蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第46話 ~失意の中で拾われて~

沖波は、夢を見ていた。

今度は、今までの物とは違う。

最後に笑顔を見せていたのは、新郷提督、初霜、陽炎の3人では無い。

竹と薄雲の2人だ。

だが、結局は変わらなかった。

何故ならば、もうあの笑顔は戻ってこないのだから………。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「ここは………。」

「気が付きましたか?」

 

やがて夢から目を覚ました沖波は、自分がベッドの上で眠っているのを感じ取る。

身を起こすと、そこには濃い青色のロングヘアーのスタイルの良い駆逐艦娘が立っていた。

 

「……………?」

「私は潮。沖波さん………ですよね。1週間も寝ていたんですよ?」

 

その艦娘………潮は、周りを見渡す。

ベッドの周りには、部屋いっぱいに子供達がいた。

彼等は心配そうに、薄緑色のセミロングの髪の女子高生風の艦娘と、金髪碧眼のお嬢様風の艦娘の周りで、沖波の様子を見ている。

 

「貴女達は………?ここは………?この子達は………?」

「順番に話そっか。あたしが軽空母の鈴谷!こっちはアメリカ出身のレンジャーさん!で、この船は補給物資運搬用大型貨物船「らいちょう」だよ!」

「この子達は、提督と艦娘の間に生まれた子供達や、深海棲艦の攻撃で親を失った子供達です。この頑丈な貨物船で預かっているんですよ。」

 

元気そうな鈴谷と丁寧なレンジャーの言葉を受けて、沖波は気絶する直前の事を思い出す。

自分は確か、絶望から自殺を試みて、大潮という艦娘に止められたはずだ。

そして、その時に成宮提督は………。

 

「私は………何処に向かっているんでしょうか?」

「ショートランド泊地です。」

「ええ!?」

 

潮が行き先を告げた事で、沖波は驚く。

何でも潮が言うには、この貨物船は各泊地へ積荷を運搬しているらしく、南東の泊地まで沖波もついでに運んでくれているらしい。

沖波にしてみれば、まさかあの時の言葉通りに、物事が動いているとは思わなかった。

その様子を悟ったのか、鈴谷が憮然とした表情で言う。

 

「あの懲罰艦隊の最低な提督が言ったんだよ。送ってやってって。………それ位、自分で面倒見ろっての!」

「………私、帰ろうとしてるんですか?」

「そだよ。だから、安心してって!もう、あんな酷い艦隊に戻らなくていいんだからさ!」

 

一体自分が気絶した後で、あの提督とどんな会話をしたのだろうか?

信じられない顔をしていた沖波は、ここでふと大事な事を思い出す。

あの時、気絶する前に彼女が抱えていた、息絶えた竹がどうなったのか知らなかったからだ。

これに関しては、レンジャーが説明をする。

 

「沖波さんが眠っていた間で申し訳ないのですが、こちらの手で火葬をしました。」

「そう………ですか。」

「船の中にお墓を作りましたので、後で赴いて下さい。」

「………ありがとうございます。」

 

何でも、艦娘は轟沈等によって海に帰ると、怨念から稀に深海棲艦化をする事があるらしい。

それを防ぐ為に、可能な限り、遺体は火葬をする事になっていた。

文字通り喧嘩別れだったな………と沖波は後悔したが、丁重に弔ってくれたこのらいちょうの人達に感謝をする。

話題を変えようと、潮は聞いてくる。

 

「立てますか?折角ですから、このらいちょうの中を案内しますよ?」

「あ………はい、お願いします。」

「後、そんな畏まらなくて大丈夫ですから、貴女の素で過ごして下さい。想像以上に、精神的に追い込まれていたんですから。」

「う、うん………ごめんね。」

 

こうして、潮達に連れられて、沖波はらいちょうの艦内を歩いていく。

この船自体が妖精さんの力でコントロールされた移動鎮守府であるらしく、様々な設備が備え付けられていた。

倉庫には巨大なクレーンや大発動艇が備え付けられており、農業や酪農が活発である場所を見た時は、思わずビックリする。

操舵室に至っては最新鋭の技術がふんだんに盛り込まれており、逆に墓地は古風の雰囲気で祈りを捧げる場所として静かであった。

色んな場所で、らいちょう所属の艦娘達と挨拶を交わして、感謝の言葉を述べた沖波は、その都度、体調面を心配され、久々に人の温かさを思い出す事になる。

 

(この船は………いい所だな………。)

 

何となく見て回る内に、そう思えるようになった沖波は、執務室へと案内をされる。

そこには、提督である曙と秘書艦である岸波が待っていた。

どうやら、沖波を助けてくれた海戦では、岸波が旗艦として振る舞っていたらしい。

沖波は艦娘提督という未知なる存在にまた驚きを隠せなかったが、とにかく曙に対し、頭を下げる。

 

「………この度は、助けてくれてありがとうございます。」

「ああ、気にしなくてもいいわよ。元々はあたし達の加勢に来てくれたんだし、序に言えば、ショートランド泊地には、積荷の運搬でどうせ行く所だったものね。」

 

手をひらひらさせながら、大丈夫だと告げる曙。

そして、真剣な顔をすると沖波を覗き込んで聞いてくる。

 

「………で、あの艦娘………竹の墓は、何処に移せばいい?今は船の中にあるけどさ。」

「……………。」

 

その言葉を受けて、沖波は少し迷う。

竹は呉の近くの軍港都市から来たと言っていたが、具体的な場所までは聞いていない。

また、彼女の言葉を聞いていると、あまり故郷について、思い入れがあるとも思わなかった。

 

「………出来れば、あのままこの船で眠らせる事は出来ないでしょうか?彼女は………自由だったので。」

「そう………分かったわ。それにしても、随分失意に陥っているわね。あんな形で友達を亡くしたのならば、無理もないけれど………。」

「……………。」

 

再び無言になる沖波。

どうやら、薄雲の誤射は、海戦中だったこの船の面々もしっかりと把握していたらしい。

一度に2人も支えであった親友を失った沖波は、その絶望から自殺を試みたほどであったのだ。

だからこそ、彼女は思ってしまう。

 

「私は………このまま1人、何食わぬ顔で帰っていいのでしょうか………。」

「アンタの意志はともかくとして………あの面倒そうな提督は、大潮の怒りを受けて、彼女に沖波の事を頼んでいたわよ。」

「本当に、あの人が………ですか?」

 

沖波にしてみれば、成宮提督が素直に実験兵装を搭載した自分自身を、ショートランド泊地に帰そうとした事が信じられない。

曙は、沖波の疑念を感じ取り、静かに呟く。

 

「うちの大潮は初期艦なのよ。だから懲罰艦隊とはいえ、無責任な命令で命を落としていく姿が許せなかったんでしょうね。その言葉が、あの提督の中の何かを動かしたのかもしれない。」

「そういう………ものなのでしょうか?」

「ま、だから大潮は責任を持って、ショートランド泊地に転籍する事にしたみたいだけど。」

「はい………ええっ!?」

 

一瞬納得しかけた沖波だったが、ここで思わず大声を出してしまう。

あの大潮という艦娘は、沖波の為にわざわざこの船から転籍をするらしいのだ。

それは、流石に責任を感じすぎでは無いか?と思った沖波であったが………。

 

「あの子には、あの子なりの事情や過去があるのよ。」

「でも………それでも、私なんかの為に………。」

「会ってみたらどうですか?」

 

ここでそれまで黙っていた岸波が口を挟む。

 

「潮先輩にお願いして、大潮先輩が今いる艦橋に連れて行って貰いましょう。そこで、本人と会話するといいですよ。」

「………分かりました。」

 

それで、沖波は再び2人に頭を下げて執務室を出ていく。

潮にお願いして、艦橋へと向かって行く事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

沖波が潮と共に艦橋に向かうと、大潮は船の横から釣りをしていた。

高速で動く船から竿を垂らしても釣れるはずは無かったが、潮はそうやって、釣り好きの艦娘達はリラックスをしているのだと教えてくれた。

 

「あの………大潮さんですか?」

「目を覚ましたか。良かったです。後、普段の自分通りの喋り方で大丈夫ですよ。」

「は、はあ………。」

 

潮もそうだが、大潮も丁寧語であったので、自分だけ砕けた言葉でいいのか?と思ったが、とりあえず言われた通りにする。

その上で、曙に言われた事を聞いてみる。

 

「大潮さん………何で、私なんかの為に転籍を?」

「実は大潮は、雪が嫌いなんです。だから、南はいい所だと思ったんですよ。」

「あの………真面目に答えて欲しいんだけど………。」

「割と真面目に言っています。………でも、そうですね。あの司令官に対して、感情的になり過ぎた事を少し後悔したから、願いを聞こうと思ったのもあります。」

「どういう事………?」

 

大潮の言葉に、訝しんだ顔を見せる沖波。

よくよく思い出せば、成宮提督に電探で噛みついた時の大潮は、今のような落ち着きは無かった。

それこそ、怒りに任せて大声を上げていたのだ。

大潮は、少し悲しそうな顔をして言う。

 

「………司令官の仕事は、普通の精神状態では勤まりません。申し訳ありませんが、沖波が眠っている間に、曙にお願いして貴女の周りを色々と調べて貰ったんです。」

「じゃあ、私の罪や新郷提督の事も………。」

「はい。勿論、成宮司令官の事も。貴女は知らないかもしれませんが、あの方は………大本営の上層部に何度も意見書を送って、懲罰艦隊の待遇改善を図っていたんですよ。」

「ええっ!?」

 

大潮の言葉に、沖波は衝撃を受ける。

そう言えば、前に竹が、彼に対して、艦娘の待遇改善に対する努力義務は無いのか?と聞いた時に、そんな権限は無い………と即答していた事があった。

だが、実際には何度も上に意見書を送っていたのだ。

皮肉にも、竹の言っていた悩める中間管理職という言葉は、的確であった。

更に大潮は、衝撃的な事を言う。

 

「それだけではありません。成宮提督は、責任感に耐え切れずに自殺を試みた事もあるとか………。冷静に考えれば当たり前です。あんな懲罰艦隊を率いているのですから。」

「信じ………られない………。」

「信じられないのならば、信じなくてもいいですよ。………でも、そうしている内に、いつしか心を閉ざしてしまったのかもしれませんね。」

 

何かの冗談では無いか?と思った沖波に対し、大潮は敢えてその感情を否定しなかった。

とにかく、大潮がショートランド泊地に転籍しようとしている理由は、3つの理由から。

沖波を、無事に届けたいという責任感。

雪が嫌いだからという、個人的な感情。

そして、成宮提督に対する申し訳なさ。

 

「本当は4つ目の理由もあるんですけれどね。」

「聞いてもいい………?」

「恩師がいるんですよ。新人時代の提督が、ショートランド泊地の近くに。」

「そうなんだ………。」

 

4つも理由があるならば、確かに転籍をしたいと思ってもおかしくはないと沖波は思った。

只、沖波自身はショートランド泊地に戻る事に、何故か違和感を覚えていた。

………というよりは。

 

「私、まだ………艦娘なんだよね………。」

「戦う理由を失いましたか?」

「うん………今までは懲罰艦隊だからって理由で、只、竹と薄雲と一緒に生き残る事に必死で………。」

 

一度は絶望に陥って、自殺を試みた影響だろうか。

沖波は、空っぽであった。

仮にこのまま泊地に戻ったとしても、初霜や陽炎達と戦える気がしなかった。

 

「私は………何を糧にして、戦えばいいんだろう………。」

「それは、大潮が答えを出す事は出来ません。でも、想いの力ならば、ここにいる潮は、1つの参考になるのではないでしょうか?」

「え?」

 

沖波は、それまで黙っていた潮を見る。

彼女は、少し恥ずかしそうにしながら言う。

 

「えっと………私の戦う理由は………恥ずかしいですけれど、子供達を守りたいからなんです。先生として、大切な生徒達を………。」

「先生として………守る………。」

 

沖波は思いだす。

守るという言葉は、横須賀でル級改に出くわした時に、竹も使っていた。

その言葉が、沖波と薄雲に力を与え、3人で協力して撃沈したのが友情の始まりだった。

潮も子供達を守る為に、艦娘として必死に戦おうとしているのだろうか?

 

「潮さんは………一体………っ!?」

 

そこで沖波は、義眼のズーム機能を使う。

右方から、深海棲艦の群れが見えたからだ。

ほぼ同時に、操舵室にいた第四号海防艦………よつの警報が聞こえる。

 

「曙のあねごぉ!右方90度から、敵襲!大量に来ましたよぉ!!」

「トラック泊地を過ぎて五月蠅い敵が増えたわね!全艦娘、応戦準備!!」

 

「敵襲………わ!?」

「とにかく、執務室へ!」

 

曙の勇ましい叫びが響く中、沖波は潮と大潮に引き連れられて走って行く。

貨物船らいちょう全体が、途端に慌ただしくなった。




舞台は懲罰艦隊から、移動鎮守府である貨物船らいちょうへ。
初期艦大潮から成宮提督の意外な側面を聞かされる沖波ですが、やはり懐疑的で…。
ここでの2人の会話は、後の話の伏線にもなっていますので、覚えておいて貰えると幸いです。

ちなみに言い忘れましたが、貨物船らいちょうの曙やラバウル基地の龍田も、ケッコンカッコカリをしているので、練度3桁です。
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