蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第38話 ~本土からの使者~

翌日、調査船を率いて海軍の将校がやって来る。

その事実を受けて、陽炎はショートランド泊地に戻り、入渠を済ませると、夜の時間帯の秘書艦として、補佐の春風と共に資料を纏める事になる。

………と言っても、陽炎の役目は戦闘詳報に、今回の海戦の詳細を書き込む事だ。

潜水能力を持つ駆逐棲姫。

随伴艦を取り込み、巨大化をした軽巡棲姫。

その2隻との海戦結果を、つらつらと書いていく。

 

「懲罰艦隊の司令………か。」

 

陽炎は複雑そうな顔をする。

その将校………沖波が言う成宮提督は、予定としては各基地の提督と秘書艦、それに戦場艦娘カメラガールを連れて、夕方に泊地に到着する予定であった。

昼夜逆転生活を送る陽炎にしてみれば、ここ最近の激務を考えれば、昼に休む時間を貰えるのは有り難かったが、気持ちは複雑であった。

 

「由良さんに、全てを任せますか?わたくし達が、無理に出向く事は無いとは思いますけれど………。」

「沖波の言葉が気になるから、この目で確かめたい。………大体、春風は見る気満々なんじゃないの?」

「勿論です。」

 

笑みすら浮かべる春風は、本当にいい性格をしていると陽炎は思う。

しかし、春風はすぐに眉を潜めると、陽炎の戦闘詳報を確認しながら、寂しそうな顔をする。

 

「………沖波さんの言葉を借りるならば、中間管理職の苦労人だとか。どんな経緯があるのかは分かりませんが、それでは「素直に恨む事」も出来ないのかもしれませんね。」

「実質的には、懲罰艦隊を率いていたんでしょ?………恨んでいい存在のような気もするけど。」

 

単純な意見を述べる陽炎に対し、春風は少し憂いのある表情で首を振る。

そして、陽炎の傍まで椅子を動かし、彼女の耳元で囁く。

 

「中間管理職という事は、いつ首を切られてもおかしく無いという事です。トカゲの尻尾切りともいうべきでしょうか。本当のドス黒い黒幕は、私達の前に姿を現しませんよ。」

「アンタ………大潮並に博識な事言えたのね。」

「わたくしだって、真面目に物事を考えられます。」

 

最後は少し拗ねた表情を見せる春風は、再び自分の席に戻って書類を確認する。

 

「これは、わたくし個人の予想です。その成宮司令官様は、基本、氷のような人では無いのでしょうか?」

「氷の人って………感情を表に出さないって事?」

「愛情も激情も封じ、只、上からの指示を淡々とこなす方です。………でないと、こんな都合の良い「当て馬」にされていたら、狂ってしまいますもの。」

「………当て馬、か。」

 

春風の持論に、陽炎も納得する。

感情を持つと狂ってしまうのならば、いっそのこと捨ててしまった方が楽なのかもしれない。

そんな悲しさを持っているのならば、優しい沖波が恨み切れないのも分かる気がした。

そして、その春風の直感は、概ね当たる事になる。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「大本営直属の調査船「しらさぎ」艦隊の提督を勤める、「成宮 冬也(なるみや とうや)」だ。」

 

次の日の夕方、無線で聞こえて来た男の声は、正に氷のように冷たかった。

調査船「しらさぎ」は、戦場の後処理を行う後始末屋から、深海棲艦の亡骸を提供して貰い、本土に持ち帰って解剖等を行って分析をするのが特徴だ。

そんな異端とも言える船を任せて貰っている事もあってか、成宮提督はとにかく淡々と事務的に藤原提督と話を進めていた。

やがて、その白い船が見えてくる。

 

(あの船………ブリッジに舵が無いわね。)

 

陽炎は、双眼望遠鏡で、しらさぎを見る。

外観から見た限りだと、ブリッジには舵が置いてなかった。

つまり、構造が貨物船「らいちょう」と同じであるのならば、操舵室は恐らくエンジンルームと直結しており、艦娘が中の艤装で制御している状態であるはずなのだ。

どうやら、大本営直属の艦というだけあって、やはり、移動鎮守府と言っても差し支え無いような、最新鋭の技術は取り込まれているらしい。

一旦、成宮提督と話を切った藤原提督が、陽炎に問う。

 

「興味深いみたいだな。………沖波から話を聞いていれば、無理もないと思うが。」

「昨日、春風と思う存分、毒を吐き合いましたよ。………護衛艦娘の構成って分かります?」

「知らされて無いな。………だが、そろそろ見えてくるだろう。」

「大本営直属だから、大和さんや武蔵さんがこき使われているんだろうなぁ………ん!?」

 

艦娘達が視認出来る所まで来た事で、陽炎は目を見開く事になる。

何故ならば、その編成は………。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

泊地に着船した事で、30代前半の男が先頭になってタラップを降りて来る。

陽炎から見ればイケメンに見えたが、その顔は厳格で、喜怒哀楽をあまり表現しそうでは無かった。

そして後ろに、恐らく中で、しらさぎを操縦していたと思われる艦娘が降りてくるが、その艦娘は銀灰色の髪色が特徴的な、青と白のセーラー服の駆逐艦であった。

 

「………あたしと同じ吹雪型だよな、アレ?」

「そうだね、秘書艦も務めていると思うけど………。」

 

小声で話す深雪と敷波の傍で、沖波が淡々と告げる。

 

「彼女は、吹雪型の薄雲だよ。」

「知り合いなの………?」

「一応………。」

「そう………。」

 

初霜が聞いてくるが、沖波の表情が硬かったので、それ以上の詮索は止めておく事にする。

大潮は何とも言えない顔で、静かに目を細めて護衛の艦娘達を眺めている。

 

「それにしても………陽炎さんでは無いですが、成宮司令官様の護衛艦娘の構成には、驚きを隠せませんね。」

 

春風は微妙な顔をして、陸に上がって来る艦娘達の姿を見た。

先頭から、前下がりのショートカットに耳元を編み込んでいる幼めの艦娘。

腰まで有る紅のロングストレートを大きな黄色のリボンで纏めた二刀流の艦娘。

白銀の長髪に赤みを帯びた茶色の瞳を持つ、左腰に帯刀をした小柄な艦娘。

癖のある茶髪のボブヘアーに薄茶色の瞳を持つ、八重歯が印象的な小さな艦娘。

同じく癖のある灰色のセミロングに、茶色の瞳が特徴的な、呑気そうな艦娘。

明るいセミロングの茶髪を2本の三つ編みのおさげにした、身長が高めな艦娘。

順番に、夕雲型駆逐艦高波、神風型駆逐艦神風、睦月型駆逐艦菊月、暁型駆逐艦雷、朝潮型駆逐艦山雲、そして秋月型駆逐艦照月であった。

そう………戦艦や空母どころか、巡洋艦すらいない「駆逐隊」で構成されていたのだ。

 

「神風御姉様がいる前で言うのも何ですが………高波さん以外、改二艦でもありませんし………素の練度が高いのでしょうか?それとも、成宮司令官様がロリコンなのでしょうかね?」

「それは、分からないよ………。」

 

これには、沖波も首を振る。

そんな中、成宮提督と話をしていた藤原提督は、由良に陽炎、そして春風を呼ぶ。

どうやら、調査船であるしらさぎの中で、会話をしたいらしい。

 

「ちょっと行ってくる。」

「一応、気を付けてね。藤原提督を宜しく。」

「何かあったら、成宮司令官様の股間を蹴り飛ばしますから、安心して下さい。」

「春風………。」

 

初霜に対し、何処まで冗談なのか分からない言葉で返す春風に頭を悩ませながらも、陽炎は彼女を引き連れて、先にタラップを登って行く藤原提督と由良を追いかけた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

船の中を進んだ4人は、成宮提督と秘書艦の薄雲に案内されて、とある部屋へと入る。

そして、陽炎達は、思わずギョッとする。

部屋には巨大な水槽があり、その中に首から上の無い駆逐棲姫と軽巡棲姫………陽炎達が撃沈した姫クラス達が入っていたからだ。

その前には、秘書艦の神通を引き連れた工藤提督、同じく秘書艦の龍田を引き連れた喜多見提督、そして、戦場艦娘カメラガールの青葉と磯波が、椅子に座って待機をしていた。

 

「後始末屋によって引き上げられた姫クラスの亡骸を、譲渡して貰った。破損が最低限で抑えられている為、これから本土に持ち帰って、解剖を行う事になる。」

 

成宮提督が、無表情のままに告げる。

流石に現時点では、深海棲艦の未知の能力に付いては、回答が出せないらしい。

陽炎はもどかしいと思ったが、仕方ないとも感じた。

下手に仮説を立てて混乱するよりは、じっくりと調べて貰って、確実な成果を期待した方が良かった。

 

「宜しくお願いします。それで、この後のご予定は?」

「現在の泊地や基地の状況に付いて、意見交換を行いたい。その上で、明日の明朝に青葉と磯波を伴って、本土へ帰投する。」

「では泊地内にて、就寝出来る場所を確保しましょう。護衛の艦娘を含め、そちらの搭乗員も、陸で休んだ方が安心できるでしょうから。」

「お言葉に甘えさせて貰おう………感謝する。」

 

あくまで表情を変えずに、藤原提督と会話を続ける成宮提督の姿に、異質な物を覚えながらも、陽炎はこの後の自分の仕事を理解する。

恐らく、藤原提督と共に食事を取りながら皆で意見交換を行った後、夜の間に成宮提督を伴って、泊地内を案内する事になるだろう。

由良は、この後に就寝をして、明日の任務に備えて貰いたい。

また、緊急の出撃がある可能性もあったので、春風は初霜達と共に、常に出撃可能な状態にしておきたかった。

勿論、逆に陽炎が待機するという選択肢もあったが、春風の毒舌が何処で炸裂するか分からない以上、下手に案内役にする事ははばかられた。

 

「信用してくれないのですね、陽炎さんも………。わたくし、涙が出そうです。」

「だったら、もうちょっと歯に衣着せなさいよ………。沖波達の事、頼むわよ。」

「分かりました。………とはいえ、意外と沖波さんは大胆ですから、何をするかは保障しきれませんよ?」

「そこはまあ、大潮と何とかコントロールしてよ。」

 

そういう会話をひっそりとして、陽炎は春風に第零駆逐隊の事を任せる形になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その後、陽炎は、搭乗員や各基地の提督といった客人を、泊地の空いた部屋へと案内する。

只、ここで1つ問題が起こった。

護衛の艦娘達が、休息を拒んだのだ。

 

「申し出は感謝する。だが、私達は成宮司令官の護衛である以上、その役目を果たさなければならぬ。」

 

そう言ったのは、菊月。

どうやら、秘書艦の薄雲も含め、7人は頑として譲ろうとしないらしい。

これには、陽炎も困ってしまう。

駆逐艦が無茶をするとどうなるかは、つい此間、自分自身が痛い目を見ているので、良く知っている。

明日の明朝にここを発つのだから、万全の状態でいた方が良いとは思ったのだ。

 

(任務に忠実なのか………それとも、意外と人望があるのか………。)

 

陽炎は、成宮提督を見てみる。

彼は、相変わらずのポーカーフェイスで、告げて来た。

 

「可能ならば、彼女達の好きにさせて欲しい。無理ならば、俺から言おう。」

「………分かりました。では、付いて来て下さい。」

 

中間管理職とはいえ、大本営直属の男の護衛艦達の機嫌を安易に損ねるのは、どうかと思ったので、ここは陽炎が譲歩する形になる。

結局、彼女達護衛の艦娘も伴った上で食事を取る事になり、陽炎は成宮提督の質問に答えていく形になった。

 

この食事は誰が作ったのか?(食事当番は由良だったので、褒めておいた)

軽巡棲姫と駆逐棲姫は強敵だったか?(勿論、苦戦したと伝えておいた)

どのようにして撃沈に至ったか?(正直に答えた上で、サムとラバウル組の活躍を強調した)

初霜の義腕の調子はどうか?(ドリルクローに関する事は、絶対に言わなかった)

第零駆逐隊に誇りを持っているか?(勿論、誇りであるし、仲間達の存在は有り難いと言い切った)

 

「大体の事は分かった。ありがとう、やはり現場の声を聞かなければ分からない事も多い。」

「いえ、役に立ったのならば幸いです。」

 

ありがとう………と言う割には、全然笑みを見せない男を前に、陽炎は何とも複雑な気持ちになってしまう。

沖波は、この男の元で地獄を見て、この男のお陰でこの泊地に戻って来られたと言っていた。

陽炎としては、その意味がどうしても気になる。

だが………その理由を、沖波不在の中で聞いてしまってはいけない事くらい、分かっていた。

 

(本当に、色々な意味で謎の司令ね………。)

 

結局、モヤモヤが溜まっていくだけであったが、そうしている内に、提督同士の意見交換が終わる。

この後は、陽炎が成宮提督と護衛の艦娘達を連れて、泊地を案内する事になるだろう。

 

「陽炎、私は先に各基地の提督達を客室に案内する。………後を任せるぞ。」

 

トラブルは絶対に起こすな………と暗に念押しをされて藤原提督に置いていかれた事で、陽炎は思わず冷や汗をかく。

陽炎自身にそんなつもりは無いが、護衛の艦娘達の中には、帯刀をしている者もいるのだ。

特に、泊地を案内している最中に、沖波と遭遇してしまう事だけは避けたかった。

色々な諸事情もあるが、彼女は今、演習海域で第零駆逐隊の面々と訓練中である為、艤装を背負っている。

 

「えーっと、何処から見て回りますか?私としては、工廠をおススメしたいですがぁ?」

 

目を泳がせながらであったが、とりあえず演習海域を避けるように、陽炎は誘導しようとする。

しかし………。

 

「演習海域で、第零駆逐隊の様子を見てみたい。」

「ひぃっ!?」

 

いきなり直球で話す成宮提督に対し、悲鳴を上げてしまう陽炎。

しかし、その姿を見た提督は、少しだけ嘆息すると、陽炎に告げる。

 

「………墓地に行きたい。新郷前提督の墓参りをしたいと思ってな。」

「あ、はい………。」

 

今の陽炎自身の反応を見て行き先を変えた事に、まさかと思いつつも、陽炎は墓地へと案内をする事になる。

そこで、一触即発の事態に陥るとも知らずに………。




大本営所属で、懲罰艦隊を率いていた提督の登場。
しかし、春風の言う通り、本当のドス黒い部分は、彼女達の前には登場しませんよね。
こういう存在は、矢面に立たない狡猾さを常に持っていると思います。

成宮提督の護衛艦娘達にも本名はありますが、別の機会までお待ちください。
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