蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第47話 ~潮の背中~

途中、工廠に向かう大潮と別れ、潮と共に執務室に向かった沖波は、部屋に入るなり驚く事になる。

執務室の中には、曙の他にあきつ丸が待機をしており、机の端末を弄り、壁や天井の様々な所にモニターを出していた。

外には、深海棲艦の姿が映っており、こちらに迫ってきているのが分かる。

更に、一番安全な部屋だと思われたのか、子供達がみんな集まって不安がっている。

彼達は、潮を見るなり近寄って来た。

 

「大丈夫だよ………何があっても先生達が守るから。」

 

潮は、そうやって子供達を優しい顔でなだめると、沖波に任せて走って飛び出していく。

部屋の中では、曙が、あきつ丸や工廠の明石と素早く会話をしていた。

 

「あきつ丸!敵艦の数は!?」

「ざっと、30隻はいそうであります!」

「明石!在庫惜しまなくていいわ!完全装備で!」

「OK!朧ちゃんと天霧ちゃんが、噴進砲を欲しがっているから渡すわね!」

 

自分も出撃した方がいいのか?と思った沖波であったが、潮に子供達を任せられてしまった以上、安易に動けなかった。

やがて、工廠の右方の扉が開き、次々と艦娘が出ていく。

岸波、伊47、ヴェールヌイ、村雨、卯月、漣、多摩、朧、天霧、大潮、鈴谷、レンジャー。

潮は沖波を送った関係で、少し遅れている。

 

「よつ、らいちょうの操舵は任せるわ!」

「りょうかいー!急旋回に注意して下さいねぇ!」

「岸波、雷撃は船にぶつけるんじゃないわよ!」

「漣先輩と卯月先輩を迎撃に専念させます!対空砲火は、朧先輩と天霧先輩で!」

「よーし!海戦開始!ヨナ!一発派手なの、ぶちかましなさい!」

「うん………先制雷撃、開始!」

 

伊47………ヨナの叫びと共に、敵の重巡が1隻火柱を上げて吹き飛ぶ。

先制で放った魚雷が直撃したのだ。

それに対し、敵の駆逐艦と軽巡がソナーを起動させて、ヨナの位置を探る。

あくまで船から狙いを遠ざけるのが目的なので、ヨナはそのまま船の後ろに逃げて行って、敵艦の方角を変える。

だが、頭の良い雷巡は、らいちょうを狙い魚雷を放った。

 

「おーっと、残念!うーちゃん達が、迎撃するぴょん!」

「船には近づけないので、安心して下さいね、ご主人様!」

 

ところが、ここで卯月と漣が、主砲を使って器用に魚雷を撃ち落としていく。

この芸当を前に、練度がかなり高いと沖波が実感した所で、空から攻撃機が飛来してくる。

 

「やらせないよ!噴進砲の雨、喰らえーーーっ!」

「鍛えた腹筋は伊達じゃないからな!」

 

今度は、重い12cm30連装噴進砲を構えた朧と天霧が、迎撃行動を開始する。

ロケットランチャーの雨は敵艦の攻撃機を次々と撃ち落とし、逆に鈴谷とレンジャーの攻撃機を自由に飛行させて、制空権を握る役割を果たす。

 

「そんじゃ、敵艦の皆さんと遊びましょっか!」

「敵空母と戦艦を落としていきます。援護を頼みますね!」

 

飛行していく国籍の違う攻撃機は、空を覆いつくしていく。

そして、次々と奥に陣取る空母ヲ級や戦艦ル級を爆撃していった。

 

「こちら多摩。逆に雷撃を仕掛けるにゃ。各艦、用意!」

「岸波、用意完了!」

「大潮もです!」

「ヴェールヌイ、いつでも行ける!」

「村雨もいい所、見せられるよ!」

 

更に、軽巡である多摩の指示で、駆逐艦の面々が一斉に魚雷を発射。

多数の魚雷は、様々な敵の駆逐艦や軽巡、雷巡を破壊していった。

 

「凄い………!」

 

沖波は、思わず感嘆の声を上げる。

ここまでしっかり統率の取れた艦隊を見るのは、懲罰艦隊に入っていた為か、久々であった。

いや、懲罰艦隊に入る前にも、こんなに練度の高い艦隊は見た事が無いかもしれない。

もしかしたら、自分は貴重な物を見ているのかもしれないと感じた。

子供達も仲間の艦娘達の活躍に、喜びの声を上げており、状況は確実に好転しているのが分かった。

しかし、ここで通信が入って来る。

 

「こちら、鈴谷!ねぇ、曙ちゃん!大艦隊の割には、親玉が見当たらないよ?フラッグシップ級が何隻かいるだけだし!」

「レンジャーです。私も隙を見て偵察機を飛ばしていますが、それらしき影が見当たりません。」

「変ね………。ヨナ!岸波!どう!?」

 

曙は、水中にいるヨナや、海戦の真っただ中の岸波に聞いてみるが、やはり見当たらないらしい。

そこで、コンソールを叩いていたあきつ丸が反応をする。

 

「いたであります!水母棲姫!………って、左90度!?」

『!?』

 

水母棲姫とは、鬼の姫の上半身と、異形の下半身の艤装を持つ水上機母艦だ。

一つ目の鬼火の攻撃機を飛ばせる他、砲撃や雷撃も出来る。

その姫クラスが、深海棲艦の本隊とは真逆から出現してきたというのだ。

つまり、配下の深海棲艦達は、全て囮。

大胆過ぎる戦術を使って来た親玉に対し、曙は舌打ちをしてマイクで叫ぶ。

 

「よつ!機銃斉射!!攻撃機を撃ち落として!!」

「こ、攻撃機はどうにかなるけど、雷撃はどうすればぁ!?」

「気合で避けなさい!!」

「無茶言わないでくれよぉ!?」

 

そう言いながらも、よつは、らいちょうに備え付けられた機銃を使う。

だが、水母棲姫は大量の機銃が飛ぶ中で攻撃機を飛ばす程、馬鹿では無かった。

化け物のような艤装の手で魚雷を1本掴むと、勝ち誇った顔で投げつけてくる。

 

「来たぁ!?」

 

よつが操舵室のハンドルを使い、右に急旋回を行おうとする。

だが、直撃コースの魚雷は、避ける事が出来ない。

必殺の雷撃が迫る中、誰もが最悪のシナリオを思い浮かべるが………。

 

ドゴォンッ!!

 

「え………?」

 

モニターの画面越しに魚雷を凝視していた沖波は、呆然とする。

雷撃がらいちょうにぶつかる直前に、画面越しに影が割り込んだ。

そして、それに魚雷がぶつかり、派手な火柱を上げたのだ。

今の状況で、大型の船の反対側に回り込んで、敢えて攻撃を受ける。

そんな事が可能な人物がいるとしたら………。

 

「う………潮さん!?」

 

火柱が収まった時、その場には青髪の艦娘が立っていた。

当然ながら、駆逐艦が魚雷の直撃を受けたら、全快でも一発で大破だ。

潮はボロボロであり、痛々しい状態であった。

その潮にトドメを刺そうと水母棲姫は迫って来る。

潮は立ったまま気絶しているのか、動かない。

只、船に対して、背中を向けて立ったままだ。

 

「潮さんが………!?」

 

近しい存在である先生の轟沈の危機に、悲鳴を上げる子供達や泣きだす子供達も出てくる。

沖波ですら、もうダメだと思ってしまう程だ。

また、目の前で悲劇が起きてしまう。

そう思った瞬間であった。

 

「諦めるんじゃないわよ!!」

 

突如、曙がマイクで叫びながら、机を飛び越え沖波の………輪になっている子供達の所に走って来る。

そうして、マイクを皆に突き付けた。

 

「ハッキリ言ってやりなさい!アンタ達の先生が、あんな姑息な姫に負ける存在じゃないって!このらいちょうを守る、最強の艦娘だって!!」

 

最強の艦娘………という意味合いは分からなかったが、曙の言葉は、子供達に通じたのだろう。

皆が、マイクの所に集まって来る。

曙がもう一度、叫んだ。

 

「最高のエールを送ってやりなさい!アンタ達の最高の先生に!!」

『先生!!頑張れーーーっ!!』

 

その言葉が潮に聞こえたのかは、分からない。

只、今まで背中を向けていただけの潮は、船の方を向き………その顔は傷だらけで血を流していたのに、穏やかな表情で子供達に告げた。

 

「大丈夫だよ………。先生が、みんなを守るから………。」

 

そう言うと、潮は再び前を向き、ふらついていた足に力を籠め、痛んだ主機にエネルギーを貯める。

勝ち誇った水母棲姫は、潮に向けて、長射程から砲門を一斉に向けた。

 

(そう言えば………!)

 

沖波は思いだす。

嘗て竹は言っていた。

戦艦等の長射程の砲撃は、弧を描く分、身を低くすれば避けやすいと。

水母棲姫の砲撃は、正にその通りの砲撃だった。

 

「私が………!守るんだあああああああ!!」

 

次の瞬間、潮のものとは思えないような叫びと共に、主機が爆発的に加速する。

砲撃は空振りに終わり、敵の親玉の顔が、一気に驚愕に変わる。

大破していたとはいえ、素早い駆逐艦の急接近の前に、砲弾の再装填も攻撃機の発艦も雷撃の準備も間に合わない。

 

「いっけええええええええ!!」

 

潮が主砲で砲撃をする。

だが、敵艦は、生物的な艤装から生えた両腕を交差させてガードする。

 

「たああああああああああ!!」

 

そこに、潮は何と水面から思い切って跳躍すると、その化け物の腕に、自分の左手で掴み掛かり、両脚を乗せて更に跳ぶ。

あっという間に眼前まで迫って来た事で、鬼女は後ろに下がろうとする。

 

「当たれええええええええ!!」

 

潮は、左腕の機銃を乱射した。

しかし、空中で撃った影響か、左に逸れてしまい、鬼女は顔を左によじって回避してしまう。

それを見た沖波は、悲鳴を上げる。

 

「避けられた!?」

「馬鹿ね、わざと「避けさせた」のよ!」

 

曙の言葉を示すかのように、潮は、下半身の艤装を使って飛びのく鬼女の顔に向け、右手の主砲を向けた。

水母棲姫は、慌てて叩き落とそうと潮に向けて、艤装の腕を振り回す。

だが、それより先に………。

 

「みんなは!やらせないっ!!」

 

決意の言葉と共に放たれた砲撃は、悲鳴を上げようとした鬼女の頭部を吹き飛ばす。

同時に潮も、艤装の腕に弾き飛ばされたが、決着はついていた。

本体が絶命した事で、水母棲姫の艤装は咆哮を上げながら沈んでいく。

 

「……………。」

 

潮は、仰向けに大の字に倒れていた。

工廠から明石が飛び出して来て、彼女の救助に当たる。

沖波が、子供達が、皆が心配する中で、明石はホッと安堵しながら曙に電探で告げる。

 

「ギリギリだけど、生きてるわ。すぐに船渠(ドック)入りさせるわね。………潮ちゃん、喋れるのならば、生徒達に何か言ってあげて。」

「………みんな、先生勝ったよ。みんなを………守ったよ………。」

 

明石に支えられる形で、潮は弱々しかったが、笑顔を見せる。

その姿を見て、子供達は大声で喜びを示した。

中には、安堵の感情から泣きだす子供達もいる。

そんな子供達をなだめながら、曙は笑みを見せた。

沖波は、只々、茫然とする中で、潮の凄まじさを実感していた。

 

「あれが………潮さんの………生徒達を守りたいって力………。」

「そういう事。どう………?うちの最強の艦娘は強いでしょ?」

 

曙が胸を張って、自慢するように言う。

沖波は、素直に潮の強さを噛みしめていた。

それこそ、羨望すら抱いてしまう程に。

 

「潮さんの想いの力………。私もあんな風になれるかな………?」

「なれるわよ。アンタだって艦娘なんだし。生きていれば………ね。」

 

曙は、軽くウインクをして見せた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

こうして、潮の活躍で、海戦は決着が着き、船と子供達は守られることになる。

潮はしばらく療養が必要であったが、命に別状は無かった。

沖波達は、そのままショートランド泊地に向かい、尚も進む事になる。

 

「どうやら、見えて来たみたいですね。」

「うん………。」

 

紆余屈折あって泊地までたどり着き、艦橋に出た沖波は、隣に並んだ大潮の言葉を受け、懐かしさを感じる。

あそこに帰れば、初霜や陽炎に再会できる。

ここまで来ると、何かこみ上げる物を感じた。

しかし………。

 

(………薄雲。)

 

ふと彼女は、薄雲の存在を思い出す。

裏切られたとはいえ、それは彼女の心が壊れてしまったからだ。

彼女は一体、どうなってしまったのか。

後ろ髪を引かれる思いで………沖波は帰還する事になる。

様々な経験を得て、ショートランド泊地に。




導入編で沖波が憧れていた、潮の海戦での大立ち回りの詳細が明らかに。
守る為の力と想いを抱いた彼女の海戦は、空っぽだった沖波に、何かしらの変化をもたらす事になりました。
これで、隠されていた沖波の過去話は終わりを告げ、時は現在へと戻ります。
全てを知った、初霜達の反応は如何に…?
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