蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第36話 ~突然変異~

深海棲艦の姫クラスが、随伴艦を取り込み巨大化するなんて、サムは聞いた事が無い。

いや、恐らく陽炎達も、こんな事例は聞いた事が無いだろう。

 

(潜水する駆逐棲姫といい、巨大化する軽巡棲姫といい、この泊地や基地の周りで何が起こっているの!?)

 

只事では無いと思ったサムは、冷や汗を流しながらも身構える。

逃げられるとは思っていないが、そもそもここで、この突然変異を起こした姫クラス達を逃したら、後々厄介になるに違いない。

そう、艦娘としての直感が伝えていた。

 

「ワタシハ………ツヨクナッタァ!」

 

同じ言葉を叫びながら、巨大化した軽巡棲姫は、左腕を掲げて異形の口から砲撃してくる。

流石に大きくなった分、その砲弾も威力が高い為、サムは左右に動き、回避に徹する。

 

(当たらなければ………!………っ!?)

 

だが、今度は軽巡棲姫の左腕から、触手が海中に伸びる。

何をしようとしているのか分からなかったサムは、回転翼機を飛ばし、海中に目を向ける。

すると、彼女の足元から、何かが伸びて来た。

 

(捕まえる気!?いや、これは………!?)

 

咄嗟に前に飛び込む形で跳んだサムの後ろで、サメの背びれのような物が水中から複数伸びて、空気を切り裂く。

それは、刀のような刃であった。

 

「そんなの有り!?」

 

砲撃や雷撃とは違うバリエーションの攻撃を見て、思わずサムは叫ぶ。

水中から伸びた複数の刃は、反転すると、サムを目掛けて突撃してくる。

無論、当たったら、真っ二つになるに決まっている。

 

「くっ!?」

 

思い切って面舵を取って、サムは軽巡棲姫から逃げるように加速。

刃も右に回転し、サムの後ろから追いかけてくる。

だが、水中から伸びているという事は、爆雷が効くという事。

サムは素早く、得意の爆雷を撒き散らし、刃を根本から破壊していく。

 

「アァァァァァァァァッ!?」

 

刃と神経が繋がっているからなのか、軽巡棲姫が悲鳴を上げた。

サムは素早く回頭して、軽巡棲姫へと身体を向ける。

これだけ大きければ、レーダーと回転翼機による弾着観測射撃もどきに拘らなくても、砲撃は当たる。

豆鉄砲の威力しかないと分かっていながらも、サムは砲撃を連射した。

だが………。

 

「オチロ!」

「そうだった!?」

 

そこでサムの左前から、駆逐棲姫が魚雷発射管から扇状に雷撃を放ってくる。

サムは回避コースを探そうとするが、見当たらない。

ならばと、対潜魚雷で迎撃しようとするが、発射角度の関係上、それも難しい。

 

(当たる………!?)

 

被弾を覚悟したサムであったが………そこに、空中から水中に機銃が撃ち込まれ、サムの目の前で魚雷が爆発を起こす。

 

「何ダ!?」

 

駆逐棲姫が驚く中、空から降って来たのは、緑色の航空機を模したロボット。

 

「二式大艇ちゃん!?」

「援護に来たかも!………でも、この状況は理解できないかも。」

 

顔の部分から秋津洲の声が聞こえた事で、サムは素早く状況を説明する。

巨大な軽巡棲姫が随伴艦を取り込んだ事。

水中から刃で攻撃している事。

これは前代未聞であり、工作艦を勤める秋津洲にとっても、驚愕であったらしい。

 

「世界は広いかも………。とにかく、みんなが来るまで粘るよ!あたしも可能な限り助けるから!」

「………ね、ねえ………陽炎、怒って無かった?」

「そこまでは知らないかも。でも、入渠を中断して出撃したって聞いた。」

「……………。」

 

二式大艇ちゃんとシンクロした秋津洲は、サムに知っている事を伝える。

しかし、陽炎が無理をしてサムを助けに来てくれている事実だけでも、サムは思わず目頭が熱くなる。

自分が傷つく原因を作ってしまったのに、陽炎は本当に見捨てなかったのだ。

 

「私………あの後まだ、陽炎とちゃんと会えてないんだ。だから………まだ、死ねない!」

「死んだら謝れないからね!駆逐棲姫はあたし達が何とかするから、軽巡棲姫を何とかして!」

「OK!」

 

ちゃんと陽炎に謝りたい。

そう心の底から思ったサムは、絶対に轟沈しないと決める。

 

「ワタシハァ!ツヨクナッタァァァッ!!」

 

だが、軽巡棲姫は、さっきよりも強い咆哮を放ち、左腕から幾重もの触手を水中に伸ばす。

そして、先程よりも多くの刃を水中から伸ばして来た。

 

「まだ、死ねないからぁっ!」

 

当たったら一巻の終わりであるその攻撃を、主機をひたすら動かす事で、サムは回避していく。

しかし、刃は四方八方から襲い掛かる為、全てを躱すのは難しい。

 

「そんなに私が好きなら、相手してあげる!」

 

サムは逃げながらも、爆雷を撒き散らし、水中から刃を破壊していく。

それでも、その度に軽巡棲姫は異形の口から触手を伸ばしていって、サムを狙う。

 

「まだ、まだまだ!まだ………っ!?」

 

だが、レーダーと回転翼機と爆雷を駆使しても、完全回避は無理であった。

刃の1本が、運悪くサムの主機の片方のスクリューを破壊してしまう。

これで、サム自身の機動力が封じ込められた。

 

「あ………。」

 

動けなくなった所に、全方位から迫る刃。

斬り刻まれる………とサムは思った。

 

(陽炎………ゴメンね。私の為に………。)

 

「海面に伏せなさい、サムっ!!」

 

「っ!!」

 

聞き慣れた声に反応したサムは、咄嗟に海面に身を投げ出した。

次の瞬間、伏せた彼女に迫っていた刃が、全て爆発を起こす。

揺れる海面から顔だけを起こしたサムは、それが大量の魚雷による攻撃だと理解する。

そして、それが可能な艦娘を思い出す。

8門の雷撃を一気に操れる艦娘。

そう………彼女を助けに来てくれたのは………。

 

「陽炎っ………わぁ!?」

 

起き上がったサムは、小さな体を掻っ攫われる。

その人物………陽炎が、彼女を救出して後退したのだ。

軽巡棲姫や駆逐棲姫が何とか追撃を加えようとするが、神通と雪風が砲撃支援を放ち、手を加えさせない。

ビデオカメラで撮影を行っている、青葉と磯波のいる安全地帯まで彼女を運んだ陽炎は、2人にサムを任せた。

 

「青葉さん、磯波!ちょっと、サムをお願いします!」

「う~ん、陽炎ちゃんは大丈夫なの?傷は完治してないんでしょ?」

「悪いですけど、ここで黙ってちゃ、女が廃るってもんですよ。………弟子を嬲ろうとした深海棲艦達を前にして………ね!」

「か、陽炎………あの………むぐっ。」

 

思わずサムが、今までの事を謝ろうとするが、磯波に左手で口を塞がれる。

彼女は静かに目配せをした。

今は、まだその時じゃないと。

そのサムの様子を悟ったのか、陽炎は彼女の目線に屈みこみ伝える。

 

「後でたっぷりと聞いてあげるから、アンタはここで「いざという時に備えて」待ってなさい。私達が必要とする、その時まで………ね。」

 

陽炎は、勝気な笑顔で………今度こそ、サムにしっかりとその顔を見せた上で、前線に出ていく。

サムは、その陽炎の後姿が、眩しく映った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「お待たせしました!神通さん、雪風!………さて、どうしましょうか?」

 

バルジトンファー二刀流を抜き放って戻ってきた陽炎は、軽巡棲姫の刃や、駆逐棲姫と戦っている、神通と雪風に合流する。

陽炎達の援軍が来た事で、二式大艇ちゃんは空中へと飛び上がり、索敵に従事し始めた。

 

「ワタシハ………ツヨクナッタ!」

「私に似ているとよく言われますが………それならもう少し、上品に振る舞って欲しいですね。」

 

相変わらず訳の分からない事を叫ぶ軽巡棲姫に対し、神通は拗ねた様子で、左手で右腰の刀を抜き放つ。

そして、後ろに控える陽炎や雪風に言った。

 

「陽炎さん、雪風さん。例え敵が巨大化しても、基本は同じです。再生能力を奪って行けば、いつかは勝機が見出せます。」

「大きいと魚雷を何発も叩き込んでも、意味ありませんよ?」

「その為の近接戦闘です。」

 

そう言うと、神通は2、3歩前に出る。

軽巡棲姫は刃を繰り出して来るが、神通はその1本に向け………神速で突進した。

 

「この刃………そんなに硬くありませんね。」

「ギャァァァァァァッ!?」

 

居合と共に、刃が1本簡単に吹き飛ぶ。

軽巡棲姫は悲鳴と共に刃を何本も繰り出すが、同じように神通は刀を素早く斬ったり払ったりして、敵の刃を砕いて行った。

 

「陽炎さん、雪風さん。貴女達の武器でも、大丈夫ですよ。」

「ヒッ………!?」

「成程………雪風は砲撃。私は打撃ね。」

「分かりました!」

 

その冷徹とも言える斬撃の嵐の前に、駆逐棲姫は思わず怯むが、見慣れている2人は、すぐさま対応。

雪風は手持ちの高角砲を刃に当て砕いていき、陽炎はバルジトンファーを当てて、同じように破壊していく。

軽巡棲姫にしてみれば、自分の攻撃を軽く対処してしまう3人の艦娘に恐怖心を覚え始める。

 

「ワ、ワタシハツヨクナッタ!?」

「でかくなればいいってものじゃないでしょ?悪いけど、サムの分、10倍返しさせて貰うから!」

「オ、オマエハ!?」

「ん………?」

 

ここで、初めて普通の言葉を悲鳴のように叫んだ軽巡棲姫を見て、陽炎はピンと来る。

まさか、この軽巡棲姫は………。

 

「アンタ!春にアイオワさん達を襲っていた………!?」

「ワ、ワタシハツヨクナッタ!ツヨクナッタァァァッ!!」

 

陽炎が軽巡棲姫の正体に気付くと同時に、敵艦は咆哮を上げる。

姫クラスは水中を通してでは無く、伸ばした左腕から、直接刃を伸ばして串刺しにしようとして来たのだ。

しかし、直線的な軌道である分、むしろ対処はしやすかった。

 

「オ、オチ………ガァッ!?」

 

ここで、駆逐棲姫が援護をしようとするが、その背後に砲撃が炸裂する。

何が起こったのかと振り向いてみたら、陽炎達とは別の3人の艦娘が迫っていた。

それは、早霜、夕暮、峯雲のラバウルからの増援。

 

「フフフフフフ………話の通り、癖のある深海棲艦ね。」

「早霜さん、笑っている場合では無いですわ。」

「神通さん、情報は二式大艇ちゃんから受け取りました。これより、援護に入ります!」

 

峯雲の通信と共に夕暮が前に出ると、右手の主砲による砲撃を連射していく。

狙っているのは、駆逐棲姫の急所では無く、艤装の左右に備わっている魚雷発射管。

これにより敵艦は、下手に魚雷を撃ち出せず、切り札である雷撃を封じられてしまった。

そして………ラバウルからの増援にも、打撃武装を扱う艦娘は存在していた。

 

「峯雲さん、今ですわ!」

「ちょーっと、痛いけど、許してね!」

 

峯雲は頭上で、丈夫な鎖で括りつけられた巨大な筒を振り回し始める。

何とそれは、ドラム缶。

轟音と共に振り回されたそれは、駆逐棲姫の顔面へと炸裂する。

 

「ゴギャァッ!?」

 

たかがドラム缶と言っても、中身と硬度次第では、直撃すればとんでもない威力になる。

駆逐棲姫はモーニングスターのような鋼の一撃に、海面を転がる形になる。

 

「ク、クソッ!」

 

即座に海中に潜水して次の一撃を防ごうとする姫クラス。

だが、それを読んでいたかのように、早霜が頭上を通過すると共に、爆雷を落としていく。

 

「バカね………。」

 

水中で体勢を立て直す前に、爆雷の一撃を受けた深海棲艦は、即座に緊急浮上。

しかし、今度は浮上のタイミングを狙っていたかのように、峯雲のドラム缶が脳天に撃ち込まれる。

 

「ァ………ァ?」

 

衝撃で頭に星が浮かんだのか、駆逐棲姫はクラクラとバランスを崩しそうになる。

大きなチャンスを前に、夕暮が左腰の魚雷を全て放出し、敵艦を燃やしていく。

更に早霜が、後ろから回り込むと、その隙だらけになった脳天に、砲門を突き付けた。

 

「さよなら。」

 

どれだけ再生能力を備えていても、どれだけ強力な装甲を持っていても、頭をぶっ飛ばされれば、大抵の深海棲艦は一撃必殺となる。

それは、突然変異を見せた姫クラスでも同じであるらしく、早霜に脳天を撃ちぬかれた駆逐棲姫は、撃沈する事になった。

 

「早霜………アンタ達、容赦無いわね………。」

「フフ………なるべく原形を保っていた方が、後で役に立つでしょう?」

 

とんでもないコンビネーションを見せたラバウル組を率いる早霜は、クスクスと相変わらず、ミステリアスな笑顔を浮かべる。

只、少し困った顔をしながら、巨大な軽巡棲姫を見上げた。

 

「でも、あの大きさだと急所に攻撃は届かないわね。二式大艇ちゃんの力では、どうしようもないし。」

「確かに………。」

 

陽炎も早霜の言葉に、頭を悩ませる。

そもそも随伴艦を食って巨大化しているという事例が、異常なのだ。

軽巡棲姫を倒す方法が、陽炎は分からなかった。

 

「随伴艦を吐き出してくれれば、いいのかもしれませんけれどね。」

「神通さん、そんなうまく………あ!」

 

神通の言葉を聞き、陽炎に1つの天啓が降りる。

もしかしたら、イケるかもしれない。

そう考えた彼女は、通信を開いた。




久々に登場した、ラバウル組の駆逐艦勢。
前に雪風が言っていた通り、早霜を始め、改二艦でなくても練度はかなり高いです。
峯雲のドラム缶を使ったモーニングスターは、彼女の装備をヒントに考えました。
あの塊で殴られるとそりゃ、痛いですよね。

補足説明になりますが、ここの峯雲は右手の主砲のアームガードを、右肘までスライドさせて巻き付けています。
砲撃や防御はしにくいですが、こうする事で右手首の自由を確保できるので、モーニングスターの鎖を振り回せるようになっています。
細かい装備箇所は、ケースバイケースが大事ですね。

そして、軽巡棲姫は1話と2話で登場していた個体と同一の物。
この姫クラスに、何が起こったのでしょうかね?
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