救難信号を出しているのが、貨物船でも客船でも調査船でも、やる事は変わらない。
昼ならば、第零駆逐隊が先行して出撃して時間を稼ぎ、本隊が殲滅する。
只、救助対象が日本の大本営直属の船だというのならば、立場的には、泊地の物資の都合があっても、出し惜しみする事は出来なかった。
「遊撃艦隊を2つ作る。第零駆逐隊が先行して、本隊はビスマルク、イタリア、ローマ、アイオワ、プリンツ、パース、瑞鶴。護衛がいるとはいえ、距離が少し離れているから全力で飛ばしてくれ。」
「司令官!無線繋がってるんですよね!?敵艦の詳細とかって、その護衛の艦娘達から聞けないんですか!?」
「そう言うと思っていた。………直接話してくれ。」
工廠で艤装の準備をしている第零駆逐隊の艦娘の内、秘書艦である陽炎に対して、藤原提督が持ち運び用の通信機を渡す。
その機械から、独特の高い声が聞こえて来た。
「えっと………宜しくお願いするかもです!」
『かも?』
一斉に初霜、陽炎、沖波、大潮、深雪、敷波、春風の7人が、妖精さんと作業をしている秋津洲を見るが、彼女は思わずぶんぶんと首を振る。
声の主は、慌ててごめんなさい!………と謝った。
その上で、素早く状況報告をする
「護衛艦隊旗艦の高波です………。敵艦の編成は、親玉の防空棲姫とフラッグシップ駆逐艦ハ級多数が攪乱をして、フラッグシップ戦艦タ級多数が砲撃を放っています。厄介なのは、その後ろにエリート級ヌ級とフラッグシップ級ヲ級が多数隠れて攻撃機を放っている事です。」
「迎撃は間に合ってるの?」
「間に合って無いです。何とか敵艦を近づけないようにしながら、しらさぎの機銃と合わせて時間稼ぎをしています………!改めてお願いします、助けて下さい!」
高波の懇願の言葉を受けて、陽炎は黙って沖波を見る。
今回の出撃で、一番精神的に不安定なのは彼女だろう。
何せ、複雑な感情を抱いている、成宮提督の救援をする事になるのだから。
初霜も沖波の前に立つと、1回だけ言った。
「………決めて、沖波。私達は貴女が行かないと言っても………。」
「そしたら、竹に夢でぶん殴られるよ。………私は、第零駆逐隊の一員なんだから。」
「………分かったわ。」
無理をしているのは分かったが、本人の意思を尊重するしかない。
初霜を筆頭に、艤装を付けた第零駆逐隊が工廠から飛び出し、桟橋へと走って抜錨していく。
後は、単縦陣でしらさぎの元へと向かうだけだった。
(天候は………若干の曇り。………薄雲か。)
沖波は、全力で海を駆けながら空を見る。
まるで、親友とも呼べる間柄だった艦娘と、再び出会う事を意味しているようであった。
――――――――――――――――――――
現場まで駆け付けた時、移動鎮守府であるしらさぎは、機銃を放ちながらも、所々煙を吹いていた。
沈没とまでいかなくても、ダメージは蓄積しており、放っておいたら不味かった。
沖波は艦隊の前に出ると、義眼のズーム機能で状況を確認していく。
確かに高波の言う通り、防空棲姫とハ級が船の進路を妨害しており、高速戦艦であるタ級が砲撃を繰り出している。
その後ろから、ヌ級とヲ級が羽虫のような攻撃機を飛ばしまくって、船を爆撃しているのだ。
「時間が経ったからか、囲まれている………!」
「はい………!照月さんがとにかく対空迎撃をしてくれていますが、間に合わなくなっているんです。」
「………手に取るように分かっているね。もしかして、私達も見えている?」
「見えています。私、元々目はいいんです。」
電探から聞こえてくる高波の声に、沖波達は内心舌を巻く。
沖波の義眼のズーム機能でしか、まだ判別出来ない距離であるにも関わらず、しっかりと見えているというのならば、大した力だと第零駆逐隊の全員が思った。
同時に、この自信の無さそうな艦娘が、護衛艦隊の旗艦を担っているのも分かる気がした。
敵の戦況を把握出来る力は、リーダーとして一番求められているのだから。
「高波姉さん、貴女の見える範囲で他に分かる事を伝えて!」
一応、夕雲型の姉妹艦という事で、「姉さん」と呼びながら、沖波は高波に現場の状況を伝えて貰う。
高波は、第零駆逐隊に簡潔に指示を出した。
「タ級達の壁があって、駆逐艦の砲撃だと、空母達まで届かないです。可能ならば、外周のヌ級やヲ級の動きを封じて下さい!後………2人程、左舷に来て欲しいです!」
「何かあったの?」
「雷さんが、爆撃を受けて大破しています!山雲さんが守りながら戦っていますが、限界があります!」
沖波がズーム機能でしらさぎの左舷を確認すると、確かに工廠のハッチの前で暁型の雷が倒れ込んでいた。
その前で、山雲が機銃で、空中を飛び交う羽虫を迎撃している。
「初霜さん、指示を!」
「救援は、沖波と春風が向かって!私達は、ヌ級やヲ級の後ろから雷撃を中心に喰らわせていくわ!陽炎、魚雷は惜しまなくていいわよ!」
「了解!派手に暴れますか!………沖波、そっち任せたわよ!」
言うや否や、初霜達は2人と別れ、単縦陣で空母級の深海棲艦を足止めしに行く。
後方彼氏面をしながら自由に攻撃機を飛ばしていたヌ級やヲ級は、いきなり艦娘の増援が来た事で、驚きを露わにする。
勿論、その隙を逃す初霜達では無く、雷撃を中心に数を削って行く。
その動揺する中を、沖波と春風は、更に詳細状況を確認しながら駆け抜けていく。
船の前方では、刀を常備している菊月と神風が、それを振るってタ級を1隻ずつ斬り倒していた。
指示を出す高波は、対空迎撃に長けた照月と共に、船を回りながらとにかく1匹でも多くの羽虫の攻撃機を撃ち落としている。
「高波姉さん………薄雲は?」
「船の操舵を担っています!」
どうやら、しらさぎの操舵と機銃斉射は、今は秘書艦の薄雲がコントロールしているらしい。
必死にやりくりをしていると感じた沖波達は、海面に倒れ込んで気絶している雷の元に辿り着く。
「すみません~。ちょっと迎撃が忙しくて、見る暇が無くって~!」
間延びした独特の口調で山雲が答えてくるが、顔は真剣そのもので、空を飛び交う羽虫達を睨みつけている。
沖波は、しばらく春風に山雲の援護を任せると、雷の脈を計る。
「大丈夫、生きてる………。しっかりして!」
そのまま頬を何度か軽く叩いて、雷を覚醒させると身体を起こす。
雷は、最初はぼんやりとしていたが、状況を理解すると、思わず沖波を掴んできた。
「お、お願い!司令官を助けて!!」
「成宮提督を………?」
思わず疑念の声を上げてしまった事を、沖波は後悔した。
多分、沖波の事はある程度、成宮提督や薄雲から話を聞いたのだろう。
雷は、顔を曇らせながらも、彼女に言う。
「あの人が許せないなら………私から謝るわ。ごめんなさい、お願いだから………今だけは………!」
「何で………?どうしてそこまでして………?」
予想外の雷の反応に更なる疑念の声を言いかけた所で、沖波は、夏に磯波が伝えてくれた情報を思い出す。
確か薄雲も含め、護衛艦隊に入っている艦娘達は、成宮提督が冤罪から懲罰艦隊行きになるのを、救ってくれた艦娘達であったはずだ。
沖波は、言われた当初は信じられなかったが、ここまで懇願する所を見ると、相当な恩義があるのは確かであった。
だが………それで納得できる程、沖波はまだ自分を整理できていなかった。
「おかしいよ………。あの人は、懲罰艦隊を率いて、私達に地獄を見せて………!そんな人が、今更………!」
「では、見捨てますか?」
「!?」
声は雷では無く、春風から掛かった。
彼女は、冷淡ではあったが、沖波に厳しい選択肢を突き付けていた。
第零駆逐隊として不本意でも助けるか、過去の罪を償わせる為にこのまま見捨てるか。
勿論、沖波にはどちらの権利もあるし、どちらの行動を取ったとしても罪では無い。
只、春風は、決めるならば早く決めなければ、後悔するだけだと言いたいのだ。
「この場合、優柔不断こそ罪ですよ。………沖波さん、貴女の行動は貴女自身が決めて下さい。」
「わ、私は………!?」
春風の言霊の力を前にして、沖波がわなわなと震える中であった。
ドゴォンッ!!
『っ!?』
大音量の爆発音が、海域に響き渡る。
何事かと思って見てみれば、しらさぎのブリッジに爆弾を抱えた攻撃機が突貫し、破壊していったのだ。
恐らく、成宮提督もいると思われる場所に。
「あ………ああ………!?」
大破状態であるにも関わらず、雷は支えられていた沖波の手を振りほどくと、一目散に工廠に飛び込んで、ブリッジまで走ろうとする。
しかし、ダメージ故に身体が付いて行かず、海面に転んでしまう。
「司令官………司令官ーーーっ!!」
そのままうつ伏せになって泣き叫ぶ雷の姿を茫然と見ながら、沖波はもう一度ブリッジを見る。
あの提督は、死んでしまったのだろうか?
自分や竹、薄雲を苦しめた懲罰艦隊の提督。
実は裏では、待遇改善を何度も申請していた提督。
竹が無念の死を遂げる、間接的な原因を作った提督。
重圧に耐えきれず、自殺を試みた事もあった提督。
薄雲との、友情の崩壊の原因を作った提督。
大潮の人殺し発言を受けた後、沢山の艦娘達を救って来た提督。
色々と感情が走馬灯のように流れる中、沖波の中に1つの感情が沸き上がって来る。
「まだ………死んでほしくない。」
それが、どんな感情から来ているのかは分からない。
だが、このまま何も理解しないまま永遠の別れになってしまうのは、それこそ沖波自身にとって、後悔が残るだけであった。
「確かめたい………!私は、まだ………!」
「だったら、行って!沖波!アンタも間に合わせるのよ!!本当に後悔してしまう前に!!」
「失ってからでは遅いわ!直接会って、自分の感情を確かめて!!」
「陽炎さん………初霜さん………!」
電探から聞こえてくる2人の仲間達の力強い言葉を聞いた沖波は、決断した。
彼女は、春風を見る。
春風は、軽く頷く事で応えてくれた。
「雷さん!工廠の中に、まず避難!」
「え!?わあ!?」
艤装の都合上、抱えて行けなかったので、少々強引だが、背中の服を引っ張る形で、開いているハッチから、雷を工廠の中に入れる。
このまま大破状態のまま海上に置いておいたら、山雲と春風の動きが制限されてしまうからだ。
そして、工廠の中に控えている妖精さん達に雷を任せると、彼女にブリッジまでの道を聞いた。
「た、助けてくれるの!?」
「今、死なれたら困るから!とにかく、最短ルートを教えて!」
雷から道を聞き出した沖波は、艤装を背負ったまま、主機の金属音を立ててブリッジへと向かって行く。
途中、階段とかもあったが、そこで足を滑らせる程、主機の扱いに慣れていないわけでは無かった。
(会わないと………!確かめないと………!)
沖波は、湧き上がって来た自分の感情に従った。
廊下や階段をとにかく走って行き、やがてブリッジへと辿り着く。
「これは………!?」
思わず沖波は、顔をしかめる。
ブリッジは辺り一面が破壊されており、中には肉片となった亡骸も転がっていた。
操舵室とブリッジは別々の部屋にある為、コントロールは失われていなかったが、もはやこの場所の機能は失われていた。
「これじゃあ、あの人も………。」
「しっかりして下さい!」
「………っ!?」
一瞬諦めかける沖波であったが、部屋の中央奥から掛かって来た声に気付く。
入口から死角になっていたが、覗き込んでみれば、艤装を付けた艦娘が、瓦礫の下敷きになっている人物を救おうと、必死になっていた。
「薄………雲………?」
「お、沖………波………?」
2人の目が合う。
薄雲は、今正に、瓦礫の下敷きになっていた成宮提督を救おうとしていたのだ。
沖波と薄雲、そして成宮提督との再会。
ある意味、一番最悪な形での邂逅になってしまいましたが、沖波はどうするのか?
余談ですが、シリアスが立て続けに続きますと何処かでギャグを挟みたくなりますよね。
でも、頼みの春風もシリアスモードだと、癒しが無いのは難点かもしれません(何)。