ル級改は、3人の駆逐艦娘達を射程に入れた事で、笑みを浮かべていた。
深海棲艦の中でも、高度な知能を持つ改フラッグシップ級の戦艦は、どのように絶望を与えてやろうか考えていた。
だが、その3人の艦娘は急に闘争心を見せ始めた。
苛立ちを募らせるには、十分だったのだろう。
その盾のような腕の砲門を一斉に3人に向ける。
「いいか?射程が「長」にもなると、砲撃角度が山なりになる。つまり、身を低くすれば、俺達のような小柄のような艦娘は突っ込めるってわけだ。」
竹が経験則を元に指示を出す。
敢えて動かず、主機に力を貯める。
そして、砲撃が放たれる瞬間に………。
『今だ!!』
竹、沖波、薄雲の3人は、一斉にスタートを切る。
飛び出した3人の頭上をル級改の砲撃が通過し、背後で水柱を上げる。
そして、戦艦のお約束として、主砲を一斉に放つと、連射が効かない。
「さーて!いっちょやってやるぜ!」
竹は叫びと共に、魚雷を2本だけ放つ。
ル級改は両腕の盾で雷撃を防ぐ。
これでは、雷撃戦が得意な竹と言っても、ダメージはほとんど無い。
勝ち誇った表情を見せたル級改は、次弾装填をし、接近する艦娘に対応しようとする。
しかし、爆発の煙は、駆逐艦娘達の姿を隠してしまっていた。
故に、敵艦は驚く事になる。
沖波が主砲を基部にマウントし、素手で向かって来た事に。
「私は………格闘戦は駄目だけど………!」
沖波は、敵艦の砲門の射程外まで潜りこむと、盾を掴む。
そして、声の限りに叫ぶ。
「う、うああああああああああ!!」
両脚を広げ、とにかく思いっきり身体に力を入れると、残っていた気力を振り絞り、盾をこじ開けていく。
これにはル級改も驚き、挟んで押し潰そうとするが、沖波は自分の体をねじ込み、そうはさせまいと気合を入れる。
「竹ーーー!!」
「任せろ!!」
その沖波の身体と盾の間を潜り抜け、竹が敵艦と距離を詰める。
零距離になってしまえば、喧嘩の得意な彼女の出番だ。
敵艦の顔を思う存分殴っていく。
「オラオラオラオラオラーーーッ!!」
「ガァァァァァァァァァァァァッ!?」
思う存分ぶん殴った所で、空いた口に素早く魚雷を押し込んでやる。
そして、彼女もまた、必死に踏ん張る沖波の頭を押し下げながら叫んだ。
「薄雲!!」
「決める………!」
最後に主砲を構えて突っ込んできた薄雲が、主砲を放つ。
同時に沖波と竹は、後ろに飛んだ。
薄雲の放った主砲は、ル級改に押し込まれた魚雷に当たり、信管を作動させる。
次の瞬間………派手な爆発が、起こった。
「や、やった………?」
薄雲が震える中、煙の中からル級改が現れる。
ダメだったか?と一瞬全員が思ったが、その頭部は綺麗に吹き飛んでいた。
そして、後ろに倒れ込むようにしながら、沈んでいく。
『……………。』
3人は顔を見合わせる。
竹ですら、一瞬、目の前で起こった事実が信じられなかった。
だが、彼女達は理解する。
ル級改を………命令通り、撃沈出来たのだと。
『やったーーーっ!!』
「どうだ!ざまーみろ!!やってやったぜーーー!!」
思わず水面にダイブして来た薄雲と、笑顔で海の上で抱き合う沖波。
竹に至っては、これ見よがしに通信を開き、成宮提督に遠慮なく大声で叫ぶ。
こんな勝利に酔いしれる事が出来たのは、久々かもしれない。
轟沈した艦娘はいない。
敵艦は撃沈し、横須賀は守られた。
文字通り、「完全勝利」と言える、最高の結果であったのだ。
『勝ったーーーっ!!』
竹は勿論、沖波と薄雲も声の限りに叫んだ。
3人は見事に、任務を果たしたのだ。
――――――――――――――――――――
『乾杯ーーーっ!!』
帰投した3人は、部屋でコップを合わせた。
入っているのは安物のお茶であるが、それでも酔える気分であった。
実際に、それだけの事をやり遂げたのだから、当然であろう。
「やっぱり、竹のお陰だよ!竹の閃きのお陰で勝てたんだもん!」
「何言ってるんだ!沖波さんと薄雲さんが、必死に信じてくれたからだろ!?」
「うん………!竹と沖波のお陰で、私も信じて撃つ事が出来たんだし………あ。」
薄雲が思わず口を塞ぐ。
調子に乗って彼女は竹だけでなく、沖波まで呼び捨てで呼んでしまったからだ。
だが、沖波自身は悪い気がしなかった。
「沖波でいいよ。」
「でも………。」
「じゃあ、私も薄雲って呼ぶ。これでいいんじゃないかな?」
「………ありがとう、沖波。」
「おお!いいねいいね!友情の進展ってヤツか!?泣かせるじゃねえか!?」
「竹も私達の事を、呼び捨てで呼んでくれると嬉しいんだけど………。」
「馬鹿言え。これは俺なりのケジメだ。」
もしかしたら、本当に勝利という名の美酒に酔いしれているだけなのかもしれないが、沖波も薄雲もこれでいいと思った。
思えば、竹が来るまで、お互い余所余所しい所があったからだ。
むしろ、洗いざらい過去を話せた事で、そんな遠慮をする必要もなくなったのかもしれない。
そう言う意味では、竹には感謝しか無かった。
しかし、ここで彼女は気になる事を言う。
「いやー、でもあの成宮提督もビビったんじゃねえの?俺達が大物食いをやってのけたんだからよ?」
「さ、流石にそれは無いと思うんだけど………。」
「うん、結構落ち着いているというか………冷たい人だし………。」
竹はニヤつくが、沖波と薄雲は遠慮がちにツッコみを入れる。
あの提督が、これ位の結果で何か対応が変わるとは思えなかったからだ。
だが………。
「駆逐艦沖波、駆逐艦竹。今、時間は大丈夫か?」
そこでノックと共に、その成宮提督の声が聞こえてくる。
何事かと思い、竹が扉を開けると、彼は真顔で告げて来た。
「今回の活躍を受けて、大本営から強化処置命令が出た。」
「強化………処置?何だ?何かの「ご褒美」でも貰えるのか?」
「ある意味、そうとも取れる。」
竹と沖波は、顔を見合わせる。
2人は、心配そうに見る薄雲に大丈夫だと告げると、成宮提督に付いて行く事になった。
――――――――――――――――――――
2人が案内された場所は、工廠内の立ち入り禁止区画であった。
そこは、研究員がしきりに何かのデータを取っており、不気味な雰囲気がある。
「何だよ、この気味の悪い場所は。俺達の身体を弄る気か?」
「それも考え方によっては、あっている。………勿論、返答次第だが。」
「えっと………それって?」
怖い想像をし始めた沖波に対し、相変わらずのポーカーフェイスで、成宮提督は言う。
「沖波は左目、竹は右目を海戦で失っている。今回の海戦を受けて、その部位を手術して、義眼のテストを行なおうと大本営で意見が出た。」
「義眼………?」
「なんだなんだぁ?俺達を実験兵器のモルモットにしようってのか?」
「その考え方も、間違いでは無い。」
食い入るような竹の言葉であったが、成宮提督は動じない。
恐らく竹は、自分の身体に機械を埋め込む事に嫌悪感を抱いていたのだろう。
だが、沖波はそこまで悪いイメージを持っていなかった。
それもそのはず………彼女のショートランド泊地での仲間に、義腕を付けている艦娘がいるのだから。
「あの………義眼を付けると、強くなれるんですか?」
「視界が確保できるから、それだけでも海戦での生存率が上がる。様々な機能も付いているから、便利ではあるらしい。」
「様々な機能って………どういう機能だよ?」
「ズーム機能、探照灯、録画装置………。」
「完全に実験動物の扱いだな………。」
やはり、竹はあまり乗り気では無いらしい。
だが、沖波は初霜の事を考えると、少しだけだが、前向きな言葉が出て来た。
「………義眼を付ける事のメリットとデメリットは、何かありますか?」
「沖波さん………付けたいのか?」
「折角呼ばれたんだから、聞くだけ聞いておきたくて………。」
頭ごなしに否定しない沖波は、成宮提督の目を見て聞いてみる。
彼は、少しだけ目を伏せると答えてくれた。
「デメリットは、神経接続の痛みだ。定期的にメンテナンスが必要だから、その度に死ぬ程痛いらしい。」
「うわ………そりゃ、ゴメンだ………。」
「メリットは?」
思わず引いてしまう竹であったが、沖波は構わずに聞き続ける。
すると、成宮提督はこう告げた。
「………実験台になる以上、下手な轟沈を避けるように、万全の状態で海戦に臨めるように、待遇が改善される。」
「それは………、補給や入渠、食事とかが、しっかりと取れるという事ですか?」
「!?」
沖波の言葉に、竹の左目が見開かれる。
つまり、普通の艦隊で戦うのと同じ処置が取られるという事だ。
その沖波の意図を察した竹が、拳を合わせて聞く。
「つまりなんだ………?俺達が実験兵器になれば、懲罰艦隊の扱いも変わると?」
「変わるのは、お前達2人だけだ。」
「即答かよ!?努力義務は無いのか!?」
「俺にそこまでの権限は無い。」
「あー、はいはい………つまり、悩める中間管理職ってわけね。」
竹は皮肉たっぷりに言ってのける。
沖波は、彼女の言葉を聞きながらも、一番言いたい事を告げる。
「同部屋の薄雲の待遇だけでも、変えられませんか?」
「そうだな………。俺達のモチベーションに響く。これだけは譲れねぇ。」
「………1人分だけならば、融通が利かないか交渉してみよう。」
そう言うと、成宮提督は近くの電話に手を取り、交渉を始める。
やがて、長い会話が行われた後に、受話器を置いて戻って来た。
「交渉成立だ。お前達3人分の待遇は改善される。」
「だったら決まりだ!その強化処置ってヤツ………受けてやるよ!」
「私も受けます。………これで、いいでしょうか?」
「承認した。では、今から手術を行う。」
その後、手術の為に部分麻酔を掛けられたとはいえ、沖波と竹は死んだ方がマシなのでは?と思えるような神経接続の痛みを堪える形になる。
そして………沖波は左目に、竹は右目に義眼を手に入れる事になった。
――――――――――――――――――――
「へー………こいつは、結構便利だな。」
手術を終えた竹は、ズーム機能等を試しながら、感慨深げに呟く。
沖波も同じように、探照灯で壁を照らしながら、その機能を把握していく。
こんな形で新しい力を手に入れられるとは思っていなかったので、強化された自分自身を確かめていく。
「特に異常は無いよね。神経接続も一度繋いでしまえば、自分の身体と同じ感覚で扱えるみたいだし。」
「………だな。とにかく、これで俺達は待遇が良くなるって話だ。」
「良くならなかったら?」
「あの提督をボコる。」
「やっぱり、そこは変わらないんだね………あ。」
物騒な事を呟く竹と共に、手術室から出て来た沖波は、部屋の外で待機している成宮提督を見る。
彼の隣には、薄雲がいた。
「竹………沖波………。」
「よう、薄雲さん!どうだ!失ってた目を取り戻したぜ!喜べよ!これで、俺達の待遇も………うおっ!?」
笑顔で話しかけようとした竹と沖波は、驚く。
薄雲がいきなり2人に抱き着いて来たからだ。
「薄………雲………?」
「良かった………2人が無事で………。良かったよぉ………!」
「………悪ぃ。心配掛けたみたいだな。」
長時間、部屋を留守にした事で、不安にさせたのだろう。
一応、義眼の手術を受ける事は、成宮提督から伝えられたのだろうが、自身の待遇改善の為に2人が要求を呑んだ形であった事が、余計に薄雲の心配に拍車を掛けたらしい。
2人にしがみ付いて泣きだす薄雲の肩を軽く叩きながら、竹は謝った。
沖波も、同じように薄雲の背中をさすりながら、謝罪する。
「ゴメンね、薄雲。でも、これで私達、生き残れるから………。」
「うん………うん………!」
絆を深めた3人の様子を見ながら、成宮提督は静かに佇んでいた。
相変わらず、その目は氷のように冷たい。
だが、3人の抱擁を邪魔する事もしなかった。
強敵を退け、深まる3人の友情。
竹の加入によって、沖波と薄雲の間の絆も深まる事になりました。
そして、その功績により、沖波と竹は義眼を手に入れる事に。
懲罰艦隊にいながらでも、深められる友情もあるとは思います。
さて、そんな彼女達3人に、これから待っている事は…?