蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第33話 ~翻弄される心~

駆逐棲姫は、帽子にノースリーブのセーラー服を着ているのが特徴で、両膝から下が無く、水面をその膝までの艤装で高速で滑走する駆逐艦の姫クラスだ。

その姿と速力故に、回避に優れており、姫クラスを名乗るだけあって、砲撃や雷撃、爆雷の威力も高い。

装甲に関しても、他の姫クラスに比べれば脆いが、並の深海棲艦の中では破格の防御力を持ち合わせていた。

 

「全体的に敵艦隊の足が速い以上、頼りになるのは私達よね。」

「皆さん、雷撃は勿論、砲撃を当てるのも難しそうですよね………。」

 

秋津洲が集めてくれた情報を元に、陽炎と磯波は機関一杯で飛ばしながら考え込む。

速力に不安の残るサムや、重巡である青葉では、攻撃がそもそも当たらない可能性があった。

それは、ブインから援護に駆け付ける3人の艦娘達にも言える。

昼戦だが、主力になりそうなのは、缶とタービンで速力を強化した陽炎と磯波になりそうだった。

 

「………と、見えて来たわね。目的の貨物船は、まだ大丈夫みたいだけど………。」

 

双眼望遠鏡で状況を確かめた陽炎は、やはり………と思ってしまう。

速力に長けた深海棲艦の組み合わせを前に、貨物船は、足止めを喰らってしまっていた。

早く周りを囲っている敵艦達を倒さないと、危ういだろう。

 

「仕方ない!磯波、話し合った通りで行くわよ!………主砲用意!まずは、貨物船の進路を確保するわ!」

「分かりました………!砲撃、開始します!」

 

最速で接近した2人は、砲戦を仕掛け始める。

一部のイ級が爆散し、敵艦達に動揺が生まれるが、すぐに陽炎達を視認すると、砲撃や雷撃で反撃を開始する。

陽炎はバルジトンファーを回転させて簡易シールドを作ると、敵の砲弾を弾き、魚雷を回避しながら突っ込んでいく。

そして、そのトンファーで素早く進路を塞いでいるイ級やホ級の脳天をかち割って行った。

 

「そんなに遊びたいなら、陽炎達が付き合ってあげるわよ!纏めて掛かって来なさい!」

 

素早く貨物船を1週しながら、敵艦達に思いっきり舌を出して挑発する陽炎。

磯波が手当たり次第、砲撃や高射装置の弾を撒き散らしたのも有り、頭に血が上った敵艦達が、貨物船では無く、2人の駆逐艦娘を追いかけ始める。

 

(思った通りね!)

 

深海棲艦は、駆逐艦娘にコケにされているのに腹を立ててくれた。

敵艦から引き離された貨物船は、泊地か基地まで逃げてくれるだろう。

 

(後は、霧島さん達が来るまで、どう持ちこたえるかだけど………。)

 

ここで陽炎は、妙な事に気付く。

二式大艇ちゃんが伝えてくれた、親玉である駆逐棲姫の姿が見当たらないのだ。

念の為、電探で敵艦の位置を確認し直すが、やはり見当たらない。

 

「誤認………?いやいや、秋津洲さんに限って………。」

「電探で見つからないって事は………まさか………!?」

 

ハッとした磯波は、電探ではなくソナーを起動する。

そして、目を見開いた。

 

「陽炎さん!真下に伸びる手が有ります!足を掴もうとしてますよ!?」

「はぁっ!?」

 

磯波の警告を受けて、咄嗟に飛びのく陽炎。

そこに、「水中から」白い手が伸びて来た。

気付かなければ、引き込まれていただろう。

 

「潜水艦!?いや、この速力に付いて行ける深海棲艦なんて………え!?」

 

陽炎は更に驚く。

目の前で水中から浮上してきたのは、帽子とノースリーブの制服が特徴的な、姫クラスの深海棲艦だったのだ。

 

「駆逐………棲姫!?」

 

咄嗟に陽炎も磯波も、主砲を向けて砲撃するが、駆逐棲姫は素早く「潜水する」。

そして、今度は水中から磯波の足を掴もうと、手を伸ばして来た。

 

「陽炎さん!ショートランド泊地の駆逐棲姫って!?」

「んなわけ無いでしょ!?聞いた事無いわよ!駆逐艦が潜水艦の力も兼ねているなんて!?」

 

磯波は回避すると、伸びて来た手に高射装置の弾を連射し吹き飛ばす。

しかし、再生能力を備えているのか、すぐにまた手は伸びてくる。

 

「夢なら覚めて欲しいわ!こんなの!」

 

再び潜水した駆逐棲姫に、今度は爆雷を落としていく陽炎。

だが、潜航する相手のスピードが速すぎて当たらない。

 

(敷波なら、魚雷を叩き込んで当てられるのに………!)

 

対潜水艦の時の頼みの綱である駆逐艦娘は、今はいない。

そこに………。

 

「陽炎!追いついたよ!………って、何を遊んでるの!?」

 

必死に主機を飛ばして来たのだろう。

二式大艇ちゃんに連れられる形で、遅れて泊地を出たサムと青葉が合流する。

それを確認するや否や、陽炎はすぐさま指示を出す。

 

「サム!回転翼機を飛ばして!何か知らないけど、「水中に」駆逐棲姫がいる!」

「え、ええ!?どうして!?」

 

困惑しながらも言われた通りに飛行甲板を展開し、S-51Jを飛ばしたサムは、水中に潜んでいる駆逐棲姫を確認する。

勿論、こんな事例はアメリカ出身の彼女も聞いた事が無かった。

 

「青葉さん、すみません!どうにかして、後ろに群がってきている雑魚の相手をして下さい!………サム!アンタは、私がタイミングを指示するまで攻撃しなくていいから、逐一で状況報告をして!」

「私、足手纏い!?でも………。」

「逆よ!アンタが回転翼機で状況を知らせてくれないと、私達が対応出来ないわ!お願いだから、助けて!」

 

必死な陽炎の言葉に、サムは息を呑む。

このイレギュラーな存在を前に、何とか戦況を打破しようと陽炎は考えているのだ。

勿論、サムからしてみれば、自分を見捨てずに、ずっと付き添ってくれている彼女の助けにはなりたかった。

故に、今は支援に回る立場になる事を堪える。

 

「わ、分かった!駆逐棲姫の動きを知らせればいいんだね!それで、攻撃タイミングは!?何をすればいいの!?」

「駆逐棲姫が水中にいる時に、対潜魚雷をぶつけるの!」

 

サムの右舷には、1発の対潜魚雷が備わっている。

かなりの大きさで、それ相応の威力が備わっている為、切り札になるのだ。

 

「でも、高速で動く相手に必中させるのは………!」

「だから、私が囮になるわ!敵が私の足を掴んだら、撃ち込んで!」

「危険過ぎない!?」

「信頼してるって思って頂戴!」

 

陽炎はそう言うと、高角砲を構え、後ろから追って来る随伴艦達に狙いを定める。

磯波と青葉と二式大艇ちゃんは既に、動き回りながら、掃討を開始し始めている。

敢えて、陽炎は単調な動きで砲撃をしながら、敵に隙を見せた。

 

(さあ、来なさい!)

 

陽炎は、自分の足元から手が伸びるのを感じる。

冷たい深海棲艦の手。

その右手が陽炎を掴んだその瞬間………。

 

「ファイアッ!!」

 

タイミングを狙っていたサムが対潜魚雷を撃ち込む。

雷撃は、陽炎を水中に引きずり込もうとした駆逐棲姫の艤装の基部に命中した。

 

「や、やった!?」

「ナイス、サム!」

 

たまらず敵の親玉は陽炎の目の前に緊急浮上して、悶え苦しむ。

その瞬間を逃す程、彼女は甘くなかった。

 

「8門の陽炎特製の魚雷を受けなさい!!」

「グァァァァァァァァッ!?」

 

強力な雷撃を一気に放った事で、駆逐棲姫は炎に包まれる。

必死に炎を払う敵艦に対し、陽炎は、バルジトンファー二刀流を駆使して、今度は近接戦闘を仕掛け始めた。

 

「コノッ!?」

「潜水する隙は与えないわよ!砲撃や雷撃の時間もね!!」

 

駆逐棲姫は手袋を取り払い、右手の爪を振りかざしてくるが、陽炎はトンファーで上手く防御する。

猛毒の爪を受けてしまうと、最悪命を落とすので、至近距離での海戦は、余程自信が無ければ行えない。

だが、一度対応してしまえば、行動を制限できるので、時間稼ぎとしては有効であった。

 

「陽炎!?わ、私に他に出来る事は!?」

 

しかし、サムにしてみれば、そんな陽炎の近接戦闘を見る機会は、今までほとんど無く、傍から見れば、危険極まりない行為であった。

何も出来ない自分自身の現状も考えると、どうしても焦りが生じてしまう。

 

「いいから、そこで見てなさい!陽炎のオンリーワンをね!」

「そ、そんなぁ!?」

 

一方で陽炎は、勝気な笑みを浮かべながら、心配するサムを安心させるような言葉を叫ぶ。

だが、彼女はその陽炎の顔を見る事が出来ない為、より劣等感を刺激される結果になる。

 

「ど、どうし………そうだ!」

 

故にサムは、閃いてしまった。

今、彼女は敵の砲撃が届かない、安全地帯にいる。

止まって砲撃が出来る位置を、確保している。

レーダーは装備しているし、回転翼機も飛ばしている。

ならば、出来る事は1つだと。

 

「この位置なら………狙える!」

 

陽炎と鍛えた、弾着観測射撃もどき。

まだまだ実戦レベルでは無いが、止まって撃てるのならば、その命中率は遥かに高いだろう。

陽炎を援護する事が出来れば、彼女も楽になる。

だから、サムは主砲を構えた。

 

「陽炎、今助けるから………!」

 

純粋に、自分も陽炎の役に立てる。

劣等感の克服を手伝ってくれた、陽炎の為に。

サムは、深呼吸と共に長距離砲撃を行った。

 

「行けーーーっ!!」

 

………只、もう少し冷静に考えるべきだったかもしれない。

弾着観測射撃は、1発目の砲撃の着弾地点から修正をして、2発目を確実に当てる技術。

つまり、1発目の砲撃の安全性は、保障されていないという事に。

 

「え………?」

 

サムの砲撃は、命中した。

………よりにもよって、陽炎の左のサブアームの魚雷発射管に。

 

「まず………っ!?」

 

次発装填がされていなかった為に、即座に爆発を起こす事は無かった。

だが、このままでは次発装填装置内の魚雷に誘爆すると判断した陽炎は、左右のサブアームと次発装填装置を全てパージする。

次の瞬間、陽炎の周りで多数の爆発が起き、熱風に晒される。

 

「うわあああああああ!?」

「か、陽炎っ!?」

 

自分のやってしまった失態に、サムは悲鳴を上げるが、陽炎はそれ所では無かった。

今の爆発で駆逐棲姫との距離が開いてしまった。

次の瞬間、彼女の眼前に、左手の砲門を向けた姫クラスの姿が映る。

 

「オチロ!!」

「ぐぅっ!?」

 

咄嗟にバルジトンファーを交差させて防御する陽炎。

だが、駆逐艦とは思えぬ威力の前に、トンファーが破壊されて、海面を跳ねるように転がる。

 

「こ………の………!?」

 

すぐさま起き上がろうとした陽炎であったが、目の前の世界がぐらりと歪む。

身体に力が入らない。

 

(艤装の基部がやられた!?それとも、衝撃で脳震盪を………?でも、これって………。)

 

「お願いだからこれ以上、自分自身に無茶をしないで欲しいかも。」

 

(っ!?)

 

陽炎の脳裏に、工廠での秋津洲の言葉が思い起こされる。

元々彼女は第零駆逐隊であり、昼夜逆転生活が基本。

その為、駆逐艦である事もあり、身体に負荷を掛け過ぎると壊れてしまう危険性が高かった。

しかし、サムの為を思うあまり、ずっと昼に無理やり訓練に付き合ってしまっていた。

 

(そのツケが今になって………!?)

 

海面に這いつくばった陽炎は、視線を見上げる。

駆逐棲姫は、勝ち誇った顔で砲撃を陽炎に叩き込もうとしている。

 

「やめてーーーっ!!」

「来ない………で、サムっ!」

 

サムが必死に、こちらに近づいてくるのが分かった。

磯波や青葉も、何とか援護をしようと動こうとしているのも分かった。

だが………、この状況では意味が無い。

もう、手遅れである。

 

(私………また、やらかしたのかな………?)

 

視界が、暗転しそうになる。

ところが、敵艦の砲撃が陽炎に炸裂する前に、戦艦クラスの砲撃と攻撃機による爆撃が飛来してきた。

それを見た駆逐棲姫は、慌てて海面をスライドするように回避する。

 

(一体………?)

 

「こちら、旗艦である霧島です!ブイン基地からの援軍よ!これより、敵深海棲艦の掃討を開始するわ!」

 

(ああ、そうか………霧島さん達が………。)

 

助かった………という安心感を覚えた為か、急に睡魔を覚える陽炎。

誰かが自分を抱えて何かを叫ぶが、全く聞き取れない。

陽炎の意識は、完全に遠のいて闇に沈んだ。




社会生活で、夜勤を無理にしていると身体を壊す事があると思います。
今回の陽炎の場合は、その逆ですね。
昼夜逆転生活を基本にしていた中で、いきなり昼に合わせようとした為に、肝心な所で身体が動かなくなってしまった。
こんな形で身体を壊す人達も、いるとは思いますね。

実際に、潜水する駆逐棲姫がいたら、イベントの難易度が滅茶苦茶上がりそうです…。
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