蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第39話 ~砲口の行方~

陽炎は、夜道の中を歩いていく。

後ろには、護衛の艦娘7人に囲まれた成宮提督。

相変わらず、護衛艦達にはピリピリとした空気が出ており、陽炎は居心地の悪さを感じていた。

 

「何ていうか………皆様、職務に忠実みたいで………。」

「俺ももっと、肩の力を抜いていいとは言っている。だが、これも彼女達の長所だと思ってくれ。」

「分かりました………。」

 

こっそり嘆息した陽炎は、墓地へと入っていく。

成宮提督は、新郷提督の物を始め、そこに置かれている墓の1つ1つにお参りをしていく。

その礼儀正しさを見ながら、陽炎はジト目を向けて言う。

 

「………新郷司令の罪状は知っているのですか?」

「その一連の流れは知っている。」

「こういう質問はしたくないですが………その上で、墓参りをしたいと?」

 

新郷提督は、好意を寄せていた初霜と、無理心中を計ろうとした。

その結果、沖波は、懲罰艦隊に送られる羽目になったのだ。

陽炎の言葉の意味を、正確に把握したのだろうか?

成宮提督は、彼女を見てハッキリと言う。

 

「どういう形であれ、死んでしまった者だ。1人の提督として、泊地を守り続けてくれた者を、冒涜したくはない。」

「……………。」

「沖波を懲罰艦隊で苦しめておいて、よく言う………と言いたそうだな。」

 

陽炎は、本当に軽く睨みつけただけだ。

だが、それでも成宮提督は、その視線から感情を読み取り、真っ直ぐ見つめた上で向かい直った。

その上で、陽炎の後ろを見る。

 

「だから、俺はここでならば、「彼女」に会えると思ってやって来た。」

「え………?」

 

声に振り返り………陽炎は驚愕する。

そこには、沖波が第零駆逐隊の仲間を連れて立っていたからだ。

勿論、艤装を背負って。

しかも、その右手の砲口を………成宮提督に向けていた。

 

「貴様!?」

 

帯刀している菊月や神風が刀を抜き放とうとする。

しかし、それより前に陽炎自身が沖波と成宮提督の射線上に立ちはだかった。

 

「沖波………アンタ………!?」

「大丈夫だよ、陽炎さん。実弾じゃない。」

「ペイント弾でも、大本営の将校に当てたらどうなるか、分かってるの!?」

「今は、そういう事は関係無いよ。」

 

沖波の表情も、成宮提督と同じく真顔だ。

何の感情も読み取れない、ポーカーフェイス。

だが、それが逆に、陽炎の中にある危険信号を発していた。

何故ならば、こういう沖波の表情は、滅多に見た事が無いからだ。

 

(春風達は、何をやっているのよ!?)

 

思わず苛ついた目を周りに向けたが、陽炎は更に驚愕する。

大潮以外は、全員顔にペイント弾をぶつけられており、春風に至っては不機嫌そうに頬を膨らませながら、自分の顔を指さしていた。

 

(まさかの実力行使で黙らせた!?や、ヤバいって!?)

 

これでは、陽炎自身が壁になった所で意味が無いのでは?と彼女は思い、冷や汗を流す。

だが、突如その肩がポンと後ろから叩かれる。

見上げてみれば、成宮提督が護衛の艦娘達をかき分け、前に出て来ていた。

 

「心配はいらない。本当に撃つ気ならば、俺は今頃、塗料だらけだ。」

「………泣き喚くまで、待っているとしたら、どうします?」

「醜い命乞いか?残念だが、その感情はもう捨ててしまったな。」

「では、思い出せるようにしましょうか?」

 

沖波の砲口は、相変わらず成宮提督の顔面を狙っている。

いつ、何かの拍子で暴発してもおかしく無かった。

だから、陽炎は敢えてまた、彼の前に立った上で叫ぶ。

 

「沖波!前にアンタ、初霜に言ったわよね!?こんな脅迫まがいの事をしても、若葉が喜ばないって!?自分の行動が今、その状態だって分かってるの!?」

 

陽炎の渾身の叫びを受け………しかし、沖波は表情を変えない。

静かに目を閉じると冷たい言葉を放つ。

 

「確かに若葉さんは喜ばないよ、陽炎さん。でも………竹は、喜ぶかもしれない。」

「竹………?」

 

沖波の言葉に、違和感を覚える陽炎。

1つは、その竹という艦娘………恐らく松型駆逐艦の竹の事だと思うが、その駆逐艦娘の名を、沖波の口から初めて聞いたからだ。

もう1つは、沖波が堂々と呼び捨てで呼んだ事実。

彼女は余程の事が無い限り、仲間を呼び捨てで呼ばない。

 

「何なの、アンタ………その竹って。」

「竹が喜ぶならば、私は………。」

「だったら、私を思う存分撃てばいいよ、沖波。」

 

陽炎が唖然とする中、今度は1人の護衛の艦娘が成宮提督と陽炎の前に立った。

それは、秘書艦である薄雲。

彼女は、悲しそうな笑みを見せながら、沖波に対し、両腕を広げてみせる。

沖波は、その姿を見ても、表情を変えない。

彼女がこの泊地に来た時に、一応知り合いだって初霜に述べていたが、詳細までは誰にも告げていなかった。

だからこそ、陽炎はこの展開に付いて行けない。

故に、思わず彼女は叫ぶ。

 

「ねえ………沖波!薄雲!アンタ達はどういう関係なの!?竹って誰!?大体、仮にもここは墓地よ!これ以上、荒っぽい事をやるのならば、全部陽炎に説明してからにしなさい!」

『……………。』

 

少なくとも、ここでの荒事は、死者に対する冒涜であるだろう。

だからこそ、薄雲は勿論の事、沖波も少し表情が曇った。

そして、それで少し落ち着いたのか、沖波は砲口を降ろし、頭を下げる。

 

「………皆さん、急にごめんなさい。でも、ここに竹の墓は無いんです。」

「差支え無ければ、墓が何処にあるか教えて欲しい。」

「貨物船らいちょうの中です。棺に入れて、火葬をして貰いました。」

「そうか………すまなかった、急に押し入って。………こんな事を言う資格はないが………元気そうで何よりだ。」

 

砲口を向けられたにも関わらず、成宮提督は頭を下げると墓地を去っていく。

続いて、薄雲が頭を下げて去っていき………他の護衛の艦娘達も、それに倣って頭を下げて去っていった。

陽炎は、色々と思う所があったが、沖波を見ると彼らを追いかけていく。

沖波は、只々ずっと俯いていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その後、成宮提督達を部屋に送り届けた陽炎は、藤原提督のいる執務室へと向かう。

正直辛くはあったが、今回の事を報告しないといけなかったからだ。

だが、部屋には先客がいた。

大潮である。

 

「陽炎、すみません。先に報告させて貰いました。沖波達は、訓練を再開して貰っています。」

「そう………じゃあ、いいけれど………。1つ聞いていい?」

「何ですか?」

 

大潮は、恐らく質問の内容を予測しているのだろう。

済ました表情で待っているのを見て、陽炎は遠慮なく言う。

 

「アンタ………沖波とさっきの薄雲、それに竹っていう艦娘との関係、全部知っているんでしょ?」

「はい。大潮がここに着任する前、「救出した」沖波から、全部教えて貰いました。」

 

沖波が懲罰艦隊に転籍してから1年後………今から2年前に、彼女は貨物船らいちょうに運ばれて、ショートランド泊地に戻って来た。

その時の彼女は、メンタルが落ち込んでおり、左目も既に義眼であったのを陽炎は覚えている。

そして、一緒に彼女と同じく「転籍」してきたのが、大潮であった。

只、仲間達はそこまでしか知らない。

沖波が、決して話したがらなかったからである。

だが………。

 

「沖波はどういう形であれ、成宮司令官に向き合う選択肢を取りました。ですので、大潮は、止めに入らなかったのです。」

「だから、アンタだけ塗料を顔に浴びて無かったのね………。」

「ですが、薄雲の前で竹の名を出した以上、陽炎や初霜達に包み隠さず話すのも、時間の問題かもしれませんね。」

 

あの陽炎が激戦を繰り広げた日の帰りに、沖波は、自分も考える時が来ているのかもしれないと言っていた。

もしかしたら、初霜と藤原提督との関係性や、陽炎とサムとの関係性を受けて、彼女も刺激をされているのかもしれない。

 

「全く、あの子は………。春風も言っていたけど、いきなり大胆な事するんだから………。」

「まあ………それも第零駆逐隊の長所だと、思っておきましょう。」

「私としては、大事に発展しなくて心の底からホッとしているがな………。」

『確かに。』

 

藤原提督も含め、3人は苦笑をする。

一連の流れを含めて、陽炎は気付き始めていた。

護衛の艦娘達に慕われる事といい、密かに沖波を心配していた事といい、少なくとも成宮提督は、最初に思っていたほどの最低野郎では無いだろうと。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

翌日の明朝、調査船しらさぎは、ショートランド泊地から本土へ向けて旅立とうとする。

その前に、しばらく長期の別れになる青葉と磯波に、陽炎達第零駆逐隊は呼び出されていた。

 

「改めて、どうしたんですか?青葉さん、磯波。何か伝える事が………?」

「いや、今回陽炎ちゃん達には、色々とお世話になったからさ、何か聞きたい事があったら、教えようかなって。」

「聞きたい事ですか………。」

 

ここで、陽炎は理解する。

わざわざ自分達を呼び出したという事は、成宮提督に関する事でも良いという事だ。

青葉達は情報通であるから、知っている事は、何でも教えてくれるらしい。

………勿論、陽炎達が信頼できるからこそ、提供できる情報でもあるのだろうが。

 

「………沖波、どう?」

「え、私?」

「アンタも呼んだって事は、懲罰艦隊での事を気遣ってくれているわけでしょ?だったら、アンタが質問した方がいいんじゃないの?」

 

陽炎等が質問をすると、沖波がまだ知らせるのに抵抗のある出来事に、触れてしまうかもしれない。

だからこそ、陽炎は質問の権利を沖波に譲る事にしたのだ。

 

「えっと………成宮提督がここに来た時から気になっているのですが………何故、護衛の艦娘達が、駆逐隊で構成されているのでしょうか?」

 

成程………と陽炎は思う。

これは確かに、全員が気になっていた事だ。

しらさぎの護衛艦には、大本営直属であるにも関わらず、大和や武蔵といった強力な戦艦が配備されていない。

恐らく、成宮提督がここら辺の編成を決めているのだと思うが、空母や巡洋艦すら配備しない所を見ると、春風では無いが、ロリコンでは?と勘ぐってもおかしくはなかった。

 

「まあ、そういう冗談は置いておいて………いざという時の海戦を考えると、もうちょっと昼戦でも強力な艦は欲しいよねぇ。」

 

青葉が腕を組みながら、うんうんと頷く。

大本営自体が成宮提督に対し、これだけの戦力しか割けていないのならば、当て馬も本当にいい所だ。

だが、磯波がそこで話し始める。

 

「秘書艦の薄雲さんを始め、護衛艦の皆さんは、全員成宮提督が選出しています………。」

「じゃあ、何故強力な艦を使わないの………?」

「………冤罪なんです。」

「え?」

 

磯波が小声で、沖波を始めとした第零駆逐隊に説明を始める。

 

「薄雲さんを始め、あの護衛艦の皆さんは、元々は全員、冤罪で懲罰艦隊に送られた方々なんです。その全員を、成宮提督が自身の護衛に抜擢する事で、救出したんですよ。」

「そんな事が………。」

「全員、あの人を守る事に命を賭けていませんでしたか?」

 

磯波の言葉に、陽炎も沖波も納得する。

護衛艦達は、いついかなる時も、成宮提督を守る事を第一に考えていた。

それが、その恩義から来るものならば、辻褄が合うのだ。

 

「あの人が………でも………。」

「案外、「鶴の一声」で変わったのかもしれないねぇ………。」

 

青葉がのんびりと告げると、沖波はハッとした顔で思わず大潮を見た。

大潮は、相変わらず目を細めて、青葉達の言葉を只、黙って聞いていた。

陽炎達は、その2人の握っている秘密に付いてはまだ分からないが、成宮提督に対し、有用な情報をもたらしてくれた青葉達に感謝をする。

 

「ありがとうございます、青葉さん、磯波。また、会える時が来たら、宜しくお願いします。」

「問題は山積みだからね。きっと、その機会はまたあるよ。………その時は、色んな意味で戦力になるから。」

「陽炎さん達も、無理はしないでくださいね。お互い、元気な姿でまた、会いましょう。」

 

そう言うと、青葉も磯波も手を振ってしらさぎへと向かって行く。

陽炎達も、いつまでも感謝の言葉と共に、手を振り続けた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

そして、しらさぎは、ショートランド泊地を出ていく。

この後は、ブイン基地とラバウル基地によって、各提督を降ろしてから、本土へと帰投する予定だ。

やっと一休みできると思った陽炎は、のんびりと伸びをする。

 

「あー、終わった終わった!本当、今回は色々とあったわね………。」

「陽炎さん、あの………。」

「………話せる時でいいわよ。」

「え?」

 

沖波が昨日の事を謝ろうとしたところで、陽炎が手で制す。

その顔は、穏やかに笑っていた。

 

「アンタが覚悟を決めるまで、薄雲と竹の事は、待っていてあげるから。だから、焦らなくていいわ。」

「………ありがとう、陽炎さん。」

「只、初霜達の顔にペイント弾をぶつけた分の、御礼は必要ね。」

「うん、みんなにジュースを奢るよ。」

『だから、割に合わないって。』

 

それで、誰からともなく苦笑し始め、最終的に全員が声を出して笑い出す。

 

艦娘であっても、急に人が成長する事は出来ないだろう。

過去の束縛から逃れる事も、想像以上に難しい。

でも、己を………そして他人を知る事で、少しでも変わる切っ掛けにはなる。

陽炎はこれからも変わっていくだろう。

そして、沖波も………。




少しずつ紐解かれて行く沖波の秘密。
これだけでは、分からない部分も多いですが、次の章で少しずつ語って行きます。
竹、薄雲、ここら辺の艦娘達の秘密も明らかになる予定です。

これで、第2章の陽炎編は終わりになります。
次の章は、第3章沖波編です。
宜しければ皆様、その機会までお待ちください。
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