蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第45話 ~帰りたい故に~

それから、約半年間の間、沖波は竹と薄雲と共に、色んな意味で刺激の強い懲罰艦隊での生活を送った。

海戦では、義眼のテストを真面目にこなす。

そして、帰投したら3人で、倉庫に潜りこみギンバイをする。

注意される事は多々あったが、衛兵達も沖波と竹が、大本営の実験兵器を兼ねているという事を知ると、そこまで強くは出なかった。

もしかしたら、彼らも心の底では、不相応な待遇を受ける艦娘達に対し、何かしらの後ろめたい物を感じていたのかもしれない。

成宮提督に至っては、完全に無視していた為、竹は好き放題やろうと決めていた。

 

(色々疑問はあるけれど………みんなが幸せならばいいよね。)

 

懲罰艦隊のモチベーションは上がり、竹を中心にして、皆が任務をこなせるようになった。

勿論、中には無茶な物もあったが、竹の持つリーダーシップもあって、困難な物であっても、諦める事無く、戦う事が出来るようになった。

沖波は、いつしかその生活に充実感を覚えるようになっていた。

 

(楽しんで罪を償えるなんて………私、幸せ者なんだなぁ………。)

 

苦しんで死ぬのが自分の贖罪だと思っていたのが、竹と薄雲と共に、生きたいと思えるようになった。

本当に、沖波にとっては幸せだと感じたのだ。

そして、それは竹と薄雲も同じ想いだと考えていた。

………沖波自身は。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「……………。」

 

ある日の事、波止場に薄雲は座って、潮風に吹かれていた。

本来は、懲罰艦隊の者が、軍港都市の拠点を自由に動き回って良いわけでは無いのだが、沖波・竹・薄雲の3人に限っては、そうでは無かった。

一足先に義眼のメンテナンスを終えて来た沖波は、そんな薄雲を見つけると、妙な違和感を覚えてしまい、近づいていく。

 

「隣、座っていい………?」

「うん………。」

 

沖波は、薄雲の横に座り込むと、静かに一緒に海を見つめた。

たまに横目で薄雲を見るが、何処か心がここにあらずと言った感じだ。

 

「どうしたの、薄雲?何か様子が………。」

「ねえ………沖波。私達って、いつまで、こうしていればいいのかな?」

「いつまでって………今の生活、楽しく無いの?」

「……………。」

 

即答出来ない薄雲の様子を見て、沖波は頭の中で何かの警鐘が鳴る。

薄雲の顔を覗き込むと、彼女は俯き呟き始めた。

 

「………みんなの為に、ギンバイをする竹は正しいよ。みんな、苦労しているもの。みんな、喜んでくれているもの。でも………私達の罪状は償えているのかな?」

 

ここで沖波はハッとする。

薄雲は、沖波や竹と違い、冤罪でこの懲罰艦隊に送られてきた。

それだけでない。

彼女は、提督である夫を謀り殺されて、罪を着せられたのだ。

更に言えば、その謀った同僚の提督を、殺してやりたいというドス黒い感情も抱いている。

何よりも………。

 

「あの人は………斉藤提督は………こんな私の姿を………どう思っているのかな?」

「う、薄雲………?」

「懲罰艦隊で、堂々とギンバイをして………より罪状を重ねて………私は………。」

「それは………!」

 

沖波は、すぐには答えられなかった。

ここで彼女は悟る。

気付かない内に、薄雲は追い詰められていたのだ。

夫の仇を討つことが叶わず、その上、背徳感を覚える行為をずっとしている。

自分の想いを、言い切ったからだろうか。

薄雲はポロポロと涙を流し始めた。

 

「帰りたい………大湊に帰りたいよぉ………あの人との思い出の地に、帰りたいよーーーっ!!」

「しっかりして、薄雲!?」

 

手で顔を押さえて首を振りながら、泣き始めた薄雲の姿を見て、沖波は何とかなだめようと必死になる。

このままだと、薄雲は壊れてしまう。

沖波はそう危惧した。

そこに………。

 

「あ………。」

 

彼女は気付く。

遠くで竹が、2人の様子を見つめているのを。

その表情には感情が無く、何を考えているのか分からなかった。

 

「……………。」

 

沖波は立ち上がると、竹の元に向かう。

そして、彼女の前に立つと言った。

 

「竹………もう、ギンバイは止めよう。」

「………馬鹿言え。俺達がギンバイを止めたら、他の奴らが死んじまうだろうが。」

 

即答だった。

竹は、自分の意見を曲げなかった。

自分が正しいと思っている考えを。

それが竹の良い所であり、悪い所でもあった。

故に、沖波は………怒りの感情を抱く。

 

「竹は………薄雲がどうなってもいいの!?」

 

気付けば、沖波は声の限りに叫んでいた。

正直、自分自身が、ここまで激情を抱える事が出来るなんて、思っていなかった。

だが、沖波自身も良くも悪くも、竹の言葉で頭に血が上ったのだ。

そして、自分の考えを曲げない竹も、反発をする。

 

「じゃあ、他の奴らがハチの巣になっていいのか!?沖波さんも薄雲さんも、そんな冷たい艦娘だったのかよ!?」

「冷たい艦娘なのは、竹だよ!薄雲がこのまま壊れたら、竹は責任取れるの!?薄雲は、冤罪でここに入れられているんだよ!?」

「この………分からず屋が!!」

 

竹は沖波の顔面を殴って来る。

いつもならば、それで沖波は怯んでしまう竹の鉄拳。

だが、今の沖波は喧嘩腰だった。

殴って来た竹の拳を両手で掴むと、そのまま背負い投げで波止場のコンクリートに叩きつける。

 

「なっ!?」

「分からず屋なのは………どっちなの!?」

「ぐわっ!?このっ!!」

 

そのまま覆いかぶさるように殴り掛かる沖波に対し、竹も頭に血が上り、体勢を何度も入れ替えながら反撃を試みる。

気付けば、取っ組み合いの大喧嘩になった沖波と竹を見て、慌てて薄雲が止めに入る。

 

「や、止めて!お願いだから、2人共止めて!!」

 

それでも、しばらく沖波と竹は、お互いを殴り続けた。

その大喧嘩は、お互いが疲れ切るまで続いた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その日の夜は、3人共無言であった。

ギンバイも、毎日行うわけでは無い。

今日は幸いにもその日であった為、気まずい状態で決行する事は無かった。

 

「……………。」

 

沖波は、二段ベッドの上で、中々寝付けなかった。

下のベッドでは、薄雲がしばらく泣いていたのが分かったが、やがて寝息を立て始める。

それを確認したのか、寝袋にくるまっていた竹が、喋り始める。

 

「沖波さん………1つだけ、聞いてくれ。」

 

沖波は何も言わない。

昼間に取っ組み合いの派手な大喧嘩をしたため、後ろめたい想いがあったとも言えるが。

とにかく、竹は構わず喋る。

 

「俺は………自分が間違っているとは、思っていない。………俺自身が馬鹿だからな。」

 

天井を見上げているのだろう。

竹は、決意と共に言う。

 

「でも、馬鹿でも何でも、取捨選択はしないといけねぇんだ。俺達は環境に恵まれている。だから………間違っていないはずなんだよ………。」

 

自分自身の行動の正当性を示そうとした竹。

だが、その最後の方の言葉は、明らかに疑念が含まれていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

次の日、3人は懲罰艦隊の仲間と共に、出撃をする事になる。

竹はもう、そのリーダーとして立派に味方を鼓舞する役目を担っており、他の艦娘達にとっては、羨望の眼差しを向けるのに十分な素質を持っていた。

そんな彼女を筆頭に、沖波、薄雲と続き、単縦陣で深海棲艦が出現した海域へと向かう。

 

「近くの貨物船が襲われたらしい。応戦するだけの能力は備えているが………念の為に加勢して欲しいとの事だ。」

「加勢ねぇ………それだけ、重要な船なのか?」

「機密レベルの高い船なのは、確かだ。」

 

成宮提督の淡々とした言葉に、竹は斜に構えながら聞いていく。

沖波は、自分の後ろにいる薄雲が気に掛かっていた。

明らかに心神喪失状態になっており、単縦陣でありながらふらついていたのだ。

 

「大丈夫、薄雲?」

「うん………大丈夫だよ。」

 

やがて、巨大な船と深海棲艦達が見えてくる。

船の方からは艦娘達が出撃しており、応戦をしていた。

沖波達の到着を見て、深海棲艦の一部がこちらに艦首を向けて迫って来る。

 

「随分とデカい船だな。………まあ、いいや!砲戦用意!!」

 

拳を合わせて砲門を深海棲艦に向ける竹。

沖波と薄雲も同じように構えた。

だが………沖波は気付く。

薄雲の砲口が、ふらついていたのに。

 

「ま、待って竹!」

「発射!!」

 

沖波の咄嗟の忠告は、間に合わなかった。

放たれた砲撃の内、心神喪失状態の薄雲の放ったものが………見当違いの所に飛んでいき………竹の艤装の基部を破壊したのだ。

 

「え………?」

「竹………?」

 

一瞬、沖波も周りの懲罰艦隊の仲間達も、撃った薄雲自身も信じられなかった。

基部に背後から直撃を受けた竹の艤装は爆発を起こし、彼女は吹き飛び海面に倒れ込む。

 

「竹っ!?」

 

慌てて沖波が竹の元に駆け寄り、抱きかかえるが、彼女は口から血を吐き、青白い顔を見せながら茫然と空を見上げていた。

沖波は、信じられない顔で薄雲を見る。

自分のしでかした事を、徐々に理解してきた彼女は、青ざめて脚を震わせる。

明らかな誤射であった。

意図的なものでは無い。

だが………薄雲がリーダー格の竹を撃ったのだ。

その事実が、懲罰艦隊の仲間達の士気を一気に奪う。

気付けば、3人以外の各々が悲鳴を上げて、反転して逃げ出していた。

 

「待って!………竹!しっかり………!」

「構うこたぁ………ねえ………。」

 

息も絶え絶えに呟く竹の言葉を受け、沖波も青ざめる。

今の竹は瀕死であった。

しかも、艤装が破壊された事で、艦娘としての強靭な生命力も奪われている。

命の灯は、間もなく失われそうであったのだ。

彼女は、薄雲を見た。

恨みの籠った目では無く………心底後悔したような目で………。

 

「ごめんな、薄雲さん………楽しく無かったんだろ………?斉藤提督に合わせる顔………無かったんだろ………?」

「ち………違………。」

「俺は………間違えたんだ………な………。薄雲さん………の事………分かってた………はず………なのに………。」

「竹………!わ、私は………そんな………!」

「ごめ………ん………よ………。本………当に………ご………め……………。」

 

竹の言葉がそこで、切れる。

目から光が無くなり………絶命した。

沖波は、信じられない顔で、息絶えた竹と誤射をした薄雲を見比べた。

 

自分自身がどんな顔をしていたかは、正直覚えていない。

だが、間違いなく好意的な顔では無かっただろう。

そして………竹の死と沖波の反応は、薄雲の心を壊すには十分過ぎた。

 

「い………嫌………。」

「薄………雲………!」

「嫌あああああああああああああああああああ!!」

 

心が壊れた薄雲は、現実逃避をする事しか出来なかった。

他の仲間と同じく、一目散にその場から逃げ出したのだ。

沖波を見捨てて………。

 

「……………。」

 

彼女は、虚ろな瞳で竹を見た。

竹は、左目から涙を流しながら命を落としていた。

痛みでなく、薄雲に対する申し訳なさで。

そんな彼女を抱きしめながら、沖波は距離を詰めて来た深海棲艦を見る。

もう、戦う気力は無かった。

竹に殉職され、薄雲に裏切られた。

その事実が、沖波の心も壊していた。

 

「竹………今、私も逝くから………。」

 

何処か優しい声で呟く沖波であったが、突如その深海棲艦達が爆発を起こす。

見れば、ダークオートミールのショートボブの艦娘を筆頭に、艦娘達が殴り込んでいた。

恐らく大型の船の方の本隊の艦娘なのだろう。

彼女達は練度が高いのか、敵深海棲艦を圧倒していく。

 

「そ………んな………。」

 

だが、沖波は絶望していた。

死に損なった事で、彼女はまた1人になってしまった。

照らしてくれた光も、もう失ってしまっている。

そこに、電探から成宮提督の氷のような声が聞こえてくる。

 

「駆逐艦沖波………駆逐艦竹を連れて、帰投せよ。」

 

帰投?

何処へ?

あの懲罰艦隊へ?

沖波は、もう嫌だった。

あの地獄の場所に戻りたくなかった。

だから沖波は、初めて彼に「逆らった」。

 

「もう………嫌。」

「何?」

「もう嫌!!何で、貴方の言う事を聞いて生きないといけないの!?もう死にたい!死なせて!!」

「駄目だ。」

「!?」

 

しかし、成宮提督は沖波の死を許さない。

彼は、実験兵器である沖波を使い潰す気なのだ。

そう思った沖波は、歯を食いしばり、左手で主砲を握り、自分のこめかみに当てる。

 

「貴方には、従わない!!」

「待て!早まるな!!」

 

初めて聞こえる成宮提督の叫び。

冷静さを取り戻していれば、この意味を考える事が出来たのかもしれない。

だが、心が壊れていた沖波は目を瞑り、勢いのまま主砲のトリガーを引き………。

 

ドゴンッ!

 

「っ!?」

 

しかし、そこに突如飛来してきた砲弾に、その主砲が弾き飛ばされる。

驚いた沖波は、目を見開くと、正面に艦娘が突っ込んできていた。

煙突帽子を被った小柄な彼女は、素早く沖波の口の中に右手を突っ込む。

これで、舌を噛み切る事も出来なくなってしまった。

 

「ーーーっ!?」

「何をやっているんだ、貴女は!?」

 

叫んだ艦娘は、もう片方の手で沖波の電探を掴み取ると、更に大声で叫ぶ。

 

「どうして、ここまで彼女を追い込んだ!?」

 

目力があった艦娘の声に、電探の先にいる成宮提督は静かに告げる。

 

「こちらは懲罰艦隊だ。そちらに事情があるように、こちらにも………。」

「何が事情だ!お前は自分のやっている事を理解していないだろっ!?」

「理解だと………?」

「死んでるんだぞ!?死のうとしているんだぞ!?お前の身勝手な命令で!!この………人殺しっ!!」

 

沖波は唖然とした。

初対面とはいえ、ここまでこの提督に噛みつく艦娘を始めて見たからだ。

その艦娘に対し、成宮提督はしばらく押し黙った後、告げる。

 

「………名前は?」

 

言ったら駄目だ………と沖波は思った。

名前を告げたら、彼女も懲罰艦隊に送られる。

だが、目の前の艦娘は怯まなかった。

 

「補給物資運搬用大型貨物船「らいちょう」所属、大潮だ!!」

 

やってしまった………と沖波は思い、意識が遠のいていく。

この先どうなるのだろうか?

もう彼女は、考えるのも疲れてしまった。

そして、眠りに付く前に、こんな声が聞こえた気がした。

 

「駆逐艦大潮………頼みがある。彼女を………沖波を、ショートランド泊地に帰してやってくれ………。」

 

これが、沖波の記憶にある、過去の成宮提督との最後の言葉であり………いずれ同じ駆逐隊に所属する事になる大潮との、最初の出会いであった。




自身が正しい行為を、最後まで貫こうとした竹。
皆が幸せになれれば、それでいいと思っていた沖波。
亡き夫に対して、ずっと背徳感を抱いていた薄雲。

三者三様の想いが、結果的に最悪な形で友情を壊す事になりました。
どうすれば良かったのか、後から考えても、分からない事はありますよね。
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