蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第35話 ~ヒーローでなくても~

ブイン基地に突如現れた駆逐棲姫は、扇状に魚雷を放つ。

勿論、威力の高い雷撃ではあるが、幸い、サムと雪風は陸の上にいた。

2人が慌てて逃げた桟橋は破壊されて、浅瀬でも爆発が起こるが、被害はない。

 

「止めないと!」

 

駆逐棲姫の更なる攻撃を防ごうと、サムが飛び込む形で抜錨する。

しかし、敵艦はそれを見るや否や、すぐさま踵を返して潜水した。

空中に飛ばしている回転翼機から水中を見下ろしてみると、どうやら北西に逃げようとしているらしい。

 

「追いかけるよ!」

「ま、待って下さい!?2人じゃ危険です!みんなを待って………!」

「それじゃ、また逃げられるよ!………私が追尾するから、雪風はみんなにこの事を伝えて!」

「ええっ!?」

 

ここで見失ったら、次は誰が被害にあうか分からない。

サムは、自分の回転翼機やレーダーといった装備ならば、追いかけるのに適していると判断して、雪風の制止も聞かずに加速していく。

陸に取り残された雪風は、急いで桟橋近くに設置された電話ボックスの中にある受話器を手に取り、基地内の全ての施設に向けて、大声で叫ぶ。

 

「駆逐棲姫の強襲です!サミュエルさんが北西に向けて追跡に入りました!早く抜錨準備をお願いします!!」

 

その基地内放送は、風呂に入渠していた陽炎にも伝わる事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「サム!?」

 

入渠時間が残っているにも関わらず、陽炎は湯船から飛び出すと、タオルを巻いて、脱衣所に向かおうとする。

しかし、ここで神通とバッタリ遭遇する事になる。

 

「まだ、入渠時間が残っていますよ、陽炎さん。」

「神通さん、そんな事言っている場合じゃないでしょ!?」

 

陽炎は、思わず神通に対して苛立ちを見せる。

彼女は、顔には出さなかったが、凄みのあるオーラを放っていた。

故に、陽炎は理解した。

今回の駆逐棲姫とサミュエルの追跡に、何があっても陽炎は出撃させないと。

実際、陽炎の傷は完治しておらず、所々に痛々しい傷や痣、火傷の跡が残っている。

 

「………お気遣いは感謝します。でも、サムは私が面倒を見ると言った以上、最後まで責任を果たす義務があります。」

「今の貴女で、その義務が果たせますか?」

「果たします。」

「やせ我慢は毒ですよ?」

「このくらいが丁度いいです。」

 

頑なに譲ろうとしない神通と陽炎。

ここまで頑固だと、お互い梃子でも動かないだろう。

ならば………と、陽炎は拳を握ると、何といきなり神通に殴り掛かった。

しかし、彼女はその拳を何食わぬ顔で掴んで見せる。

 

「師匠として言います。この「命令」を守れないのならば、破門にします。」

「構いません。」

「即答ですか………。そこまで彼女に拘る理由は、何なのですか?」

「………間に合わなかったんです。」

 

掴んでいる陽炎の拳が、震えているのを神通は感じる。

彼女の力によってではなく、陽炎自身がわなわなと震わせているのだ。

 

「初霜と沖波の時は、間に合わなかったんです!新郷提督の苦痛に、気付く事すらできなかった!だから………今度こそ間に合わせたいんです!サムが手遅れになる前に!!」

 

今のサムの行動も、暴走と言えば暴走だ。

だが、今回も彼女なりに最善を考えた結果である。

つまり彼女は、陽炎達が後から追いかけて来てくれるのを、待っているだろう。

もはや半ば師匠として、サムの面倒を見ようと決めた陽炎にしてみれば、その気持ちを無下にする事は出来なかった。

 

「破門にするならば、破門にして下さい!でも、私は師匠を張り倒してでも、サムを追いかけます!でないと………また、後悔を背負ってしまう!」

「………貴女はヒーローでは無いのですよ?初霜さんも沖波さんも、新郷提督すら救いたかった………という気持ちは伝わります。でも、まずは自分の限界を把握して………。」

「最初から全てを諦めて後悔する位なら、私は突き進むまで突き進んで後悔します!それが我儘で傲慢であっても!!だから、師匠はどいて下さい!!」

 

バチンッ!!

 

陽炎は、頬を強く叩かれた。

神通が、陽炎を叩いたのだ。

しかし、その直後に神通は陽炎を抱きしめる。

 

「し………しょう?」

「1つだけ、陽炎さんは忘れていますよ。繰り返しますが、貴女はヒーローではありません。………いえ、ヒーローでも、全てを救えるわけではありません。」

「忘れている………事………。」

「貴女は、誰かのために身を粉にする事が出来る人です。ならば………私を前にして、真っ先にやるべき事があったじゃないですか。」

 

少しすねるような神通の声に、陽炎はハッとする。

そう………彼女は1人で焦り過ぎていたのだ。

もっと仲間に頼れば良いと、第零駆逐隊の経験で、散々分かっているのに。

 

「師匠としては、悔しかったです。協力して欲しいと、素直に頭を下げてくれなかった愛弟子に。」

「………ごめんなさい、師匠。私………。」

「頼って下さい。第零駆逐隊の皆さんに比べれば、実力はないかもしれませんが………私は、貴女の師匠ですから。」

「ししょぉぉぉーーーっ!」

 

今度こそ陽炎は、神通の胸の中で涙を流し始めてしまう。

神通は、少しだけもいいから、今の陽炎を楽にさせてあげたかった。

それが師匠として、彼女と………そして、サムの未来に繋がると信じて。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

入渠を中断して、神通と共に工廠に向かった陽炎は、工藤提督と雪風、それにビデオカメラを装備した青葉と磯波に出会う。

工藤提督は、神通が譲歩したという事実を知っただけで、それ以上、陽炎を無理に止めようとはしなかった。

 

「装備はどうする?」

「缶とタービンとバルジトンファーのいつものセットで!」

「相変わらずの最速仕様だな。………まあ、雪風と神通も青葉達も同じ兵装だから、構わんか。」

「そうですね………って、え?」

 

工藤提督の言葉に、陽炎は思わず神通を見る。

第零駆逐隊の臨時メンバーである雪風や、戦場艦娘カメラガールである青葉達は分かるが、神通も最速装備という事は………。

 

「も、もしかして神通さんって………。」

「ふふっ、バレちゃいましたか。………ここ最近の演習の時の条件は、互角だったのですよ。」

 

妖精さんに装備を整えて貰いながら、神通は告げる。

あのショートランド泊地を始めとした1対1の演習で、陽炎は缶とタービンの出力で、神通に勝てたと思っていた。

だが、神通の方も同じ条件で挑んでいたのだ。

つまり、最速装備での決闘は、いつの間にか陽炎の方が、神通よりも腕を上げていたのだ。

 

「神通さん………。」

「免許皆伝です。この調子で修練に励んで下さいね。」

「………はい!」

 

力強く応える陽炎。

艤装の準備を整えた事で、彼女達5人は出撃が可能になる。

後は、破壊された桟橋から飛び込めばサムを追いかける事が出来るだろう。

出撃前に、工藤提督が陽炎に話した。

 

「今、サムはブインとラバウルの丁度中間地点に向かっている。駆逐艦と巡洋艦の最速装備で追いかければ、間に合うかもしれん。」

「間に合うかもしれないじゃないです!間に合わせます!」

「いい返事だ。それと、主機に負荷が掛かるが、反対のラバウルからも、早霜、夕暮、峯雲が、同じ装備で出撃してくれている。………くれぐれも、命を大事にな。」

「ありがとうございます!」

 

映像を納めないといけない青葉と磯波を戦力に加えてはいけないが、それを抜きにしても、これで6人の水雷戦隊が出来る。

戦い方さえ工夫すれば、サムの援護も出来るだろう。

 

「ふふっ、実は第零駆逐隊のような姿には、憧れている部分もあったんですよね。………行きますよ、神通抜錨!」

「雪風!全力を出します!」

「陽炎、抜錨します!」

「磯波、仕事を果たします………!」

「青葉!気合入れますねぇ!」

 

神通、雪風、陽炎、磯波、青葉の順番で海に飛び込んで北西へと向かって行く。

所々にある、傷や痣、火傷の跡が痛むが、むしろそれが陽炎の感覚を研ぎ澄ます。

 

(待ってなさいよ、サム………!)

 

いつの間にか、師弟同然の関係になったサムの事を思い浮かべながら、陽炎は加速していった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その頃、サムは必死に駆逐棲姫を追っていた。

とにかく周りに通信を飛ばし、近くの基地に、位置情報を伝えていく。

だが、追尾している内に、サムは違和感を覚える。

 

(潜っているとはいえ、引き離されない………!?)

 

サムは、駆逐艦の中では遅めである自分の速力を、理解しているつもりだ。

駆逐棲姫の速力も考慮すれば、サム自身が追尾出来ている事が不思議に思えた。

本来ならば、引き離されて見失っても、おかしくはない。

そもそも、ブイン基地に雷撃を放って逃げようとした時点で、何かしらの意図が感じられた。

 

(誘われてる………!?おびき寄せられているのならば、危険だけど………!)

 

罠の可能性が高い以上、下手な追跡は、危険ではあった。

だが、ここで逃したら、本当に今度は誰が犠牲になるか分からない。

襲われるのは、艦娘とは限らないのだ。

とにかく、追える所まで追いかける。

今の自分の使命であり、役割だと思えた。

 

(陽炎、来てくれるよね………。)

 

サムは焦りのあまり、陽炎を誤射しまい、傷つく原因を作ってしまった。

しかし、雪風は「そんな事」で、陽炎は見捨てないと言ってくれた。

だから、サムは陽炎達が追いかけてくれると信じて、位置情報を伝えながら追いかける。

単艦故の孤独は辛かったが、それでも落ち込む気はなかった。

 

(ん?あれは………?)

 

やがて、サムは前方に人影が立っている事に気付く。

だが、そのシルエットは艦娘の物では無い。

左腕が異形の口へと変わっている、深海棲艦の姫クラス………軽巡棲姫であった。

敵艦は、随伴艦にフラッグシップ級駆逐艦ナ級を、5隻を引き連れて待っていた。

 

(やっぱり、罠!?でも、援軍が来るまで、回避に徹すれば………!)

 

サムは海戦準備に入る。

幸い、空母系はいない。

制空権さえ取ってしまえば、立ち回りは有利だろう。

ところが………。

 

「ワタシハ………ツヨクナッタ。」

「え?」

「ワタシハ………ツヨクナッタ。ワタシハ………ツヨクナッタ。」

「な、何?」

 

軽巡棲姫の様子に、サムはさっきとは別の違和感を覚える。

敵艦は、妙な言葉と共に、両腕を広げた。

 

「何か知らないけど………ファイア!!」

 

その隙だらけの姿を見て、サムは左腕の3門の魚雷を先制で叩き込む。

直撃した事により派手な炎が巻き起こるが、軽巡棲姫は振り払う事もせず、只々両腕を広げた状態で上を見上げて、恍惚な笑みを浮かべている。

その反応は、痛覚があるはずの深海棲艦としては、不気味であった。

 

「ワタシハ………ツヨクナッタ。」

「こ、これって………ドM?」

「ワタシハ………ツヨクナッタ。ワタシハ………ツヨクナッタァァァァァッ!」

「!?」

 

ひときわ大きな叫びと共に、敵大将は、左腕を上に掲げる。

すると、その口の部分から、触手のような物が伸びてくる。

 

「え!?え!?ええ!?」

 

驚くサムの目の前で、軽巡棲姫の放った触手はナ級を包み込み、取り込んでいった。

そして、異形の口から次々と食っていくと、その姿が見る見るうちに巨大化していく。

 

「な、何!?本当に何なの!?」

 

サムが呆気にとられる中、軽巡棲姫は元の数倍の大きさになった。

その目には仮面が付けられている為、表情は分かりにくいが、狂ったように笑みを浮かべているのだけは分かる。

巨大化した軽巡棲姫は、海中から浮上してきた駆逐棲姫と共に、サムの前に立ちはだかった。




陽炎の中の人が述べていましたが、彼女は「主人公」として声を吹き込んでいるとの事です。
主役のラノベがある程ですから、その主人公力は高いのでしょうね。
でも、そんな彼女も全てを救えるヒーローでは無い。
だからこそ、1人で空回りせずに、色々な人に頼って欲しいというのが神通の想いです。
…もしかしたら、誰でもふと視野を広げて見渡せば、そうだったと思える事があるのかもしれませんね。

巨大化した軽巡棲姫は、アニメ2期3話のオマージュです。
サム(と視聴者)にとっては、ビックリですよね。
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