蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第32話 ~挑戦~

「駆逐艦の弾着観測射撃もどき………陽炎も、大胆な事を考え出すかも………。」

 

敷波にはもう休んで貰い、陽炎はサム、磯波、青葉を伴い、工廠へと向かう。

そこで、サムの回転翼機を使った新しい戦術に付いて、秋津洲に相談を行う事になった。

 

「どうですか?」

「ハッキリ言うけど、駆逐艦の射程と火力で弾着観測射撃をしようとしても、意味ないと思うけど………。」

「そこら辺は、何かしらの技術や装備で補えませんか?最初からダメと言わずに………。」

 

あくまで真剣に言ってくる陽炎に、秋津洲も考え込む。

彼女の言う通り、先入観に囚われるのは良くない事だ。

第零駆逐隊でも、陽炎や沖波が、中型バルジをトンファーとして扱う技術を身に着けたり、敷波が魚雷を敵潜水艦に叩き込む技を会得したりした事例がある。

応用で幾らでも戦術はどうにでもできる以上、簡単に無理だと割り切るのはショートランド泊地の工作艦を担当している秋津洲としても、はばかられた。

 

「………ちょっと待ってね。」

 

彼女は、色々と考えた後に妖精さんに指示を出し、工廠の奥から何かを運んで貰ってくる。

それは、変わった形のアンテナだった。

陽炎は首を傾げる。

 

「電探?いや、これは………。」

「レーダーだよ。確か名前は………「SGレーダー」!」

 

合点がいったサムの言葉に、秋津洲が頷く。

SGレーダーは、数日前の貨物船に乗って運搬されてきた、アメリカ製のレーダーだ。

主にアメリカ出身の艦とのフィット感が良く、艦娘自身の能力を底上げする効果がある。

砲撃の命中精度、敵深海棲艦からの攻撃の回避、索敵範囲の向上………その用途は様々だ。

何よりも、秋津洲がこの装備に注目した理由は………。

 

「このレーダーはね、砲撃その物を助ける力があるの。命中精度が上がるって事は、多少無茶な遠距離砲撃を行っても、動く敵艦に当てる事が出来るんだよ。」

「つまり………簡単に言えば、射程が伸びるって事ですか?」

 

勿論、実際の海戦でそれを試そうとしたら、そう簡単に出来る話では無いだろう。

駆逐艦の砲門は、元々それだけ長い射程を当てる為に作られていない為、最大仰角に砲門を構えて山なりの軌道で砲撃を飛ばさない限りは、遠方の敵には当たらない。

只、このやり方だと、大抵は仮に砲撃が届いたとしても、敵艦に直撃させるのは至難の業だ。

しかし、そんな無茶を可能にする為に、このレーダーがあるのだ。

 

「繰り返すけど、駆逐艦の火力じゃ、弾着観測射撃もどきをしても、威力が伴わないよ。だから、山なりの軌道で敵艦の脳天に当てるくらいの気持ちじゃないと、意味が無いかも。」

「あくまで急所を狙うってわけですね。レーダーと回転翼機を駆使して、長距離砲撃を確実に命中させる。サムに求められているのは、その訓練ですか。」

「出来る………かな?」

「さっきも言ったけど、やってみないと分からないわよ。諦める前に、チャレンジしないと意味ないでしょ?」

 

陽炎はサムを励ますと、秋津洲の許可を貰ってSGレーダーを使わせて貰う。

そして、お礼を言うと、工廠を後にしようとした。

だが………。

 

「陽炎だけ、ちょっと待って欲しいかも。」

「何ですか?」

 

陽炎は、先に3人に訓練海域に向かって貰うようにお願いして、1人その場に残る。

秋津洲は厳しい顔をすると、陽炎に言った。

 

「サムの為に真剣になる気持ちは、少しは分かるよ。でも………陽炎は、第零駆逐隊所属の艦娘だって事、忘れないで。」

 

元々陽炎は、昼夜逆転生活を基軸としている。

しかし、今はサムに合わせて、無理やり昼に対応しているのだ。

普通の生活に合わせていると言えばそれまでだが、寝る時間が何度もずれていくと、いつか身体を壊してしまう。

元々、身体的にも精神的にも、未発達の部分がある駆逐艦故に、ふとした事が切っ掛けで、倒れてしまう事も十分有り得た。

 

「お願いだからこれ以上、自分自身に無茶をしないで欲しいかも。」

「………そうですね、肝に免じておきます。」

 

陽炎はそう言うと、改めて頭を下げて工廠を後にする。

彼女を見送った秋津洲は、心配そうにしながら、軽く片手で頭をかいた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

訓練海域に戻った陽炎達は、早速、遠距離砲撃の訓練を行う事になった。

まずは、標的もサム自身も止まっている所から始める。

回転翼機とレーダーを駆使して、的に確実に当てていくのだ。

そして、徐々に距離を開いて行って、最大仰角で撃つ感覚を身に着けていく。

勿論、手本がいないと分かりにくいので、青葉に実際の弾着観測射撃を見せて貰い、その感覚を見様見真似で確かめていった。

 

「近くにいる時は、あんまり意識していなかったけど………遠距離からピンポイントで砲撃を当てるのって、神経を使うのね。」

「そりゃ駆逐艦は、鉄砲玉になって近づいて、至近距離でドカンとぶち抜くのが仕事だもの。でも、逆に言えば、長距離から支援砲撃を仕掛ける駆逐艦がいたら、敵艦は度肝を抜かされるわ。」

 

実際、この約20年間、艦娘達は様々な深海棲艦を見てきたが、鬼クラスや姫クラスの異様な能力の持ち主には、驚愕させられる事も多かった。

平然と夜間に艦載機を飛ばす空母や、射程や威力が有り得ない程に強い駆逐艦等、常識を疑う事も多々あったのだ。

 

「だから、意表を突くって事は悪い事じゃないのよ。勿論、ケースバイケースではあるけどね。戦況に応じて、近距離戦と遠距離戦を使い分けられれば、それだけで武器になるわ。」

「陽炎って………実は、色々と考えてるのね。」

「どういう意味よ………。これでも一応、第零駆逐隊の旗艦代理だし、夜間の秘書艦なの。頭にデータは入れ込んでいるわ。」

 

陽炎は、腰に手を当て、少し憤慨しながらサムを見る。

………とはいえ、ここまで頭を使うようになったのは、自身の過去の失態からでもある。

初霜と沖波を救えなかった経歴から、彼女は自分なりにどうすれば強くなれるのか、模索をした。

メンタル面をいきなり強化する事は出来なかったが、それでもがむしゃらに勉強をして、神通の下で自分だけの戦術を編み出したのだ。

 

(だけど、それでも今の初霜とはギクシャクする事があるのよね………。)

 

春の大喧嘩が、その代表例だ。

彼女とは、海戦における考え方の違いで、口論してしまう事がある。

というよりは、復讐に走る初霜と、その気持ちを抑えたいという陽炎の間に、溝が出来ていると言えばいいだろうか。

これでも、初霜が藤原提督のお陰で若干は安定してきているので、少しはマシになっているのだ。

 

「………陽炎?何か、寂しそうだけど?」

「あ、いや何でもない。さ、止まって的に当てられるようになったのならば、少しずつ動いて行きましょ。」

 

陽炎の指導で、サムは砲撃訓練を繰り返していく。

レーダーの性能もあったが、彼女の真剣な姿勢もあって、その上達は思った以上に速かった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

数日後、サムの砲撃能力は、格段に上達していた。

回転翼機とレーダーを駆使した立体的視点から繰り出される砲撃は、想像以上に強力で、動きながらでも、妖精さんがラジコンでコントロールする的に当てる事が出来るようになってきた。

これで基礎とはいえ、サムの砲撃にバリエーションは生まれたと言えるだろう。

 

「後は、秋津洲さんが言っていた通り、敵艦の脳天に砲撃を当てる訓練が必要ね。」

「凄く難しそうだけど、出来る物なの?」

「その為の、弾着観測射撃もどきよ。1発目で敵艦の動きを制限して、2発目で確実に射貫く。これって、結構重要な事だから………。」

 

ジリリリリリリリリリリ!!

 

「わ!?何!?」

「南方から救難信号ね………。第零駆逐隊を始め、昼戦専用の艦隊が出撃していくわ。」

 

陽炎の言葉にサムが桟橋方面を見てみると、確かに慌ただしい動きが見て取れた。

間もなくして、飛び起きた第零駆逐隊が抜錨していく。

サムが茫然とする中、陽炎は訓練施設に設置された電話回線の受話器を取って、執務室にいる由良に確認を取っている。

どうやら、また客船が深海棲艦に襲われたらしい。

先行していた秋津洲の二式大艇ちゃんから入手した情報によると、客船までの距離はそれほど遠くない上に、敵艦隊も強力では無かった為、この後出撃するのは、コスト面で抑えられた巡洋艦達が中心であった。

 

「ヒューストンさん、パースさん、デ・ロイテルさん、プリンツさん、ビスマルクさん、瑞鶴さん………か。不測の事態があっても、何とかなりそうかな。」

「陽炎は………、行かなくて大丈夫なの?」

「私は、アンタの指導をする大事な役目があるからね。ここは、春風に任せましょ。」

 

陽炎が、軽く言ってのけると同時に、艦娘デッキから、ヒューストン達も抜錨していく。

これで、安心だと陽炎は思った。

 

「さあ、早速訓練再開………。」

 

ジリリリリリリリリリリ!!

 

「今度は何!?」

「厄介なパターンが来たわね………。」

 

再度鳴った警報に、陽炎は今度こそ顔をしかめる。

そして、再び受話器を取り、また由良と確認を取っていく。

ショートランド泊地の藤原提督が、第零駆逐隊を結成した事で、民間船の被害は格段に減った。

しかし、どうしても対応出来ない場合がある。

それが、本隊が出撃中に、別の場所の救難信号を受け取った場合だ。

泊地の防衛に最低限の艦娘は残しておかないといけない為、こうなると、泊地の対応が後手に回ってしまう。

その説明を陽炎から聞いたサムは、驚愕する。

 

「じゃあ、見捨てるの!?」

「そんなわけないでしょ。………今度の場所は北方ね。貨物船が特殊な深海棲艦………多分、鬼クラスか姫クラスに襲われているみたい。行くわよ、サム!」

「え!?」

「私達が急行するの!青葉さんと磯波にも出向いて貰います!使える物は、何でも使わないと!」

 

陽炎は説明する。

貨物船の救援に、この4人が向かう事になるのだ。

勿論、それだけでは人数も火力も足りないので、近くのブイン基地から援軍として、霧島とリシュリュー、それにガンビーも急行する形になる。

こういう所で、泊地と基地の共同作戦が実施されるのだ。

 

「付いて来て!実弾装備に切り替えて、即抜錨!私と磯波が缶とタービンを強化した装備で先行して、足止め!サムは青葉さんと一緒に、追いかけて来て!」

「分かりました………。今回はビデオカメラを回している余裕は無さそうですね。」

「みたいだね。じゃ、久々に本気で行きますかねぇ。」

「え、ええ!?」

 

戸惑うサムに対し、磯波と青葉は即座に納得すると、陽炎に付いて走り出す。

ここら辺の切り替えの早さは、戦場艦娘カメラガールとして必要なスキルであり、今の陽炎にしてみれば、頼もしく思えた。

 

「3人共、待ってーーー!?」

 

その様子に驚いていたサムも、ハッとして、慌てて3人を追いかける事になる。

秋津洲の工廠に飛び込むと、妖精さんに頼んで兵装を切り替えて貰う。

ここら辺は流れ作業であったが、艤装を背負いながらでも、彼女達は対応してくれた。

重巡である青葉と、遅れて来たサムは若干換装に時間が掛かったが、彼女達が終わる前に、陽炎と磯波は工廠を飛び出し、桟橋から抜錨していく。

 

「は、早すぎるよ!?これが、本来の第零駆逐隊の日常なの!?」

「そうだねぇ。1分1秒が惜しいからね。さて、青葉達も行きますか!」

 

遅れて兵装を整えた青葉に引っ張られるような形で、サムも抜錨していく。

新しい戦術は、まだ確立出来ていない為、どれだけ相手に通じるかは分からない。

それでも、敵も時間も待ってくれない以上、何とかやるしか無かった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

先行して抜錨した陽炎と磯波は、海上を飛ばしていく。

そんな2人の元に、二式大艇ちゃんが飛来してくる。

シンクロしている秋津洲の音声が、聞こえて来た。

 

「敵艦構成はフラッグシップ級駆逐艦イ級複数!フラッグシップ級軽巡ホ級複数!フラッグシップ級重巡リ級複数!」

「こう言ったら何だけど………そこまで強力じゃないわね。艦隊の機動力は高そうだけど………親玉は何ですか?」

「親玉は、駆逐棲姫だよ!」

「そう来るか………。」

 

とにかく速力に特化した敵艦の構成を知り、陽炎は少し厄介だと思った。




救急車の台数が限られているように、第零駆逐隊も人数は限られています。
その為、連続で救難信号が届いた時は、対処出来ない事も…。
幸い、今回は磯波と青葉、サムがいたから出撃は出来ましたが、本来ならばどうしようもない状況になります。
ここら辺の課題をどうやって解消するかも、今後のカギになりそうですよね。
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