蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第42話 ~一筋の光~

横須賀の懲罰艦隊に所属した、部屋の新しい住人である竹は、これから一緒に過ごすという理由で、沖波の過去を聞いてきた。

そして、その提督殺しの過去を聞いた上で、沖波を気遣ってくれた。

不思議な艦娘だと思いながらも、沖波と薄雲は、次に竹の過去を聞く事になる。

彼女は、少し不服そうな顔をすると、話し始める。

 

「実はよ、俺の所属していた呉近くの軍港都市でな………艦娘にセクハラを働く提督もどきがいやがったんだ。」

「そ、それは………。」

 

沖波は、思わず頭に手を当てる。

提督は男が大半。

それに対し、艦娘は文字通り女。

だから、たまに権力を笠に着て悪事を働く者がいる。

艦娘に対するセクハラはその顕著な例であり、本来ならば裁かれるべき罪だ。

しかし、竹がここにいるという事は………。

 

「セクハラを訴えようとして………逆に権力で有耶無耶にされたとか?」

「まあ、それもある意味事実なんだけどよ………その提督もどきが筋金入りの下種で、それでも俺の同胞へのセクハラを止めなかったからな………。だから………。」

「だ、だから………?」

 

沖波は、思わず青ざめる。

まさかと思うが、この竹はその提督を………。

 

「言葉で通じない相手には実力行使だ!俺が自らギッタギタのボッコボコにしてやったのさ!流石に命を奪うのは勘弁してやったが、それでも半殺しだ!ざまーみろ!!」

「え、ええ………?」

 

堂々と獣じみた笑みを浮かべる竹の姿に、沖波は思わず引いてしまう。

確かにセクハラは最低だと思うが、その報復で半殺しをしようとするのは、流石に笑えない話だ。

しかも、その結果、竹は懲罰艦隊に送られているのだから、考えなしというか………。

 

「あ………まさかと思うけど、呉の懲罰艦隊で手に負えなくなったのは………。」

「お、気付いたか!そうそう、そいつも最低野郎だったから、遠慮なくボコってやった。ここの成宮提督もいつまで持つだろうねぇ?」

 

ニヤニヤとしながら未来のあの提督の姿を想像している竹を見て、沖波は、今度は口をあんぐりと開ける。

この駆逐艦娘、色んな意味で懲罰艦隊を含め、艦娘としての生活を楽しんでいると。

 

「ぼ、暴力は良くないよね………薄雲さん。」

「………いいんじゃないのかな。」

「え………?」

 

それまで黙っていた薄雲の声に、沖波は振り向く。

彼女は、憂鬱そうな表情を浮かべていたが、沖波ほど竹の制裁行為に対して、嫌悪感を抱いているわけでは無かった。

むしろ、その暗い顔を見ていると、何かドス黒いものを感じさせる。

その表情に興味を浮かべたのか、竹が好戦的な笑みを浮かべて聞いてくる。

 

「へー、俺の制裁を認めてくれる艦娘は珍しいな。………って事は何だ?薄雲さんは、「提督」に対して恨みがあるのか?」

「どうだろう………只………。」

 

薄雲は光が無くなった目をしながら………それこそ成宮提督のような氷のような目をしながら呟く。

その言葉は、沖波に衝撃を与えるには、十分であった。

 

「もしも、1人だけ殺していいと言われたら、迷う事無く殺す人はいるよ。」

「!?」

 

どちらかといえば、薄雲は沖波自身と同じく、遠慮がちでよく言えば優しく、悪く言えば気の弱い艦娘だと思っていた。

しかし、この言葉を聞いた沖波は、薄雲の中にある鬱屈した想いに気付いてしまう。

 

「どういう………ことなの?」

 

気付けば思わず沖波は、薄雲に聞いてしまっていた。

だが、薄雲はその沖波を責める事なく、自分の首から何かしらのペンダントを取り出す。

先の方に括りつけられていたのは、指輪であった。

 

「この指輪って、ケッコンカッコカリの………。」

「私は東北の………大湊近くの軍港都市にいたんだ。そこでね、提督と結ばれたの。」

「ええっ!?」

 

とんでもない爆弾発言をした薄雲の言葉に、沖波は驚きを隠せない。

しかし、同時に妙に納得できる部分はあった。

薄雲は懲罰艦隊に置いても練度が高く、不十分な補給等の状態であっても、今まで轟沈はしていない。

それはつまり………。

 

「薄雲さんって………もしかして、練度限界突破してるの?」

「そうだね………多少は。」

 

練度限界突破。

それは、艦娘に一般的に備え付けられた肉体面や艤装面での強化の値を数値化した際に、最高の数値………99よりも、更に上に行く事を示している。

その為の手段が、ケッコンカッコカリという方法なのだ。

理由は未だに謎に包まれているが、一説によれば妖精さんとのシンクロ率が愛の力によって上がるからでは?という見解がある。

それ以上は、妖精さんの解剖等の悪行に繋がりかねないので、誰も知らない事になっているが………。

 

「薄雲さん、提督と結ばれたって事は何だ?愛し合ってたのか?練度限界突破の為の政略結婚とかじゃないよな?」

「大丈夫、私は「斉藤 久樹(さいとう ひさき)」提督とは、愛し合っていたから………でもね………。」

 

薄雲は俯きながら指輪を握りしめると絞り出すように言う。

 

「斉藤提督は………殺されたの。その活躍や順風満帆な生活を妬んだ同僚の提督に………。」

「………もしかして、薄雲さんって。」

 

沖波の声が震えた。

薄雲が懲罰艦隊に送られた理由。

それは………。

 

「罪を擦り付けられたの。私は夫殺しの妻という事で、この懲罰艦隊で罪を償う事になったんだよ………。」

「つ、罪って………!?冤罪だよ、それ!?」

 

実際に手に掛けたわけでも無いのに、懲罰艦隊に送られてきて地獄を見ている。

それは、あまりにも酷すぎると沖波は感じた。

竹も同じ感想なのだろう。

頭に片手を当てながら、溜息を付いていた。

 

「本当に裁かれる奴がのうのうと生きて、罪のない奴が地獄を見ている。大本営………というか、あの成宮提督は、そこら辺どうにかしてくれないのかねぇ………?」

「無理だよ。私達は罪人なんだから………。」

「……………。」

 

嘆息する竹。

諦めたような言葉を発する薄雲。

只々無言の沖波。

彼女達は、どうする事も出来なかった。

そこに………成宮提督の放送が、部屋の中に聞こえてくる。

 

「出撃だ。横須賀に近づいてくる深海棲艦の姿がある。足止めをせよ。」

 

「ちっ………早速、来やがったか。さて、ここでの初陣飾りますかねぇ!」

 

竹が立ち上がると真っ先に部屋を出ていく。

沖波と薄雲も、少し黙っていたが、やがて追いかけて行った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「………って、何だぁ?今回出撃するのは、俺達3人だけか?」

「他の艦娘が、体調不良を訴え出した。足止め役ならば、3人でも十分だろう。」

「何が十分だろう、だ。ぶん殴るぞ!」

「俺を殴った所で、出撃命令は変わらない。」

「ちっ………。」

 

艦娘の直感なのだろうか?

それとも、前日の疲れが取れていないのだろうか?

ほとんどの艦娘は、仮病を使って今回の出撃を拒否していた。

 

実は1ヶ月に1回くらいならば、こうした仮病を使っても、一応文句は言われない。

今思えば、これは成宮提督なりの気遣いだったのかもしれなかった。

 

とにかくその日は、嫌な予感を覚えながらも、沖波達3人が出撃する事になった。

人数が少なくて陣形を組む余裕もないので、単縦陣で竹、沖波、薄雲と進んで行く。

出撃前の悪い空気を変えようと、沖波が竹に話を振る。

 

「変わったスタイルだね………。」

「ん?そうか?そう言えば、俺は松型の中でも特殊だって言われてる。」

 

竹は右肩に機銃、左肩に艤装と接続した主砲の単装砲を装備しており、本人曰くステゴロスタイルであるらしい。

後は、右膝に四連装の魚雷を装備しているのが特徴か。

 

「いやー、実はよ。俺、砲戦苦手なんだ。雷撃戦は大好物なんだけど………それなら、ぶん殴った方が早いだろ?」

「それは、おかしいよ………。」

 

素直な感想を言う沖波であったが、相変わらず体力の消耗が早かった。

補給が満足にされていない為に、艤装を支える筋力も敵の攻撃に耐える耐久力も無い。

強力な敵が出てきたら一巻の終わりだなと思いながら、沖波は進んで行った。

すると………。

 

「敵艦発見だ!駆逐艦イ級2隻に軽巡ホ級1隻!………なんだ、楽勝じゃねえかよ!」

 

言うや否や、竹は突撃をしていく。

これ位の敵ならば、砲戦が苦手な竹でも苦労する事は無い。

沖波や薄雲の力を借りなくても、即座に敵を撃退した。

 

「大した連中じゃないな!俺を沈めたければ、もっと骨のある連中を………。」

 

しかし、そこで竹の動きが止まる。

海域の奥から、戦艦ル級が迫って来ていたのだ。

しかし、只のル級ではない。

身体が黄色に輝き、目に蒼炎が宿っている改フラッグシップ級。

 

「嘘………。」

 

思わず薄雲は呟く。

この近海には、滅多に現れないような凶悪な深海棲艦。

すぐさま竹は電探を使った通信で、成宮提督に伝える。

 

「おい、提督よぉ………。不味い深海棲艦がいるんだが?」

「たった今、指示が来た。………お前達3人で撃沈しろ………だろうだ。」

「撃沈って………。」

 

沖波は、絶望をする。

撤退は許されない。

増援も期待出来ない。

勿論、敵前逃亡は即座に極刑だろう。

 

「もしも奴の侵攻を許したら、横須賀に甚大な被害が出る。………何としても、撃沈しろ。」

「簡単に言ってくれるぜ。………さて、どうしたものかねぇ?」

「………もう無理だよ。」

「ん………?」

 

苦笑する竹に対し、沖波は主砲を下げてしまい、落胆して呟く。

今まで艦娘として、それなりに生きて来たからこそ分かる。

この状況を打破する手段は、無いと。

 

「おいおい、沖波さん………。」

「私達は、ここでバラバラの肉塊になるんだよ。それが、私達の罪の償いなんだ。そして………。」

「バカ言ってんじゃねえぞ!!」

「へにゃっ!?」

 

思いっきり顔面を殴られた事で、沖波はまた変な声を上げて後ずさる。

薄雲が慌てて支えるが、そんな2人を見て竹は叫ぶ。

 

「お前ら、艦娘だろ!?………あの成宮提督はいけ好かないが、言っている事は今の所は正しい!俺達がやられたら、横須賀で被害が出る!それがどういう事か分かるか!?」

「えっと………。」

「そしたら、罪のない奴らの命が奪われるんだ!その中には生まれたばかりの赤子や未来に馳せる子供もいる!それを黙認したら、俺達をここに追い込んだ屑共と何ら変わりねえ!!」

「っ!?」

 

拳を握りしめた竹の言葉に、薄雲の目が見開かれる。

沖波は自分の肩を支えてくれている彼女の手が震えているのを感じた。

その薄雲が、俯き絞り出すように呟く。

 

「それは………嫌………。」

「だろう!?艦娘が、民衆を守る事を放棄してどうするんだ!?俺はそんな不条理は許せねえ!!」

「竹………薄雲さん………。」

 

沖波は、2人の様子を見て考え込む。

艦娘としての義務や誇りなんて、ここしばらく全く考えていなかった。

懲罰艦隊にいたからではない。

思えばもっと前に、大切な仲間である若葉を失った時から、そんな感情を消してしまっていたのかもしれなかった。

 

「やるぞ!沖波さん!薄雲さん!絶対にあの深海棲艦をぶっ潰すんだ!守るんだよ、俺達が!!」

「……………っ!」

 

沖波は歯を食いしばると顔を上げる。

その決意表明で、何が変わるか分からなかった。

でも、何もしないよりはマシだと思えた。

だから、彼女は叫んだ。

 

「………教えて!竹!私達で、守る方法を!!」

 

沖波の叫びに、薄雲も頷き呼応する。

竹は満足したような表情を見せると、電探で素早く作戦内容を伝えた。

 

この艦娘………竹は、その頃の沖波や薄雲にとって、一筋の光とも言えるような存在だったと言えるだろう。

彼女が来た事で、2人の艦娘の心にも火が付く事になる。

これは、その一歩目であった。




ダメ、艦娘へのセクハラ!…と言わんばかりの竹の鉄拳制裁。
同僚の艦娘が酷い目にあっていたら、助けようとするのは分かりますよね。

一方で薄雲は、完全に冤罪で懲罰艦隊に送られる羽目になって…。
ここの彼女は、練度が3桁に到達しています。

リーダーシップに長けた竹。
改二艦の沖波。
練度3桁の薄雲。
懲罰艦隊でも、実は彼女達3人の力は抜きんでいます。
だからこそ竹は、自分達で横須賀を守らないといけないと、奮起したとも言えます。
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