寮は、艦娘ごとに部屋が分かれているのが特徴で、基本は小柄な駆逐艦は1部屋に2人。
軽巡以上は、1人1部屋となっている。
アイオワも大浴場に入っている間に部屋を与えられており、本国から荷物が届いたら、そこに入る事になっていた。
「大型艦には多少狭く感じるかもしれませんが、ロッカーやテレビは備えられています。ベッドの掃除とかは清掃用具を使って、自分で行ってください。」
「了解よ。食事は?」
「日によって交代制になっています。基本はみんな、ある程度自炊する事は出来るので………。」
初霜の説明を受けながら、アイオワは部屋を確認する。
実は、本国では決戦艦娘という事で、身近な事は致せり尽くせりであったが、当然ながらここではそういう依怙贔屓は存在しない。
正直のところ、嫉妬の目で見られる事もあったので、アイオワにしてみれば、むしろここでの待遇は有り難かった。
一応、料理もある程度は出来るので、材料さえあるのならば、アメリカの郷土料理をご馳走しようとも思った。
「料理は何処で行うの?」
「食堂がありますので、そこで。広い鎮守府だと、艦種事で分かれている場合がありますが、ここではその区別はありません。」
「腕が鳴るわね。」
「それで、食堂はブリーフィングルームとして利用する事もあるので、今の時間なら………。」
「?」
初霜はそれだけを言うと、食堂の扉を開く。
すると………。
「飛車!頂くわ!」
「こっちは角を貰うわよ!」
「え………?」
食堂に入ったアイオワは思わず目を見開く。
そこでは、4人の艦娘達が真剣な表情で、何かのゲームを行っていたからだ。
椅子に座り込んで、四角い台の上で、何かの駒を動かしているのは2人の艦娘。
その後ろから、ハラハラした顔で、更に2人の艦娘が立って応援をしている。
「アレって………まさか………。」
その4人は、アイオワも知っている人物であった。
まず、正面から見て左側に座っているのは、西洋人らしい金髪ロングストレートと碧眼を持った、黒い前留式のシャツを着用した戦艦娘。
立って応援をしているのは、金髪碧眼の少女の姿をして、耳辺りで髪を錨型の髪飾りでまとめたおさげが特徴の重巡洋艦娘である。
一方、右側に座っているのは、癖のある焦げ茶色のパッツンのボブカットであり、瞳の色も茶色で、特徴的な眼鏡を掛けている戦艦娘。
立って応援をしているのは、腰まであるウェーブのかかった明るい茶髪を後ろでアンダーポニーに結んでおり、タレ目気味の明るい茶色で、白いカチューシャを被っている戦艦娘である。
そう、彼女達は………。
「ビスマルク、プリンツ・オイゲン、ローマ、イタリア………貴女達………何をやっているの?」
「あら?挨拶もそこそこに、いきなり呼び捨てだなんていい度胸じゃない、アイオワ。」
「何をやっているって………知らないの?日本の伝統的なゲームである「将棋」よ。」
「しょ、ショーギ?」
「はい!ブインにいる霧島さんが、高速戦艦の会設立の記念に、日本本土から持ってきたゲームを幾つか譲ってくれたんです!」
「他にも、「囲碁」ってゲームを譲ってくれたわ。………難しすぎて、私はローマに任せる事しか出来ないけれど。」
「い、イゴ?」
ドイツの決戦艦娘であるビスマルクに、幸運艦とも言われているプリンツ・オイゲン。
イタリアの決戦艦娘と言われているローマに、リットリオ改めイタリア。
4人とも、アイオワの噂は知っていた為か、割と遠慮なく話しかけてくる。
アイオワは、将棋も囲碁も分からなかったが、流石に、その呑気にゲームに勤しんでいる姿を見ていると、頭がくらくらしそうであった。
「ね、ねえ貴女達………決戦艦娘としての誇りは………無いの?」
「誇り?何を言っているの、誇りはあるわよ?だからこそ、こうしてドイツとイタリアの国の威信を掛けて、毎日戦っているんだから。」
「たまにブインにいる、フランスのリシュリューや、日本の霧島が参戦する事もあるものね………今だ、王手!」
「くっ、しまった!?」
どうやら決着の時であるらしい。
今回はローマに軍配が上がったが、ビスマルク達の言葉を借りれば、毎日こうしたゲームでドイツとイタリアの力をぶつけているらしい。
しかも、フランスや日本も時たま参戦するとか………。
「あー、負けちゃいましたね………。アイオワさんもルールを覚えて参戦するといいですよ!ヒューストンが参加する事もありますけれど、アメリカの高速戦艦の力、見てみたいですし!」
「………ねえ、ゲームをやっている場合なの?」
「意外と頭を使うから、頭脳を鍛える上では役に立つわよ?それに日本では、競技になっているから、只のゲームだってバカにしたら失礼よ。」
「そうじゃなくて………。」
マイペースっぷりを崩さない4人の決戦艦娘達の姿を見て、アイオワはイライラが募っていく。
日本の駆逐艦娘達が、身を削る想いで昼も夜も海戦で必死になって戦っているのに、この戦艦や重巡の艦娘達は、何を呑気にやっているのだ?と思ったのだ。
だが、その葛藤が伝わったのか、ビスマルクが静かに告げる。
「自分の無力さを八つ当たりするのは、カッコよくは無いわね。」
「な!?………別に無力ってわけじゃ。」
「でも、恥では無いわ。私達も全員、最初はそうだったもの。だけど、コスト面で運用が難しいのは提督の言う通りだから、開き直る事も重要よ。」
まるで、着任時の時を思い出すかのように、コーヒーを飲み始めながら天井を見つめるビスマルク。
その言葉に納得をしているのか、ローマも腕を組みながら、うんうんと頷く。
「第零駆逐隊の初霜達を心配になる気持ちは分かるけれど、彼女達を信じる事も大切よ。それに、私達の力が必要になる時もあるんだから、その時に備えて鍛えておく事も大事ね。」
「鍛えるって………どういう事をしているの?」
「基本はこの泊地にあるトレーニングルームを使っているわ。後は、ペイント弾による砲撃訓練や演習もたまに行って………、あ、泊地を周回して走り込みもしているわね。」
「基礎中の基礎ね………。」
イタリアの言葉を受けて、アイオワは溜息を付いてしまう。
当たり前だが出撃をしない艦娘達は、こうした訓練を繰り返す事で練度を上げて行く。
だが、アイオワにしてみれば、やはり四六時中現場に急行しなければならない第零駆逐隊の裏で、こうしてゆとりを持った生活を送っている決戦艦娘達の存在に、モヤモヤとしたものを抱えてしまう。
「ちなみに、私達の旗艦がビスマルク姉様で、補佐がローマさんです!アイオワさんも最初は、私達と一緒に鍛える事になりますので、宜しくお願いしますね!」
「宜しく………。」
秋津洲や瑞鶴と出会った事で取り戻していた元気を、また失ってしまった彼女は、プリンツの言葉に対し、あまり好意的に返事をする事が出来なかった。
確かにローマの言う通り、仲間を信じる事は必要だと思うが、やはり納得がいかない。
そもそも、補給さえしっかり出来ていれば、この悩みもある程度は解決するはずであった。
そこに………。
「ごめんなさい、ちょっといいでしょうか?」
「由良………?」
秘書艦である由良が、食堂に入って来る。
彼女は心配そうな顔をして、ビスマルク達に何かを伝えに来たらしい。
「由良、何かあったの?」
「実は………、「あの人達」がやって来て、提督に泊地の案内を頼んでいるんですけれど………訓練施設で、パースに怒り出して………。」
「何ですって!?」
由良の言葉を受けて、ビスマルクが怒声を上げて立ち上がる。
ローマも、眉を潜めて同じように立ち上がった。
「あの高官どもめ………、また性懲りも無く!」
「な、何?何が、あったの!?」
「提督から聞いたでしょ!あの身勝手な奴らが来たのよ!プリンツ、イタリア、ローマ!助けに行くわよ!」
先程までのゆとりは何処に行ったのか、鬼気迫る表情で、由良の後に続いてつかつかと歩き出すビスマルクとローマの姿に、アイオワは思わず呆然とする。
そこにイタリアが厳しい顔でやって来て、補足説明をする。
「この泊地には、定期的にオーストラリアの高官達がやってくるの。彼らは、この泊地に在籍しているパースに当たってばかりで………。」
「とにかく扱いが酷いから、ビスマルク姉様達が威圧を掛けに行くんです!」
「ええ!?」
それだけを言うと、イタリアとプリンツも続いていく。
アイオワが初霜を見ると、彼女も頷いた。
「とりあえず、私達も行きましょう。パースさんが心配です。」
パースがどういう艦娘なのかは、アイオワも同郷のヒューストンからの手紙でしか知らなかったが、放っておけないと悟り、由良やビスマルク達を追いかける事になった。
――――――――――――――――――――
バチンッ!
訓練海域では、平手打ちの音が響いていた。
藤原提督に案内をさせたオーストラリアの高官の1人が、金髪のシニヨンが特徴的な軽巡洋艦娘を叩いたのだ。
その艦娘の前髪は、一房を三つ編みにし、緑のリボンで左耳の上辺りに留めている。
彼女がオーストラリア最高傑作の軽巡であるパースだろう。
だが………。
「貴様は、のこのこと何をやっているんだ!?救助者から噂を聞けば、出てくるのは蒼海の英雄の話ばかり!恥ずかしいと思わないのか!?」
「申し訳ありません………。」
身勝手な言葉を述べる高官の1人に対し、只、俯いて謝罪の言葉を述べる事しか出来ないパース。
しかし、その彼女の前に2人の艦娘が怒りの表情で立ちはだかる。
1人は金色の瞳と髪を持ち、全体的に癖のあるセミロングの前髪を、向かって右寄りの位置で分けている、背の高い重巡洋艦娘。
もう1人は金色の瞳に赤毛の持ち主で、前髪がぱっつん、横髪がかなり長いゆるやかな縦ロールの軽巡洋艦娘。
「ヒューストン、デ・ロイテル………。」
「随分、暴力的な人なんですね。………これ以上は、黙ってはいませんよ?」
「ABDA艦隊の仲間として、放ってはおきません。………やっばーい目にあいたいですか?」
睨みをきかせるヒューストンとデ・ロイテルと呼ばれた艦娘達の姿に、一瞬高官達は怯みそうになるが、すぐに開き直って藤原提督に叫ぶ。
「貴様の所の艦娘は、相変わらず教育がなって無いな!鎖の繋がれていない獣のようだ!」
「気分を損ねたのならば、謝ります。ですが………。」
「醜い言い訳は、もう聞き飽きた!」
冷静に、第零駆逐隊の有用性等に付いて語ろうとした藤原提督に対し、高官は威圧的な態度を止めない。
それは、そうだろう。
出し渋られているとはいえ、オーストラリア等からの支援が無ければ、泊地は成り立たない。
ここで、問題を起こすわけにはいかないのだ。
だがそこに、生身とはいえビスマルクを始めとした艦娘達が、ぞろぞろとやってくる。
「な、何だ貴様等!?私達に危害を加える気か!?」
『……………。』
「調子に乗るなよ!その気になれば、こんな泊地等………。」
『……………。』
「く………覚えていろ!」
只何も言わず、無言で睨みつけていただけであったが、それだけでもかなりの効果があったのだろう。
オーストラリアの高官達は、苛立ちと共に去って行く。
藤原提督が見送りに行くと述べたが、それすら断った。
ビスマルクは溜息を付くと、彼を見る。
「提督………もう少しどうにかならなかったの?あの無能達に付き合う必要は無いじゃないの。」
「お前の言う事は尤もだ。だが、この泊地が潰されれば、罪の無い現地民達が、深海棲艦の毒牙に掛かる。それは、パースも望まないだろう。」
「全く………パース、大丈夫?無能に付き合わされて辛かったでしょう?」
ビスマルクは、ヒューストンとデ・ロイテルに心配をされているパースを見る。
彼女は、俯きながらも礼を述べる。
「ありがとうございます。私は大丈夫ですから………。あ、提督、ヒューストン、もしかして彼女が………?」
話題を変えたかったのもあるのだろうか?
パースが興味深げに、アイオワを見てくる。
アイオワは、場の雰囲気を変える為に、前に出るとハキハキとした声で挨拶をする。
「アイオワよ。貴女達がパースとデ・ロイテルね。ヒューストンからの手紙で、ABDA艦隊を組んでいるって聞いたわ。宜しくね!」
「やっばーい!もの凄く、色気のある肉体だわ!宜しくお願いしまーす!」
「デ・ロイテル、貴女は………こちらこそ、宜しくお願いしますね。」
アイオワのグラマラスな体に見惚れるデ・ロイテルに対し、呆れるパース。
………と言っても、デ・ロイテルはわざと明るく振る舞ってくれていると察したのか、パースも少し笑顔を見せる。
アイオワは、良い関係だなと思って、後ろで微笑みを浮かべて見守っているヒューストンにも挨拶をした。
「ヒューストンも宜しくね。これからは、私も戦力になるから。」
「ええ、宜しく。………でも、まずは艤装が届いてからよね。」
「そうよね………。まともな訓練も演習も出来ないわ。」
少しだけ肩を落とすアイオワの背中を、ビスマルクが軽く叩いて言う。
「艤装が届いたら、演習相手を勤めてあげてもいいわよ!ドイツの決戦艦娘の力を見せる時だもの………腕が鳴るわ!」
「そうね、色々な艦娘と演習をするのもいいわ。それと………。」
アイオワはビスマルク達を見て、頭を下げる。
「さっきは、苛立ちをぶつけて御免なさい。誤解をしていたわ………。貴女達は、国を超えて、仲間の為に立ち向かえる艦娘なのね。」
「別に、気にしてないからいいわよ。さっきも言ったけれど、私達も最初は貴女と同じだったもの。」
「そうね。貴女達に見合った言葉を使えば、こんな艦娘のサラダボウルの泊地に着任するなんて、思ってもみなかったものね。」
ローマがその言葉を引き継ぎ、感慨深げに言う。
そのサラダボウルの泊地だからこそ、こうして団結が出来るのだと。
アイオワは、何故かその言葉が妙に嬉しかった。
様々な国の艦娘達が集まりながらも、個性を活かし協力出来る様子を表しているからかもしれない。
この先、色々な困難があったとしても、この泊地でならば、やっていけそうな気がした。
怒涛の各国の艦娘登場回。
高速戦艦の会は、アイオワにも当てはまるので、みんなで将棋や囲碁をワイワイやると楽しそうですよね。
ABDA艦隊は、敷波主役の公式漫画「海色のアルトサックス」で印象的でした。
気になる方は、是非!(謎のダイマ)
アイオワ視点の導入編は、まだ続きますのでお楽しみ下さい。