執務室から庁舎の中の廊下を渡っていったアイオワ達は、そのまま一旦建物の外に出る。
そして、渡り廊下を伝って行き、隣に設置されている工廠へと入っていく。
そこでは、妖精さんと呼ばれる沢山の小人が、忙しそうに動いており、艦娘達の艤装や兵装を整備していた。
「相変わらず、キュートよね。彼女達が何処から来たのかは、謎だけれど………誰か出現した瞬間を見た事がある人はいるのかしら?」
「ここに1人いるぜ?」
「はい………?」
深雪の言葉に、アイオワが思わず振り向いてみれば、全員の視線が大潮に集まっていた。
彼女は、うーん………と、困ったように首を傾げるとアイオワに告げる。
「実は、私は日本で最初に艦娘になった、「初期艦」と呼ばれる存在なんです。」
「待って!?あんまりこんな事言いたくないけれど、初期艦として名を残しているのは、吹雪・叢雲・漣・電・五月雨の5人だけじゃないの!?」
これは、アメリカでも座学として習う事だ。
日本は、艦娘としての技術を最初に導入した国であり、そこで初めに適応に成功した駆逐艦娘達を、初期艦と呼ぶ。
だが、教えられている範囲だと、成功したのは今アイオワが言った5人だけであるはずだ。
そこで、大潮が更に困ったような表情をして話し始める。
「大潮は、諸事情で離脱時期があったので、初期艦にカウントされていないんです。他にもカウントされていない仲間はいるのですが………まあ、そこら辺の事情は、今は止めておきましょう。」
「そ、そうね………色々あるものね。」
アイオワは喋らなかったが、アメリカでも艦娘の開発を行った際は、色々な闇を被った。
艤装適性に恵まれなかった事による、廃人化。
深海棲艦との戦い方に対する知識が、不十分だった為による、轟沈。
それでも、日本からの技術の譲渡により、かなりマシだったのだ。
一から艦娘を作り出した日本が、どんな闇を被ったのかは、正直想像したくはない。
「………で、妖精さんでしたよね。彼女達は、原始の艦娘である吹雪が開発された瞬間、ひょっこりと現れたらしいんです。まるで、彼女が視認した事で、他の者達も視認できるようになったように。」
「そうなのね………。」
「勿論、彼女達の生態に関しては謎が多いですが、そこら辺に追求するのは止めましょう。彼女達も、対深海棲艦への重要な戦力であり仲間です。日本では、無理に鹵獲しようとして、極秘裏に暗殺された研究者もいるらしいですから。」
丁寧な口調でありながらも、かなり物騒な事を真顔で呟く大潮に対し、思わず震えあがるアイオワ。
この目の前の小柄な駆逐艦娘もまた、初霜や沖波並に、何かを抱えていそうであった。
そんな大潮が、再び歩み始めた事で、アイオワ達は工廠の奥へと進んで行く。
「あ………。」
アイオワは、妖精さん以外の人の気配に気付く。
レンチを右手に持ち、クレーンで吊るされている彼女の破損した艤装を見ているのは、左に銀髪のサイドテールを垂らし、反対側には錨付きの長いリボンを垂らしている艦娘であった。
「うーん、これはまた、凄い装備かも………。」
「貴女は………?」
「秋津洲さん!アイオワさんを連れてきましたよ!」
大潮の大声に気付いたのか、秋津洲と呼ばれた艦娘が反応する。
彼女はアイオワを見て、そのグラマラスで破壊力のあるボディに、一瞬ビックリして引いてしまうが、すぐに笑顔で手を繋ぎに来る。
「あたし、秋津洲!工作艦としての技術を習った水上機母艦で、この工廠の主任かも!宜しくね!」
「よ………宜しく。どう………?私の艤装?」
ぶんぶんと手を振る彼女の明るさに、一瞬気圧されてしまうアイオワであったが、すぐに心配そうに自分の艤装の状態を聞いてみる。
すると、彼女は真剣な顔をして言う。
「提督から聞いたかもしれないけど、この艤装は妖精さんが尽力しても直らないみたい。でも、残った主砲と機銃は修理すれば使えるから、今取り外している所!」
「そう………ありがとう、色々と見てくれて。」
「心配しなくていいかも!これが仕事だからね!」
秋津洲はそう言うと、手を離して軽く指笛を吹く。
すると、工廠の中の鋼を叩く音等で、外まで笛の音が聞こえないはずなのに、天井近くの吹き抜けに設置された窓から、所々に飛行機の緑の部品が取り入れられている人型ロボットが降って来て、ゆっくりと彼女の近くに着地する。
いきなりのオーパーツの登場に、アイオワは固まった。
「な………に………これ………?」
「二式大艇ちゃんだよ!あたしの相棒の飛行艇かも!」
「飛行艇の影も形も無いじゃない!?」
「ここまで整備するまで、時間掛かったもんね!」
「整備じゃなくて、魔改造よ!?」
「むー!これでもこの泊地の防衛に、役立っているもん!」
思わずツッコみを入れてしまうアイオワに対し、秋津洲は頬を膨らませて説明する。
秋津洲自身は、海戦能力は皆無に等しいが、この相棒として心が通じ合っている二式大艇は、航続飛行距離が長い飛行艇であるらしい。
その特性を活かし、ショートランド泊地の周囲や、近くのブイン基地、ラバウル基地の状態等、広い範囲を確認する事が出来るらしい。
「長距離偵察能力は、装甲空母である瑞鶴さんも褒めてくれたんだから!海戦になったら、機銃やパンチで援護も出来るんだよ!」
「その時点で、十分魔改造な気もするけれど………でも、泊地の重要な戦力である事は、よく分かったわ。ごめんなさいね。」
どうやらかなり思い入れのある装備みたいだったので、アイオワは素直に自分の非を認める。
秋津洲は、それで機嫌を直したのか、笑顔で工廠の中を案内すると言ってくれる。
折角なので、彼女達は付いて行く事になった。
「まずは、見て欲しいのが艦娘デッキ!妖精さんが、ハンガーやクレーン、リフト等を駆使してくれて、自動で艤装を装備して、発艦できるシステムを作ってくれているんだよ!」
「また、とんでもない物を作っているわね………。アニメの見過ぎじゃないの?」
「ロマンと言って欲しいかも!」
その気になれば、複雑な機構を持った艦娘の艤装も、妖精さんの力で自動装備が可能であるらしく、秋津洲は得意げに胸を張る。
しかし………そこで、陽炎が少し苦笑しながら言う。
「凄いシステムだけど、私達、第零駆逐隊が使う機会はほとんど無いんです。艤装の機構が大型艦に比べれば単純だし、何より現場に急行しないといけないですから。」
「そう言えばそうよね………。」
「うーん、そこだけが残念かも………。」
基本的に第零駆逐隊は、自分で艤装等を準備して海まで走って桟橋から抜錨をするらしい。
このシステムは、一部の重量の重い艤装を使う大型艦しか、使われないのが現状だ。
「アイオワさんは、愛用してね!」
「まあ、艤装の都合上、ここでは使いそうだけれど………。」
アメリカでは、出撃の際は複数の整備員や妖精さんが、クレーン等で艤装を吊るし上げて、四苦八苦しながら装備していたのだ。
自動で装備して、出撃までできるシステムがあるのならば、愛用する事になりそうである。
続いて秋津洲は、やたらスチームパンク風の意匠が取り入れられたカプセルへと案内をする。
「これは………何?」
「改装用のカプセルかも。「改二」とかに改造をする時は、この中に入るんだよ!」
「そうなのね………。」
改装に関しては、特殊な整備室で行われる。
レトロなスチームパンク風な外見なのは、秋津洲の好みなのかは分からないが、改装する際は、この中に設置された部屋に、裸になって入り、特殊な液体で全身を包み込む必要があるらしい。
その液体は、艦娘だけに特殊な化学反応を起こすものであるらしく、場合によっては止まっていた身体の成長が、促進される事もあるとか。
但しこの改装は、その艦種で初めて行われる際は、ぶっつけ本番になる為、妖精さんのサポートがかなり重要になる。
最悪の場合、失敗して後遺症を残した事例もある為、慎重に行わなければならないのだ。
「あたしも改装出来る日が来るのかなー?オーソドックスな吹雪型は、吹雪が改装の経験をしているから、もう少し研究が進めば、イケると思うんだけど………。」
「ふふっ、深雪さんは改装への意欲が強いのですね。………でも、もう失わない力を手に入れる為には、必要な事なのかもしれません。」
改二という存在に、憧れているのだろう。
深雪と春風が、笑みを見せながら語り合う。
だが、アイオワにしてみれば、2人の………特に春風の言い回しが気になった。
もう失わない力………それが意味する物とは………。
「さて、次は………。」
「秋津洲さん………悪いのですが、そろそろ別の場所も案内したいので、アイオワさんを連れて行きますね。」
「あ、ゴメン!あたしだけが振り回しちゃいけないよね!」
初霜の言葉に、いつの間にか、時間が経過していた事に気付いたのだろう。
秋津洲が、手を合わせて頭を下げる。
アイオワは、気にしないでと笑みを見せて、手を振った。
――――――――――――――――――――
ここで秋津洲とは一旦別れ、工廠の外に出る事になった。
先程話題になっていたように、徒歩での出撃用に整備された道であるコンクリートで固められた道路を進むと、桟橋が見えてくる。
そこでは、白と赤の巫女装束風の色合いの弓道着を身に着け、黒髪のツインテールを風になびかせている艦娘が、弓から矢を虚空に飛ばしていた。
矢は空中で炎に包まれて艦載機となり、偵察の為に空を飛び回る。
彼女に関しては有名である為、アイオワも知っていた。
「もしかして………貴女が翔鶴型正規空母………五航戦の瑞鶴?」
「あ!貴女がアイオワね!私の事、知っていてくれて嬉しいわ!」
瑞鶴は弓を仕舞うと、アイオワの元に駆け寄り握手をする。
赤城と加賀の一航戦、蒼龍と飛龍の二航戦、そして、翔鶴と瑞鶴の五航戦の名は、アメリカを始めとした海外でも有名だ。
正規空母として空を支配するその姿は、深海棲艦に対する戦力として非常に心強かった。
「こうして会う事が出来て、嬉しいわ!五航戦の名も、健在ね!」
「随分、嬉しそうね………。」
「それはそうよ!だって本土で、この最前線泊地で戦う為に、赤城さんや加賀さんにビシバシ航空戦の基礎と発展を教えられたんだから!」
どうやら、一航戦の2人にみっちりと鍛えて貰ったらしく、本人もそれを誇りに思っているらしい。
師弟と呼べる関係があるのは、沢山の艦娘がいる日本ならでは。
アイオワは少しだけ、それを羨ましく思った。
「良い関係を築いていたのね………貴女達は。」
「まあね!指導は滅茶苦茶厳しかったけれど、生きる為に色々と伝授してくれたんだし。………それは、陽炎も同じでしょ?」
「あ、そこで私に振りますか………?」
少しだけ乾いた笑みを見せた陽炎は、不思議そうに見てきたアイオワに説明する。
実は、彼女にも師匠と呼べる存在がブイン基地にいるらしい。
「陽炎さんは、そこでバルジのトンファーとしての扱い方を習ったらしいです。後で、私にも教えてくれたんですが………私も弟子入りしようかな?」
「いやー、沖波はやめておいた方がいいよ?あの人、常に帯刀しているような人だし………。」
「それ、今度会ったら告げ口しようかな?」
「敷波!?止めてーーー!?」
慌てて陽炎が敷波をポカポカ殴ろうとするが、彼女はすたこらさっさと逃げて、軽い追いかけっこになる。
その様子に笑みを浮かべながら、瑞鶴はアイオワに言った。
「今は偵察任務中だから、また後で語り合いましょ!日本艦もいいけれど、ここには色んな国の艦娘がいるんだから、みんなと話すのも面白いわよ!」
「そう言えば、まだ日本艦にしか出会って無いわね。確か、ヒューストンの手紙だと、他にもドイツとかイタリアとか色々といるみたいだけれど………。」
「では、次は寮を案内するついでに、その人達に会いに行きましょう。」
初霜は、瑞鶴と別れると、まだ追いかけっこを続けている陽炎と敷波を呼び寄せて、寮へと進んで行った。
この泊地の工廠の主は、秋津洲。
二式大艇ちゃんの変形機構は、公式絵師の方のイラスト設定を参考にしています。
また、今回の作品では妖精さんが登場です。
彼女達の生態は謎ですが、居なければならない存在ですよね。
そして、改装用カプセルは、艦これ2期のアニメを参考にしました。
スチームパンク風なのは、作者の趣味です(オイ)。
大潮が(幻の)初期艦である設定は、艦これ改から取っています。
他にも睦月や時雨、川内型3姉妹が初期艦として加わってますよね。