレッチャー級」っていうのがいるの。私の「J・C・バトラー級」とは別種の駆逐艦で、凄く強いんだ。」

 

陽炎も、まだ実際に邂逅した事は無いが、秘書艦として、資料でそのフレッチャー級に関して見てみた事はある。

確かに彼女達は性能面において強く、アメリカ駆逐艦の中では凄まじい力を持っていると言えた。

 

「つまり何?アンタは、そのフレッチャー達と比べられる事が多いと………?」

「うん………。フレッチャー達を妬んでも仕方ないけど、頑張っても強くなれない自分が、悔しかった。」

「………劣等感故の空回りだったのね。」

 

陽炎は、ズキリと心が痛んだ。

自分自身も、陽炎型ネームシップではあるが、妹艦達と違い、旗艦装備等には恵まれていない。

その為、第零駆逐隊の中では、多種多様な装備を持てる初霜に、羨望や妬みの眼差しを抱く事も多かった。

最近では、自身がもっと装備に恵まれていれば、もっと初霜の助けになれるのにと、力不足を気にした事もあった。

 

(ああ、そうか………。)

 

陽炎は、ようやくサムに、事実を伝えるのを躊躇った理由を理解した。

彼女は、陽炎自身の写し鏡なのだ。

どんなに努力をしても、艤装や艦としての力故に、劣等感を持ってしまう。

それが、ずっと尾を引いてしまっているのだ。

 

「笑いたければ、笑ってね。私………駆逐艦だけど、戦艦のように活躍したい。大物食いじゃないけど、戦艦すら倒せるような駆逐艦になりたいの。第零駆逐隊に拘ったのは、そういう理由もあるんだ。」

 

何処か寂しそうに言うサム。

陽炎は、そんな彼女の夢を、笑う事なんて出来なかった。

実際に、第零駆逐隊に入って、夜戦で戦艦等の大型クラスを仕留められる事は、自信にもなっている。

 

(どうする………?)

 

陽炎は考える。

サムは、第零駆逐隊には向いていない。

不屈の精神を持っていても、この事実だけは覆せない。

だが………このまま師匠である神通の下に強制的に丸投げしてしまうのも、はばかられた。

劣等感を共感できる陽炎だからこそ、サムの気持ちは痛いほどわかる。

ならば………。

 

「………何か、アンタだけの持ち味はある?」

「え?」

「アンタだけの個性。ナンバーワンじゃなくても、オンリーワンと言えるような個性はあるのかって。」

 

陽炎がやるべきだと考えたのは、絶対にこれならば負けないという、個性の発掘。

かくいう彼女も、唯一装備出来た中型バルジをトンファーに見立てて、接近戦でも怒涛の勢いで戦えるようにして、劣等感から抜ける突破口を見出した。

この二刀流で挑む姿は、神通も認めてくれるほどのオンリーワンだ。

他の陽炎にはない、忍の本名を持つ陽炎だけの個性。

そんな個性を、サムから見出せないかと思ったのだ。

 

「個性と言えるかどうか分からないけど………対潜水艦に対する、爆雷投擲は得意だよ?この力は、フレッチャー達に引けを取らないと思う。」

 

サムは背中の艤装の基部周りに備え付けてある、艦尾を模した爆雷投射機や右舷の対潜魚雷を見せる。

確かに対潜水艦に特化していそうな装備を見て、陽炎は納得する。

 

「分かったわ。じゃあ、今日はこれで解散。一旦寝て、明日の朝から訓練再開しましょ。」

「え?第零駆逐隊の話は………。」

「今は保留。どちらにしろ、いきなり昼夜逆転生活に慣れるのは大変だから、まずは確実な所から見ていくわ。砲撃や雷撃の精度も、万全の状態で確かめてみたいもの。」

 

疲労困憊の状態では、サムの完全な能力を目の当たりにする事は出来ない。

それに、今の話を聞く限りでは、無理に第零駆逐隊に拘る必要も無い気もした。

とにかく、誰にも負けないサムの個性………それこそ、フレッチャー級が目を丸くするような力を発掘出来れば、彼女にとって良い方向に導けると陽炎は感じたのだ。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「………で、アタシの出番か。陽炎も甘いよねぇ。」

「ゴメン、敷波。でも、第零駆逐隊で一番対潜能力に特化してるのって、アンタじゃん。」

 

翌日、サムの指導者として、敷波も臨時で入る事になった。

彼女はあくびをしながらではあるが、真剣な眼差しで、サムの訓練の様子を見ている。

昨日見せた速力関係だけでなく、砲撃や雷撃、機銃斉射、そして爆雷投射と言った基本的な訓練を、真剣な表情でサムは見せてくれた。

 

「………どう?」

「他の内容がそこまで完璧じゃないっていうのもあるけど………、確かに爆雷の扱いに関しては、目を見張る物があるね。隙が無いよ。」

「やっぱり?」

 

対潜水艦にあまり特化していない陽炎でも、サムの爆雷の扱いは上手い物を感じた。

妖精さんが扱う、敵潜水艦を模したラジコンの傍に最短距離で回り込むと、素早く投擲して海域を離脱していく。

その一連の流れは、本人に刻まれた艦の記憶が影響している事もあるが、絶え間なく努力し続けた結果であるのは、一目で分かった。

 

「青葉さんは、どう思う?本土で色んな艦娘見てるよね?」

「そうだねぇ。日本艦だと、ラバウル基地にもいる龍田は勿論の事、あの五十鈴にも匹敵するんじゃないかなぁ?」

 

敷波の質問に、青葉はビデオカメラを回しながらも答えていく。

龍田や五十鈴と言った軽巡洋艦は、爆雷の扱いに特化しており、潜水艦に対しては切り札と言える強さを誇っていた。

特に、その手際の良さは素晴らしく、不意打ちを受けなければ、ほぼ必ず先制で爆雷を投擲できる強みを持っている。

魚雷を水中から仕掛けてくる敵潜水艦の立場になってみれば、これがどれだけ脅威であるか、陽炎達にも十分理解出来た。

 

「ね、ねえねえ!もしかして、この力が有れば、第零駆逐隊でも活躍できる!?」

「夜戦主体の第零駆逐隊では活かしにくいけど、昼戦では間違いなく、対潜水艦の為に重宝されるわね。」

「う………やっぱり第零駆逐隊じゃ、ダメなのかなぁ………。」

「………特殊な事情が無い限りは、拘り過ぎる必要は無いと思うけどね。」

 

あくまで第零駆逐隊に拘ってしまうサムに対して、敷波は腕を組んで考え込む。

彼女は、復讐の為にこの駆逐隊に所属しているのだ。

そして、陽炎と同じく自分だけの力を発掘して、魚雷を直接、敵潜水艦の頭に叩き込むような豪快な戦術を編み出した。

これもまた、敷波のオンリーワンであり、旗艦装備に恵まれない彼女ならではの力。

 

「綾波がいたから劣等感っていうのはアタシも理解出来るけど………サムは対潜魚雷を合わせても、魚雷を4本しか持ってないんだよね?」

「4本じゃ………足りないの?」

「敷波も、今ですら持ちうる6本の魚雷を、全て活用しているからねぇ。」

 

陽炎は、サムの体格の問題が、ここで出てくるのだろうと感じた。

小柄な体格だと、どうしても持てる魚雷の数が限られてしまう。

彼女の場合は、爆雷に装備の比重を置いているのも、影響しているのだ。

 

「陽炎のように、16発も魚雷が有れば、やりたい放題だよね。………まあ、もっと器用に扱えればだけど。」

「敷波………アンタも、私に対して何か恨みある?」

「春の大喧嘩の時の、苦労代だと思ってよ。」

 

肩の後ろで手を組みながら、のんびりと言ってのける敷波。

陽炎は、流石に春の洒落にならない喧嘩を引き合いに出されては、どうしようもないと思ったのか、静かに溜息を付く。

一方でサムは、自分の爆雷投射能力では、夜戦決戦用艦隊では活躍出来ないと分かったのか、落ち込んでいた。

陽炎は抜錨すると、サムの前で膝を付いて静かに言う。

 

「心配しないでいいって。やっぱり、アンタは第零駆逐隊には向いてないけど、このまま落ち込んだ状態で、神通さんの所には渡さないから。」

「陽炎………。」

「昼戦でも、フレッチャー級とかをビックリさせられるような力を発掘してあげるからさ。………昼に戦艦食いが出来たら、カッコいいじゃん。」

 

勿論、見通しの良い昼に、戦艦のような硬い装甲の深海棲艦を倒すなんて、そう簡単に出来るわけでは無い。

練度がずば抜けている初霜ですら、足止めが限界なのだ。

でも、陽炎はサムの指導を「諦めなかった」。

仮にサムが予定通りブイン基地に行く事になっても、そこで自信を持って任務に赴いて欲しかった。

自分自身が師匠である神通によって劣等感を克服できたように、サムを導いてあげたかったのだ。

 

「爆雷だって、使い方次第では面白い事が出来るわよ。危険だけど、起爆までの水圧設定を変更すれば、着水してすぐに爆発させる事が出来るって、前に曙に聞いたし………。」

「………あ、あのね!陽炎!」

 

立ち上がって、色々と考えを巡らせようとした陽炎を見て、サムがつま先を伸ばす形で服を掴む。

何事かと見下ろした陽炎に対し、サムは懐から何かを取り出す。

それは、プロペラ機だった。

 

「何………これ………?」

「回転翼機………「S-51J」だよ。対潜哨戒機で、空中から敵の潜水艦を発見して、爆雷の精度を高めるの。」

「精度を高めるって………え!?飛ばせるの!?」

「うん………。」

 

目を丸くする陽炎に対し、サムは、右の艦尾から何と飛行甲板を展開する。

その上に、回転翼機を置くと、プロペラが回転し始めて、空を飛んでいく。

飛び上がったS-51Jは、サムの周りで弧を描くように飛行し始めた。

 

「………磯波、青葉さん。こんなの、見た事ある?」

「無いです………。艦載機を飛ばせる駆逐艦なんて………。」

「参ったね。これは青葉も驚きだよ。アメリカ駆逐艦の隠し玉と言っても過言じゃない。」

 

駆逐艦が、回転翼機を操っている。

その光景を見て、敷波も磯波も青葉も呆気にとられる。

陽炎に至っては、思わず、わなわなと震えていた。

 

「アンタ!何でこんな凄い特技、黙ってたの!?」

「うわあ!?」

 

衝動的に両肩を掴んだ陽炎に、思わず怯んでしまうサム。

しかし、ビビりながらも、彼女は自信無さげに呟き出す。

 

「だ、だって、夜戦に特化した第零駆逐隊だと意味が無いし………、それに回転翼機を飛ばせるだけだし………。」

「飛ばせるって事は、瑞鶴さんみたいに、空から戦場が見えるって事でしょ!?それだけでも、戦術に天と地の差があるわよ!?」

 

瑞鶴などの空母は、艦載機を飛ばす事で、妖精さんとリンクし、空中から戦場を見る事が出来る。

この効果により、空中から爆撃や魚雷を放つ事が出来る他、深海棲艦の攻撃機等と交戦して、制空権を確保する事が出来るのだ。

基本、偵察機すら飛ばす事の出来ない駆逐艦にしてみれば、サムの能力は画期的という言葉では表す事が出来ない位に、強力に思えたのだ。

 

「で、でも………弾着観測射撃が出来るわけじゃないんだよ!?」

 

しかし、自身の回転翼機を「当たり前」のように使いこなすサムにしてみれば、陽炎達の抱いた感情を、すぐに理解できるわけでは無い。

むしろ、弾着観測射撃………1発目の砲撃の後に、観測機から目測を測り、2発目の砲撃を的確に命中させる技術に応用できない分、この力は意味が無いと思っていたのだ。

だが、陽炎はそんなサムの肩をポンと、もう一度両手で叩くと言ってのける。

 

「………じゃあ、アンタが「サミュエル・B・ロバーツ」の艦名を持つ艦娘として、初めて出来る駆逐艦娘になればいいのよ。」

「え………?」

「上から見下ろす事が出来るって事は、観測機の「真似事」は出来るって事でしょ?だったら、弾着観測射撃「もどき」は、十分可能よ。」

「ほ、本当に………?でも、失敗したら………。」

「踏み出さないで後悔するよりは、踏み出して後悔した方が、ずっといいわ。………後は、その失敗覚悟で、アンタが踏み出す勇気を持てるか………ね。」

 

陽炎はそう言うと、敢えて自信満々に、ニヤリと笑ってみせた。

その顔を見て、サムは少しだけ考え込むとハッキリと言った。

 

「………やる!私、やってみる!」

「よーし!じゃあ、まずは準備から始めるわよ!」

 

新たな可能性に挑戦する時は、誰もが気合が入る物。

陽炎もサムの力になるべく、腕まくりをして拳を握りしめた。




フレッチャー達に羨望を抱くサム。
不知火達に羨望を抱く、陽炎。
綾波に羨望を抱く、敷波。

誰しも、近くに優れた存在がいたら、劣等感は刺激されますよね。
その中で、如何にしてオンリーワンを見つけるか。
陽炎の面倒見の良さが、ここで発揮される形になります。

実際に提督の皆様が艦娘を運用する場合は、最終的には愛ですよね。
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