蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第44話 ~立場の利用~

『……………。』

 

次の日の、朝食の時間。

竹、沖波、薄雲の3人は、思わず顔を見合わせていた。

用意された食事は、御飯に目玉焼きに味噌汁にサラダにソーセージ。

どう見ても、今までのひもじさとは掛け離れた、贅沢な内容であった。

 

「………マジだよな?」

「うん、私も本当だと思う………。」

「これが、待遇改善………?」

 

三者三様で呟きながら、恐る恐る食事を手に取り口にしていく。

味も淡泊な物ではなく、旨味があった。

正直、こんな贅沢な朝食が食べられるのは、久々である。

 

「うめえ!ヤバい!食欲が出て来た!」

「どうしよう………涙が出て来た………。」

「お、沖波………でも、本当に久しぶりに沢山食べられそう。」

 

満面の笑みを浮かべながら、まともな朝食を食べていく3人。

ゆっくりと味わいたいと考えながらも、欲求には逆らえず、思わず早食いをしてしまった艦娘達は、食べ終えると満足そうにお腹をさする。

この満腹感も、かなり久々であった。

 

「文字通り、生き返った気分だ。」

「うん、その気持ち分かるよ。」

「何か………夢みたい。」

 

まともな食事を提供された事で、どれだけ不相応な食事を取らされていたかを、改めて実感する3人。

しばらく動く事はせず、その満たされた感情を味わう事にした。

 

この贅沢と思えるような食事は、昼食と夕食でも続く事になる。

ここまで来て3人は、夢ではないと、ようやく把握する事が出来た。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

待遇の改善は、海戦でも発揮される。

燃料等の艤装への補充はしっかりと行われる事になり、万全の状態で抜錨する事が出来た。

艤装は軽く、思わずステップを踏みたくなる位に身軽であった。

 

「懲罰艦隊に入る前の自分の感覚を、今更ながらに思い出してしまったよ。」

 

夜間に出撃をする事になった沖波達は、補給の有難みも実感する。

今回は、竹、沖波、薄雲の3人以外にも、4人の駆逐艦娘が懲罰艦隊から集められる事になったが、明らかに道中の時点で動きが違っていた。

補給をされている事と、食事を与えられている事が、ここまでモチベーション等に影響を与える事になるとは、正直、思わなかったのだ。

 

「今の俺達なら、何でも出来そうだな!」

「竹、油断は禁物だよ。………でも、前の私よりは力を発揮できる気がする。」

 

好戦的な竹はともかく、優しい性格である薄雲も、今回の海戦では勝気な笑みを見せていた。

今の自分達は、前までのどうしようもない自分達とは違う。

それは沖波も自覚出来ているので、引き締まる思いであった。

 

「敵艦が見えて来た!竹、私が探照灯着けるね!」

「じゃあ、俺は一応録画しておくか。義眼のテストしておかないと、後々、あの提督は五月蠅いからな。」

 

待遇改善の等価交換と言えばいいか。

竹と沖波は、独自に与えられた任務である義眼の機能を使い、性能をチェックする。

後で、その機能の感想等も報告書に纏めないといけなかった為、ここはしっかりと海戦で活用した。

深海棲艦は勿論、沖波達を狙ってくるが、元々の練度が高い彼女達にしてみれば、十分な補給がされていれば、横須賀周辺の敵に苦戦はしない。

モチベーションが高まっている事もあり、敵艦達を圧倒していった。

 

「ざっと、こんなもんかねぇ?」

 

得意の雷撃で最後の敵艦を片付けた事で、竹は拳を合わせて笑みを見せる。

成宮提督に敵艦を撃沈した事を通信した彼女達には、帰投命令が出る事になる。

 

「おーい、帰投だとよ。さっさと帰るぞ………って、沖波さん?」

 

沖波は静かになった海域で、懲罰艦隊の仲間の艦娘達を見ていた。

待遇が改善されたのは、沖波と竹と薄雲の3人だけだ。

他の艦娘達は、今もまだ簡素な食事と不十分な補給で耐える事になっている。

沖波達は、帰投後に入渠する事が許可されているが、それ以外の艦娘達は、滅多な事では入渠も許されない。

沖波は、電探を使わず、ひっそりとした声で、竹と薄雲に告げる。

 

「………私達も竹が来る前は、あんな感じだったのかな。」

「そうだと思う………本当に、よく生き残れたよね。」

 

フラフラと幽霊のように、生気が無い状態で帰投していく4人の艦娘達を見て、沖波と薄雲は気の毒そうに呟く。

竹は、その姿を眺めながら、何かを考えていた。

そして………。

 

「そーだ!」

 

拳を合わせると、彼女はニヤリとあくどい笑みを浮かべた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

帰投して入渠を済ませて、義眼に関する報告書を纏めた竹は、部屋に戻ると沖波と薄雲を集めて床に座り込み、ヒソヒソ話を始める。

いきなり何をするのか?と思った2人に対し、竹はニヤつきながら話し始めた。

 

「なあ、沖波さん、薄雲さん。………ギンバイって知ってるか?」

「ギンバイって………。」

 

簡単に言えば、軍の中で、食料などの備品を倉庫から泥棒してくる行為だと把握していた沖波と薄雲は、思わず顔を見合わせる。

ここで、この話題を出すって事は、まさか………。

 

「た、竹!?まさかギンバイを………はにゃっ!?」

「声がでかい。」

「ひゃ、ひゃい………。」

 

得意の顔面パンチを喰らった沖波は、鼻を押さえながら竹の話を聞く事になる。

彼女は、もうすぐ深夜0時になりそうな時計を見つめると、2人に真剣な顔で言った。

 

「さっきの海戦で分かったと思うが、俺達3人以外は、未だに待遇が悪すぎる。あのままじゃ、いずれハチの巣になる艦娘が出るだろうよ。」

「………もしかして、竹がギンバイを提案した理由って?」

「別に、いたずらとか嫌がらせとかでやるわけじゃねぇ。そいつらに、少しでも腹のタシになる食い物や、艤装用の燃料を手に入れられればいいと思ってな。」

 

3人が積極的に戦う事で、海戦での被害は少なくなるだろう。

だが、それでも守れる範囲には限界がある。

そこで、竹が考えたのが、積荷を保管してある倉庫から、備品を盗んでくる事であったのだ。

しかし、そこで薄雲が一言。

 

「わ、私達がやる必要ってあるの?」

「むしろ、俺達だからやるべきなんだよ。………考えてもみろ、懲罰艦隊の罪人がギンバイなんてやらかしたら、普通は一発で極刑だ。だが、俺達は違う。」

「そっか………。私と竹は義眼のテストをしなければいけないし、薄雲も私達のモチベーション維持の為に、下手な扱いは出来ないから………。」

「沖波さん、理解が早くて助かるぜ。」

 

竹は、義眼の実験兵器扱いにされている立場を、逆に利用しようと考えているのだ。

そう言われると、沖波も妙に納得できる部分はあった。

 

「どうだ?俺はギンバイをしたいんだが………。」

「みんなの為なら私も………。」

「わ、私は………。」

「ん?薄雲さんは、嫌なのか?まあ、無理強いは出来ないけど………。」

 

少し、残念そうに頭をかいた竹に対し、薄雲は慌てて手を振って否定する。

 

「う、ううん。私も賛成だよ。みんなが苦しんでいるのは、見ていられないし………。」

「よし、じゃあ早速行こうぜ。」

「行くって………今から?」

「善は急げだ。さっさと貰う物貰っちまおうぜ。」

 

竹はそう言うと、強気な笑みを見せながら立ち上がった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

倉庫は、当然ながら夜通し衛兵が管理をしている。

眠そうにあくびをしながらではあるが、山積みになった荷物を盗まれないようにしているのだ。

その部屋に、こそこそと忍び込んできた3人は(意外と部屋に着くまでの見張りの配置が杜撰で、簡単に入り込めたというのもあって)、どうすればいいか低姿勢で話し合う。

 

「どうやって、この状態でギンバイを………?」

「沖波さん、ちょっとあの衛兵と会話してきてくれ。」

「ふぇっ?」

 

竹に言われた事で、沖波はおずおずと正面から衛兵の元に行く。

当然ながら、呼び止められる。

 

「待て、貴様。どうしてここにいる?」

「えっと………迷い込んでしまいまして………ここは、何処でしょうか?」

「懲罰艦隊の奴か………全く、あの提督、それくらいしっかり管理を………うわあ!?」

「ええっ!?」

 

衛兵の悲鳴に、沖波はビックリする。

積荷の背後に回り込んだ竹が、山を蹴り崩したのだ。

当然ながら、荷物は衛兵に雪崩のように崩れてきて動きが封じられる。

 

「うし!盗る物盗って撤収だ!」

「ご、ごめんなさい!」

 

その間に薄雲と共に、必要な缶詰等の食料品等を回収した竹が、素早く倉庫を飛び出す。

どう見ても、手慣れた様子であった彼女に、沖波と薄雲は驚きを隠せなかったが、慌てて倉庫を出ていく。

かなりの戦利品を回収した3人は、自室へと駆け戻って行った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

竹は、懲罰艦隊の仲間の部屋を順に回りながら、回収した戦利品を配って行く。

その度に、贅沢品が貰えるとは思えなかった仲間達は、涙を流しながら彼女に感謝をしていた。

それだけ、身体的にも精神的にも追い込まれていたと言えるのだ。

沖波と薄雲は、ギンバイをした事に背徳感を覚えつつも、嬉しそうに盗んだ品を頬張る仲間達の姿を見て、待遇の悪さがここまで影響している事を、改めて実感した。

 

「………私達は、まだ幸せ者なのかもしれないね。」

「……………。」

「………薄雲?」

「あ、うん………そうだね………。」

 

どちらかと言えば、自己犠牲精神が強い沖波は、自分達が泥を被る事で、皆が幸せになれるならば………と思っていたが、似たような性格であるはずの薄雲は無言であった。

沖波は首を傾げつつも、慌てて誤魔化す彼女の様子に、違和感を覚える。

 

………今思えば、この違和感に対し、もっと危機感を覚えるべきだったのかもしれない。

沖波自身も、竹自身も………何故ならば、薄雲は、ここから徐々に追い込まれていくのだから………。

 

 

「あ………。」

 

沖波は、通路の向こう側に立っている人物に気付く。

それは、成宮提督であった。

ギンバイ行為に対し、罰則が下されるのだろうか?と思ったが、彼はしばし無言でこちらを見つめた後、去っていく事になる。

 

(竹の言う通り、私達が実験兵器だから強く出られないのかな………?)

 

沖波は疑問を抱いたが、やがて睡魔が彼女を襲う。

時間にしてみれば、夜の1時。

そろそろ眠っておきたかった。

 

「んじゃ、眠ろうかね。」

 

それは竹も同じであったらしく、部屋に戻る。

元々は2人部屋である為、ベッドは1つ足りない。

その為、竹は床で寝袋に入って眠っていた。

沖波と薄雲は、自分達のベッドを使ったらどうだ?と言った事もあるが、竹がここは頑として譲らなかった。

彼女は、素早く寝転ぶと、満足そうに寝息を立て始める。

遅れて沖波と薄雲は、それぞれ二段ベッドの上と下で眠る事になった。

 

「……………。」

「………ねえ、沖波。」

「ん?何、薄雲?」

 

薄雲の不安そうな言葉を受けて、沖波はギンバイの罪悪感が強かったのか?と思って応える。

実際に、その時の薄雲から出て来た言葉は、ギンバイに対する話であった。

 

「………私達、正しい事をしているのかな?」

「分からないよ。でも………竹の言う通り、みんなが喜んでくれているんだし………。」

「ゴメンね………変な事聞いて………。」

 

それで、沖波と薄雲も眠る事になる。

 

………これを機に、彼女達3人の中で、密かにすれ違いが生じる事になる。

竹は、皆の為だと言って、ギンバイに精を出す事になる。

沖波は、皆の待遇の改善を望んで、竹に付いて行く事になる。

だけど薄雲は………。




ギンバイという言葉は、ラノベ「陽炎、抜錨します!」を読んでいる人は知っていると思います。
あの話では、刹那的に生き、スリルを求める駆逐艦ならではの行動でしたね。
今回の話では、竹達3人が、仲間達の為に行う事になっています。
只、薄雲の反応が…?
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